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アルベルトはシュゼインから、事の経緯を聞いて、溜息しか出なかった。
すでに学園入学時には成人している身の上のため、卒業後ほどではないが、社交の場に行くことは少なからずあった。
その日はシュゼインの友人の家が主催した、この国の特産品である、麦や野菜について見識を広めることを目的とした、様々な料理を楽しむための立食式のパーティーだった。
友人と連れ立って参加していたので、殆ど1人になることはなかったのだが、一緒にいた友人が、知人から声を掛けられたため、気を使いその場を離れた。
その隙を縫うようにして声を掛けてきたのがステファニーだった。
「あら、ワーデン卿ではありませんか」
清潔感のある水色のドレスは立食式のパーティを考えて華美ではなく、清楚な女性に見えた。
ハーフアップにした髪は後ろに流されており艶めいていた。
「あぁ!アウストリア公爵令嬢でしたか。学園とは雰囲気が違うので気付きませんでした」
同じ学園にアウストリア公爵家の娘がいることは知っていた。
一つ上の学年であったが、公爵ともなれば学園に通う年齢の人数は極端に少ない為、面識はなくても誰でも自然と認識している。そんな立場が公爵だった。
「まぁ!ワーデン卿に認識されていたとは、公爵家に生まれた役得ですわね。本日はハイランス嬢とはご一緒ではありませんの?」
シュゼインは名乗った方がいいのではないかと考えていたのだが、タイミングを逃したようだった。
お互いに認識していたとしても、初対面では表面上のやり取りをするものだったが、学園ですれ違うことは何度もあり、お互いに知った気でいたのかもしれない。
「そのような事で役得と言っていただけるとは恐縮です。本日は同じクラスの友人と共に参加しております。アウストリア公爵令嬢は本日はどなたと?」
「私は姉と参りましたの。私も姉も、ここのシェフの料理は気に入っておりまして、いつも開催を楽しみにしておりますのよ。この隣国の葡萄ジュースとの飲み比べも、どちらの良さも分かり、とてもいい企画だと思うの。ワーデン卿も飲まれていないのでしたら是非飲み比べてみるべきだわ」
彼女は公爵らしく、美しい所作で目の前のテーブルから手前の二つのグラスをとり、シュゼインに渡す。
彼の方も、パーティでの趣旨である交流は歓迎とばかりにそのグラスを飲み比べた。
その様子を興味深そうに見つめる、ステファニーは早く感想が聞きたいとばかりに期待の目を離すことはなかった。
「たしかに、色の違いを目でも確認できますし、隣国のものは酸味が強いが濃厚で、王国のものはすっきりとした甘さが口に広がる。こう飲み比べると以外に違うものですね。好みの差はあれど、どちらを飲んでも美味しい。普段飲み比べる機会はそうはない。いい企画です。」
ニコッと笑い納得したように両方のグラスを空けると、グラスをテーブルの隅に戻す。
「そうでしょう?」
少し自慢げにふむふむと顔を振る姿は、終始崩れない姿勢と相まって、麗しさすら感じた。
整えられた上品さを持つのに仕草は可愛らしい。
彼女が年相応の娘なのだと感じるには充分な反応だった。
彼女は気に入ったと言う王国の葡萄ジュースを持ち、そろそろ姉に声を掛けるということで、2人は別れることになった。
しかし、シュゼインも、失礼しますと軽く頭を下げた時、貧血のようにくらりと一瞬目の前が真っ白になるのを感じてよろけた。
「ワーデン卿?」
ステファニーの心配しているような声が聞こえ、大丈夫だと答えたが、目の前から色が消えるのを感じていた。
「大丈夫ですの?お友達をお呼びしますわ。どなたといらしたの?」
周りの声がくぐもって聞こえ始めていた。
おかしい。そうは感じても先ほど飲んだワインもテーブルから取ったのを確認した。
じゃあ遅毒性のものなのか。どれだと記憶を巡らせるも頭が働かない。
「あぁ、ここの家の者も知り合いです。すみませんがお願いしても構いませんか?」
そう言って、客室を借りようとホールの入り口を目指すが少しだけだが足元がふらつくのが分かる。視野が狭い。
不意に手に何かが触れたのが分かる。
「あっ!」
そう聞こえて目線を横にやると、ステファニーの手元から紫の雫が落ちていて、ドレスに少しだけ濃い紫のシミが出来ていた。
「あぁ。気にしないでください。服は汚れるものですから。それより、しっかり捕まってくださいませ。とりあえず客室の前までならお送り致します。あそこの執事を捕まえましょう。行きますよ。」
シュゼインが声をかける前に、ステファニーはグラスを置きハンカチで手元を拭くと、シュゼインの左腕を抱えるようにして歩きだした。
女性に失礼だが、下心は無さそうな動きだった。
「そこのあなた、この方が気分を悪くなされたの、客室まで案内してくれない?」
給仕の執事を捕まえると、シュゼインの腕を執事に任せる。2人きりにならないことにシュゼインは安堵の色を見せていた。
毒でないのならこれは本当に体調が悪いのか。
早く横にならないと気を失ってしまうのではないかと気を張っているしかなかった。
立っているだけで精一杯の状況だった。
なんとか客室に着くと椅子ではなくベッドに横になった。
座っていられる自信がなかったのだ。
「ありがとう。あなた、使って悪いけれど、とりあえず水を持ってきてもらえない?それから、ルイス様にワーデン卿がここで休まれているのでワーデン卿の馬車を呼ぶように伝えてもらいたいわ」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
彼女は的確な指示をしていた。
ここまで彼女1人で連れてくることもなく、第三者を挟み、さらに「あ、ドアはそのまま開けておいて」と執事に投げかけた。
