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36話 不穏な兆し
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ウィル王の妃が魔族と一体化した貴族の姫君に狙われるという出来事を、リチャードは世間に公表した。ウィル神界の貴族社会は大きく揺らいだ。ウィル王に想いを寄せていた令嬢が王の最愛の妃をそれもウィル王の子を懐妊した身を狙ったのだ。クーパー伯爵家は、取り潰しとなった。ソフィーが見つかれば最悪死罪だ。命を狙われた妃が、王の怒りを必死に抑えようとしていると噂されている。
「ウィル神界の伯爵家の令嬢が魔族と一体化していたのを公表するのは止めた方がいいとリチャード様を再三止めたのだが……」
ヒカリとその間の子の存在をリチャードに告白して、クーパー伯爵家に利用されていたのをアレックスは告白した。だが、ソフィーがリチャードに媚薬を仕込もうとしているのを拒否したのでリチャードにその罪を許されたヒカルの実の父アレックスが王妃の間で溜息を吐いた。
「アレックスお父さん、私も止めたのだけど」
ヒカルが、ふうと軽く息を吐いた。
「リチャード様は今回の出来事に相当怒っている……。仕方ない。あの方はヒカルを愛しているからな」
アレックスの台詞にヒカルは頬を紅潮させた。
「ヒカル……。世間では、お前のことを騎士王の掌中の珠と呼んでいるんだぞ。それに第二子を妊娠している身でいまさら顔を赤くするな」
呆れた風情の父アレックスに3歳になるヒカルの妹を抱いたヒカリがまあまあとアレックスをなだめる。
「ヒカルは、リチャード様と恋人時代から恋に不慣れな所が可愛かったわ。あなた、そう言わないで」
きゃっきゃっとヒカリの腕の中の幼女が笑う。
「しかし、アキがヒカルに似ていて良かった……。そのおかげで今回はリチャード様の怒りが解けたのだから」
「大丈夫よ、お父さん。ケッペル公爵家は旧王族で私の実家なのだから。それにお父さんはリチャードさんの片腕だし」
天空界からウィル神界へ娘のアキラを連れてヒカリは、アレックスの許へ戻ってきた。ずっと亡くなったと思われていたヒカリとその娘の存在でもウィル神界の貴族社会は大騒ぎと化していた。
「それにしても、ヒカルが私の孫を産んでいたなんて……びっくりよ」
ふふっとヒカル似の20代の子の母とは思えない愛くるしい笑みをヒカリはその顔に浮かべる。
「そういうなら私の妹が産まれたこともびっくりよ。それもライアンと同い年!」
ヒカルは、驚きを隠しきれない。
「あ、ライアンっていうの? 私の孫は」
「ライアン、ほらご挨拶は?」
ヒカルと酷似している自分の祖母のヒカリに、ライアンは珍しく人見知りをしている。ヒカルに抱き着いて離れない。ヒカルは苦笑する。
「ライアンのばあばよ。保育園でお友達みんなばあばがいてずるいって言っていたじゃない。恥ずかしいの?」
ライアンは、ヒカルの言葉にぱっと顔を上げる。
「僕のばあば! 本当?」
ヒカルがおかしそうに笑う。
「そうよ。それもじいじとばあば両方! パパの紫の王眼と一緒なのはじいじでママと同じ金髪なのがばあば」
途端に嬉しそうにライアンは自分の祖父母に向かって微笑みを浮かべた。
「じいじとばあば!」
「はじめましては?」
うんとヒカルの言葉にライアンは頷く。その仕草の愛くるしさが微笑ましい。
「ぼく、ライアンです! じいじとばあば、はじめまして!」
はきはきした物言いにアレックスは目を丸くする。ライアンと同い年の実の娘アキラはこんなに話さない。
「ヒカル……。この子は本当に3歳か?」
アレックスが 驚いたようにヒカルに質問する。ライアンは、よくご挨拶できましたとヒカルに頭を撫でられて、嬉しそうにヒカルに抱き着いている。
「アレックスお父さん?」
不思議そうにヒカルが首を傾げる。
「ライアンは、3歳とは思えない利発さだ。この子は、天空界で何か言われなかったか?」
ヒカルはアレックスの質問にぎょっとする。
「言われたんだな」
「うん……。リチャードさんには言ってないわ。だけど、知能指数が異様に高くて並みの子ではないとライアンの様子を診てくれていた大学の教授に言われたわ」
「大学?」
アレックスの台詞にヒカルは周囲を見渡して小さな声で呟いた。
