上 下
46 / 130

2

しおりを挟む
「さて、流石に学園内は無理だが、望まないならこの先ずっとシュゼインと会わずに過ごすことは簡単だ。婚姻を結ぶのは君の卒業と同時。その時彼は伯爵家を継ぎ、私は官職に専念する。すぐに王都に別の屋敷を用意しよう。婚約期間もそちらへくればシュゼインとは顔を合わせることはない。それから、今は娘のようにしか見れていないが、結婚するまでは2年あるじゃないか。ゆっくり別の立場の人物だと認識して行けばいい。お互いに愛する努力をしよう」



「おじ様は…おば様を忘れられるというの?別の女を考える男の隣に座らされる事に、侮辱を感じない者はいないわ」


クロッカは幼い頃からの呼び方を自然としてしまった。
愛する努力をしてくれる。その言葉だけでも救われたような気がした。
シュゼインがいないこともあって、張り詰めていたものが少しだけ緩んだのかもしれない。



「カリーナのことを忘れる事はできない。しかし、誰もカリーナの代わりにはなり得ないし、私も求めてはいない。ハイランス嬢を1人の女性として接する事はそれ程難しいことでは無いと思っているよ。きっと私は君を愛せる。試してみるかい?」


扉の前にいるアルベルトと、ソファの前に立つクロッカ。
立ち上がっているのは2人だけだった。
クロッカの目の前まで来ると、アルベルトはクロッカの腰に手を回し、ピッタリと体がくっつくほどに引き寄せ抱きしめる。
クロッカは抱きしめられたことに小さく抵抗していた。



「心配しなくても、私は君を全力で口説き落とすよ。君がもう可愛いだけの天使じゃないことは理解している。クロッカ。君を誰にも渡したく無いんだ。私と結婚してくれ」


彼が彼女の耳元で説き伏せるように囁き、そしてその耳をペロリと舐めるとびくりと仰け反る。
しかし腰に回された腕が離れていくことを許さない。



「クロッカ、良い返事を聞くまで離さないけど、どうする?」


動かなくなったクロッカは耳まで赤くしていた。
もちろんアルベルトもそれには気付いている。
それでも返事をしないのでクロッカの緩く巻かれている髪をクルクルと片手の指に巻きつけて遊びだす。



「クロッカ、もう諦めたらどうだ」



すぐ横から忘れていた存在から声をかけられもう一度びくりとクロッカの体が弾んだ。
後から応接室に戻ってきた為に、ドアに近いクロッカの隣に座っていたエドレッド。

目の前で繰り広げられている友人とも言えるアルベルトが、自分の娘を抱き寄せて口説いているところを見せられ気不味そうにポリポリと頭を描いた。


「そんなの…ずるいわ…」



「君の未来の旦那はそういう男だよ。私を男として見れない訳じゃ無いことも、君の赤い耳を見れば分かる。君の答えはもう一つしかないよ。答えてくれるね?」


諦めの悪いクロッカにトドメの一撃とばかりにアルベルトは腕の力を込める。
力を込められると、自分の心臓の音が聞こえているのでは無いかと思うほどドクドクと動いているのを感じる。



議会とはパフォーマンスの場である。
いかに自分の考えが正しく、有効性があり、自分の考えを裏付ける証拠を提示し、賛同を得なければならない。
たとえ推しの弱い情報しか手元になくても、同意せざるを得ない流れを作る。
そして、それをする為には隙を与えず、自分の考えに自信を持てるだけの事前準備を要する。
一度でも間違いは許されない。
それが議会。

そこを勝ち抜けてきたこの男相手では、到底クロッカの及ぶところではなかった。




「お受けいたします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?

処理中です...