7 / 29
6話 心読みの魔法2
しおりを挟む
「レヴィ様、何でここに?」
今まで一度も自分に関心を持つことのなかったレヴィが自分の所へやってきたのにエリンは疑問に思い、尋ねる。
「ああ……。国から愛し子に与えられる魔法の杖を忘れていたからな。こんな大切なものを忘れるなんてどうかしている」
『そのお陰でエリンに会えた。本当に嬉しくて涙が出そうだ。ああ、俺の天使……』
氷を連想させる表情の変わることのない顔に冷たい言葉。
その言葉と相反した感情豊かな内面の感情にエリンは戸惑う。
(こ、言葉と内面の呟きが二重に聞こえる!)
エリンはあわあわとして、レヴィの内面の呟きに赤面する。感情を感じさせない台詞と感情豊かで詩情溢れる単語の連なりの内面。勘弁してほしいと慌てているとぷつりと心の声が聞こえなくなった。
「?」
茶色の前髪の下の青の大きな瞳をじいっと凝らしてレヴィの深紅の瞳を見つめる。さっきまでレヴィの心のポエムが聞こえたのに。今はちっとも聞こえない。もしかして、手を離したからだろうかとエリンはぎゅっとレヴィの大きな手を自ら握る。
「エリン?」
大好きな少女から手を握ってきたのだ。レヴィはおおいに動揺するが、それを見せまいとする。手を握っても心の声は聞こえない。エリンは、すっとレヴィの手を離した。
「か、帰る」
右と左の腕を同時に出している挙動不審な行動にレヴィの動揺っぷりが見えて、エリンは噴き出しそうだった。
エリンは、爆発を起こした自室へと戻る。レヴィが蹴破った扉が無残にも真っぷたつになっていた。
部屋の中は、煙の焦げた跡に部屋の中は臭気がこもっていた。これは当分の間、魔法院の空いている研究室を借りるかとエリンは嘆息する。窓を開けて部屋の換気をしようとした。その時、きらりと七色に発光する物をエリンは見た。
心読みの魔法を生成する時に使用した大きな鍋の中が七色に発光している。それはイーサンに貰った賢者の石の色そのもの。
「もしかして……」
鍋の底に残った七色に発光する水を魔法を使い、瓶に全て移動させた。
透明な硝子の瓶の中でも水は七色にきらきらと光っていた。エリンは前髪を上げて、瓶の中をじっと凝視する。あの時、心読みの魔法を生成する呪文を一小節飛ばしてしまった。では何故自分は、レヴィの心を読めたのか。それが不思議でならない。あの時、エリンは爆発した煙を吸った。そのせいだろうか。
(この水を飲めばレヴィ様の心が読めるんだわ……。来週のお茶の時間に試してみよう)
心読みの魔法の水が入った瓶をエリンはぎゅっと握りしめた。
それにしてもとエリンは思い出して、笑いが止まらなくなった。
レヴィのニコリともしない表情に、小説の一説のような詩情感溢れる心情。
恥ずかしくて仕方なかったが、後で思うと笑いがこみ上げてくる。
あの表情で良くもまあ、あんなことを考えられるものだ。
来週、あのポエミーなきらきらする言葉が脳内で再現されるのだ、楽しみで仕方なかった。
ぴったり一週間後のお茶の時間。
白い花水木の花弁が散る。池に白い花弁が溜まり幻想的な光景となる。雪を思わせる花弁。先代のダグラス伯爵家の当主があまりに美しいので東の大陸から手に入れた樹木。ここでしか見られない夢幻の風景。
「花水木、綺麗ですね。白い花が雪みたいで」
「そうか? こんなものは時間の無駄だ」
『白い花がエリンみたいで綺麗だ。妖精のようで。エリンは、何でこんなに可愛いんだ』
また言葉と心の声が二重に聞こえてくる。
「……」
エリンは、楽しみに思っていたのに実際、ポエミーな誉め言葉を向けられるのが自分だと思うと羞恥心の方が胸に湧いてくる。頬は恥ずかしさから紅潮する。
温かい紅茶を入れたティーカップを持つ手がかたかた揺れる。恥ずかしくて堪らない。自分を無関心そうに眺めているレヴィの深紅のふたつの瞳。その瞳は自分を熱心に見ているのだと思うとかあーっとなる。
レヴィの思考が頭の中に流れ込んできて、恥ずかしくなる言葉の渦にエリンの頭はパンクした。
そうしてエリンの頭の世界がぐるぐる回り、暗転する。
結果、エリンは知恵熱が出て倒れ込んだのだ。
今まで一度も自分に関心を持つことのなかったレヴィが自分の所へやってきたのにエリンは疑問に思い、尋ねる。
「ああ……。国から愛し子に与えられる魔法の杖を忘れていたからな。こんな大切なものを忘れるなんてどうかしている」
『そのお陰でエリンに会えた。本当に嬉しくて涙が出そうだ。ああ、俺の天使……』
氷を連想させる表情の変わることのない顔に冷たい言葉。
その言葉と相反した感情豊かな内面の感情にエリンは戸惑う。
(こ、言葉と内面の呟きが二重に聞こえる!)
