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婚約破棄
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マリジェラの大使が帰ってからも平和な日々は続いた。
キーラント・モブリシャスはクロッカが証拠を集め終わる頃には汚職により王宮から追放されていた。
公爵家の出であったため、汚職による追放はすぐ様国中に知れ渡り、彼はもうまともな職に就くことも出来ない。
多額の賠償金を公爵家が肩代わりしてくれなければ、強制労働所へ送られる。
その後は公爵家で幽閉されるか、神殿へ送られるか。
どのみち表舞台に戻って来ることはない。
「ハイランス嬢、お待たせしましたね」
「私も今座ったところです」
セネガー前公爵の店もすっかり馴染みの店となった。
イリア・ロベールは今は男性が主人公の冒険物語を新聞で連載し、誰でも手に取れる新聞での長期作品により、新聞の売り上げに貢献し、記者達を味方につけていた。
そして、本以外で平民も気軽に読める場所に長編小説を毎日載せることで作家の活動場所を新たに作ったと、さらに幅広い年代の支持を獲得している。
「来年には女性官僚が1人増えるのよね?」
「…今のところは」
「何か不安がありそうね」
「いえ…それに不安はありません」
特進科に入り、女官ではなく、官職を希望している女性がいることは早い段階で話題となった。
しかし、クロッカにとってあまり歓迎されるものではなかった。
彼女はきっと官職に上がってくることはないだろうことは口にするべきことではない。
「そう、優秀な女性はまだ荊の道に進む勇気はないということかしら」
特進科に編入した女性は、保守派で知られる侯爵家の娘だった。
確固たる信念があるわけではないことは珍しいことでもないし、出来れば女性には官職を希望してほしいと願って止まないのだが、彼女ばかりは官職に向く性格ではなかった。
「私がもう少しパフォーマンスをするべきでしょうか」
「それはやめた方がいいわ。今は派手な行動は控えるべきだもの」
侯爵家の娘はクロッカのように注目されたいという思いが隠しきれていない。そして、世間の注目を集めるクロッカが気に入らないということは、漏れ聞く話だけでも充分に伝わるものだった。
保守派の娘が官職を希望すると言うだけで首を傾げるのだが、侯爵自体もクロッカを目の上のタンコブだと思っているようで、娘が潰してくれるのならばと喜んで官職の道を提示したようだった。
先日のキーラント・モブリシャスの件も裏では侯爵からの支援があったと分かっている。
分かっているが証拠がない。
しかし、邪魔をするのならばその娘ごと排除しなければならない。
「カリスベリオ様はどうおっしゃっていたの?」
「イリア様と同じ考えです」
「そう。それでも動いた方がいいと思っているのね?」
「はい」
イリアの口添えにより、カリスベリオは王国での後ろ盾となってくれている。
更に、表情や声の出し方、そして姿勢に至るまで、彼の指導を受けてより信頼出来ると思わせるのに効果的な振る舞いを学んでいた。
「イリア様、もうすぐアルベルトとの婚約破棄がなされます。それが相手に追い風となることは明らかです。今動かなければ力を与え過ぎてしまうと…」
「ふふっ。ハイランス嬢、客観的に自分の立場を見るには、他人の意見を聞くことが大事よ?」
「まだ、私に見えていないものがあるのでしょうか」
今回の侯爵まで続く手掛かりは伝聞でしかなく、キーラントと密会していたという証拠となり得ないものしかなかった。
それを突き止められなかったことは相手の計算の内だったはずだ。
キーラントはわざとハイランス領に行ってきたと伝えたのだ。それは挑戦のようなものに違いない。
彼は駒として使われたに過ぎず、見つからなければ汚職をネタに脅されていたかもしれない。
今騒ぎ立てることを良しとしていないことを、見透かしているような動きだと感じたのだ。
「アルベルトは婚約が解消されても後ろ盾にはなると言っているのでしょう?」
「はい。ですが今までのように婚約者としての立場からの支援でなくなれば、動き辛くはなるでしょう」
この2年間、やはりアイナス帝国との繋がりの強化をアピールするとアガトン殿下との関係性を疑う記事が出ることがあった。
さして話題にも登らないような小さな記事で、晩餐会などの正式行事に招かれた際にアルベルトと同伴すれば消え去るようなものだ。
その手を使えなくなることは本当は惜しいとは思っているが、婚約の解消はクロッカの悲願であり、この2年間その日の為に努力をしてきたのだ。
