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14話 現実と嘘3
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「パーティー?」
ヒカルがスープを口にしながらリチャードの話を聞き返す。ライアンがヒカルの隣に座って、天空界から取り寄せた子ども用の食器を使い、大人の食事を取り分けて食べている。時折、三人で朝食を取るようになったのだ。ウィル城の朝食室は他の部屋に比べて、こじんまりしているが広い。木製の飾りが彫られていて、壁にランプが配置されているが、朝の光が出窓から差している。テーブルは広く、三人での食事と言っても、ヒカルとライアンは隣同士だが、リチャードは二人の正面に座っていて席が離れている。まるでこの距離は今の三人の関係のようだ。
「ああ……。ちょうど舞踏会が催される予定が一か月後にある。そこでライアンのお披露目を兼ねて行おうと思う」
リチャードがヒカルの言葉を訂正する。
「舞踏会にライアンを出席させるの? 私は関係ない……」
「ある。ヒカルは私の正妃で番だ」
ヒカルは、リチャードに先手を打たれて黙り込む。まだ貴族院では二人の婚姻は正式に認められていないのにリチャードは、何故こんなに自分に固執するのか。自分がケッペル公爵家の娘だからか。一度自分たちの道は分かたれた。そこで過去の恋は終わったのだ。過去のリチャードは、ヒカルに恋をしていた。でも今のリチャードは、ヒカルに恋をしているとはとても思えない。
(一体ウィル王は何を考えているの?)
毎晩のようにリチャードに抱かれて、言葉と視線は冷たいがヒカルを愛撫する手は優しい。ヒカルは困惑していた。過去に置いてきたと思っていた恋心は、まだヒカルの中にはくすぶっていた。だけど、ヒカルはそれを認めたくなかった。それを認めると自分が惨めだ。ライアンを産んだのは過去に恋人だったリチャードの子だからだ。自分だけがリチャードに想いを残していた。ヒカルがその事実に戸惑っていると、リチャードと偶然視線が合う。だが、ヒカルはリチャードから視線を逸らした。
「ママ、このオムレツおいしい!」
ライアンのあどけない声にヒカルははっとして横を向く。子ども用の食器に盛られた王宮の一流の料理人が作ったオムレツをライアンはお行儀良く食べていた。リチャードの手配によりライアンにもマナーの教師がついていた。
「ライアン、ご飯綺麗に食べているね」
ヒカルは、にっこりと微笑みライアンを誉める。ライアンは、嬉しそうにぱあっと顔を輝かす。
「ほんとう? あのね、ぼくいっぱいマナーのせんせいにおしえてもらったの! がんばったらママとパパがよろこんでくれるって!」
ライアンの紡ぐ言葉にヒカルは、固まる。リチャードは、王としての立場から自分を正妃にライアンを王子にと求めてくる。そして、ライアンは、リチャードを父親として慕い始めている。自分の心だけが過去に取り残されている、過去から動けない。もう二人は未来しか向いていないのだ。
(私も未来を向かないといけないわね……)
ヒカルは、淡いレモンイエローの上品なドレスを今朝は着ている。25歳だが、光の王族はやや童顔の女性が多い。可愛らしく見えるヒカルに合わせられてあつらえたドレスだ。ふうとため息を吐いてヒカルは頷く。
「分かったわ……。ライアンと私が出席すればいいのね」
やや不満気にヒカルは、了承する。
「嫌なのか?」
リチャードの問いかけにヒカルは、首を縦に振る。不満気なその顔にリチャードは、ナイフとフォークを置いた。ヒカルは、リチャードのその行動に目を見開る。
「ヒカル、私には婚約破棄した婚約者がいる」
二人もねとヒカルは心中で突っ込むが、顔には出さない。ナイフを使ってサラダを口に運ぶ。
