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早朝、ステファニーの個人ボックスに手紙を入れるシュゼインの姿が学園にあった。



まだ2回しか顔を合わせたことがない相手と結婚する覚悟を持ったこの男は、話次第では彼女とは良好な関係が築けるのではないかと考えていた。



クロッカを想う。それでも受け入れる努力をしようと決意し、ステファニーと会う場を作った。
その日の夕方、人影もまばらになった頃、少し大きなサロンが約束の場所だった。

ここならば2人だけで話しているとは悟られはしないだろうと選んだ場所。そこに先に着いたのはシュゼインだった。


既に侍女がお茶を出し、シュゼインは茶菓子に手を伸ばしていた。



「ワーデン卿、お久しぶりでございます」



少し気まずそうに形だけ控えめにカーテシーをとり、シュゼインのいる中央へ足を運ぶ。



「アウストリア公爵令嬢。お時間をいただきありがとうございます」



シュゼインは立ち上がり、しっかりと頭を下げ、彼女を席へエスコートして椅子を引いた。
彼女は横にいる彼にぎこちなくも続き、促されるまま席についた。
侍女はすぐにお茶を注ぎ、ステファニーの前へ音もなく置くと、部屋の隅の定位置で腰を落ち着かせた。
このサロン内での世話と監視を含めた業務に携わる侍女が2人待機する。
2人の口から情報を抜き取るのは拷問をしたって無理な話。それ程の信頼があるからこそ、この学園の侍女として働けているのである。


「さて、今日は嘘も偽りもない話を伺いたいと思いお呼びたてしたわけですが、お話いただけますでしょうか」


シュゼインは対面する自席へ座り、早速と話を始める。
何もない。とはもう言わないだろう。
そのお腹に子はいないかもしれない。それでもそうは言わないだろう。
あの日受け取ったステファニーからの手紙は、自分は嘘をついていたと言うものなのだから。



「はい。恥も全て捨て、お話し致します」



ステファニーは手をつけることのないカップへ決意を流し込むように目を伏せている。
シュゼインを見ることはできないようだった。



「あの日、惚れ薬だと聞いていたのは本当です。何ヶ月も前に父に渡されていた物です。まじないのようなものだと聞いていて、ワーデン卿があのように体調を崩したのは本当に予想外でしたし、最初は薬のせいだとは思い至りませんでした。しかし、父には惚れ薬が効いて、もし2人きりになるチャンスがあるなら、既成事実を作ってしまえと言われてたのも事実です。そう見せるだけでもいい。そうすれば責任を取らせられると…」



今日は本当に話してくれそうだと、シュゼインはホッとしていた。
目の前のカップしか捉えられていない彼女の目は、前回のように目まぐるしく動くこともなく、ただただ、一点を見つめていた。




「アウストリア公爵令嬢は、命じられて薬を盛ったと言うことですか?でしたら、父にバレそうと書かれた手紙とは矛盾が生じるのでは?」



一瞬彼女の口元に力が入る。まだまだ話は序盤だった。
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