ここで潰されるわけにはいかないと考えるのも無理はないことだった。
キーラント・モブリシャスはクロッカが証拠を集め終わる頃には汚職により王宮から追放されていた。
公爵家の出であったため、汚職による追放はすぐ様国中に知れ渡り、彼はもうまともな職に就くことも出来ない。
多額の賠償金を公爵家が肩代わりしてくれなければ、強制労働所へ送られる。
その後は公爵家で幽閉されるか、神殿へ送られるか。
どのみち表舞台に戻って来ることはない。
「ハイランス嬢、お待たせしましたね」
「私も今座ったところです」
セネガー前公爵の店もすっかり馴染みの店となった。
イリア・ロベールは今は男性が主人公の冒険物語を新聞で連載し、誰でも手に取れる新聞での長期作品により、新聞の売り上げに貢献し、記者達を味方につけていた。
そして、本以外で平民も気軽に読める場所に長編小説を毎日載せることで作家の活動場所を新たに作ったと、さらに幅広い年代の支持を獲得している。
「来年には女性官僚が1人増えるのよね?」
「…今のところは」
「何か不安がありそうね」
「いえ…それに不安はありません」
特進科に入り、女官ではなく、官職を希望している女性がいることは早い段階で話題となった。
しかし、クロッカにとってあまり歓迎されるものではなかった。
彼女はきっと官職に上がってくることはないだろうことは口にするべきことではない。
「そう、優秀な女性はまだ荊の道に進む勇気はないということかしら」
特進科に編入した女性は、保守派で知られる侯爵家の娘だった。
確固たる信念があるわけではないことは珍しいことでもないし、出来れば女性には官職を希望してほしいと願って止まないのだが、彼女ばかりは官職に向く性格ではなかった。
「私がもう少しパフォーマンスをするべきでしょうか」
「それはやめた方がいいわ。今は派手な行動は控えるべきだもの」
侯爵家の娘はクロッカのように注目されたいという思いが隠しきれていない。そして、世間の注目を集めるクロッカが気に入らないということは、漏れ聞く話だけでも充分に伝わるものだった。
保守派の娘が官職を希望すると言うだけで首を傾げるのだが、侯爵自体もクロッカを目の上のタンコブだと思っているようで、娘が潰してくれるのならばと喜んで官職の道を提示したようだった。
先日のキーラント・モブリシャスの件も裏では侯爵からの支援があったと分かっている。
分かっているが証拠がない。
しかし、邪魔をするのならばその娘ごと排除しなければならない。
「カリスベリオ様はどうおっしゃっていたの?」
「イリア様と同じ考えです」
「そう。それでも動いた方がいいと思っているのね?」
「はい」
イリアの口添えにより、カリスベリオは王国での後ろ盾となってくれている。
更に、表情や声の出し方、そして姿勢に至るまで、彼の指導を受けてより信頼出来ると思わせるのに効果的な振る舞いを学んでいた。
「イリア様、もうすぐアルベルトとの婚約破棄がなされます。それが相手に追い風となることは明らかです。今動かなければ力を与え過ぎてしまうと…」
「ふふっ。ハイランス嬢、客観的に自分の立場を見るには、他人の意見を聞くことが大事よ?」
「まだ、私に見えていないものがあるのでしょうか」
今回の侯爵まで続く手掛かりは伝聞でしかなく、キーラントと密会していたという証拠となり得ないものしかなかった。
それを突き止められなかったことは相手の計算の内だったはずだ。
キーラントはわざとハイランス領に行ってきたと伝えたのだ。それは挑戦のようなものに違いない。
彼は駒として使われたに過ぎず、見つからなければ汚職をネタに脅されていたかもしれない。
今騒ぎ立てることを良しとしていないことを、見透かしているような動きだと感じたのだ。
「アルベルトは婚約が解消されても後ろ盾にはなると言っているのでしょう?」
「はい。ですが今までのように婚約者としての立場からの支援でなくなれば、動き辛くはなるでしょう」
この2年間、やはりアイナス帝国との繋がりの強化をアピールするとアガトン殿下との関係性を疑う記事が出ることがあった。
さして話題にも登らないような小さな記事で、晩餐会などの正式行事に招かれた際にアルベルトと同伴すれば消え去るようなものだ。
その手を使えなくなることは本当は惜しいとは思っているが、婚約の解消はクロッカの悲願であり、この2年間その日の為に努力をしてきたのだ。
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