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「今日夜にまた会わない?みんなでディナーいこ。」 
 クラウの言葉に一同同意し、あれからすぐに解散した。夕方にもう一度カフェに集合する約束をして。 
 ライズは渋々といった感じだったが、クラウ達に説得され今日のところは仕事に戻った。紬里も今朝からの怒涛の展開に少し心を落ち着けたい思いもあって、一人の時間ができたことにほっとしていた。  
「はぁ~~...。」 
 テラスに立ち、溜息を一つこぼす。そして今朝起こった事を思い返し、もう一度溜息を吐いた。 
「無自覚イケメン、ホント怖いわ~~...。」 
 少し顔を赤らめながら、柵に凭れる。と、紗季と琉希へ連絡をしていなかった事を思い出し、急いで〇インにコメントを入れた。 
”無事に到着!” 
 すると空かさず返信が入る。 
”遅い!!何やってたの?ビデオ通話するよ” 
そうコメントが入るや否や、コール音が響き渡る。 
「紬里~!よかった、無事に着いて。連絡遅かったけど、なんかあった?」 
「ううん、全然大丈夫。ちょっと違った意味でいろいろあっただけ。」 
 2人は紬里からの連絡を紗季の家で一緒に待っていたらしく、画面の奥のほうから子供の笑い声が聞こえてくる。不安そうな顔をしていた琉希にそう声をかけ、今朝あった出来事を説明していった。話しながらテラスに設置されたテーブルに紅茶を淹れて運び、ゆっくり椅子に腰かけた。それまで静かに聞いていた紗季がいたずらっぽく笑いながら、琉希を肘でつついているのが見える。 
「へ~、さっそく出会いがあったわけね~。」 
「な~んだ、しっかり楽しんでんじゃん。心配して損した。」 
 2人に話した事で少しずつ気持ちも落ち着き、今朝の状況を反芻しながら言葉を続ける。 
「だから、出会ったのはライズだけじゃないのよ。イケメンカップルもって言ったでしょ。レインもだけど、クラウがまた美人さんでね。一瞬天使かと思ったくらいよ。」 
「またまた~、大げさな~。」 
「それが大げさでもなんでもないのよ。2人とも絶対ビックリするから!この後ディナーを一緒にする約束してるんだけど、イケメンばっかりで緊張するわ~~。」 
 そう言いながら、紬里がテーブルに突っ伏した。 
「会話はずっと翻訳機能でやってたの?」 
「うん。それとクラウが訳してくれてね。」 
 突っ伏した体勢のまま答える紬里に、紗季が笑顔で提案した。 
「そのディナー、私達も参加できない?」 
「え?」 
 勢いよく顔を上げた紬里に、再度紗季が訊ねる。 
「イケメンの顔が見たいってのもあるけど、今朝あっただけの男性3人といきなり食事なんて、ちょっと日本では考えられないわよ。話聞く限りいい人たちだと思うけど、かなり心配。何かあってもこの距離だと助けにも行けないからね。」 
 先程のからかうような雰囲気はなく、真剣な目線で紬里を見つめる紗季に、横から琉希も賛同した。 
「確かに僕もそう思うよ。外国の、それも男性ばっかりの中に紬里だけってのは正直不安。ねぇ、崇さんもそう思うよね?」 
 画面からは見えないところで、娘の七海と遊んでいた紗季の夫に琉希が声をかける。七海を抱えたまま、崇がひょっこり画面内に顔を出した。 
「紬里ちゃん久しぶりだね。さっきから話は聞いてたけど、確かに俺も心配だよ。待ち合わせの時にまず相手に聞けない?こっちは何時でもいいし、塁さんも呼んで待ってるから。琉希君、いいよね?」 
 紗季のとなりに座り、七海をあやしながら琉希に尋ねる。琉希は満面の笑みで食い気味に答えた。 
「勿論だよ。今日もお迎えに来てくれる予定だったし、今から連絡したらすぐ来てくれると思うよ。」 
―早速連絡してくるよ!!- 
 言いながら画面から飛び出して行った琉希を目で追っていた紬里に、紗季が声を掛けた。 
「今んとこ怖いことはなかったのね?」 
「うん。大丈夫。初めて会ったのに、話してたらなんだか前から知ってるみたいな穏やかな雰囲気もあって、不思議なくらいだった。イケメン揃いで緊張はしたけどね。それもドラマみたいな場面がちょいちょい出てきて、こっちが照れちゃって。」 
 今朝を思い返しながら話している紬里の顔が、また薄らと紅潮していく。そんな紬里を見た紗季は、少し笑顔を零しながらひとまず安堵したのだった。 
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