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オルボアール
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「クロッカ」
「はい」
食に集中して静かな時間が僅かに過ぎた頃、アガトンの真面目な声がクロッカの手を止めさせた。
「これを受け取って欲しい」
「なに?プレゼント?」
手渡された箱を開けると、敷き詰められるように金色に輝く星の形があった。
真っ黒なジュエリーボックスに並べられた星は、10個は入っている。
それが夜空に見立てたようでロマンチックだ。
「クロッカにはピアスをもらったのに、ずっと何を送ればいいか迷っていて帝都でずっと探していたんだ。それで、クロッカは青や紺のドレスを着ることが多いから、星のヘアピンを選んだんだけど…あんまりかな?」
「あまりにも素敵だから見惚れちゃったわ!これヘアピンだったのね。アップヘアの時に散りばめたら絶対可愛い!ありがとう。大切にするわ」
一つ引き出してみると、U字のヘアピン部分が見える。
これならば編み込んだ髪に刺すだけで固定ができるし、星の部分しか見えず野暮ったくならない。
実用性も兼ね備え、文句のつけようがない。
「気に入ってくれたなら良かった」
安心したように息を吐いたアガトンは肩の力も抜けたようで背もたれに身を任せていた。
「すごく気に入ったわ。ピンの形も使いやすいものだし、星を髪に散りばめられると思うとドレス選びも楽しみになるもの」
「王国に行くまで渡せないかと思ったけど、今日持ってきてよかったよ。ルフェーベル商会の品じゃないからキャサリンの前で渡しづらくて」
「キャサリンならそんなことは全く気にしないけど…あら、噂をすれば寝坊助のキャサリンが来たわよ」
護衛を1人だけ連れて、キャサリンは店内に入ってきた。
事前に店の雰囲気について聞いていたのか、遠くから話しかけてくることはない。
「アガトン殿下、クロッカ、おはようございます」
キャサリンが店内に入ると、護衛の1人が移動し、3人の座る席を挟むように2人ずつに分かれた。
「おはよう」
「おはよう。キャサリン、朝から急がせてしまったかしら。ごめんなさい」
ふわりと少し裾が広がっただけのワンピースに、結い上げもせず下ろした髪は、いつものキャサリンとはだいぶ印象が違う。
「クロッカ、よく起きれたわね。ん、顔色はそんなに悪くないわね。安心したわ。私がこの時間に起きれたのは奇跡に近いわよ」
クロッカの隣に腰掛けたキャサリンは、早速メニューを見ていた。
事情を察してくれた様子に一安心する。
「キャサリンにはアールグレイをお勧めするわ」
「アールグレイ?わざわざ勧めるにしては少し時期外れじゃない?」
確かに今は旬な時期ではないし、新茶ではないだろう。
しかしそれは代表的な他の茶葉も同じこと。
まだ春が訪れたばかりのこの時期に飲まれる紅茶は、秋にとられたものがほとんどだ。
「無理に勧めたりはしないけど、折角だからアールグレイがいいんじゃないかなって」
「何よその含みのある言い方。クロッカが飲んだのはどれなの?」
キャサリンは訝しげに空になったクロッカのカップを覗き込んでいた。
「私はディンブラをいただきました。アガトン殿下はオレンジティよ」
「オススメするのに飲んでないってどういうことよ…いいわ。3人でアールグレイを飲みましょう。それからスクランブルエッグとソーセージ、後サンドイッチにするわ」
キャサリンの注文は護衛が既に紙に書き込んでいた。
空のカップを見て、3人分のアールグレイを頼んだのだろうが、半分は警戒もしたのだろう。
アールグレイに何かあるかと。
「え、なに?注文したものを報告でもするの?」
隣の席から聞こえるペンを走らせる音に気付き、キャサリンは驚いていた。
「ここは自己注文制ですので」
当たり前のような口調で護衛話してはいるが、彼も先程、注文方法を知って驚いていた人の1人だ。
「そうなの。雰囲気だけじゃなくて本当に変わったお店なのね。よろしく頼むわ。あら、クロッカ、その手に持っているのは何?ジュエリーケース?」
クロッカの手の中にあった、黒いジュエリーケースを目敏くも発見したキャサリンは、察しがついているかのようにアガトンの方へ視線を移した。
「ええ。今アガトンからヘアアクセサリーをいただきましたの。とっても素敵なのよ!」
クロッカが再び蓋を開けると、待っていたかのように薄暗い店内で少ない光を反射するかのように星が光っていた。
「あら、金のヘアアクセサリー?アガトン、あなたプレゼントのセンスがあるわね。良いものを選んだわ。いつの間にか一人前になって、なんだか寂しいわね」
「キャサリンに褒められるとは思ってもみなかったよ」
「ダメ出しをされると?素敵なものはちゃんと素敵だと認めますよ。アドバイスが欲しい時は、頼ってくれて構わないのですけど?」
