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Promenade
結婚申請書
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「メイリーさん!」
いつものフリードのような勢いで声を放ったのはダンだった。
思ってもいなかった登場の仕方に思わず半歩下がる。
「あ、失礼致しました。殿下、クロエ様、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます。何かあったの?」
クロエは丁寧に頭を下げたダンに合わせて、小さく貴族らしく膝を曲げた。
「本日は卒業式なのですか?」
「えぇ。そうよ。その前に何の知らせもしていなかったから一度寄ったのだけど」
「そうでしたか…そんな時に申し上げるのは心苦しいのですが、実は昨夜、魔獣と思われるものが出まして」
「マジュー?」
「なんだと?どんなやつだ」
クロエはその言葉に思い当たるものはなく、首をかしげただけだったが、フリードには心当たりがあったようだ。
「まずはどうぞ中へお入り下さい。2階に避難させている2人も呼んで参ります」
4人がけのテーブルにフリードと並んで座り、その対面にはウラリーとキリアンが座った。
ダンは昨夜の出来事を雄弁に語り、ようやく魔獣というものについて想像する事ができた。
魔法で威嚇してくる見た目は普通の野生動物で、絵本の中で描かれている魔物の様なグログロしい見た目はしていないという。
「人間が魔力を流し込み作り出した魔法攻撃をする獣…」
「この大陸では全面的に禁止されているし、大罪だ。この国では100年以上魔獣の記録は残っていない」
「なるほど、その獣は魔力を溜め込めるだけの器を持っているということね」
フリードは深く考えているようだが、今日はそれ程時間がない。
「稲妻がピカーッって何度も光ったんだ」
「そうなの!地面から雷が出てたわ」
「イシュトハン家には報告されていなかったようだけど」
「陛下からも特に何も…」
「夜明け前には役所の人間も魔獣を確認しています。報告が上がっていないわけがありません」
ならば、イシュトハンで起こったことを父が知らないはずがない。
それに、フロージアも知らないはずがない。
もし知らないとすれば、これはこの町が既に敵の手中にあるという事だが、それは考えられない。
この街に潜入しているし、昔と変わった様子はない。
「なら、考えられる可能性は2つあるけど…」
「あぁ、魔獣よりもプロムが大事だと判断したのだろうな」
フリードも同じ考えのようだ。
人が魔力を注ぎ込んだ魔獣ということは、魔力を使い切ればただの野生動物であり、然程問題はない。
魔法省の管轄で人手不足とはいえ、この街には既に魔術師が3人いたので、その3人のいずれかはこの街に転移出来るはずだ。
「じゃあ領主も王国も魔獣を放置しているという事!?」
「違うわ。私たち以外の者が対応することに決まったということよ」
「しかし、このタイミングはかなり厳しいはずだ」
「そうですね…しかし、クロエ様とフリードリヒ殿下がプロムに参加しないとなると、この国は一気に傾く恐れがありますから、替えが効かないプロムへの参加をさせるのは当たり前のことです」
ウラリーたちや、魔獣を見た者達が1秒でも早い解決を願っていることは理解している。
しかし、プロムへの参加は免れないし、イシュトハンの為にも王国の為にも参加しなければならない。
「そうそうダン、ウラリーへの求婚は本気で良かったわよね?」
「は、はい。もちろんです」
「ならフリード、ここに名前を書いて」
クロエは胸元から小さく畳まれた結婚申請書を取り出した。
証人者欄の一つは、すでにクロエの名前が書かれていた。
「これは?」
突然に名前をかけと言わた証人欄にクロエの名前がある結婚申請書には、理解が追いつかなかったようだ。
「ダンとウラリーの結婚申請書よ。私たち2人の名前があれば、ダンの生家も認めざるを得ないでしょう?」
ウラリーの娼婦の肩書は、次男であり体調も崩した兄がいる場合は不利に働くことになる。
更に、王家直属の影として騎士をしていくのならば、フリードかフロージアに了承を得ないといけない。
それならば、証人という形で堂々と2人の結婚を認めて貰おうじゃないかと思ったのだ。
「…クロエ、その前に私たちの結婚申請書にサインをもらえないかな?」
「まさかその言葉がプロポーズ?」
フリードも同じようにガウンの内側から紙を取り出して広げる。
そこにはフリードの名前が書かれた結婚申請書だった。
結婚申請書の証人欄には、家族以外の成人した3名のサインが必要である。
話の流れから考えれば、ダンの結婚と、私との結婚は繋がりが出てきているということだ。と…思う。
どうせ結婚するのだし、プロポーズに拘りはないがあまりにも味気ない言葉にクロエは思わず口から言葉が漏れてしまった。