リチャードの言葉を聞き流すことであえて舞踏会に出たくないという主張をする。大体、自分はライアンと天空界に居たのだ。聞き流すと言うよりも無視に近いヒカルの態度にリチャードはばんとテーブルを叩く。その音にヒカルははっとして、ようやくリチャードに視線を合わせる。
リチャードは、激高していた。ヒカルは、リチャードが寡黙で清廉な人格だった恋人時代から心を開いた人間や慣れた部下や使用人には短気なのを知っていた。ヒカルは、しまったと青ざめる。彼は、溺愛していたヒカルには、優しかった。だが、今はかつてのような関係ではない。ヒカルは油断していた。リチャードが発する刺すような空気にヒカルは、びくんとする。
「人の話を……聞く気はあるのか!」
始めて聞く怒鳴り声にヒカルは青の瞳を見開いて、リチャードを注視する。驚愕するヒカルの風情にリチャードははっとすると、同時に怯えたライアンが泣き出す。
「うわーん! パパこわいよう!」
リチャードとヒカルははっと視線を合わせる。ヒカルは、リチャードに頷くとライアンをなだめる。
「違うのよ、今のはママが悪いの。パパがお話をしようとしていたのにママがお話を聞こうとしなかったからパパが怒ったの」
父親似の濃い純粋な紫の王眼に涙を溜めたライアンは、ぐずぐずしている。ヒカルは、ライアンを椅子から降ろすと、抱き上げた。
「眠いのかな?」
ライアンは、ヒカルの身体に抱き着くと、ヒカルの腕の中で泣きじゃくったまま眠ってしまった。ライアンが、眠りについてリチャードと二人の状態でヒカルは気まずい。ヒカルは、リチャードに視線を合わせる。
「ごめんなさい……。私、舞踏会に出たくなかったの」
ヒカルは、リチャードに自分の非を認めて、謝罪する。しかし、リチャードはヒカルに視線を合わせようともしない。
「間違ってたわ……。でも私、まだこの状態に頭がついていけないの。西の魔王に襲われて、ライアンに掛けた封印が解けて。あなたと再会して……。展開が早すぎてついていけないの。舞踏会には出るわ、あなたの妻として、ライアンの母親として……。ライアンを寝かせてくるわ」
ヒカルはライアンを抱えたまま朝食室を出ていこうとして、振り返り何かを言おうとして口を閉ざす。一瞬青の澄んだ瞳と紫の王眼が交差するが、二人は視線を逸らしてしまう。
ヒカルは、朝食室から青い絨毯の敷かれた廊下に出ると、ライアンを抱えたまま歩き出す。ヒカルは、泣いていた。リチャードは、ヒカルが漏らした本音と青の瞳に浮かんでいた涙に戸惑っていた。
まるでヒカルは、自分を裏切ってないような態度を取る。リチャードは、くくっと笑う。ヒカルと出逢う前も別れてからも何度も女性に利用されて騙されかけた、もう騙されまい。それがかつて愛した番であっても。
ヒカルがスープを口にしながらリチャードの話を聞き返す。ライアンがヒカルの隣に座って、天空界から取り寄せた子ども用の食器を使い、大人の食事を取り分けて食べている。時折、三人で朝食を取るようになったのだ。ウィル城の朝食室は他の部屋に比べて、こじんまりしているが広い。木製の飾りが彫られていて、壁にランプが配置されているが、朝の光が出窓から差している。テーブルは広く、三人での食事と言っても、ヒカルとライアンは隣同士だが、リチャードは二人の正面に座っていて席が離れている。まるでこの距離は今の三人の関係のようだ。
「ああ……。ちょうど舞踏会が催される予定が一か月後にある。そこでライアンのお披露目を兼ねて行おうと思う」
リチャードがヒカルの言葉を訂正する。
「舞踏会にライアンを出席させるの? 私は関係ない……」
「ある。ヒカルは私の正妃で番だ」
ヒカルは、リチャードに先手を打たれて黙り込む。まだ貴族院では二人の婚姻は正式に認められていないのにリチャードは、何故こんなに自分に固執するのか。自分がケッペル公爵家の娘だからか。一度自分たちの道は分かたれた。そこで過去の恋は終わったのだ。過去のリチャードは、ヒカルに恋をしていた。でも今のリチャードは、ヒカルに恋をしているとはとても思えない。
(一体ウィル王は何を考えているの?)
毎晩のようにリチャードに抱かれて、言葉と視線は冷たいがヒカルを愛撫する手は優しい。ヒカルは困惑していた。過去に置いてきたと思っていた恋心は、まだヒカルの中にはくすぶっていた。だけど、ヒカルはそれを認めたくなかった。それを認めると自分が惨めだ。ライアンを産んだのは過去に恋人だったリチャードの子だからだ。自分だけがリチャードに想いを残していた。ヒカルがその事実に戸惑っていると、リチャードと偶然視線が合う。だが、ヒカルはリチャードから視線を逸らした。
「ママ、このオムレツおいしい!」
ライアンのあどけない声にヒカルははっとして横を向く。子ども用の食器に盛られた王宮の一流の料理人が作ったオムレツをライアンはお行儀良く食べていた。リチャードの手配によりライアンにもマナーの教師がついていた。
「ライアン、ご飯綺麗に食べているね」
ヒカルは、にっこりと微笑みライアンを誉める。ライアンは、嬉しそうにぱあっと顔を輝かす。
「ほんとう? あのね、ぼくいっぱいマナーのせんせいにおしえてもらったの! がんばったらママとパパがよろこんでくれるって!」
ライアンの紡ぐ言葉にヒカルは、固まる。リチャードは、王としての立場から自分を正妃にライアンを王子にと求めてくる。そして、ライアンは、リチャードを父親として慕い始めている。自分の心だけが過去に取り残されている、過去から動けない。もう二人は未来しか向いていないのだ。
(私も未来を向かないといけないわね……)
ヒカルは、淡いレモンイエローの上品なドレスを今朝は着ている。25歳だが、光の王族はやや童顔の女性が多い。可愛らしく見えるヒカルに合わせられてあつらえたドレスだ。ふうとため息を吐いてヒカルは頷く。
「分かったわ……。ライアンと私が出席すればいいのね」
やや不満気にヒカルは、了承する。
「嫌なのか?」
リチャードの問いかけにヒカルは、首を縦に振る。不満気なその顔にリチャードは、ナイフとフォークを置いた。ヒカルは、リチャードのその行動に目を見開る。
「ヒカル、私には婚約破棄した婚約者がいる」
二人もねとヒカルは心中で突っ込むが、顔には出さない。ナイフを使ってサラダを口に運ぶ。
リチャードの言葉を聞き流すことであえて舞踏会に出たくないという主張をする。大体、自分はライアンと天空界に居たのだ。聞き流すと言うよりも無視に近いヒカルの態度にリチャードはばんとテーブルを叩く。その音にヒカルははっとして、ようやくリチャードに視線を合わせる。
リチャードは、激高していた。ヒカルは、リチャードが寡黙で清廉な人格だった恋人時代から心を開いた人間や慣れた部下や使用人には短気なのを知っていた。ヒカルは、しまったと青ざめる。彼は、溺愛していたヒカルには、優しかった。だが、今はかつてのような関係ではない。ヒカルは油断していた。リチャードが発する刺すような空気にヒカルは、びくんとする。
「人の話を……聞く気はあるのか!」
始めて聞く怒鳴り声にヒカルは青の瞳を見開いて、リチャードを注視する。驚愕するヒカルの風情にリチャードははっとすると、同時に怯えたライアンが泣き出す。
「うわーん! パパこわいよう!」
リチャードとヒカルははっと視線を合わせる。ヒカルは、リチャードに頷くとライアンをなだめる。
「違うのよ、今のはママが悪いの。パパがお話をしようとしていたのにママがお話を聞こうとしなかったからパパが怒ったの」
父親似の濃い純粋な紫の王眼に涙を溜めたライアンは、ぐずぐずしている。ヒカルは、ライアンを椅子から降ろすと、抱き上げた。
「眠いのかな?」
ライアンは、ヒカルの身体に抱き着くと、ヒカルの腕の中で泣きじゃくったまま眠ってしまった。ライアンが、眠りについてリチャードと二人の状態でヒカルは気まずい。ヒカルは、リチャードに視線を合わせる。
「ごめんなさい……。私、舞踏会に出たくなかったの」
ヒカルは、リチャードに自分の非を認めて、謝罪する。しかし、リチャードはヒカルに視線を合わせようともしない。
「間違ってたわ……。でも私、まだこの状態に頭がついていけないの。西の魔王に襲われて、ライアンに掛けた封印が解けて。あなたと再会して……。展開が早すぎてついていけないの。舞踏会には出るわ、あなたの妻として、ライアンの母親として……。ライアンを寝かせてくるわ」
ヒカルはライアンを抱えたまま朝食室を出ていこうとして、振り返り何かを言おうとして口を閉ざす。一瞬青の澄んだ瞳と紫の王眼が交差するが、二人は視線を逸らしてしまう。
ヒカルは、朝食室から青い絨毯の敷かれた廊下に出ると、ライアンを抱えたまま歩き出す。ヒカルは、泣いていた。リチャードは、ヒカルが漏らした本音と青の瞳に浮かんでいた涙に戸惑っていた。
まるでヒカルは、自分を裏切ってないような態度を取る。リチャードは、くくっと笑う。ヒカルと出逢う前も別れてからも何度も女性に利用されて騙されかけた、もう騙されまい。それがかつて愛した番であっても。
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