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liberty
逃走期限
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廊下を歩いていたフリードが歩みを止めたのは、デビュタントとして社交界デビューした時に入った謁見の間の大きなドアの前だった。
騎士がドアに手を掛けた瞬間に、フリードが大きく息を吐いているのを見ても、なんの感情も湧き上がらず、景色を見るように落ち着いている自分に驚く。
最悪捕縛命令が既に出されていてもおかしくはない。
「陛下、失礼致します」
「うむ、すまんなこちらも忙しくてな。解析は終わったのか?」
フリードがわざわざ謁見の間を訪れて会話をする事は珍しいことのように思えた。
しかし予定の都合上そうなることもあるのだろう。
頷くように礼を執るフリードの表情は硬く、緊張しているようにも見える。
「彼女は屋敷には戻らず、ニューリアへ転移したようです。詳細な場所までは解析しきれませんでしたが、国境にも近い街なので、検問所に手配を回しました」
「そうか。先程イシュトハンから戻った影からの情報も結界と聞いていたら納得のいくものだった。あの自領の安全にしか興味のない男が、謀反を起こすとは思ってはいなかったが、このタイミングでクロエ嬢も大胆な事をするものだ」
王座に座る陛下が手を挙げると、側で控えていた側近を声を出さずに下がらせる。
楽しんでいるかのような口振りには拘束などは考えているようには思えなかったが、フリードは陛下には結界内への転移は話していないのだろうかと疑問に思う。
「はい。しかし昨夜の事は私が信用されるだけの時間を取れず婚約を急いだことが原因です。すぐにでも結婚をと考えていましたが、改めざるを得ないかもしれません」
改めるどころか潔く諦めて貰いたい。
信用させておいて裏切ろうとするなんてタチが悪い。
見方によっては陛下もグル。
いや、いきなりの婚約内定を考えれば、提案したのが陛下だという可能性すらある。
「しかし卒業と同時に何かしら結婚については発表しなければならない。卒業と同時に結婚だと急かしたのはお前だろう。彼女は転移も出来る。このまま戻らないのならば最悪婚約は破棄。イシュトハンの結界の件はただの事故として処理するが、結界内からとはいえ、彼女がお前の部屋に転移することが出来るのなら異国に渡られれば大問題だぞ?」
「これは私の失態です。結界内からの転移と報告しましたが、結界の外から転移してきたと思われます。先程の報告を訂正させていただきます。1週間後、卒業式の朝までまずは時間をください。すぐに私はイシュトハンへ向かおうと思います」
なるほど。たぶん家に転移しているのなら、城内から昔足を踏み入れたフリードの部屋に転移してきたと嘘を突き通すこともできたが、隣国へ逃げた可能性もあるから嘘をつく事ができなくなったということだろう。
だから緊張していたわけだ。
「そうか…尚更見つけてもらわなければ困るな。そんな事が可能だとは信じられんが…イシュトハンへ行くのにも転送装置も転送できる魔導士もいない。向かうだけで3日はかかるぞ?ニューリアへ向かう方が何かしら情報が入るのではないか?」
「彼女の痕跡を追うだけなら他のものでも出来ます。転移ができる以上、私は他からの情報を得るべきです」
「ヒューベルトも手紙が来ないことにも送れていない事にも気付かなかったからなぁ。情報があればいいが…こうして話していても仕方ないか。よし1週間。プロムまでには必ず戻れ。2人が不参加となれば、噂が噂を呼び収拾がつかんぞ」
陛下がこめかみを抑えるようにして眉間に皺を寄せる。
プロムに出なければ婚約破棄が発表されると考えてもいいだろう。
ならば1週間、逃げてみせる。
「…はい」
いつもの余裕でクマのぬいぐるみでも抱いていそうなフリードはそこにはいなかった。
唇を噛み締め、顔を歪めたフリードとは相反して、意外と楽に婚約破棄まで行けそうだと、クロエはニンマリ顔で目を開けた。
騎士がドアに手を掛けた瞬間に、フリードが大きく息を吐いているのを見ても、なんの感情も湧き上がらず、景色を見るように落ち着いている自分に驚く。
最悪捕縛命令が既に出されていてもおかしくはない。
「陛下、失礼致します」
「うむ、すまんなこちらも忙しくてな。解析は終わったのか?」
フリードがわざわざ謁見の間を訪れて会話をする事は珍しいことのように思えた。
しかし予定の都合上そうなることもあるのだろう。
頷くように礼を執るフリードの表情は硬く、緊張しているようにも見える。
「彼女は屋敷には戻らず、ニューリアへ転移したようです。詳細な場所までは解析しきれませんでしたが、国境にも近い街なので、検問所に手配を回しました」
「そうか。先程イシュトハンから戻った影からの情報も結界と聞いていたら納得のいくものだった。あの自領の安全にしか興味のない男が、謀反を起こすとは思ってはいなかったが、このタイミングでクロエ嬢も大胆な事をするものだ」
王座に座る陛下が手を挙げると、側で控えていた側近を声を出さずに下がらせる。
楽しんでいるかのような口振りには拘束などは考えているようには思えなかったが、フリードは陛下には結界内への転移は話していないのだろうかと疑問に思う。
「はい。しかし昨夜の事は私が信用されるだけの時間を取れず婚約を急いだことが原因です。すぐにでも結婚をと考えていましたが、改めざるを得ないかもしれません」
改めるどころか潔く諦めて貰いたい。
信用させておいて裏切ろうとするなんてタチが悪い。
見方によっては陛下もグル。
いや、いきなりの婚約内定を考えれば、提案したのが陛下だという可能性すらある。
「しかし卒業と同時に何かしら結婚については発表しなければならない。卒業と同時に結婚だと急かしたのはお前だろう。彼女は転移も出来る。このまま戻らないのならば最悪婚約は破棄。イシュトハンの結界の件はただの事故として処理するが、結界内からとはいえ、彼女がお前の部屋に転移することが出来るのなら異国に渡られれば大問題だぞ?」
「これは私の失態です。結界内からの転移と報告しましたが、結界の外から転移してきたと思われます。先程の報告を訂正させていただきます。1週間後、卒業式の朝までまずは時間をください。すぐに私はイシュトハンへ向かおうと思います」
なるほど。たぶん家に転移しているのなら、城内から昔足を踏み入れたフリードの部屋に転移してきたと嘘を突き通すこともできたが、隣国へ逃げた可能性もあるから嘘をつく事ができなくなったということだろう。
だから緊張していたわけだ。
「そうか…尚更見つけてもらわなければ困るな。そんな事が可能だとは信じられんが…イシュトハンへ行くのにも転送装置も転送できる魔導士もいない。向かうだけで3日はかかるぞ?ニューリアへ向かう方が何かしら情報が入るのではないか?」
「彼女の痕跡を追うだけなら他のものでも出来ます。転移ができる以上、私は他からの情報を得るべきです」
「ヒューベルトも手紙が来ないことにも送れていない事にも気付かなかったからなぁ。情報があればいいが…こうして話していても仕方ないか。よし1週間。プロムまでには必ず戻れ。2人が不参加となれば、噂が噂を呼び収拾がつかんぞ」
陛下がこめかみを抑えるようにして眉間に皺を寄せる。
プロムに出なければ婚約破棄が発表されると考えてもいいだろう。
ならば1週間、逃げてみせる。
「…はい」
いつもの余裕でクマのぬいぐるみでも抱いていそうなフリードはそこにはいなかった。
唇を噛み締め、顔を歪めたフリードとは相反して、意外と楽に婚約破棄まで行けそうだと、クロエはニンマリ顔で目を開けた。
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