エリンはあわあわとして、レヴィの内面の呟きに赤面する。感情を感じさせない台詞と感情豊かで詩情溢れる単語の連なりの内面。勘弁してほしいと慌てているとぷつりと心の声が聞こえなくなった。
「?」
茶色の前髪の下の青の大きな瞳をじいっと凝らしてレヴィの深紅の瞳を見つめる。さっきまでレヴィの心のポエムが聞こえたのに。今はちっとも聞こえない。もしかして、手を離したからだろうかとエリンはぎゅっとレヴィの大きな手を自ら握る。
「エリン?」
大好きな少女から手を握ってきたのだ。レヴィはおおいに動揺するが、それを見せまいとする。手を握っても心の声は聞こえない。エリンは、すっとレヴィの手を離した。
「か、帰る」
右と左の腕を同時に出している挙動不審な行動にレヴィの動揺っぷりが見えて、エリンは噴き出しそうだった。
エリンは、爆発を起こした自室へと戻る。レヴィが蹴破った扉が無残にも真っぷたつになっていた。
部屋の中は、煙の焦げた跡に部屋の中は臭気がこもっていた。これは当分の間、魔法院の空いている研究室を借りるかとエリンは嘆息する。窓を開けて部屋の換気をしようとした。その時、きらりと七色に発光する物をエリンは見た。
心読みの魔法を生成する時に使用した大きな鍋の中が七色に発光している。それはイーサンに貰った賢者の石の色そのもの。
「もしかして……」
鍋の底に残った七色に発光する水を魔法を使い、瓶に全て移動させた。
透明な硝子の瓶の中でも水は七色にきらきらと光っていた。エリンは前髪を上げて、瓶の中をじっと凝視する。あの時、心読みの魔法を生成する呪文を一小節飛ばしてしまった。では何故自分は、レヴィの心を読めたのか。それが不思議でならない。あの時、エリンは爆発した煙を吸った。そのせいだろうか。
(この水を飲めばレヴィ様の心が読めるんだわ……。来週のお茶の時間に試してみよう)
心読みの魔法の水が入った瓶をエリンはぎゅっと握りしめた。
それにしてもとエリンは思い出して、笑いが止まらなくなった。
レヴィのニコリともしない表情に、小説の一説のような詩情感溢れる心情。
恥ずかしくて仕方なかったが、後で思うと笑いがこみ上げてくる。
あの表情で良くもまあ、あんなことを考えられるものだ。
来週、あのポエミーなきらきらする言葉が脳内で再現されるのだ、楽しみで仕方なかった。
ぴったり一週間後のお茶の時間。
白い花水木の花弁が散る。池に白い花弁が溜まり幻想的な光景となる。雪を思わせる花弁。先代のダグラス伯爵家の当主があまりに美しいので東の大陸から手に入れた樹木。ここでしか見られない夢幻の風景。
「花水木、綺麗ですね。白い花が雪みたいで」
「そうか? こんなものは時間の無駄だ」
『白い花がエリンみたいで綺麗だ。妖精のようで。エリンは、何でこんなに可愛いんだ』
また言葉と心の声が二重に聞こえてくる。
「……」
エリンは、楽しみに思っていたのに実際、ポエミーな誉め言葉を向けられるのが自分だと思うと羞恥心の方が胸に湧いてくる。頬は恥ずかしさから紅潮する。
温かい紅茶を入れたティーカップを持つ手がかたかた揺れる。恥ずかしくて堪らない。自分を無関心そうに眺めているレヴィの深紅のふたつの瞳。その瞳は自分を熱心に見ているのだと思うとかあーっとなる。
レヴィの思考が頭の中に流れ込んできて、恥ずかしくなる言葉の渦にエリンの頭はパンクした。
そうしてエリンの頭の世界がぐるぐる回り、暗転する。
結果、エリンは知恵熱が出て倒れ込んだのだ。
1
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる