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女神

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「優しい?当たり前じゃないの。私が10年愛した男よ。最後くらい優しくしてあげてもいいかと思うの。それがシュゼインの罰になるわ」



クロッカは本当は泣いてしまいたかった。
でもシュゼンが泣きそうなほど思い詰めているのが分かったから泣けずにいた。



泣いて縋ってあげるのが良かったのかもしれない。でも、あまりにもシュゼインは傷ついているように見えたから、思い詰めて思い詰めて消えてしまうのではないかと思えた。
クロッカには息をすることさえ拒絶して苦しんでいるように見えていた。



深く考えたわけじゃない。
だけど、クロッカは本能的にシュゼインの傷を抉るような言い方をしていた。
傷つけて傷つけて動けないほどに包帯でぐるぐるに包んであげたかった。
決して言い訳を言わせず、悲しみを見せず、見せてあげるのは怒りだけ。
それが彼女の優しさだった。
彼女はシュゼインに愛されて大切にされていたことも分かっていた。


「コンラトの淹れたお茶はいつもとても美味しいわ。私の傷ついた心に染み渡るようよ」



今日、シュゼインの顔を見た時のように、にっこりと微笑む姿は本当に天使のようだとコンラトは思った。


しかしきっと彼女に似合う言葉は天使ではない。
強く、慈愛に満ちた、誇り高い女神。
コンラトは2人目の女神を見つけた気分だった。



「コンラトは結婚しているの?どう?わたしを嫁にしない?若くて美人でとっても優しい。どう?優良物件でしょ?今なら安くしておくわよ!」



「ハッハッハッそんな優良物件があるなら正規の値段で買い取らせていただくことも検討したいものですな」



「コンラトっ!」



シュゼインは2人のいつもの掛け合いをボーっと眺めてしまっていた。
夢の中にいるようないつもの光景だった。
しかし、彼女が他の人の元へ嫁ぐなんてまだシュゼインには受け入れられない。
つい立ち上がり、声を荒げるように制す。
そんな資格がないことは己が1番よく分かっていた。



「あらそうね、今はまだ貴方は私の婚約者様だったわね。失礼したわ」



もうすっかり忘れていたかのようにシュゼインを見る目は冷えていたが、憎まれ口を叩くように軽い。
クロッカはシュゼインを否定しなかった。



「シュゼイン様、大丈夫ですよ。私の出番はありませんので。さぁ、お茶をもう一杯いかがですかな。冷めたお茶をいつまでも眺めていても美味しくはなりませんよ」



2人はお茶をもう一杯ずつ飲むことになった。
クロッカはチクチクとシュゼインの傷を触り、そして、シュゼインの口から謝罪の言葉を言わせることはなかった。
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