「天空界の光の王族と旧ウィル王家の血を引く私とウィル王の子どもだから、ライアンの成長の経過を診てもらっていたの。ウィル王家の血が濃すぎて何かあったらいけなかったし。リチャードさんには内緒にしておいて」
唇に指を当てて黙っていてねという仕草をヒカルは父にする。
「聞こえてるぞ」
自分の後ろから低いテノールの美声が聞こえてきて、ヒカルは悲鳴を上げる。
「きゃあ!」
自分の母親が驚愕して悲鳴を上げたが、ライアンは上機嫌で父親に突進する。
「パパ! だっこ!」
リチャードはライアンを抱き上げる。ライアンがリチャードの腕の中できゃっきゃっと笑う。
「ヒカル。どういうことだ」
紫の王眼が冷たく輝いて、ヒカルを見据える。ヒカルは夫に問い詰められて、黙り込む。
「ど、どうして……。ここに」
ヒカルは、慌てて立ち上がる。
「ソフィーが捕まった」
「!」
ヒカルの前のソファーに座っていたアレックスも立ち上がる。
「ヒカルに知らせようと思ってきたら、今の話はどういうことだ」
リチャードの詰問よりもヒカルはソフィーのことが気になった。リチャードの腕を掴む。
「それよりもソフィーさんが捕まったって……」
「引退したソフィーの乳母の家に匿われていた。今は王宮の牢屋へ閉じ込めている」
ヒカルは、リチャードへの恋慕を募らせたソフィーに同情の念を寄せていた。見つけたら極刑がふさわしいと主張する夫に何度も減刑を訴えていた。
「リチャードさん! ソフィーさんの罪を軽くしてあげて」
ヒカルは、澄んだ青の眼差しを夫の紫の冷たい双眸に向ける。
「ヒカル! いい加減にしろ! 相手はお前の命を狙い、あろうことかお前の妹の命を盾にお前の父親も脅していたんだぞ!」
リチャードは優しすぎるヒカルに怒り、怒鳴る。両親の不穏なやりとりの気配を察して、ライアンがわっと泣き出した。
「ママ~! ママがいい!」
その泣き声にはっとした二人は黙り込み、リチャードがライアンをヒカルに渡した。ヒカルは、泣きじゃくるライアンをそっと抱き上げる。
「陛下。ソフィー嬢は自白されましたか」
アレックスの冷静な台詞がその場の空気を占める。リチャードははっと王の顔へと変える。
「ああ……」
「そうですか、では。王宮へ戻りましょう。ヒカリ、済まない。仕事だ」
ヒカリはこくりと冷静な顔で頷くと、アキラを抱きながらヒカルに近づく。
「ヒカル、今日はケッペル家に泊まらない? 久しぶりに親子で話したいわ」
実の母親の優しい気遣いにヒカルは泣きだしそうになった。
「ウィル神界の伯爵家の令嬢が魔族と一体化していたのを公表するのは止めた方がいいとリチャード様を再三止めたのだが……」
ヒカリとその間の子の存在をリチャードに告白して、クーパー伯爵家に利用されていたのをアレックスは告白した。だが、ソフィーがリチャードに媚薬を仕込もうとしているのを拒否したのでリチャードにその罪を許されたヒカルの実の父アレックスが王妃の間で溜息を吐いた。
「アレックスお父さん、私も止めたのだけど」
ヒカルが、ふうと軽く息を吐いた。
「リチャード様は今回の出来事に相当怒っている……。仕方ない。あの方はヒカルを愛しているからな」
アレックスの台詞にヒカルは頬を紅潮させた。
「ヒカル……。世間では、お前のことを騎士王の掌中の珠と呼んでいるんだぞ。それに第二子を妊娠している身でいまさら顔を赤くするな」
呆れた風情の父アレックスに3歳になるヒカルの妹を抱いたヒカリがまあまあとアレックスをなだめる。
「ヒカルは、リチャード様と恋人時代から恋に不慣れな所が可愛かったわ。あなた、そう言わないで」
きゃっきゃっとヒカリの腕の中の幼女が笑う。
「しかし、アキがヒカルに似ていて良かった……。そのおかげで今回はリチャード様の怒りが解けたのだから」
「大丈夫よ、お父さん。ケッペル公爵家は旧王族で私の実家なのだから。それにお父さんはリチャードさんの片腕だし」
天空界からウィル神界へ娘のアキラを連れてヒカリは、アレックスの許へ戻ってきた。ずっと亡くなったと思われていたヒカリとその娘の存在でもウィル神界の貴族社会は大騒ぎと化していた。
「それにしても、ヒカルが私の孫を産んでいたなんて……びっくりよ」
ふふっとヒカル似の20代の子の母とは思えない愛くるしい笑みをヒカリはその顔に浮かべる。
「そういうなら私の妹が産まれたこともびっくりよ。それもライアンと同い年!」
