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聖女、初めての街

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 オルレリアン家のアン様と初めて会ってから三年が経ちました。オルレリアン家に招待されたり、神殿に招待したり、今ではとても仲良しです。
 七つ年上のアン様ですが、最初の印象とは違いとても自由な方です。そう言った意味では、ユリエルの兄であるオスカー様も自由な方ですが、恐らくアン様には負けるのではないかと思います。


「いいですか?制服を脱いでも騎士の心は捨てることなかれ!聖女様の行くところに騎士が行くのです!」


「ハッ!我らの聖女様を命懸けでお守りいたします!」



 アン様の一声で、今日は街に出ることになりました。私は初めての街にドキドキしています。私はマントを被っても聖女とバレてしまうのですが、マントは必要だと被せられました。騎士達も大勢揃いましたが、皆騎士服を着ていません。


 私は、昨年の二十歳の誕生日に合わせて帝教王となりました。国王、教王、帝教王となり、大陸全ての指揮権が私に与えられています。大昔の歴史書に載っていた聖女が嫁いだ国の王も大陸の長となったと書いてあったので、自然の摂理だったのかもしれません。加護というのは平和に不可欠だったのでしょう。


 「夫人ではなく、アンと呼んでください」と言われたので、アン様と呼んでいます。特別な名前を呼ぶ許可をもらえるのはとても嬉しいことでした。パーティは楽しそうな様子を見ているのがお仕事だと思っていましたが、挨拶を終えたらお仕事ではないことをアン様と仲良くなってから知りました。半分仕事で半分は仕事ではないのです。
 それをユリエルと二人で頭にハテナマークを付けながら話した日を思い出すと可笑しくなります。


「さぁ聖女様、まずはドレスを見に行きましょう。行商やデザイナーを呼ぶのもいいですが、やはり店舗に行くと新しい発見があるものです」

「アン様、私は緊張しています…」

「大丈夫です。平民からも聖女様だというのは一目瞭然ですけど、マントを被っていれば、お忍びだと察してくれます。王都の街というのはそういうものなのです」


 アン様は冬に領地に帰っている間に、春になったら街へ買い物に行こうと手紙に書いてくれたことを実行してくれたのです。


「さぁ、馬車にお乗りください」

「神殿の馬車以外に乗るのは初めでです…」

「あ、ユリエル様はお休みなのですよね?お楽しみくださいね。聖女様のエスコートは私にお任せください。さぁ、行きましょう聖女様」


 ユリエルを置いて馬車に乗るのも初めてでした。馬車に乗る時は、騎士団長とユリエルと三人で乗るのがルールだったからです。


「オルレリアン夫人、私のことをお忘れなのですか?エスコートはお任せください」

「あら、ルーファス団長。ではお言葉に甘えますわ」


 騎士団長は私の手を取って馬車に乗せた後、アン様の手を取りました。いよいよ街に出発するのです。


「暖かくなって花も綺麗に色付いていますね」

「はい。でも神殿では冬に咲く花を多く植えているので、冬も花は咲いていますよ?」

「そうなのですか?侯爵領は冬は雪が積もりますから羨ましい限りですわ」

 雪というのは王都でも降りますが、薄らと白く染まるのは数年に一度程度です。侯爵領はたくさんの雪が降るので、冬は布を折ったり、藁を編んだり、家で出来る仕事を平民はしているらしいです。手仕事が盛んな街にはそんな理由があったのだと、勉強になります。


 ドレスショップというのはパーティホールのようでした。たくさんの色で埋められ、たくさんのものが売っています。


「これはなんでしょうか?」

「これは胸当てですね。ドレスのパーツの一部です。取り外して違うものを付ければ同じドレスでも雰囲気を変えられます」

「なるほど」

「ゆっくり見てください!店の者に聞けば全て説明してくれますよ」


 神殿に来るデザイナーの人は、全てオーダーメイドなので、見たこともない品がたくさんありました。


「これは気に入りました。これを買います」

「あら、ご自分の物を探していたのかと思いました」

「ユリエルが最初に街に行った時にプレゼントをくれました。だから、私もユリエルにプレゼントをと思っていたのです」

「フフッ!聖女様はユリエル様が好きなのですね」

「好きです。騎士団長も好きですし、料理長も好きです。アン様ももちろん好きですよ」


 私はその日、いつの間にかたくさんの物を買っていました。部屋に戻って箱がたくさん置いてあったことにとてもびっくりしたほどです。


「聖女様、おかえりなさいませ。街はいかがでしたか?」

「とても楽しく、買いすぎてしまいました」

「それは良かったですね。どちらに行かれたのですか?」

「ドレスショップと、宝石店と、雑貨屋とレストランです」

「食事もされてきたのですか!?」

「はい。アン様と一緒に食べました。ちゃんと料理長の味でしたよ。きっと、作ったのは料理長です」


 料理長の顔は一度も見ることはありませんでしたが、料理長の味は分かります。それに、騎士団長が止めもせず案内したのですから、間違いありません。


「そうでしたか…私は何も聞いておりませんでした。確認しておきます」

「これは全部ユリエルへのプレゼントです。初めて見るものばかりだったので買いすぎてしまったのです…迷惑だったら他の人にあげてもいいですよ」

「全部ですか?」

「そうです。私もこんなに多いと思っていなかったのでビックリしています」

 ユリウスの部屋は何もないので、このまま持って行っても困ることは無いと思いますが、ユリエルの部屋には小さな衣装部屋しかありません。


「とても嬉しいです。誰かに差し上げることなんて出来るはずもありません。開けてもよろしいですか?」


 私は日が落ちるまでユリエルと買った物を一つ一つ開けていきました。そしてやっぱり、夜はユリエルと寝たいと思ったのです。



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