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Promenade
計画されていた卒業式
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フリードに念入りに拘束魔法をかけ、暫くフリードに跨るようにして美しい顔を存分に堪能していると、すぐに学園に到着してしまい、残念ながらイケメンのご尊顔を凌辱する楽しい時間は終わりを告げてしまったが、そんな状態だったので馬車が学園へ着いても暫く扉を開ける許可を出すことが出来なかった。
主にフリードがどうしても馬車を降りられないと言うので、仕方なくのことだったが、いつもとは逆に好みな顔を一方的に堪能できたことで、上機嫌だった。
あの蜂蜜色のまつ毛を一度指で触り、プニプニすべすべの滑らかな頬を撫でまわし、可愛い顔のくせに不釣り合いなほどクッキリと長い首にある喉仏が動くのを凝視したり、子供の頃から心の奥底に秘めていた願望を全て叶えたといってもいい。
長く馬車から出ていかないことが、予想外に周りの憶測を呼び、大した誤解でもなかったが、フリードの頬についた紅を見ると、学園の入り口は頬を赤らめた生徒たちが2人のラブラブぶりの証人となってくれた。
「あらフリード、顔に紅がついてしまっていたわ」
フリードの手を取って馬車を降りると、わざとらしくフリードの頬にハンカチを擦り付ける。
意外と紅は容易くは取れず、擦りすぎて赤いのか紅が残っているのか分からなくなったので、次からはこの悪戯はやめておこうと思う。
見渡した限り、ラブラブ大作戦の出だしとしては成功だろう。
「美しい顔を独占できるのって結構メリットね」
クロエは赤くなったフリードの頬をペチンペチンと2度叩くと、頬が赤いままのフリードのエスコートでホールへと向かった。
フリードの腕を取り優雅に歩く姿は、羨望の眼差しが向けられている。
大ホールにはすでに多くの生徒が集まっており、卒業する者は中央の座席へと誘導されていた。
フリードとクロエは用意されていた最前列に座り、見せつけるかのようにフリードの腕にはクロエの手が重ねられていた。
学園長の言葉とともに始まった卒業式は、国の分裂など起きていないかのように終始和やかに行われていく。
この学園の卒業者である、王国一といわれる学者や薬学師の学生時代の面白いエピソードを交えたスピーチは、多方面へと旅立つ卒業生の心を鷲掴みにし、これからの生活に希望を与えるものだった。
「卒業生の代表としてフリードリヒ殿下、ご挨拶をお願い致します」
「はい」
フリードは自らの腕に置かれたクロエの手に手を重ねて少し撫でてから立ち上がると、壇上へと上がっていった。
2人で話していた時とも、友人と話している時とも声の出し方から違う。
ただ歩いているだけなのに威厳すら感じるその所作に、誰もが目を奪われていた。
スラスラと原稿も持たず紡がれていく言葉には、学園全員の弟などという王子として不名誉な称号を持っていたことなど忘れさせてしまうほどだった。
卒業式のために準備をしてきたフリードの忙しさは詳しくは聞いていないが、私が見てきた記憶から推察するに、友人と会う時間もなかったように思う。
この学園を卒業出来たことがどれだけ誇らしいことかと、この場にいる同級生を讃える言葉を述べてから、彼は一段と真面目な顔で現在の王国の現状を並べていった。
「ーークラークの独立に伴い、王国民には不安が広がっていることは理解している。しかし、ステラ女王は勿論の事、その妹である魔法省の教育に力を貸してもらっているダリア子爵夫人、そして我が婚約者でもあるクロエとは、陛下も私も幼い頃から交友がある。それは周知の事実であると思う。それを考えれば、これまでと変わらず王国の安全は守られるということも、理解は容易いはずだ。今日はこの卒業という祝日に皆に証人になってもらいたい」
証人という言葉に、ホール内は騒めきがおきた。
この卒業式の後、すぐにでも結婚するのではないかとの噂はあるが、結婚の発表はまだしていないし、そして教会へも届け出ていない中、フリードの言葉は軽率な様に感じた。
私が今結婚を拒んだらどうするつもりなのだろうかと、考え始めたら気分は良くない。
「クロエ、もし私がイシュトハンを名乗ることを認めたくないならば、ここにいる同級生全員が証人となり、婚約は破棄されるだろう。証人の前では平民も貴族も王族も平等だ。君の許可がなければイシュトハンは名乗れない」
あぁ、これは予定外のことが起こった。
彼はここにいる全員を前にプロポーズをしているのではない。
プロポーズさせようとしているのだ。
確かに庇護下にあると思わせるには打って付けの方法だ。
この茶番に付き合う他なく、立ち上がると、フリードのいる壇上へと足を進めた。
「この国の第二王子であるフリードリヒ殿下も、証人の前では弱気になるものなのですね。私たちの育った国であり、こんなに多くの友人のいる国をないがしろに出来るわけもありません。私の力が及ぶ限り、王国の危機には力を貸すと約束致します」
