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開かれた道

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次の日、クロッカは討論大会のエントリーシートの変更を申し出ていた。

討論大会の本戦では観客が入る。
利用できる機会は利用するべきだと考えたのだ。


毎年本戦へは進んでいたクロッカだが、入選する事はなかった。しかし今回はコーディネーターとして優勝を目指すという目標が出来た。
更にそこで女性の地位について議題に上げたいと考えている。
彼女の進むと決めた道は茨の道だ。



ミスをすれば本戦には出られない。
過去の討論大会について分析し、対策を考えていった。


そして、エドレッドが領地から王都の屋敷を訪れたのだが、婚約破棄はやめると告げていた。
こちらから婚約を破棄するのは優しさなのではないかと考えたからだ。
もちろん、イリアの言葉は大きかったのだが、好きだとまだ感じているのに何故こちらが婚約を破棄してあげないといけないのかという考えに至った。
もしアルベルトが婚約破棄を申し出るのならその時は何も言わずに引き受けるつもりだ。


エドレッドには婚約破棄せずそのまま放置する予定である事と、次にもし推薦状が送られてきたら特進科へ進むことを伝えた。
驚いた様だったが、婚約破棄を考えているのなら、修道院へ行くよりは女官の方がいいと納得した様子だった。
もしアルベルトから聞かれたら何も聞いてないで通すようにと半ば無理矢理承諾させた。
娘は反抗期なのかとトボトボとそのまま帰宅したエドレッドは何も重要なことを聞かされる事はなかった。



そして順当に予選を勝ち抜き、クロッカは堂々と本戦の場へと立った。
事前に出された紙面も予選での場を治める力が評価され、女性の地位という議題選出には難色を示していたが、女性初の優勝者となるのではと煽られていた。



クロッカは敢えて女性5人を選出していた。
全員が社交会でも力を持つ高位貴族。
笑顔で毒を吐き、笑顔でかわす。そしてこの高位貴族として恥じない努力を重ねてきた5人だった。



「本日掲げさせていただいた議題は、女性の地位についてです。私たち女性は幼い頃から淑女教育、ダンス、刺繍、マナー、社交性、たくさんのことを詰め込まれます。その努力に見合ったものが私たちに与えられているのか疑問に思った事はないでしょうか。道具の様に嫁に行き、道具の様に扱われる。私たちはこの身を美しく着飾る人形であることを望まれます。しかしその裏では領地のために働き、社交会で人脈を作り情報を得る。それを当たり前に求められ、当たり前にこなすのです。その働きが男性に劣るとは私には思えません。同じ女性の意見を聞きたい。そう思い集まっていただいた5人は努力を惜しまず自分を磨き上げ、美しく、気高く、努力に見合った自信を持っていると、尊敬する方々です。本日はよろしくお願い致します」



クロッカは議題の自分の求める方向性について話をした。パネリストにも観客にも求めている方向を示すためだった。
限られた時間で全てを語り尽くすだけの余裕はない。


「あら、その評価に値する働きを私たちは求められているのですね。みなさん、クロッカ様を納得させるだけ意見を出して差し上げましょう。私たちの沽券に関わりますわ」


最初に言葉を発したのは、フランソワの代わりにユージェニー殿下の婚約者となった公爵家のテレーズだった。


「ではテレーズ様にお聞きします。私たち女性は男性に劣る存在でしょうか?」


「優秀な男性はもちろんおりますわ。でも本来、女性の方が賢いのです。慎み深く裏方をしておりますが、誰も気付いていないわけではなく、気づいていないふりをずっとしているだけなのです。その証拠に、母親に勝てるものはいないでしょう。男性は女性から生まれてくるのです。男性を育てるのも母親や乳母。女性なのです。その女性が男性より劣っているということはありえませんわ。優秀な男性の数だけ女性も優秀なものがいる。この討論大会を見てもそれは明らかな事ですわ」


滑り出しは順調と言えた。
女性が6人集まれば口が止まる事はない。
それをどう纏めるか。そこがクロッカの腕の見せ所だった。

「では何故女性は政略結婚の駒として扱われてしまうのでしょうか」


そう問えば、政略結婚の駒に女性がなったと言う事は、同じ人数だけ男性も駒になっていると言う事だと反論が返ってくる。
それに対して、両者が駒として婚約や婚姻を結んだとしても、破談になったときに大きなダメージを負うのは女性だけだと意見が出る。


クロッカは5人のパネリストが口の立つ女性ということで、質問者として場を誘導していった。


時には観客席から怒号が飛んでくることもあった。
それに対して観客席でも激しい議論が巻き起こっていた。



クロッカは時には意見を掘り下げ欲しい言葉を引き出し、男性を卑下しすぎないよう努めていた。
観客から遠慮なく注がれる意見をどう思うかと尋ねれば、怒鳴る事でしか場を収められないとは滑稽と更に男性を煽る様な意見が出る。


それでもパネリスト5人に口で勝てるものはこの会場にはいなかった。
次第に会場の声は収まっていった。
冷静に場を掌握していく能力。これをクロッカは観客や評価員に見せたかった。



「男性に優秀なものばかりではないのと同じように、女性にもここにいる5人の様に優秀なものばかりではありません。感情に流されやすいものもいれば、ヒステリックに怒りだす女性もいるでしょう。でもそれは同じく男性にも言えるのです。少なくとも、ここにいる5人は優秀で、男性にも負けない思考力と、怒鳴り声にも臆さない度胸、そして自分の意見をしっかりと持っています。男性と同じ、1人の人間であると感じていただけたのではないでしょうか。私は同じ女性として、彼女達を誇りに思います。今この国は深刻な人材不足です。その現状に一石を投じるのが女性であると、今はそう確信しています。本日はありがとうございました」


会場の女性達の心は掴めたと拍手の量で確信していた。
問題は男性側だ。自分が今まで当たり前に下に見ていた女性を対等に見る事は難しい事だろう。
プライドがそう簡単には許さないだろうことはクロッカも分かっていた。

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