ヒカルは、驚きを隠しきれない。
「あ、ライアンっていうの? 私の孫は」
「ライアン、ほらご挨拶は?」
ヒカルと酷似している自分の祖母のヒカリに、ライアンは珍しく人見知りをしている。ヒカルに抱き着いて離れない。ヒカルは苦笑する。
「ライアンのばあばよ。保育園でお友達みんなばあばがいてずるいって言っていたじゃない。恥ずかしいの?」
ライアンは、ヒカルの言葉にぱっと顔を上げる。
「僕のばあば! 本当?」
ヒカルがおかしそうに笑う。
「そうよ。それもじいじとばあば両方! パパの紫の王眼と一緒なのはじいじでママと同じ金髪なのがばあば」
途端に嬉しそうにライアンは自分の祖父母に向かって微笑みを浮かべた。
「じいじとばあば!」
「はじめましては?」
うんとヒカルの言葉にライアンは頷く。その仕草の愛くるしさが微笑ましい。
「ぼく、ライアンです! じいじとばあば、はじめまして!」
はきはきした物言いにアレックスは目を丸くする。ライアンと同い年の実の娘アキラはこんなに話さない。
「ヒカル……。この子は本当に3歳か?」
アレックスが 驚いたようにヒカルに質問する。ライアンは、よくご挨拶できましたとヒカルに頭を撫でられて、嬉しそうにヒカルに抱き着いている。
「アレックスお父さん?」
不思議そうにヒカルが首を傾げる。
「ライアンは、3歳とは思えない利発さだ。この子は、天空界で何か言われなかったか?」
ヒカルはアレックスの質問にぎょっとする。
「言われたんだな」
「うん……。リチャードさんには言ってないわ。だけど、知能指数が異様に高くて並みの子ではないとライアンの様子を診てくれていた大学の教授に言われたわ」
「大学?」
アレックスの台詞にヒカルは周囲を見渡して小さな声で呟いた。
「天空界の光の王族と旧ウィル王家の血を引く私とウィル王の子どもだから、ライアンの成長の経過を診てもらっていたの。ウィル王家の血が濃すぎて何かあったらいけなかったし。リチャードさんには内緒にしておいて」
唇に指を当てて黙っていてねという仕草をヒカルは父にする。
「聞こえてるぞ」
自分の後ろから低いテノールの美声が聞こえてきて、ヒカルは悲鳴を上げる。
「きゃあ!」
自分の母親が驚愕して悲鳴を上げたが、ライアンは上機嫌で父親に突進する。
「パパ! だっこ!」
リチャードはライアンを抱き上げる。ライアンがリチャードの腕の中できゃっきゃっと笑う。
「ヒカル。どういうことだ」
紫の王眼が冷たく輝いて、ヒカルを見据える。ヒカルは夫に問い詰められて、黙り込む。
「ど、どうして……。ここに」
ヒカルは、慌てて立ち上がる。
「ソフィーが捕まった」
「!」
ヒカルの前のソファーに座っていたアレックスも立ち上がる。
「ヒカルに知らせようと思ってきたら、今の話はどういうことだ」
リチャードの詰問よりもヒカルはソフィーのことが気になった。リチャードの腕を掴む。
「それよりもソフィーさんが捕まったって……」
「引退したソフィーの乳母の家に匿われていた。今は王宮の牢屋へ閉じ込めている」
ヒカルは、リチャードへの恋慕を募らせたソフィーに同情の念を寄せていた。見つけたら極刑がふさわしいと主張する夫に何度も減刑を訴えていた。
「リチャードさん! ソフィーさんの罪を軽くしてあげて」
ヒカルは、澄んだ青の眼差しを夫の紫の冷たい双眸に向ける。
「ヒカル! いい加減にしろ! 相手はお前の命を狙い、あろうことかお前の妹の命を盾にお前の父親も脅していたんだぞ!」
リチャードは優しすぎるヒカルに怒り、怒鳴る。両親の不穏なやりとりの気配を察して、ライアンがわっと泣き出した。
「ママ~! ママがいい!」
その泣き声にはっとした二人は黙り込み、リチャードがライアンをヒカルに渡した。ヒカルは、泣きじゃくるライアンをそっと抱き上げる。
「陛下。ソフィー嬢は自白されましたか」
アレックスの冷静な台詞がその場の空気を占める。リチャードははっと王の顔へと変える。
「ああ……」
「そうですか、では。王宮へ戻りましょう。ヒカリ、済まない。仕事だ」
ヒカリはこくりと冷静な顔で頷くと、アキラを抱きながらヒカルに近づく。
「ヒカル、今日はケッペル家に泊まらない? 久しぶりに親子で話したいわ」
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