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just married

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リリィは瞬きを数回したあと、まだ湯気の立つお茶を一口含んだ。


「貴族達の友人とはなるものではなく、作るものですわ。私、友人になれない方のお茶会には参加しないことにしておりますの」


物音一つしない完璧な所作は一瞬流れた間を拾い上げるようだった。

「リリィは気難しくて実はあまり友人は多くないんだ。言わずもがなイシュトハンは隣国の女王陛下の妹ですし、フィバリー商会も贔屓にしている商会の一つです。コーンウォリス男爵令嬢ともこの先も交流は続くでしょう。あまり尻込みせず仲良くしてくれたら私は嬉しいよ」


マグシスがリリィの横でにっこりと微笑み、クロエは胸を撫で下ろした。
喜怒哀楽を隠した貴族らしい振る舞いをするのは学園で仲良くなったサリーの前では難しかったからだ。

サリーは最初の挨拶でもクロエ様と呼ばず、知り合ったばかりの公爵令嬢に配慮した言葉遣いを貫いていたが、折角なら話はフランクなものにしたかったのだ。
よくよく思えば、この場は王国の王位継承権を持つフリードリヒと、公爵家の兄弟。
サリーと、そして初めて会うハーベストには発言権がないようなものだ。
蔑ろにされることはないとは思ってはいたが、リリィの発言はもしかしたら二人に配慮したものだったのかもしれない。


「ハーベスト様はどちらの学校に行かれていたのですか?」


リリィの一言でハーベストの遊学の話が始まり、和やかな会話が続く。



お茶会ってすごく楽しい。
そう素直に思えたのは、リリィとマグシスの気遣いの賜物だったと思う。
会話の中心は完全に2人だったからだ。


「ウルスガルバ卿はたしか狩猟大会で大物を獲るのが得意だっただろう?ハーベストも狩りの経験はあるのでは?」


フリードが発した一言から、何故か男性陣は連れ立って本邸の裏山まで行ってしまうこととなった。


お茶会経験の少ないクロエは、その行動にポカンとして、もしかして退屈だったかとサリーに確認する。


「クロエ様、あれは男達の常套手段です。ずっと座っていると疲れるらしく、男性は大抵あぁして何かの口実を作って外に出たがるんです。そういうものだと思っておけばいいですわ」


「まぁ!フリードが狩りにそんなに興味があったのかと疑問だったの。狩猟大会の話も出たことがないのに…」


王国貴族が集まる社交シーズンの終わり頃に行われる狩猟大会は、毎年行われてはいるが、裏山でいくらでも狩りと言う名の害獣駆除が出来る我が家では父は参加していないし、見学に行こうと言い出すものもいなかった。
唯一ステラだけは毎年行っているようだが、魔法禁止のルールがあるのであまり興味がなかった。


「クロエ様、伯爵は狩猟大会でもいつも中々の成績ですわよ?」

「えぇ!?」


一瞬、伯爵と言われて父を思い描いたのは、まだ慣れていないからだろう。
当たり前に狩猟大会に出ることはない父を消し去り、フリードの顔を浮かべる。
王族なので義務的に参加はしているのは知ってはいたが、いつのまにそんな勇敢な青年に育っていたんだ。と、驚愕する。
学園では可愛い可愛いショタを演じておいて、やはり学園外では力を見せないといけなかったということだろうか。


「クロエ様、突然の結婚とは承知しておりますが、伯爵との仲はいかがですの?」

「いかが…とは?」


突然の不躾な質問に、クロエは真意が掴めずリリィの顔を見る。
笑みを浮かべるでもなく、ただ見つめてくるリリィと目が合う。
サリーが隣で息を呑むのがわかった。
そのサリーに一度視線を向けたあと、リリィは頭を下げる。



「わたくしの言い方に問題があったようです。その…お2人ともオーラの色が違いますし、今日お二人を見たところ意外にも距離があるように感じましたので、ただ疑問に思ったことをそのまま口にしてしまいました。不躾な質問をしてしまい申し訳ありません」


「謝ってもらう必要はありません。フリードとはリリィ様の方が婚約者候補としての交流が今まであったでしょうし…」


公爵令嬢であるリリィが頭を下げたことにクロエは驚愕した。
煩わしいことがあるにせよ、身分は伯爵である。



「交流は確かにありましたわ。でも…サリー様も察したのではありませんか?私でも違和感を感じたくらいです。クロエ様と親しいですし、魔力も多いのですから」


「えっと…そう言われてしまえば、思わず聞いてしまったリリィ様の気持ちも分かります。申し訳ないのですが、貴族である以上、この先も同じようなことを聞かれてしまうでしょうし…」


クロエは2人の言葉を聞いて頭にハテナが浮かんでいた。
一体なんの話をしているのかと、置いてきぼりにされて気分だ。


「何を聞かれると言うの?」


小さな控えめな声がクロエの口が紡ぎ出すと、リリィの目を見てもサッと逸らされ、リリィは視線が来るのを感知したように下を向いた。


「……オーラが混ざり合っておりません」


「オーラ?どう言うこと?」


リリィが意を決したように扇を口に当てて控えめに答えたが、ますますクロエは理解出来なくなった。


「クロエ様は薄い青、伯爵様はオレンジ色です。新婚ならばお二人とも色が混ざるのでは?と思ったのです」


「魔力供給の話をしているの?」

「魔力供給?」

「えっと…その…夜の営みの話でございます」


魔力供給という言葉に馴染みがないのか、リリィは扇を閉じて瞳をパチパチとさせ、魔法科に在籍していたサリーが不思議そうな顔をしながら答えた。


「いとなみ…営み!?」

「はい…新婚でいらっしゃるので、当然相手の色を纏っていらっしゃると思って、ドキドキしておりました」

「私も、ハーベスト様と、そういう時は触れるべきかと相談しながら参りました」

「なっ…もしかして、営みでは、お互いの魔力を交換するのですか?どうやって…」


アワアワと恥ずかしくなって3人で頬を染める。
そんな3人の元に、入口にいた侍女がお茶を入れるために声をかけてきて、3人は口を噤んだ。
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