こうして二つの結婚申請書が並べられ、お互いの証人者に名前を書いていくことになった。
いつものフリードのような勢いで声を放ったのはダンだった。
思ってもいなかった登場の仕方に思わず半歩下がる。
「あ、失礼致しました。殿下、クロエ様、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます。何かあったの?」
クロエは丁寧に頭を下げたダンに合わせて、小さく貴族らしく膝を曲げた。
「本日は卒業式なのですか?」
「えぇ。そうよ。その前に何の知らせもしていなかったから一度寄ったのだけど」
「そうでしたか…そんな時に申し上げるのは心苦しいのですが、実は昨夜、魔獣と思われるものが出まして」
「マジュー?」
「なんだと?どんなやつだ」
クロエはその言葉に思い当たるものはなく、首をかしげただけだったが、フリードには心当たりがあったようだ。
「まずはどうぞ中へお入り下さい。2階に避難させている2人も呼んで参ります」
4人がけのテーブルにフリードと並んで座り、その対面にはウラリーとキリアンが座った。
ダンは昨夜の出来事を雄弁に語り、ようやく魔獣というものについて想像する事ができた。
魔法で威嚇してくる見た目は普通の野生動物で、絵本の中で描かれている魔物の様なグログロしい見た目はしていないという。
「人間が魔力を流し込み作り出した魔法攻撃をする獣…」
「この大陸では全面的に禁止されているし、大罪だ。この国では100年以上魔獣の記録は残っていない」
「なるほど、その獣は魔力を溜め込めるだけの器を持っているということね」
フリードは深く考えているようだが、今日はそれ程時間がない。
「稲妻がピカーッって何度も光ったんだ」
「そうなの!地面から雷が出てたわ」
「イシュトハン家には報告されていなかったようだけど」
「陛下からも特に何も…」
「夜明け前には役所の人間も魔獣を確認しています。報告が上がっていないわけがありません」
ならば、イシュトハンで起こったことを父が知らないはずがない。
それに、フロージアも知らないはずがない。
もし知らないとすれば、これはこの町が既に敵の手中にあるという事だが、それは考えられない。
この街に潜入しているし、昔と変わった様子はない。
「なら、考えられる可能性は2つあるけど…」
「あぁ、魔獣よりもプロムが大事だと判断したのだろうな」
フリードも同じ考えのようだ。
人が魔力を注ぎ込んだ魔獣ということは、魔力を使い切ればただの野生動物であり、然程問題はない。
魔法省の管轄で人手不足とはいえ、この街には既に魔術師が3人いたので、その3人のいずれかはこの街に転移出来るはずだ。
「じゃあ領主も王国も魔獣を放置しているという事!?」
「違うわ。私たち以外の者が対応することに決まったということよ」
「しかし、このタイミングはかなり厳しいはずだ」
「そうですね…しかし、クロエ様とフリードリヒ殿下がプロムに参加しないとなると、この国は一気に傾く恐れがありますから、替えが効かないプロムへの参加をさせるのは当たり前のことです」
ウラリーたちや、魔獣を見た者達が1秒でも早い解決を願っていることは理解している。
しかし、プロムへの参加は免れないし、イシュトハンの為にも王国の為にも参加しなければならない。
「そうそうダン、ウラリーへの求婚は本気で良かったわよね?」
「は、はい。もちろんです」
「ならフリード、ここに名前を書いて」
クロエは胸元から小さく畳まれた結婚申請書を取り出した。
証人者欄の一つは、すでにクロエの名前が書かれていた。
「これは?」
突然に名前をかけと言わた証人欄にクロエの名前がある結婚申請書には、理解が追いつかなかったようだ。
「ダンとウラリーの結婚申請書よ。私たち2人の名前があれば、ダンの生家も認めざるを得ないでしょう?」
ウラリーの娼婦の肩書は、次男であり体調も崩した兄がいる場合は不利に働くことになる。
更に、王家直属の影として騎士をしていくのならば、フリードかフロージアに了承を得ないといけない。
それならば、証人という形で堂々と2人の結婚を認めて貰おうじゃないかと思ったのだ。
「…クロエ、その前に私たちの結婚申請書にサインをもらえないかな?」
「まさかその言葉がプロポーズ?」
フリードも同じようにガウンの内側から紙を取り出して広げる。
そこにはフリードの名前が書かれた結婚申請書だった。
結婚申請書の証人欄には、家族以外の成人した3名のサインが必要である。
話の流れから考えれば、ダンの結婚と、私との結婚は繋がりが出てきているということだ。と…思う。
どうせ結婚するのだし、プロポーズに拘りはないがあまりにも味気ない言葉にクロエは思わず口から言葉が漏れてしまった。
こうして二つの結婚申請書が並べられ、お互いの証人者に名前を書いていくことになった。
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