44 / 61
第三章
[第43話]再生の館
しおりを挟む
再生活動の期間が終わったサフォーネには、浄清の天使としての活動が待っている。
サフォーネ属する第一天使団はこの月、第四部隊と行動を共にすることが増え、デュークとすれ違う日々が続いた。
その寂しさを紛らわすように、サフォーネはデュークからもらった笛の練習を欠かさなかった。
「だんだんお上手になってきましたね…デューク様が聞いたら驚きますよ?」
『開花の月』の再生活動前日、聖殿中央塔裏の噴水広場で笛を練習するサフォーネに、ナチュアが手を叩いて褒めると、嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「あした…デューク、くる?」
ナチュアはその言葉に静かに首を横に振った。
「明日、ご同行下さるのは第六部隊の騎士様たちです」
その言葉通り、第二回目の護衛には、第六部隊のボルザークとミゼラが『サフォーネを護る会』の面子として、その役割を担うことになった。
事前にトマークとシャンネラから護衛以外の役割を知らされていたため、その気合はかなりのもので、この機会にサフォーネに乗馬を教えてやろうと、ボルザークが天馬を一頭多めに連れてくるほどだった。
再生活動初日。
仕事終わりに、サフォーネに乗馬の話をすると目を輝かせて喜んだ。
その翌日も仕事の疲れも忘れるほど、初めての乗馬にはしゃぎ、楽しんでいたようだが、そのセンスは皆無だった。
そして三日目。
「サフォーネ、どうする?今日もまた馬に乗ってみるか?」
その日の全ての対応が終わり、ミゼラが遠慮がちに声を掛けたのは、サフォーネが疲れ果てている様子だったからだ。
案の定、サフォーネは力なく首を横に振った。
「…サフォ、ねむい…」
再生活動二回目となると、それなりに訪問者も増えてきていた。
更に初日には、どうしてもサフォーネに直接会いたいと懇願する病状の老人が居て、その願いを一度聞き入れたことで、他にもそんな要望が集まり始めてしまったのだ。
『再生の天使』としての偶像が先行しているのか、植物を蘇らせるなら人の命に関わることも可能だろう、と想像する者もいるようだった。
しかし、サフォーネの再生の力は、また再び命が輝ける見込みがあるところに助力を与えるものであり、万能ではない。
幸いにもその老人の病は、再生の力を使うまでもなく、癒しの力の施しで何とかなるものだった。
ナコラの子山羊のように生死をさ迷う状態ではない限り、再生の力は必要ないのだが、人々からすれば、その差が解る筈もなかった。
その後もほぼ毎日、再生の種を作りながら病人の相手もこなすサフォーネは、端から見てもその疲労が明らかだった。
ナチュアが止めるように言うのだが、平等に願いを叶えてあげたいと、依頼があれば応える状態で、結局それは最終日まで続いた。
ボルザークとミゼラは、サフォーネの遊び相手としての役割が叶わず、がっかりする半面、心配が先行して蒼の聖殿に帰る朝、二人で話し合った。
「この状況、改めた方がいいと思うな…このままではサフォーネが倒れてしまう…」
「そうだな…これは問題として報告しよう」
ルシュアは二人からの報告を受けると、その月のサフォーネの浄清の天使としての活動を半減させ、『再生の館』建立後は、新たな掟を設けようと王都と話合うことにした。
アリューシャの精霊石を通して行われた緊急会議は、蒼の聖殿側からルシュアとババ様が、王都側には、祖人の王とフノラが顔を揃えた。
『なるほど…しかし、全ての民にそれらを理解させるのは難しくは無いだろうか?』
祖人の王の懸念に、ババ様が口を開く。
「そうですね。ならばいっそ、そういう願いも聞き届けてしまうのはいかがでしょう?サフォーネの負担を減らすために、再生活動期間中には、こちらから癒しの天使も派遣させましょう」
その提案に、王も納得したように頷いた。
一度受け入れてしまったものを撤回すれば、不満を漏らす者も増え、下手をすると暴動も起きかねない。
王の考えを察知したか、フノラが素早く館建設の工程表を捲りだす。
『この段階でしたら、まだ館の内部構造は手が加えられそうですね。癒しの天使たちが滞在する部屋と、癒しを行う部屋を用意できると思います』
『解った。ではそのようにしよう』
祖人の王の言葉に、フノラは執務机でその工程表に手を加え始めた。
ルシュアが加えて切り出す。
「ただ、それだけでは民の心も納得しないでしょう。再生の天使に会いたくてやってくる者も多いはずです。そういった者たちと顔を合わせる時間を設けたいと考えているのですが」
それには祖人の王が唸り声を上げた。
『それはそうかもしれぬが…。やはり姿は見せない方がいいのではないか?再生の天使の容姿に不安を抱く者が暴挙に出る恐れもあるからと…最初にそのように決めた筈だが…』
祖人の王の親心が垣間見えると、アリューシャは静かに口元に笑みを浮かべたが、今回は交信術師として口を挟まないことにしている。
ルシュアなら、納得のいくことを言ってくれると信じ、そちらを見た。
「はい。そのつもりでしたが、館が完成すれば、こちらの派遣騎士に加えて、王都の兵士たちも増えます。そういった点で安全面は増えますし、これまで二回の活動期間中に起こった問題点の改善も含め、厳しい規則を設ければ…」
『…うーむ……』
蒼の聖殿にとって財産と言える天使に対し、彼らが考えることに間違いはないのだろう。
だが、承諾しかねる自分がいる。
それは何故なのか…。
顔を上げると、フノラの強い視線とかち合った。
『…いや、解った。では、その掟を設け、再生の天使との対話の時間を増やすことにしよう』
明らかに、自身が公務とは違う感情に流されそうになっていることに気が付いた王は、咳払いをするとそう返した。
「承知いたしました。では…」
再生の館運営に向けての話し合いはその後も続き、準備は着々と進んで行った。
そして三回目の再生活動。初夏を迎える『待機の月』に、ようやく『再生の館』が完成された。
館の設計も急遽変更されたが、何とか目標の二ヶ月でその施工が完了すると、その知らせは、また大陸中に広められた。
その頃には、再生の力の噂が噂を呼び、一日に百人以上の人が押し掛けると予測された。
今回の護衛には、第二部隊のカルニスとニカウがつくことになった。
聖殿の前に停められている天馬の馬車には、既に癒しの天使が二名乗車している。
その馬車の前で、カルニスはサフォーネに頭を下げた。
「ごめん。本当なら、隊長が来るはずだったんだけど、今回の任務の事後処理に追われて、俺たちが代わりに…五日後くらいに合流すると言ってるから…そうがっかりしないでくれよ…」
第二部隊の騎士が護衛に入ると聞いたのは、昨日のことだった。
サフォーネはてっきりデュークが来るものと思い込んでいたのだが…。
思い切り落胆したサフォーネの表情を目の当たりにして、カルニスが申し訳なさそうに説明すると、ナチュアが苦笑を漏らしつつ、元気な声をあげる。
「サフォーネ様、そうがっかりなさらずに。皆さんが造ってくれた新しい館は、きっと素晴らしいですよ?」
ナチュアは設計当初からアリューシャの精霊石を通して企画に参加し、サフォーネが過ごしやすいようにと、様々な注文を出していたのだ。
ひょっとしたら、サフォーネ以上に館の完成を待ちわびていたかもしれない。
そこへトワが聖都から到着した。
乗合馬車で聖殿の正門前で降りると、社を抜けて駆け寄ってきた。
「遅くなって悪い。…いよいよ、完成したんだってな、楽しみだな?サフォーネ」
二人に元気づけられ、サフォーネもようやく笑顔を取り戻す。
聖殿で過ごす間、休暇を多めにもらえたおかげで体力も回復している。
力強く頷くと、馬車に乗り込んだ。
蒼の聖殿からセレーネ島まで、天馬の馬車で小一時間で到着する。
その道中で、ほぼ初顔合わせの癒しの天使たちがそれぞれ自己紹介をしてきた。
一人は長い白髪を一つに束ねた初老の夫人で、もう一人は珊瑚色の柔らかい髪を肩までに揃えた幼い少女だった。
「私はスラワと申します。騎士様たちに同行したのはもう何年前かしらね…。皆さんから見ればお婆ちゃんだけど、聖殿内で癒しのお仕事はまだ現役でやっているのよ?よろしくね。それからこちらは私の孫の…」
「マオラです。13歳になります。先日やっと一人前と認められたばかりですが…。サフォーネ様をお助けできるよう、精一杯頑張ります!」
恐らくルシュアの計らいなのだろう。
どちらも穏やかで親しみやすい人柄にナチュアはほっとした。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。再生の館になって初めての試みになりますが…どうか、サフォーネ様をお支えください」
ナチュアが頭を下げると、それを見たサフォーネも頭を下げたので、二人はきょとんとした。
その様子にトワが笑い出す。
「まぁ、畏まらず気楽にやろうぜ。俺はトワ。今日から再生の館に居候する身だ。恐らく今日はかなりの人出になると思うからな。よろしく頼むぜ?」
セレーネ島までの短い道のりは談笑に包まれた。
三日月湖に近づくと、御者台のカルニスとニカウが、島が見えてきたと知らせてくれた。
馬車から見下ろすと、島の中にこれまではなかった建物が見え、その館と橋を結ぶように道が造られている。
カルニスは、ナチュアの要望で馬車をその道沿いに降り立たせた。
道は石畳になっており、これまでの草地より歩きやすそうだ。
天馬をゆっくり歩ませ、徐々に近づいてくる館を馬車から覗き見る。
「上から見たときはちょっと小さいと思ったけど、思ってたより立派じゃないか…」
カルニスの言葉にナチュアが得意そうな顔をした。
館は、青色の屋根に三階建ての木造建築になっている。
トワが長く過ごすことを考え、また、サフォーネの出身が緑の聖都ということで、ナチュアは森の恵みである木製の家がいいと思っていたのだ。
正門まで来ると、王都から派遣された兵士が三名近づいてきて敬礼する。
カルニスが馬を止めるとひとりが手綱を受け取り、他二名は馬車の乗降口に回った。
「サフォーネ様ですね。お待ちしておりました」
一礼する兵士たちに戸惑いながらもサフォーネが頷くと、ひとりの兵士が手を差し伸べてきた。
その意味が分からないでいると、横からトワが馬車を飛び降りるのが見えて、サフォーネもそれに続こうとした。
「あ、危ないですよ!」
兵士は咄嗟にサフォーネを抱き留めたが、気安く触ってしまったことに恐縮したか、静かにサフォーネを地に降ろすと、兜の柄を下げて一礼した。
その耳が真っ赤になっているのを見てトワは吹き出した。
続いて、ナチュアや癒しの天使たちも、兵士に手を取ってもらいながら馬車を降りる。
「天馬と馬車はお預かりします。皆様はどうぞ館の方へ」
兵士の言葉に一同は歩を進め、正門を潜りながら辺りを見渡した。
館を囲うように塀は拵えてあるものの、それは子供でも簡単に飛び越えられるほど低く、圧迫感は無かった。
塀沿いには張役の詰め所となる建物が二軒用意され、王都から派遣された兵士と、蒼の聖殿から来る騎士の滞在場所となるようだった。
その奥には馬車を納める倉と、馬舎もある。
聖殿の造りをそのまま小さくしたようだ。
「…わぁ、近くで見ると、すごいですね…」
正門を潜ったところで、館を見上げたニカウから、思わず声が漏れた。
木造の外壁には随所に植物の彫刻が施され、屋根も飾り彫になっていて、美しくも愛らしい印象だ。
マオラはその建物に一度で魅了されたか、両手を組んで目を輝かせている。
スラワも「ほう」と息を吐いた。
「再生の力を象徴するものがあるといいのでは…と、これはデューク様の意見でしたが、予想以上でしたね…」
その彫刻の中にサフォネリアを象ったものもあり、サフォーネに笑顔が溢れた。
「さぁ、こちらもきっと、サフォーネ様に喜んでいただけますよ?」
ナチュアに促され、サフォーネを先頭に皆ついて行く。
門を抜け、館に続く敷石の両側には小さな庭が造られていた。
その中央にあるものを見て、サフォーネは目を輝かせて歩み寄る。