クロエはフリードの横に立つと、自然と2人は向かい合わせになる。
「国民に愛されしフリードリヒ殿下、私と結婚していただけますか?」
美しくカーテシーを取って、それはそれは優雅に手を差し出したのだが、いつまで経ってもその手を取られることはなかった。
主にフリードがどうしても馬車を降りられないと言うので、仕方なくのことだったが、いつもとは逆に好みな顔を一方的に堪能できたことで、上機嫌だった。
あの蜂蜜色のまつ毛を一度指で触り、プニプニすべすべの滑らかな頬を撫でまわし、可愛い顔のくせに不釣り合いなほどクッキリと長い首にある喉仏が動くのを凝視したり、子供の頃から心の奥底に秘めていた願望を全て叶えたといってもいい。
長く馬車から出ていかないことが、予想外に周りの憶測を呼び、大した誤解でもなかったが、フリードの頬についた紅を見ると、学園の入り口は頬を赤らめた生徒たちが2人のラブラブぶりの証人となってくれた。
「あらフリード、顔に紅がついてしまっていたわ」
フリードの手を取って馬車を降りると、わざとらしくフリードの頬にハンカチを擦り付ける。
意外と紅は容易くは取れず、擦りすぎて赤いのか紅が残っているのか分からなくなったので、次からはこの悪戯はやめておこうと思う。
見渡した限り、ラブラブ大作戦の出だしとしては成功だろう。
「美しい顔を独占できるのって結構メリットね」
クロエは赤くなったフリードの頬をペチンペチンと2度叩くと、頬が赤いままのフリードのエスコートでホールへと向かった。
フリードの腕を取り優雅に歩く姿は、羨望の眼差しが向けられている。
大ホールにはすでに多くの生徒が集まっており、卒業する者は中央の座席へと誘導されていた。
フリードとクロエは用意されていた最前列に座り、見せつけるかのようにフリードの腕にはクロエの手が重ねられていた。
学園長の言葉とともに始まった卒業式は、国の分裂など起きていないかのように終始和やかに行われていく。
この学園の卒業者である、王国一といわれる学者や薬学師の学生時代の面白いエピソードを交えたスピーチは、多方面へと旅立つ卒業生の心を鷲掴みにし、これからの生活に希望を与えるものだった。
「卒業生の代表としてフリードリヒ殿下、ご挨拶をお願い致します」
「はい」
フリードは自らの腕に置かれたクロエの手に手を重ねて少し撫でてから立ち上がると、壇上へと上がっていった。
2人で話していた時とも、友人と話している時とも声の出し方から違う。
ただ歩いているだけなのに威厳すら感じるその所作に、誰もが目を奪われていた。
スラスラと原稿も持たず紡がれていく言葉には、学園全員の弟などという王子として不名誉な称号を持っていたことなど忘れさせてしまうほどだった。
卒業式のために準備をしてきたフリードの忙しさは詳しくは聞いていないが、私が見てきた記憶から推察するに、友人と会う時間もなかったように思う。
この学園を卒業出来たことがどれだけ誇らしいことかと、この場にいる同級生を讃える言葉を述べてから、彼は一段と真面目な顔で現在の王国の現状を並べていった。
「ーークラークの独立に伴い、王国民には不安が広がっていることは理解している。しかし、ステラ女王は勿論の事、その妹である魔法省の教育に力を貸してもらっているダリア子爵夫人、そして我が婚約者でもあるクロエとは、陛下も私も幼い頃から交友がある。それは周知の事実であると思う。それを考えれば、これまでと変わらず王国の安全は守られるということも、理解は容易いはずだ。今日はこの卒業という祝日に皆に証人になってもらいたい」
証人という言葉に、ホール内は騒めきがおきた。
この卒業式の後、すぐにでも結婚するのではないかとの噂はあるが、結婚の発表はまだしていないし、そして教会へも届け出ていない中、フリードの言葉は軽率な様に感じた。
私が今結婚を拒んだらどうするつもりなのだろうかと、考え始めたら気分は良くない。
「クロエ、もし私がイシュトハンを名乗ることを認めたくないならば、ここにいる同級生全員が証人となり、婚約は破棄されるだろう。証人の前では平民も貴族も王族も平等だ。君の許可がなければイシュトハンは名乗れない」
あぁ、これは予定外のことが起こった。
彼はここにいる全員を前にプロポーズをしているのではない。
プロポーズさせようとしているのだ。
確かに庇護下にあると思わせるには打って付けの方法だ。
この茶番に付き合う他なく、立ち上がると、フリードのいる壇上へと足を進めた。
「この国の第二王子であるフリードリヒ殿下も、証人の前では弱気になるものなのですね。私たちの育った国であり、こんなに多くの友人のいる国をないがしろに出来るわけもありません。私の力が及ぶ限り、王国の危機には力を貸すと約束致します」
クロエはフリードの横に立つと、自然と2人は向かい合わせになる。
「国民に愛されしフリードリヒ殿下、私と結婚していただけますか?」
美しくカーテシーを取って、それはそれは優雅に手を差し出したのだが、いつまで経ってもその手を取られることはなかった。
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