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「なんで早く連絡しなかったのさ!!」 
 事の顛末全てを聞き終え、泣きながらテーブルを叩く琉希に、紬里は困ったように笑いながら下を向いた。 
「言えなかった。自分がレズだと誤解された事で、本当の意味で理解されないって事の怖さを知って。どんなに説明したところで信じてもらえないだろうって事だけがすごくよくわかるの。いろいろ考えてみたんだけど、どうしてもそこへ行き着いて、もう心が動けなかった。」 
「...紬里...。」 
「でもね、あれから2か月経って、やっと笑えるようになったの。今までの自分に踏ん切りがついたっていうより、昔の私も頑張ってたけど、もう失うものなんてないんだし、もう少し力抜いていこうって考えたら、やっとね。だから、ね。もう私は大丈夫って思えたから、2人にも話さなきゃって。」 
 顔を上げた紬里の笑顔は、とても晴れやかに見えた。本当に乗り越えたんだと確信できるような、そんな笑顔だった。2人は安堵とともに、辛い時間の支えになれなかった少しの寂しさを感じながら、紬里の両サイドに座り直し、彼女を抱きしめた。 
「もう!今度からちゃんと頼ってよね!事後報告はもうヤダよ!」 
「紬里、ホントお疲れ様。」 
二人の温かい言葉とハグに、紬里の目に温かいものがこみ上げる。 
「二人とも、ありがとう。」 
「ほら、もう飲みなおすよ!どうせ僕は明日は休みだし、紗季も週末はいつも休みだから大丈夫でしょ?崇さんに連絡して、七海ちゃんのお世話お願いしといてよ。」 
「大丈夫、ここ来る前に連絡したら楽しんでおいでって。」 
「あ~溺愛旦那は今日も優しいね~。」 
 紗季は2歳年下の夫、崇と6年前に結婚し長女で5歳になる七海(なな)と3人で暮らしている。紗季と同じ病院でMEとして働いていて、職場でも親友内でもスパダリだと知られている。琉希が紗季のグラスにワインを注ぎながらからかっていると、琉希のスマホに連絡が入る。 
「琉希だって、塁さんに連絡した?遅くなって大丈夫なの?」 
「あ、うん、今連絡きたからちょっと話してくるね。」 
 スマホを2・3度横に振りながら、にこやかに外へ移動していく。塁は琉希の年上彼氏で、付き合ってもう5年で現在同棲中。塁の琉希に対する溺愛ぶりは周知の事実で、親友である2人でさえ、最初の頃は大変だったのだ。 
「自分のことじゃないのに、ホントうれしそうね。」 
 頬杖をつき、微笑みながら紬里を見ていた紗季が、ニコニコしながら琉希を見送っていた紬里に話しかける。 
「だって二人が幸せそうで、すごく嬉しいんだもん。私の大事な親友を見つけてくれたのが、素敵な人達でホントよかったな~って。」 
 笑顔で答える紬里に、紗季は少し表情を戻し、手を取って語り掛けた。 
「私や琉希だって、同じように紬里に幸せになってほしいのよ。紬里がどんな選択をしようと、私達が親友であることは変わりないし、いつも紬里の味方よ。それだけは絶対に忘れないでね。」 
 紬里は言葉を聞き終わると同時に溢れた嬉し涙をぬぐう間もなく、電話から戻った琉希に泣いている理由をしつこく追求され、改めて友人の存在の大きさに感謝したのだった。 

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「で、これからどうするか決めてんの?」 
 琉希の唐突な質問に一瞬途惑った紬里だが、計画を相談するいい機会だとも思い、素直に話してみることにした。 
「タイにね、行ってみようと思ってんの。今までずっと仕事仕事で自分なりには頑張ってきたつもりだし、今の私には急いでする事も特にないわけだし、少し羽伸ばしてもいいかなって。」 
「それはいいと思うけど、なんでタイなのよ?なんか理由でもあんの?」 
 ボトル2本を空けても全く酔った気配のない紗季が、3本目のワインを注文しながら横目で紬里を見る。旅行については素直に話せたものの、場所を決めた動機が不純に思えてつい口ごもってしまう紬里に、ニヤニヤしながら琉希が囁いた。 
「あのドラマに影響されたんでしょー?だってドSで俺様御曹司だけど、間違った事はしないし言わないちゃんとした人でさ。そのギャップでだけでもクるのに、さらにイケメンで最終的には激甘なんて!右手でうなじを引き寄せたまま左手の親指で唇に優しく触れて、それでゆっくりキスなんて……。もうこっちが照れて直視できないよ~~。」  
 興奮しながら捲し立てる様に話す琉希に、飽きれた顔で紗季が続く。 
「ドラマの御曹司と出会うわけじゃあるまいし。だからなんでタイには御曹司がそんなにゴロゴロいんのよ。」 
「でもね、タイ語って耳障りがいいっていうか、すごく優しい感じがするんだよね。そんなお国柄なのかなって。それでちょっと行ってみたくなったの。」 
 照れながら話す紬里に、紗季は心底飽きれた顔をしながら顔を左右に振った。 
「完全に影響受けてるってワケね。で?いつから?」 
「今度の月曜日。」 
「は?すぐじゃない!もう...カモになんないように気をつけなさいよ。」 
「そうだよ。そんなすぐなら、僕らは仕事でついていけないし。何かあったら、時間なんて気にしないで連絡する事。わかった?絶対だよ!」 
 身を乗り出して心配する琉希と紗季の言葉に感謝しながら、紬里は満面の笑みで頷き、久々の旅行に期待を膨らませた。 
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