「ふんすい…!」
そこには、聖殿よりも半分くらいの大きさだったが、小さな噴水が造られていた。
三段の水受けも、聖殿の噴水と似た造りになっている。
小さいとはいえ、館の敷地には十分な存在感だ。
「聖殿でのサフォーネ様のお好きな場所を、こちらの館にも造ってもらったんです」
ナチュアの言葉にサフォーネは振り返ると、感謝の気持ちのまま抱き着いた。
「ありがと…ナチュ…」
サフォーネの喜びが伝わると、ナチュアもほっとし目を潤ませる。
そんな二人を他所に、トワが噴水を覗き込んでその水を掬い上げた。
「こりゃ冷たくて気持ちいい。夏の水浴びには最高だな」
「ちょ…トワ様?噴水はそんなことに使うものではありません!」
トワの言葉に驚いてナチュアが訂正すると、皆が笑った。
再び歩を進め、館の玄関に立つ。
教会のように重厚な扉を、カルニスとニカウが引き開けると、種を求めてきた人を受け入れる広間が用意されていた。
広間の端には控え部屋もあり、待機が必要な訪問者に利用して貰えるようになっている。
「へぇ…聖殿の中央塔と似てるなぁ」
「この扉は、聖殿の正面入り口と同じく、活動時間中は開け放つことにするそうです。訪ねてきてすぐに依頼を受け付けてもらえる印象にしたいとか…」
室内は木の作りとはいえ、壁の一部は灰と砂と水を混ぜた土壁も使用されていた。
その白い壁が、より『聖なる場所』を表すようで、レンガで作られた祭壇のような場所には椅子が設えてあり、絹の敷物が架けられていた。
「ここがサフォーネ様のお席になります」
「え?サフォーネは表に出ないんじゃなかったのか?」
カルニスの言葉にナチュアは静かに頷いた。
「今まではサフォーネ様が直接訪問者と会うことは控えようという風潮でしたが…これからは一日のうちの数時間だけ、ここで訪問者の方と触れ合う機会を作ろう、いうことです。こちらで種を用意する以外にも要望はありますしね。それを直接聞き届けて欲しい、と」
「…サフォ、おはなし、する?」
「どちらかと言えば、お話を聞いてあげる、というほうですね。私も傍で一緒にお聞きしますので、その人の望みをかなえてあげるお手伝いをしましょう」
話の様子を聞きながら、トワが溜息をついた。
「何だか仰々しいな…サフォーネをどれだけ偶像化したいんだ?叶えられない望みが来たらどうするんだ」
「そこは前もって受け付けられる内容を提示するそうですよ?あとは、護衛の騎士様やトワ様の判断で断りを入れる、ってお聞きしてますけど…」
その言葉に、トワはルシュアを想い出した。
「任せる」とはこのことだったのか…?
少しだけ面倒になったのを感じながら、トワは乱暴に頭を掻いた。
「あ、この部屋がサフォーネの仕事部屋になるのかな」
カルニスが広間から続く扉の中を確認すると、荘厳な雰囲気を施した部屋があった。
「はい。そちらがサフォーネ様の仕事場『祈りの間』になりますね。窓も大きくしてもらいましたので、外の景色もよく眺められますよ?」
ナチュアの言葉にサフォーネも部屋を覗き、その奥にある大きな窓から見える景色を確認する。
そこには新緑が広がっており、メルクロの診療所がある林を思い起こさせた。
広間の両端には、二階に続く階段があり、そこを上がると、トワの部屋や、癒しの天使が寝泊まりする部屋、館の管理をする職員の部屋、彼らが生活に必要な設備も整えられていた。
「となると、三階がサフォーネの部屋か」
「はい。聖殿のサフォーネ様の部屋と似た部屋にして頂いています。私の控え部屋もありますから、聖殿で過ごすときと同じように、いつでも呼んでくださいね」
切り出されたばかりの木の匂いが心地よく、サフォーネは穏やかな気持ちになる。
三階の自分の部屋には大きなバルコニーもついていて、そこから見える景色は格別なものだった。
セレーネ島の美しい自然を飛び越えて、北西の方角に蒼の聖殿の形が浮かび上がっている。
「あおのせいでん、みえる…こっちも、みえる?」
「そうですね…高い塔のお部屋からなら、見えるかもしれませんね」
