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Promenade
謎の魔獣
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覗き見した役場はてんてこ舞いの形相だった。
「おい、隣の街からの連絡はまだか!」
「誰でもいい。魔法が使える人間は他にいないのか!」
「街中の武器を集めたら、各自で身を守る術が無くなります!」
あちこちで同時に声が上がっているが、指揮を取れる者がいないようだった。
こんな小さな街に沢山の職員がいるわけがなく、街の者が集まって対策を練っている。
「フリード、役場は無事。乗っ取られたわけではないわ。私たちは報告へ戻りましょう」
「君はどうしてそんなことが…」
本当に結婚をするのなら今更隠す必要はない。
実質的には王家はすでにイシュトハンには手は出せないはず。
「ただの魔法よ。ダン、ハールスト男爵邸の庭園でいいわね?」
「はい。2人を呼んできます」
見たところ、ハールスト邸は人通りの多い道に面していて、人目を避ける事は困難だった。
男爵邸の庭には、一角だけ人目を避けるように整えられた場所があり、そこならば騒ぎにはならないだろうと考えたのだ。
ダンの足音が階段を登るのが聞こえてくる。
「フリード、先にイシュトハンに帰る?」
「そんな選択はないよ」
「でも、フロージア…じゃなかった陛下がまだ知らないとしたら…」
「それでも、婚約者を魔獣の出たところへ1人にするなんて出来ない」
暫くお互いを探るように視線を交わしたが、階段を降りる足音がすぐに聞こえたので、クロエは立ち上がった。
「お待たせしました」
「準備できたよ!」
リビングの扉から現れたウラリーとキリアンは、少し他所行きの服を着ていた。
ダンは魔獣の出たこの場を離れる事を少しばかり危惧していたようで、彼女達を案内した後に戻ってくることも提案したが、今は彼女の護衛の任に就いている為、彼女達と共にハールスト邸へ行くことに同意した。
しばし彼女達とはお別れになる。
キャンスランから馬車で戻るならば2週間以上はかかる。
ゆっくりとハールスト邸で休むのも良し。
楽しい旅をしてきてもらえたらと思う。
「フリード、私達も行きましょう」
3人を転移し終えて、紫の花が美しく咲き誇る一角に3人が無事に転移したのを確認してからフリードに声をかけたが、目を瞬いて現実を受け入れられていないフリードがいた。
今は急いで戻るべきだ。
「フリード?」
ここでやっと3人同時転送を初めて披露したのだと気付いたが、気にしている余裕はなかった。
こうしている間にも街では混乱は続いている。
「あぁ。行こう」
フリードがそう言い終わる時には既にイシュトハン邸の執務室の前だった。
目の前に扉が現れたことで、暫く頭を抱えていたフリードは気を取り直すように息を吐く。
「お父様、ご報告したいことがあります」
そんなフリードを横目にドアを開けると、そこにはステラとダリアが揃ってヒューベルトの前に座っていた。
「もうクロエ行儀がなってないわよ」
「ステラ姉様!ダリア姉様!ちょうど良いところに!」
「フリード、あなたもいたの。影が薄くなったわね。いいことだわ」
「女王陛下、お久しぶりでございます」
フリードは呑気に腰を折り挨拶をしていて、それがますます焦りを増長させる。
「そんなことより!エイフィルの街で魔獣が出たと騒ぎになっています。報告は上がっていますか!?」
「魔獣?魔獣が出たというの?」
魔獣という言葉に最初に反応したのはダリアだった。
「はい。昨夜、エイフィルの街に出たという事です。身体強化の魔法を使う不審な魔術師3名が街にいました。これからも被害が続く恐れがあります」
ヒューベルトはまさかといった顔で固まっており、ステラは目を瞑って静かにクロエの声を聞いていた。
「クロエ、エイフィルからは何の連絡もない。それは本当なのか?」
震えた声でヒューベルトが尋ねる。
「役所が混乱しているのは確認しました。私自身が魔獣を見たわけではありませんが、魔獣が出たと騒ぎになっているのは確かです」
「すぐに確認する。フリードリヒ殿下、陛下にも至急連絡を取りましょう」
「お父様、フリードはここに置いていって」
ステラはパサリと扇を広げると、扉を開こうとしているヒューベルトを止めた。
「いやしかし」
「陛下への連絡ならお父様だけでも出来るでしょう。卒業式まで時間がない。今は2人に話を聞くわ。ダリア、あなたは魔法省に連絡してリアムをすぐに連れてきなさい。それから、すぐ出られるように着替えてきなさい」
「はーい。お父様、行きますよ」
「ダリア、ついでにお母様に警戒を強めるよう伝えて」
「すぐ伝えるわ」
ダリアは扉を開けてヒューベルトを押し出すように部屋から出て行った。
「2人とも座りなさい」
