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liberty

風の囀り

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「キャー!すごい!ダン君!君は天才よ!」


次の日一日中ウラリーの家に入り浸り、ダンとキリアンに魔法を教えていた。
ダンは人間相手にも拘束魔法を使うことを許可しても良い位に成長した。
ダンの魔力量は少ない為、ダンが怠さを感じると休憩を挟み、その間にキリアンに生活魔法を教えている。
呪文を唱えてイメージをきちんと出来れば使える可能性はある。


「クリーンアップ」


清掃の魔法は呪文がなくても使えたのだが、魔導書通りまずは教えていた。
しかし、ふと考えたのだ。魔法は魔力の放出とイメージがやはり1番大切だと。



「キリアン、イメージするの。目の前の葉っぱが魔法で無くなるところを。呪文の唱え方は重要じゃない。見てて」


クロエが指を鳴らすと目の前の葉っぱは消えて無くなった。


「無詠唱で清掃魔法を!?」


ダンは驚いた声を上げたがそれで終わりではない。
もう一度指を鳴らすと庭にあった落ち葉や雑草は綺麗に姿を消して、綺麗に花をつけていた野花のみが残されていた。


「あの花は可愛かったから残したの。呪文を唱えなくても魔法は使えるのが分かった?」

「うん。でも僕の掃除する葉っぱが無くなっちゃったよ」


ガックリとしょげて見せたキリアンをよしよしと撫でて休ませることにした。
集中力というのはあまり続くものじゃない。
魔法を見て楽しんでいるようだし、焦る必要はないのだから。


「よし、ダン、私に拘束魔法をかけてみてよ」


「まだ怖いですよ。怪我でもさせたら…」


「ふふっ大丈夫よ。多少の回復魔法は使えるし、ダンはスプーンを相手にしていた時も、傷一つ付けなかったわ!」


「頑張ります」


肘掛けのある簡素な椅子を庭の隅から中央へ移動させ、膝掛けに両手を置いてふーっと息を吐いた。

拘束魔法は攻撃魔法を常時化させたものだ。
ステラやダリアは、直前まで拘束魔法と攻撃魔法の区別を付けないようにしている。ダンのようなリング状の基本形拘束魔法も、応用すればウインドカッターとして相手を斬りつけることも出来る。

いつかは人間相手にやらなければならないなら、魔力満タンな今やってもらおうじゃないか。


「私の左手だけ拘束してみて?」

ダンは細い水のリングを作り出し、肘掛けに置いていたクロエの手首に吸い寄せられるようにゆっくりと進ませた。


「成功ね!」

少しゆとりがあるものの、椅子に縛り付けられた左手を見て嬉しくなった。
こんな簡単に拘束魔法を覚えられるなら、少し練習すれば騎士ではなく魔法省も夢じゃない。


「はぁ…よかったです」

「ダン!あなたもっと練習して騎士団にもう一度入りなさいよ。うちの騎士団でも、王国の騎士団でも、もう少し使えるようになればきっと前よりも待遇はよくなるはずだわ!それから魔法省の入省試験も受けてみて!拘束魔法が使えるなら入省出来るかもしれない」


ある程度魔法が使え、剣も使えるのなら中枢で活躍できるようになる。
魔法科を卒業していないダンが王都で活躍すれば、きっと魔力の少ない者に勇気を与える存在になるし、魔法は生まれ持ったものだけで決まるものではないと思ってもらえるようになるかもしれない。

「本当ですか!?」

「もちろんよ。でも、魔法は1人で練習すると危ないわ。自分の魔力の限界を超えたら昨日の私みたいに誰かがすぐに助けてくれなければ死んでしまうようなこともある。決して無理をしないことが上達するコツよ」

「はい!」

「あとは私が頑張るだけね…」



攻撃魔法で魔力をぶつけて拘束魔法を破る事は理論上は可能だ。
しかしコントロールを少しでも間違えば、自分の身体が大変なことになる。
だからこそ解呪魔法で内側から崩していかなければならない。


膝の上に置いた魔導書を見るがコツが掴めなければ魔法は発動しない。
せっせと呪文を唱えるがどうもイメージが湧かない。


「ねぇ、ダン、ウラリー達が見えるところで座ってていいわよ?体調が悪くなったら教えて」

「すぐに動けないと困るのでこのままで大丈夫です」


仁王立ちでリビングとクロエの両方を確認できる位置まで下がったダンは、多分私も護衛対象と捉えていると思う。
それでも常時魔法を使わせてしまっているので自分の視界から離れられると体調の変化に対応できない可能性も出てくるので困ったものだ。全く集中できない。


それでもダンはウラリーから水をもらったり、フルーツを食べたりしながらも拘束魔法を解くことなく何時間も付き合ってくれていた。


こんなに細い拘束魔法すら解けないとは情けない。
フゥと息を吐いて今日はもう諦めようと思っていた時、メイリーと遠くから名前を呼ばれた気がした。
ここに知り合いはいないし、そもそも私はメイリーではない。


「ダンッ!」



咄嗟に叫んで玄関の方を見ても特に異常はなく、風が戦いだだけだった。
声をかけたと同時にウラリー達のいるリビングに向かったダンは、ウラリー達を庭に連れ出すと、クロエの拘束を解き、家の周りを見に行ってしまった。



「メイリーさん…」

「何?…怖い…」


震えるキリアンをウラリーと抱きしめながら、気の所為であってほしいと願った。
ダンが離れれば、私はウラリー達のそばから離れるわけにはいかない。




「さっきの漏れ聞こえた声は隣の家の客人だと思われます」


涼しい顔をして走って戻ってきたダンは報告をし終わると「大丈夫だ」とキリアンを撫でた。


「はぁ…ごめんなさい咄嗟に大声を出してしまって」


「いえ、普段隣の声は聞こえないので、私も身体が動きました」


ウラリーの長い髪が流れていくのを見て、声が風に乗って運ばれてきたのだと理解することにした。
ここは転送装置のない小さな田舎町だ。
解呪魔法が上手くいかず、神経質になっていたのだとその日のクロエの特訓は終わりを迎えることになった。
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