上 下
136 / 142
saint

そんなまさかそんなこと

しおりを挟む
「おかえりなさいませ!ご主人様!」


帰宅時には転移魔法で帰る旨を伝えろと泣きつかれたことを思い出したクロエは、フリードからもらった魔法陣の刻まれた便箋を屋敷に漂わせて帰宅を知らせた。


そのすぐ後に、四人で屋敷のホールに転移すると、次から次へと従者がやって来た。
そしてそれに続くように、父と母の姿が見える。


「クロエ!流石に心配したわ!」

「あぁ…よかった。おかえりクロエ」


母から1発電撃でも飛んでくるかと思っていたが、涙を流して部屋に駆け込んできた。


「お父様、お母様!ただいま戻りました」

「黙って出ていったりして、手紙の一通くれてもいいでしょう?何なの?この魔力は。ステラもすぐに来るだろうから先に説明をしなさい!」


結局はそのまま説教が始まってしまったけれど、いつもは魔力を温存のために睡眠を優先して、もしもに備えている母がすぐにここに顔を見に来てくれたというだけで大人しく話を聞くしかなかった。



「わぁ!ステラおばしゃますごく光ってる!シュテキ!」



久しぶりの長いお説教を聞いていると、ドアの隙間から困り顔の騎士と可愛い天使が覗いていた。
きっとティティがドアに張り付いてしまって、それ以上開けられないと判断したのだろう。


「あぁ私の愛しの子猫ちゃん!」


クロエが立ち上がって駆け寄ろうとしたところで、少しだけ覗いていたティティの顔がふわりと上に持ち上がって、扉が開いた。


「クロエ!!あんた本当…手紙の一つ位置いていきなさいって子供の頃から何度も言われてるのに、帰ってくるのも突然で、これは一体どう言う…ってなんなの?その魔力は!」


ニッコリと笑った中腰のままのクロエと目が合ったステラは、クロエの魔力にドン引きすることを隠しもしなかった。
その腕にいたヘルが代わりにケラケラと笑った。


ーーまさかまた一から説教が!?


慌てて体勢を戻して、宙に浮いて泳いでいるティティを抱きしめると、コホンと一つ咳払いをして誤魔化した。
説教が始まる前に説明をするのが先だ。



「ーーというわけで、私は今、ミーリン島国の国王でもあり、多くの国から認められている聖女でもあります」


ティティを膝の上に乗っけてほっぺをプニプニとしながら、クロエは一通りの説明をした。
ドアの前に立つ騎士や国家魔道士、更には執事やせっせとお茶を用意していた侍女までもが、動きを止めてクロエを見つめていた。


「貴族の仕事は戦争をして領地を拡大することだと一昔前は言っていたけれど、私は戦争は民を苦しめるだけだと考える王なの。ミーリン島国の国王様、貴女はどう考えて?」


いつもは余裕な顔で、表情一つ崩さず、外面を外すことなんてないステラは頭を抱えながら、今すぐにダリアを呼んで来るように言いつけている。


「ええっと…」


「あぁ、国王っていうのはただの皮肉よ。クロエがミーリン島を獲得してきたということは、ミーリン島は今、私の支配下にあるということよね?イシュトハンがこの国を出ると独立を宣言しているというならば話は別だけれど」

「わぉ!」


確かに、言われてみれば貴族の仕事といえば領地を拡大する事だった。
そして、その新しい領地の主人となるならば、それはその国の拡大ということ。
つまり、ミーリン島は今ステラの統治下にあるという事だ。
いつの間にかミーリン島を侵略してしまっていたとクロエが驚いていたのと同時に、クリンプトンとサステナも目を見開いていた。


「まままま待ってください。確かにミーリン島の指揮権はクロエ様にありますが、教皇の選出が完了すれば教皇が元首となります。クロエ様はあくまで暫定的に王位を望まれた…そ、そうでしたよね?」


「ん、んーそうだけど、しまったわね。なんでクリンプトンは気付かなかったの!っていうか誰もそれに気付かずに私の肖像画、王宮に飾られちゃってるわよ!?島内に知れ渡っていることを隠すなんてそんなこと出来るわけないし…もういっそ、本当に統治下に入っちゃう?世界の常識を学ばせるのにはちょうどいいかも」


戦争したわけでもないし、国王の首をとった訳でもない。
現に、前女王がここにいる。
しかし、私は力でミーリン島のトップに立ったと考えれば、侵略と言われれば侵略だろう。


既にあった法に則って国王の地位にいるわけだが、イシュトハン領とすると宣言したわけではないし、あくまでイシュトハンの領主が、ミーリン島の国王を兼任していると考えていたのだが、そんな前例があるわけもない。


そういえばここにもう1人、王位継承権第二位で他国に婿に入った男がいる。
出身国で王位継承権を持ちながら別の国の貴族というのも中々あるものではない。


ーー面白い。


そう笑みを浮かべていたのは、立っているのにも疲れ、ソファに腰掛けたヒューベルトだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~

待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。 急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。 間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。 元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。 愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。 また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。

処理中です...