黒いガウンを纏った2人は、一度目を合わせるとおずおずとステラの対面に腰掛けた。
「おい、隣の街からの連絡はまだか!」
「誰でもいい。魔法が使える人間は他にいないのか!」
「街中の武器を集めたら、各自で身を守る術が無くなります!」
あちこちで同時に声が上がっているが、指揮を取れる者がいないようだった。
こんな小さな街に沢山の職員がいるわけがなく、街の者が集まって対策を練っている。
「フリード、役場は無事。乗っ取られたわけではないわ。私たちは報告へ戻りましょう」
「君はどうしてそんなことが…」
本当に結婚をするのなら今更隠す必要はない。
実質的には王家はすでにイシュトハンには手は出せないはず。
「ただの魔法よ。ダン、ハールスト男爵邸の庭園でいいわね?」
「はい。2人を呼んできます」
見たところ、ハールスト邸は人通りの多い道に面していて、人目を避ける事は困難だった。
男爵邸の庭には、一角だけ人目を避けるように整えられた場所があり、そこならば騒ぎにはならないだろうと考えたのだ。
ダンの足音が階段を登るのが聞こえてくる。
「フリード、先にイシュトハンに帰る?」
「そんな選択はないよ」
「でも、フロージア…じゃなかった陛下がまだ知らないとしたら…」
「それでも、婚約者を魔獣の出たところへ1人にするなんて出来ない」
暫くお互いを探るように視線を交わしたが、階段を降りる足音がすぐに聞こえたので、クロエは立ち上がった。
「お待たせしました」
「準備できたよ!」
リビングの扉から現れたウラリーとキリアンは、少し他所行きの服を着ていた。
ダンは魔獣の出たこの場を離れる事を少しばかり危惧していたようで、彼女達を案内した後に戻ってくることも提案したが、今は彼女の護衛の任に就いている為、彼女達と共にハールスト邸へ行くことに同意した。
しばし彼女達とはお別れになる。
キャンスランから馬車で戻るならば2週間以上はかかる。
ゆっくりとハールスト邸で休むのも良し。
楽しい旅をしてきてもらえたらと思う。
「フリード、私達も行きましょう」
3人を転移し終えて、紫の花が美しく咲き誇る一角に3人が無事に転移したのを確認してからフリードに声をかけたが、目を瞬いて現実を受け入れられていないフリードがいた。
今は急いで戻るべきだ。
「フリード?」
ここでやっと3人同時転送を初めて披露したのだと気付いたが、気にしている余裕はなかった。
こうしている間にも街では混乱は続いている。
「あぁ。行こう」
フリードがそう言い終わる時には既にイシュトハン邸の執務室の前だった。
目の前に扉が現れたことで、暫く頭を抱えていたフリードは気を取り直すように息を吐く。
「お父様、ご報告したいことがあります」
そんなフリードを横目にドアを開けると、そこにはステラとダリアが揃ってヒューベルトの前に座っていた。
「もうクロエ行儀がなってないわよ」
「ステラ姉様!ダリア姉様!ちょうど良いところに!」
「フリード、あなたもいたの。影が薄くなったわね。いいことだわ」
「女王陛下、お久しぶりでございます」
フリードは呑気に腰を折り挨拶をしていて、それがますます焦りを増長させる。
「そんなことより!エイフィルの街で魔獣が出たと騒ぎになっています。報告は上がっていますか!?」
「魔獣?魔獣が出たというの?」
魔獣という言葉に最初に反応したのはダリアだった。
「はい。昨夜、エイフィルの街に出たという事です。身体強化の魔法を使う不審な魔術師3名が街にいました。これからも被害が続く恐れがあります」
ヒューベルトはまさかといった顔で固まっており、ステラは目を瞑って静かにクロエの声を聞いていた。
「クロエ、エイフィルからは何の連絡もない。それは本当なのか?」
震えた声でヒューベルトが尋ねる。
「役所が混乱しているのは確認しました。私自身が魔獣を見たわけではありませんが、魔獣が出たと騒ぎになっているのは確かです」
「すぐに確認する。フリードリヒ殿下、陛下にも至急連絡を取りましょう」
「お父様、フリードはここに置いていって」
ステラはパサリと扇を広げると、扉を開こうとしているヒューベルトを止めた。
「いやしかし」
「陛下への連絡ならお父様だけでも出来るでしょう。卒業式まで時間がない。今は2人に話を聞くわ。ダリア、あなたは魔法省に連絡してリアムをすぐに連れてきなさい。それから、すぐ出られるように着替えてきなさい」
「はーい。お父様、行きますよ」
「ダリア、ついでにお母様に警戒を強めるよう伝えて」
「すぐ伝えるわ」
ダリアは扉を開けてヒューベルトを押し出すように部屋から出て行った。
「2人とも座りなさい」
黒いガウンを纏った2人は、一度目を合わせるとおずおずとステラの対面に腰掛けた。
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