96 / 130
帰国の知らせ
8
しおりを挟む
「こちらはクシュリプト王国の第二王子、フェリペ殿下と、その秘書官で私の婚約者のアルベルト・ワーデンです。そして彼が第二王子の御子息のアガトン殿下です」
「アガトンです。この後留学でもお世話になります。お目にかかれて光栄です」
2人は改めて挨拶すると、アガトンと握手を交わしていく。
「クロッカ、今日のドレスはいつもと趣向が違うね。よく似合ってるよ」
アガトンに言われて初めてこの2人にドレスを褒められていないことに気付く。
エスコートすらされていなければ、参加することすら秘密にしていた王国の男たちの情けない事。
フェリペ殿下は元々疎いのは周知の事実だが、婚約者であるアルベルトに言い訳は出来ない。
「ありがとうございます。ルフェーベル商会の新作ですの。気付いていただけて嬉しいですわ」
「クロッカがそんなにセクシーなドレスを着るのは初めてじゃない?無理して来てよかったよ」
「最初は恥ずかしかったのだけれど、キャサリンが慣れだって。やっと恥ずかしさが少しだけ薄れて来たところなの。あんまり見ないでね」
下着すら付けてないことを思い出して、少し頬が熱くなる。
これ、下着をつけていないことをみんな気付いているのだろうかと、考えてはダメだと思うのに一度頭を巡るとグルグルと羞恥心が湧き上がって来た。
「クロッカ、そろそろ皇帝陛下に挨拶に行かないと」
アルベルトが腰に手を回して耳元近くで話すので、反射的に腰が引ける。
「アルベルト…ッそうね。先に挨拶をしなければ失礼だわ。アガトン殿下また後程ゆっくり話しましょう」
「あぁ…また後で」
アガドンの前でアルベルトを拒否することも出来ず、軽く挨拶をして再び足を進めることになったが、先ほどまでと違いアルベルトの手は腰に置かれたままで、アルベルトの体温を感じながら熱を冷ますことになった。
「アルベルト、ヤキモチでも焼いているの?」
「君はまだ私の婚約者だよ」
「まだ…ね。それはいつまでなのかしら」
正直、腰に手を回されることに何も感じないわけでなかったが、頬の熱が冷めていくのを感じる程には冷静だった。
トキメキという物を遥か遠くに捨てて来てしまったかのように貼り付けた笑みをアルベルトに向ける。
周りからしたら仲睦まじく寄り添って歩いているように見えるだろうが、婚約者よりもアガトンの方がよっぽどに好感度が高いのには自分でも驚く限りだ。
「指輪は気に入らなかったか?」
「ラピスラズリの指輪ならとっても気に入っているわ。素敵な贈り物をありがとう」
感謝を伝えるが、薬指に指輪は飾られていない。
アルベルトが来ると分かっていたら付けたかもしれないが、サイドがレースになっているドレスなので、引っ掛けるわけにはいかないので外してある。
でもその言い訳はしばらくしてあげるつもりはない。
肩に触れるアルベルトの大きな身体に身を委ねるだけの信頼は持ち合わせていなかった。
婚約者でいてもらわなければならない場だが、婚約者でいられることが図々しく感じる。
混乱しながらも、帝国で作り上げた婚約者との不実の関係を、再現しなければいけない苦痛に、大事に隠し持っている昔の恋心が悲鳴をあげ続けていた。
「アガトンです。この後留学でもお世話になります。お目にかかれて光栄です」
2人は改めて挨拶すると、アガトンと握手を交わしていく。
「クロッカ、今日のドレスはいつもと趣向が違うね。よく似合ってるよ」
アガトンに言われて初めてこの2人にドレスを褒められていないことに気付く。
エスコートすらされていなければ、参加することすら秘密にしていた王国の男たちの情けない事。
フェリペ殿下は元々疎いのは周知の事実だが、婚約者であるアルベルトに言い訳は出来ない。
「ありがとうございます。ルフェーベル商会の新作ですの。気付いていただけて嬉しいですわ」
「クロッカがそんなにセクシーなドレスを着るのは初めてじゃない?無理して来てよかったよ」
「最初は恥ずかしかったのだけれど、キャサリンが慣れだって。やっと恥ずかしさが少しだけ薄れて来たところなの。あんまり見ないでね」
下着すら付けてないことを思い出して、少し頬が熱くなる。
これ、下着をつけていないことをみんな気付いているのだろうかと、考えてはダメだと思うのに一度頭を巡るとグルグルと羞恥心が湧き上がって来た。
「クロッカ、そろそろ皇帝陛下に挨拶に行かないと」
アルベルトが腰に手を回して耳元近くで話すので、反射的に腰が引ける。
「アルベルト…ッそうね。先に挨拶をしなければ失礼だわ。アガトン殿下また後程ゆっくり話しましょう」
「あぁ…また後で」
アガドンの前でアルベルトを拒否することも出来ず、軽く挨拶をして再び足を進めることになったが、先ほどまでと違いアルベルトの手は腰に置かれたままで、アルベルトの体温を感じながら熱を冷ますことになった。
「アルベルト、ヤキモチでも焼いているの?」
「君はまだ私の婚約者だよ」
「まだ…ね。それはいつまでなのかしら」
正直、腰に手を回されることに何も感じないわけでなかったが、頬の熱が冷めていくのを感じる程には冷静だった。
トキメキという物を遥か遠くに捨てて来てしまったかのように貼り付けた笑みをアルベルトに向ける。
周りからしたら仲睦まじく寄り添って歩いているように見えるだろうが、婚約者よりもアガトンの方がよっぽどに好感度が高いのには自分でも驚く限りだ。
「指輪は気に入らなかったか?」
「ラピスラズリの指輪ならとっても気に入っているわ。素敵な贈り物をありがとう」
感謝を伝えるが、薬指に指輪は飾られていない。
アルベルトが来ると分かっていたら付けたかもしれないが、サイドがレースになっているドレスなので、引っ掛けるわけにはいかないので外してある。
でもその言い訳はしばらくしてあげるつもりはない。
肩に触れるアルベルトの大きな身体に身を委ねるだけの信頼は持ち合わせていなかった。
婚約者でいてもらわなければならない場だが、婚約者でいられることが図々しく感じる。
混乱しながらも、帝国で作り上げた婚約者との不実の関係を、再現しなければいけない苦痛に、大事に隠し持っている昔の恋心が悲鳴をあげ続けていた。
0
お気に入りに追加
731
あなたにおすすめの小説
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる