白花の君

キイ子

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七人

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 彼は少し困ったように眉を寄せ僕を見て、そのまま滑らせるように後ろの神官たちを見つめた。
言えないことが多いのか、言いたくないだけなのかわからないが、限られた言葉の中から伝える言葉を選んでいるような感じがあった。
それにしても彼は一体何の用があって私に会いに来たのだろうか。
何より、レインが言った三の神という自己紹介。
ちらりとレインを見つめてみれば彼はただ楽しそうに笑っていた。

 分かっている。
あの廻廊での記憶が戻った今、ちゃんと理解している。
僕がその地位を奪ったのだろう。至上の神の第二位という位を。

 「奪ったとかそういうのはいいよ。 単純な力の差だ……新しい主神の誕生は喜ばしいことだよ、とても」

 「……本心で言っていますか?」

 疑ってかかる僕に対して、レインは小さく首をかしげて苦笑いを浮かべる。
本当に何を考えているのか分かりにくい人だ。
そんなことを考えながら彼の反応を待つ。
しばらくの間考え込んでいたかと思えばスッとその表情が真剣なものに変わった。
その怜悧ともいえる真剣な顔に僕は思わず警戒を露にする。
だが、彼が発した言葉は僕の予想とはかけ離れていた。

 「本音を言うとね、俺は限界だったのさ」

 「げんかい」
 
 「主神というものは本来存在ただ存在しているだけでいい。 それだけで世界は回る。 本人が何をしようと、何をすまいとも。 けどもまあ皆生まれ育った世界は愛おしくて特別なもんだから……余計なことをするんだ。……それで結局力を使い果たして潰れてしまうのだから馬鹿な子たちだよ、本当に」

 悲しそうな、顔をしている。
ただただ実直にそう思った。 遠くを見て話すその姿に先ほどまでの軽薄さめいた雰囲気は無く、達観した……そう、年老いて様々な諦めを経験した人のような印象を受ける。
もっとも、そんな雰囲気は瞬く間に消え去り再びこちらに視線を向けたその時にはまたあの食えない笑みを浮かべて話を続けた。

 「お分かりだろうけど俺はこんな感じで博愛とか自己犠牲みたいな主神にとって必須かって言われてるような感情は持ち合わせてない……それでも、それなりに情はある。 何千、何億年と共に在った者たちが壊れていく様を見届けなくてはならないのは、つらい。」

 「……」

 何を応えればいいのか分からなかった。
ただ、今この瞬間、目の前にいる彼が嘘をついていないことはさすがに分かっていたから。
だからこそ、中途半端な慰めや共感の言葉を告げたくは無かった。

 「今、主神は七人いる。君を含めてね」

 ……七人?
あの廻廊であったのは五人だけだったような気がする。
もう一人はどこに?

 「……そう、七人いるうちの一人はまだこの天へ来てすらいない。 一人はつい最近成ったばかり、君のことだね。さあ、これで五人。 ……うちまともに機能しているのはたった二人だ。 一人はもう持たない。……多分、君はもう彼女に相見えることすらないだろう。 そんで、残りの二人もとうの昔に壊れてしまっている。作っては壊してを繰り返してる、何回も、何回も……あんなに世界を愛していた子たちだったのに」

 淡々と語る口調に哀れみや同情の色はない。
ただ淡々と事実のみを告げている。
いっそ不自然なほどに、感情というものを見せない彼は、それでもやはり苦しんでいるのだろう。

 「俺だって何もせずただ手をこまねいていたわけじゃない。 でも、結局どうにもできなかった。なにも変えられなかったなぁ……いずれ、一の神が二人を始末するだろう、あの人は生命を愛しているから罪のない命が……罪のある命でさえも、奪われ続ける現状に耐えられないだろうね。 俺は……俺は、慶事が欲しかったんだよ。 長い年月を共に過ごした人たちの崩壊を知って、その始末をわた……俺たちが付けないといけないことに気付いてしまって。 だから、絶望の前に希望を見れたのが嬉しかった……ああ、すまない、長くなってしまったね。 とにかく俺は、君の誕生を心から喜んでいる。 もちろん、一の神も、ほかの神もその心に偽りはないんだ」

 その言葉には、確かに真実しかなかった。 そう思わせるほど優しく、美しい微笑みをレインは浮かべた。

 彼が語ったことが全て真実であると仮定するなら、それはあまりにも救いがない話だと僕は思った。
神でさえ、破滅の運命に捕らえられているなんて。
それじゃあ、僕らは何のために生まれおちるのだろう。
神というもの存在意義に疑問を抱いてしまいそうになる僕をしり目に、言いたいことを言って満足した様子のレインは小さく息をつくと手を差し伸べてくる。
その顔に、もはや見慣れた軽薄そうな笑みを張り付けて言う。

 「改めて歓迎しよう!我が同胞よ!」
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