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Wake up
戦争してでも
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サステナとステラ、2人の女王が残った部屋では睨み合いが続いていた。
本来ならば、クロエもフリードも2人を置いて立ち去るのは失礼なことだっただろう。
だが、ステラも2人を止めることはなかった。
「イシュトハン公爵夫人が覚醒をしていないと言いましたね?」
魔力が蠢くステラの背後にも、3人の魔術師が控えている。
「はい。先程は不躾な話を申し訳ありません」
「あら、いいのよ。この国に謝罪に来て、この国を侮辱して帰ったとしても、その事で批判されるのは私たちではありませんし、貴国には、今回の件については正式な謝罪を求めます。謝罪されないのなら、こちらも滞在中の全ての援助はしませんので、荷物をまとめてとっとと国にお帰りください」
「行方不明の子が見つからないまま帰る訳にはいきません!先程の話は何度だって謝ります。出過ぎた真似だったのは理解しています。ただ、公爵が苦労されるかと思うと伝えるべきかと思ってしまって…」
ステラは大抵の事情は把握できたと確信していた。
目の前の女王は、本当にお人形なのだ。
マナーの類は叩き込まれてはいるが、思考がまるで子供である。
自分の口から出るものがどういう結末を生むのか考えもせず、その場で最善と深く考えもせず決めつけているのだろう。
「正式な謝罪を求めるというのがどういうことかお分かりですか?」
「国を代表するものとして過ちを認めて、真摯に謝罪することです」
魔力が蠢いているステラを真っ直ぐ見つめているサステナのピンク色のオーラは少しも揺らぐことはない。
「それは違います。今回の侮辱についての経緯を記し、それに対して謝罪する旨を書面にて残すことにするから、国として対応しなさいと要求しているのです。側近たちはお飾りですか?他国に迷惑をかけた上、謝罪しにきておいて女王自ら無駄な仕事をさせられている領主の仕事を邪魔し、さらに侮辱までするのを許しているこの状況はどういうことでしょう。一国の王のはずなのに、私は平民と話をしているような錯覚を覚えます」
ステラの後ろに控える護衛の1人が、不穏な空気を察してステラの前に防護壁をはる。
それに続くように残りの2人も防護壁を展開する。
控えている側近の男の魔力が僅かに揺らめいたからだ。
「クリンプトン、流石に黙っていられません」
「下がりなさい」
クリンプトンと呼ばれた長い髪の側近が腕を上げて、もう1人の側近を制止する。
「サステナ陛下の言葉を書面に残すことは、貴国にとってもいいことではありません」
「いいことでないこと位は分かっているのよ。それについて、神の国は正式に非を認め、謝罪したと残すことはとても意味のあること。このままどこかにこの話が漏れたら?信仰の深い国はどう出るかしら?謝罪はもう要求しました。対応するか、出て行くか、それとも戦争でも始めるのか…決めるのはそちらよ」
ステラは紅玉をぽわりと浮かべる。
流石に魔力面で不利なことは理解しているが、ここは自分が生まれ育った家で、家具の配置、魔石の場所、全て把握している。
1発で殺されなければ、戦闘方法はいくらでもある。
このことは国として、引けない一線だった。
紅玉がジリジリと音を立てて光を放っている。
「ステラ陛下!私どもはそんなつもりはありません!」
自らの側近達の魔力に守られたサステナは、席を立ち上がって2人の肩を叩く。
サステナはクリプトンに少し怒られているようだった。
ステラの本気を理解したのか、クリプトンは国として真摯に対応すると約束した。
決定権はやはりサステナではなく、神殿側の者にあるようだ。
ステラは正式な謝罪があればこれ以上事を荒げるつもりはないと、デザートを用意させた。
「まだイシュトハン公爵夫人の覚醒について答えをいただいておりません。彼女が覚醒してないと思ったのは何故ですか?」
空気を入れ替えるようにデザートとお茶が用意されたが、サステナは落ち込んだように目を伏せていた。
そこに、ステラは冒頭の質問をもう一度ぶつける。
「魔力がまだ安定せず、オーラに微弱な揺れを感じました。子供達特有の極僅かな揺れは、感じ取れるものは我が国でも数人。魔力が覚醒しているかどうかは、我が国では全員が検査を受けるので、間違いようがありません」
覚醒とサステナは言うが、この国で覚醒という言葉を使うことはなかった。
魔力制御の完了する前後、体の成長に合わせて魔力保持量も変化する。魔力制御がほぼ完璧にできる頃には、個人の魔力量はほぼ確定したと捉えられているだけだ。
幼い頃既に魔力制御がある程度出来てしまったクロエは、生まれ持った魔力も大きかった事から、その後の魔力量の変化に顕著な変化が見られなかったことは、なんとなく姉二人との違いを家族が不思議がっていた程度の話だった。
そもそも、それよりも転移や無詠唱での魔力解放の方が目立っていたのだ。
「そうなのですね。ですが、我が国の内部のことですので、以降干渉しませんようお願いいたします。魔獣が無事に見つかり、早く帰国されることを願っております」
ステラはサステナへではなく、クリプトンを見て話す。
重たい空気の中で、以降建設的な話が出ることはなかった。
サステナは魔女でもなければバカでもない。
ただ、魔力の多さでのみ選ばれたただの人形なのだ。
