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オルボアール

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「どうか今だけ耐えて欲しい。ここから2年は我慢させることになる。でもその間に必ず王国で正当な評価を得られる状態にする」


「男の世界であったところで、正当な評価を受けられるとは思っていません。たった2年でそんな事が可能だと言うの?」


国民を洗脳でもしなければそんな事が出来るわけがない。
どれだけ頑張ったとしても、女性だからとか誰かの女だからと言われてしまうのは覚悟しているが、それでも実力主義の官職の世界でなら、他人を認める事もあると考えている。
それでも認められるまでには10年、20年かかるのではないかと思っていた。実績を積んで認めさせていくしかないと。
それがたった2年で出来るというのか。



「宮廷内で認められるのは意外と簡単なものだ。結果が全ての政治の世界では同僚達は認めざるを得ない。ただ、努力だけでは報われることはない厳しい世界でもある」

「それは理解しているつもりです。だからこそ、アルベルトの言う2年という短い期間で可能なのかと疑問なのです」


アルベルトが絡んでいた手をゆっくりと離し、クロッカの肩を両手で掴んで、伏していた顔を覗き込む。 
 

「評価体制を整える。全ての者に対して同じ評価基準で優劣をつけ、不正な評価と認められるものは処罰の対象とする。部下の査定をする高位官僚も含めた全員が評価対象だ」


覗き込んできたアルベルトの顔を押しのける。
見られたくないと分かっていながら何故覗き込むんだと抗議の意味を込めた。


「もうやめて。それで、今までの実績重視の考え方と何が違うの?」


「保守派と改革派の戦いだが、王家は既に改革派に属しているのは表明の通りだ」


王家が一つの派閥に属するという言い方はおかしいが、言いたいことは分かるので言葉を飲み込む。
肩を抱いていたアルベルトの手は離れ、ベンチの背もたれへと回された。
肩を抱き寄せることはないが、その手の位置にクロッカは意識を向けずにはいられなかった。


「王家の意向をも無視する保守派の行動は目に余る。もちろん人事において保守派は不利な状況なのは当たり前だが、今後は王家の意向に反した行いがあれば評価そのものが下がるということだ。底辺から這い上がることはできなくなる」


成る程、今までは派閥から出てくる意見を聞き、最終的には陛下が決定を下していたが、そもそも王家が女性の社会進出については意向を述べている。
にも関わらずそれを阻止しようという反乱分子が蠢いているのは少なからず反逆ととれる。



「貴族達の思惑は反映されなくなるということですか?」


そもそも派閥というのは貴族社会においての立ち位置によって分かれていた。
自領に有利になるように貴族が官職達に圧力をかけている。
貴族会議での議題は官僚達によって決められるのだから、仕方のないことかも知れない。
所詮官職達も貴族の子息達で、自分の考えとは異なっていても、相手によってはその圧力から逃れられないこともある。
保守派であったワーデン家が、アルベルトの代で改革派に回ったのは、アルベルトが改革派に属する大臣の補佐についた事がきっかけだったはずだ。



「官職達も様々な事情によって生家を蔑ろには出来ないこともある。それが悪い事だとは思っていない。しかし、もしその所為で王家の意向に添えないならば、宮廷内にいさせるわけにはいかない。」



「たしかに、今の保守派の行動は反逆とも取れる。そういう事ですね?」


アルベルトは…いやフェリペ殿下は、この機会に不穏分子を排除しようとしているのだろう。
小さな火種から生まれた革命による混乱により、王家の意向というものを完全に無視してしまっている。
女性の社会進出については、王家が支援すると表明した。それなのに改革派に有利と、半ば一つ大きい勢力の意見であったように扱われてしまったのは、貴族も市民も簡単に受け入れられるようなものではなかったということなのか。



「そうだ。今回は一つの政策に対しての派閥のぶつかり合いではない。根本的な意識改革に対して派閥が動いてしまった。本来ならば何年もかけて根回しをして準備するような法案がいくつも議題に上がり、結果的に王家の意向というものがその全てに対して有効だということが伝わらなかったんだ。クロッカの帰国に合わせて、王家は再び声明を出す。女性の社会進出の推進、女性への爵位譲渡を認めることの決定だ」


「まだ議会での話は纏まっていないと伺っていました。大変な混乱になるのでは?」


「王家の決定に対して文句をいうものが現れると?」


現れないわけがない。
そう思ったが、アルベルトの口元は緩んでいる。
発表までの日程から考えても、既に根回しは済んでいるはずだ。


「アルベルトの今の話を聞いて、私はまだまだ頭が回っていないのだなと感じました。圧倒的に私には実力が足りない」


保守派の全てを黙らせるだけの力というのは、一体どうやったら身につくのだろうか。
小さな意見を書き連ねてきただけの自分がいかにちっぽけな存在かを思い知らされる。
王国へ帰れば、アルベルトのような者達と対峙していかなければならない。
自分に出来るだろうかと途端に心が弱音を吐き出していた。


「まだ見習いでもない学生に実力がないのは当たり前だ。まずは一年生になりなさい。実際にその中に入れば自然に頭が覚える。クロッカならきっとうまく立ち回れるよ」



クロッカの後ろにあった手が背中を掠めて頭にポンと置かれた。
雛鳥を愛でるような温かい手だった。
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