しっかりとルフェーベル商会で買うことも薦める抜かりの無い会話も久しぶりで、楽しかった旅を思い出していた。
「はい」
食に集中して静かな時間が僅かに過ぎた頃、アガトンの真面目な声がクロッカの手を止めさせた。
「これを受け取って欲しい」
「なに?プレゼント?」
手渡された箱を開けると、敷き詰められるように金色に輝く星の形があった。
真っ黒なジュエリーボックスに並べられた星は、10個は入っている。
それが夜空に見立てたようでロマンチックだ。
「クロッカにはピアスをもらったのに、ずっと何を送ればいいか迷っていて帝都でずっと探していたんだ。それで、クロッカは青や紺のドレスを着ることが多いから、星のヘアピンを選んだんだけど…あんまりかな?」
「あまりにも素敵だから見惚れちゃったわ!これヘアピンだったのね。アップヘアの時に散りばめたら絶対可愛い!ありがとう。大切にするわ」
一つ引き出してみると、U字のヘアピン部分が見える。
これならば編み込んだ髪に刺すだけで固定ができるし、星の部分しか見えず野暮ったくならない。
実用性も兼ね備え、文句のつけようがない。
「気に入ってくれたなら良かった」
安心したように息を吐いたアガトンは肩の力も抜けたようで背もたれに身を任せていた。
「すごく気に入ったわ。ピンの形も使いやすいものだし、星を髪に散りばめられると思うとドレス選びも楽しみになるもの」
「王国に行くまで渡せないかと思ったけど、今日持ってきてよかったよ。ルフェーベル商会の品じゃないからキャサリンの前で渡しづらくて」
「キャサリンならそんなことは全く気にしないけど…あら、噂をすれば寝坊助のキャサリンが来たわよ」
護衛を1人だけ連れて、キャサリンは店内に入ってきた。
事前に店の雰囲気について聞いていたのか、遠くから話しかけてくることはない。
「アガトン殿下、クロッカ、おはようございます」
キャサリンが店内に入ると、護衛の1人が移動し、3人の座る席を挟むように2人ずつに分かれた。
「おはよう」
「おはよう。キャサリン、朝から急がせてしまったかしら。ごめんなさい」
ふわりと少し裾が広がっただけのワンピースに、結い上げもせず下ろした髪は、いつものキャサリンとはだいぶ印象が違う。
「クロッカ、よく起きれたわね。ん、顔色はそんなに悪くないわね。安心したわ。私がこの時間に起きれたのは奇跡に近いわよ」
クロッカの隣に腰掛けたキャサリンは、早速メニューを見ていた。
事情を察してくれた様子に一安心する。
「キャサリンにはアールグレイをお勧めするわ」
「アールグレイ?わざわざ勧めるにしては少し時期外れじゃない?」
確かに今は旬な時期ではないし、新茶ではないだろう。
しかしそれは代表的な他の茶葉も同じこと。
まだ春が訪れたばかりのこの時期に飲まれる紅茶は、秋にとられたものがほとんどだ。
「無理に勧めたりはしないけど、折角だからアールグレイがいいんじゃないかなって」
「何よその含みのある言い方。クロッカが飲んだのはどれなの?」
キャサリンは訝しげに空になったクロッカのカップを覗き込んでいた。
「私はディンブラをいただきました。アガトン殿下はオレンジティよ」
「オススメするのに飲んでないってどういうことよ…いいわ。3人でアールグレイを飲みましょう。それからスクランブルエッグとソーセージ、後サンドイッチにするわ」
キャサリンの注文は護衛が既に紙に書き込んでいた。
空のカップを見て、3人分のアールグレイを頼んだのだろうが、半分は警戒もしたのだろう。
アールグレイに何かあるかと。
「え、なに?注文したものを報告でもするの?」
隣の席から聞こえるペンを走らせる音に気付き、キャサリンは驚いていた。
「ここは自己注文制ですので」
当たり前のような口調で護衛話してはいるが、彼も先程、注文方法を知って驚いていた人の1人だ。
「そうなの。雰囲気だけじゃなくて本当に変わったお店なのね。よろしく頼むわ。あら、クロッカ、その手に持っているのは何?ジュエリーケース?」
クロッカの手の中にあった、黒いジュエリーケースを目敏くも発見したキャサリンは、察しがついているかのようにアガトンの方へ視線を移した。
「ええ。今アガトンからヘアアクセサリーをいただきましたの。とっても素敵なのよ!」
クロッカが再び蓋を開けると、待っていたかのように薄暗い店内で少ない光を反射するかのように星が光っていた。
「あら、金のヘアアクセサリー?アガトン、あなたプレゼントのセンスがあるわね。良いものを選んだわ。いつの間にか一人前になって、なんだか寂しいわね」
「キャサリンに褒められるとは思ってもみなかったよ」
「ダメ出しをされると?素敵なものはちゃんと素敵だと認めますよ。アドバイスが欲しい時は、頼ってくれて構わないのですけど?」
しっかりとルフェーベル商会で買うことも薦める抜かりの無い会話も久しぶりで、楽しかった旅を思い出していた。
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