国外に向けて威圧するのにも、国民を黙らせるのにも都合がいい、操り人形なのだ。
人形とまともな話をしようと言うのが、そもそもの間違いだった。
本来ならば、クロエもフリードも2人を置いて立ち去るのは失礼なことだっただろう。
だが、ステラも2人を止めることはなかった。
「イシュトハン公爵夫人が覚醒をしていないと言いましたね?」
魔力が蠢くステラの背後にも、3人の魔術師が控えている。
「はい。先程は不躾な話を申し訳ありません」
「あら、いいのよ。この国に謝罪に来て、この国を侮辱して帰ったとしても、その事で批判されるのは私たちではありませんし、貴国には、今回の件については正式な謝罪を求めます。謝罪されないのなら、こちらも滞在中の全ての援助はしませんので、荷物をまとめてとっとと国にお帰りください」
「行方不明の子が見つからないまま帰る訳にはいきません!先程の話は何度だって謝ります。出過ぎた真似だったのは理解しています。ただ、公爵が苦労されるかと思うと伝えるべきかと思ってしまって…」
ステラは大抵の事情は把握できたと確信していた。
目の前の女王は、本当にお人形なのだ。
マナーの類は叩き込まれてはいるが、思考がまるで子供である。
自分の口から出るものがどういう結末を生むのか考えもせず、その場で最善と深く考えもせず決めつけているのだろう。
「正式な謝罪を求めるというのがどういうことかお分かりですか?」
「国を代表するものとして過ちを認めて、真摯に謝罪することです」
魔力が蠢いているステラを真っ直ぐ見つめているサステナのピンク色のオーラは少しも揺らぐことはない。
「それは違います。今回の侮辱についての経緯を記し、それに対して謝罪する旨を書面にて残すことにするから、国として対応しなさいと要求しているのです。側近たちはお飾りですか?他国に迷惑をかけた上、謝罪しにきておいて女王自ら無駄な仕事をさせられている領主の仕事を邪魔し、さらに侮辱までするのを許しているこの状況はどういうことでしょう。一国の王のはずなのに、私は平民と話をしているような錯覚を覚えます」
ステラの後ろに控える護衛の1人が、不穏な空気を察してステラの前に防護壁をはる。
それに続くように残りの2人も防護壁を展開する。
控えている側近の男の魔力が僅かに揺らめいたからだ。
「クリンプトン、流石に黙っていられません」
「下がりなさい」
クリンプトンと呼ばれた長い髪の側近が腕を上げて、もう1人の側近を制止する。
「サステナ陛下の言葉を書面に残すことは、貴国にとってもいいことではありません」
「いいことでないこと位は分かっているのよ。それについて、神の国は正式に非を認め、謝罪したと残すことはとても意味のあること。このままどこかにこの話が漏れたら?信仰の深い国はどう出るかしら?謝罪はもう要求しました。対応するか、出て行くか、それとも戦争でも始めるのか…決めるのはそちらよ」
ステラは紅玉をぽわりと浮かべる。
流石に魔力面で不利なことは理解しているが、ここは自分が生まれ育った家で、家具の配置、魔石の場所、全て把握している。
1発で殺されなければ、戦闘方法はいくらでもある。
このことは国として、引けない一線だった。
紅玉がジリジリと音を立てて光を放っている。
「ステラ陛下!私どもはそんなつもりはありません!」
自らの側近達の魔力に守られたサステナは、席を立ち上がって2人の肩を叩く。
サステナはクリプトンに少し怒られているようだった。
ステラの本気を理解したのか、クリプトンは国として真摯に対応すると約束した。
決定権はやはりサステナではなく、神殿側の者にあるようだ。
ステラは正式な謝罪があればこれ以上事を荒げるつもりはないと、デザートを用意させた。
「まだイシュトハン公爵夫人の覚醒について答えをいただいておりません。彼女が覚醒してないと思ったのは何故ですか?」
空気を入れ替えるようにデザートとお茶が用意されたが、サステナは落ち込んだように目を伏せていた。
そこに、ステラは冒頭の質問をもう一度ぶつける。
「魔力がまだ安定せず、オーラに微弱な揺れを感じました。子供達特有の極僅かな揺れは、感じ取れるものは我が国でも数人。魔力が覚醒しているかどうかは、我が国では全員が検査を受けるので、間違いようがありません」
覚醒とサステナは言うが、この国で覚醒という言葉を使うことはなかった。
魔力制御の完了する前後、体の成長に合わせて魔力保持量も変化する。魔力制御がほぼ完璧にできる頃には、個人の魔力量はほぼ確定したと捉えられているだけだ。
幼い頃既に魔力制御がある程度出来てしまったクロエは、生まれ持った魔力も大きかった事から、その後の魔力量の変化に顕著な変化が見られなかったことは、なんとなく姉二人との違いを家族が不思議がっていた程度の話だった。
そもそも、それよりも転移や無詠唱での魔力解放の方が目立っていたのだ。
「そうなのですね。ですが、我が国の内部のことですので、以降干渉しませんようお願いいたします。魔獣が無事に見つかり、早く帰国されることを願っております」
ステラはサステナへではなく、クリプトンを見て話す。
重たい空気の中で、以降建設的な話が出ることはなかった。
サステナは魔女でもなければバカでもない。
ただ、魔力の多さでのみ選ばれたただの人形なのだ。
国外に向けて威圧するのにも、国民を黙らせるのにも都合がいい、操り人形なのだ。
人形とまともな話をしようと言うのが、そもそもの間違いだった。
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