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王国の内情

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ハワードとアルベルトは、なんとか調整をして帝国に足を運ぶことが出来た。
クロッカを知っている者でなければ正確な判断は出来ないし、他人の判断では信じることは出来ないと考えていたが、やはり自分の目で見てもクロッカではなかった。


時間をかけて確認しに来た分、徒労に終わったことに虚しさを感じていた。



「帝都のほうへ足を伸ばして、駐在たちの情報も当たろう。貴族年鑑のこともそうだが、帝国が何かしら動き出しているのは事実だ」


もちろん、クロッカ捜索という名目で帝国入りしたわけではない為、本来の仕事もこなさなければならない。
内戦やマリジェラとの対立で、クシュリプトとの関係が今まで通りとはいかないというのは理解しているが、大陸の主とも考えられるアイナス帝国であるにも関わらず、二の足を踏んでいる状況は、理由が見つからなかった。


強いて言えば、クシュリプトの弱体化を狙っているとしたら、説明はつくが、現皇帝は侵略等を好まない性格である。


「より強い援助を引き出せたらいいのだが…」


アルベルトももちろん、成果を持ち帰らなければならないと考えていた。


二人は馬車に揺られながら帝都へと向かう。
帝都へ向かう道は、どの街からも道は整備されており、その代わりに通行料を各領主に支払う。
治安も良い道を選ばない理由はないので安心して帝都へと向かった。


しかし帝都へ来ても、何の情報も得られなかった二人に、突如として緊張が走った。
ハワードの上着に一つのメモが入れられていたことが発端だった。


『お前たちの知りたいことは内部にある』


書き走りではないしっかりとした字は、王国の言葉で書かれていた。


「一体いつ…」

「それもだが、これはどういうことなんだ…内部とは」


その日は駐在を許可されている王国の外交官たちとの食事会だった。
使者として皇帝に帯同することもある外交官達の中継地点ともなる帝都には、数人しか残っていない。
彼らのうちの一人が入れたのか?


「あぁ…あの時だ!ほら、入り口でぶつかってきた使用人がいただろう?アルベルト、君も靴が濡れたじゃないか」

「あの時のバケツを持っていた女か!」

「いや、仲間だろうが、あの後布を持ってきた男だろう。私に布を渡した後も服を拭ってくれていた」


帝国の見張りもつく為、食事会をしたのは王国が所持を許されたロッジだった。
しかし、働いている使用人は帝国の者。
もちろんそれが通例である。
王国の人間ではなく、帝国の人間からの手紙だと言う事だ。


これ以上帝国を漁るなと言う警告なのか、または本当に内部を深く探れという助言なのか、判断はつけられない。


「内部を捌き切れていないのは事実だな」


ハワードは悔しそうに手紙をグシャリと握りしめる。


「帝国で情報を得るのが難しいのも事実だ」


他国に隙を見せるほど、現皇帝は愚かではないし、これだけ大きな帝国をまとめあげている実力もある。
今も尚、帝国が存在することが、皇帝の実力が剣だけではないことを実証している。



「国へ戻りましょう」



二人は帰りの馬車で口が止まる事なく話し合った。



貴族年鑑の差し替えは、確かに行われていた。
見聞録に載っていないのは、帝国からの指示であったらしい。
差し替えの事実を消し去りたい、もしくは有耶無耶にしたかった理由は、幅広く考えられる。
何が変わっていたのか、何千人ともなる貴族年鑑に記載されている者たちの情報を全て得られるわけもなく、田舎の男爵の名前の記載間違いが訂正されていたことしか分からなかった。

王国ではかなり劣勢のはずの保守派が勢いも止まらず暗躍し続け、改革が思うように進んでいない。
権力に負けた一部の下位貴族の票が、保守派に混ざるようにすらなっている。
金の出所が全く分からないのが問題なのだが、後援者の名を漏らす者はただ一人すらも現れないのだ。
突然寝返って保守派に付いた者もいる。


これだけ調べても足がつかないことに、両殿下も頭を抱えるしかなかった。
紛争は止む気配もない。
抑え込んでも抑え込んでも新たな火種がたくさんの地域で燻っているのだ。
マリジェラの侵攻を抑えるのでもやっとの状態なのに、まるで王国を潰したいかのように紛争が起きている。


「私は少し調べたいことがある」


ハワードは何日も執務室に泊まり込み、何人もの部下が部屋を出入りしていた。
アルベルトも王家を潰そうとしている勢力があるのかもしれないと、調べる対象を保守派に限らずに動きを追った。


そんな時、突然に知らされたのがハワードの死だった。


『お前たちの知りたいことは内部にある』


その言葉が、アルベルトの頭の中で焦げ付いたように離れなかった。
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