それを聞き、シュゼインは安心したのか意識を手放してしまったのだ。
すでに学園入学時には成人している身の上のため、卒業後ほどではないが、社交の場に行くことは少なからずあった。
その日はシュゼインの友人の家が主催した、この国の特産品である、麦や野菜について見識を広めることを目的とした、様々な料理を楽しむための立食式のパーティーだった。
友人と連れ立って参加していたので、殆ど1人になることはなかったのだが、一緒にいた友人が、知人から声を掛けられたため、気を使いその場を離れた。
その隙を縫うようにして声を掛けてきたのがステファニーだった。
「あら、ワーデン卿ではありませんか」
清潔感のある水色のドレスは立食式のパーティを考えて華美ではなく、清楚な女性に見えた。
ハーフアップにした髪は後ろに流されており艶めいていた。
「あぁ!アウストリア公爵令嬢でしたか。学園とは雰囲気が違うので気付きませんでした」
同じ学園にアウストリア公爵家の娘がいることは知っていた。
一つ上の学年であったが、公爵ともなれば学園に通う年齢の人数は極端に少ない為、面識はなくても誰でも自然と認識している。そんな立場が公爵だった。
「まぁ!ワーデン卿に認識されていたとは、公爵家に生まれた役得ですわね。本日はハイランス嬢とはご一緒ではありませんの?」
シュゼインは名乗った方がいいのではないかと考えていたのだが、タイミングを逃したようだった。
お互いに認識していたとしても、初対面では表面上のやり取りをするものだったが、学園ですれ違うことは何度もあり、お互いに知った気でいたのかもしれない。
「そのような事で役得と言っていただけるとは恐縮です。本日は同じクラスの友人と共に参加しております。アウストリア公爵令嬢は本日はどなたと?」
「私は姉と参りましたの。私も姉も、ここのシェフの料理は気に入っておりまして、いつも開催を楽しみにしておりますのよ。この隣国の葡萄ジュースとの飲み比べも、どちらの良さも分かり、とてもいい企画だと思うの。ワーデン卿も飲まれていないのでしたら是非飲み比べてみるべきだわ」
彼女は公爵らしく、美しい所作で目の前のテーブルから手前の二つのグラスをとり、シュゼインに渡す。
彼の方も、パーティでの趣旨である交流は歓迎とばかりにそのグラスを飲み比べた。
その様子を興味深そうに見つめる、ステファニーは早く感想が聞きたいとばかりに期待の目を離すことはなかった。
「たしかに、色の違いを目でも確認できますし、隣国のものは酸味が強いが濃厚で、王国のものはすっきりとした甘さが口に広がる。こう飲み比べると以外に違うものですね。好みの差はあれど、どちらを飲んでも美味しい。普段飲み比べる機会はそうはない。いい企画です。」
ニコッと笑い納得したように両方のグラスを空けると、グラスをテーブルの隅に戻す。
「そうでしょう?」
少し自慢げにふむふむと顔を振る姿は、終始崩れない姿勢と相まって、麗しさすら感じた。
整えられた上品さを持つのに仕草は可愛らしい。
彼女が年相応の娘なのだと感じるには充分な反応だった。
彼女は気に入ったと言う王国の葡萄ジュースを持ち、そろそろ姉に声を掛けるということで、2人は別れることになった。
しかし、シュゼインも、失礼しますと軽く頭を下げた時、貧血のようにくらりと一瞬目の前が真っ白になるのを感じてよろけた。
「ワーデン卿?」
ステファニーの心配しているような声が聞こえ、大丈夫だと答えたが、目の前から色が消えるのを感じていた。
「大丈夫ですの?お友達をお呼びしますわ。どなたといらしたの?」
周りの声がくぐもって聞こえ始めていた。
おかしい。そうは感じても先ほど飲んだワインもテーブルから取ったのを確認した。
じゃあ遅毒性のものなのか。どれだと記憶を巡らせるも頭が働かない。
「あぁ、ここの家の者も知り合いです。すみませんがお願いしても構いませんか?」
そう言って、客室を借りようとホールの入り口を目指すが少しだけだが足元がふらつくのが分かる。視野が狭い。
不意に手に何かが触れたのが分かる。
「あっ!」
そう聞こえて目線を横にやると、ステファニーの手元から紫の雫が落ちていて、ドレスに少しだけ濃い紫のシミが出来ていた。
「あぁ。気にしないでください。服は汚れるものですから。それより、しっかり捕まってくださいませ。とりあえず客室の前までならお送り致します。あそこの執事を捕まえましょう。行きますよ。」
シュゼインが声をかける前に、ステファニーはグラスを置きハンカチで手元を拭くと、シュゼインの左腕を抱えるようにして歩きだした。
女性に失礼だが、下心は無さそうな動きだった。
「そこのあなた、この方が気分を悪くなされたの、客室まで案内してくれない?」
給仕の執事を捕まえると、シュゼインの腕を執事に任せる。2人きりにならないことにシュゼインは安堵の色を見せていた。
毒でないのならこれは本当に体調が悪いのか。
早く横にならないと気を失ってしまうのではないかと気を張っているしかなかった。
立っているだけで精一杯の状況だった。
なんとか客室に着くと椅子ではなくベッドに横になった。
座っていられる自信がなかったのだ。
「ありがとう。あなた、使って悪いけれど、とりあえず水を持ってきてもらえない?それから、ルイス様にワーデン卿がここで休まれているのでワーデン卿の馬車を呼ぶように伝えてもらいたいわ」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
彼女は的確な指示をしていた。
ここまで彼女1人で連れてくることもなく、第三者を挟み、さらに「あ、ドアはそのまま開けておいて」と執事に投げかけた。
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