ナチュアの言葉に、サフォーネは笑顔を浮かべて大きく手を振った。
恐らくデュークに向かって手を振っているのだろうが、それは向こうから見える筈も無い。
皆そう思ったが、誰も笑おうとは思わなかった。
そこへ、ひとりの兵士がやってきて、敬礼と共に口を開いた。
「皆様、失礼いたします。この館に勤める者が一同集まりましたので、一階の『受け取りの間』にお越し頂けますか」
その言葉に、最初に通った広間に行くと、十名の男女が頭を下げて出迎えた。
王都から派遣された兵士が五名。
同じく王都から派遣された、館を管理する職員五名。
その中には、王都との連絡要員として、術師も派遣されているようだ。
職員の中で一番の年長者である初老の男性が一歩前に出てきた。
「サフォーネ様。お初にお目にかかります。私は祖人の王直属の部下、サニエルと申します。王都の代表としてご挨拶申し上げます。こちらに派遣された者たちは、皆、王より貴方様の活動をお助けするよう、直接命じられた者ばかりです。何かあれば遠慮なくお申し付けください。外にまだ二名ほど兵士がおりますが、その者たちも追々紹介致しましょう」
皆それぞれ名前を読み上げられると、一歩前に出て最敬礼する。
サフォーネは顔を覚えるのが精一杯のようだったが、ナチュアは抜かりなく全て記憶した。
続いて癒しの天使たちが挨拶を終えると、ナチュアがトワを皆に紹介した。
「サニエル様とトワ様のお二人で、再生の館を管理して頂くことになっておりますので、よろしくお願いします」
一同の顔合わせが終わったところで、外を守っていた兵士が一人、広間に入ってきた。
「訪問者の方が徐々に集まってきております。サフォーネ様、お支度を…」
その言葉に、皆の顔が引き締まった。
癒しの天使たちは『癒しの間』に移動し、兵士たちは裏口から詰め所へと戻って行った。
職員たちも自身の持ち場につく中で、サフォーネの元へ、サニエルが両手に包みを掲げてやって来た。
「王より、館の完成を祝って、サフォーネ様への贈り物になります」
ナチュアが受け取り、中を改めると目を見開いた。
それは、輝くような高価な絹で作られた肩掛けの衣だった。
どの衣装にも合いそうな、簡素で美しい装飾が施された上品な衣だ。
ナチュアは丁重にそれを拡げると、サフォーネの肩に掛けた。
その美しさに自然と一同から吐息が漏れる。
「素敵な衣です。良かったですね。サフォーネ様」
「…うん」
衣の肌触りは優しく、仄かに暖かい。
サフォーネは不思議と心が安らいだ。
「では、開門いたします」
兵士の言葉が届くと、サフォーネは顔を上げた。
~つづく~
サフォーネ属する第一天使団はこの月、第四部隊と行動を共にすることが増え、デュークとすれ違う日々が続いた。
その寂しさを紛らわすように、サフォーネはデュークからもらった笛の練習を欠かさなかった。
「だんだんお上手になってきましたね…デューク様が聞いたら驚きますよ?」
『開花の月』の再生活動前日、聖殿中央塔裏の噴水広場で笛を練習するサフォーネに、ナチュアが手を叩いて褒めると、嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「あした…デューク、くる?」
ナチュアはその言葉に静かに首を横に振った。
「明日、ご同行下さるのは第六部隊の騎士様たちです」
その言葉通り、第二回目の護衛には、第六部隊のボルザークとミゼラが『サフォーネを護る会』の面子として、その役割を担うことになった。
事前にトマークとシャンネラから護衛以外の役割を知らされていたため、その気合はかなりのもので、この機会にサフォーネに乗馬を教えてやろうと、ボルザークが天馬を一頭多めに連れてくるほどだった。
再生活動初日。
仕事終わりに、サフォーネに乗馬の話をすると目を輝かせて喜んだ。
その翌日も仕事の疲れも忘れるほど、初めての乗馬にはしゃぎ、楽しんでいたようだが、そのセンスは皆無だった。
そして三日目。
「サフォーネ、どうする?今日もまた馬に乗ってみるか?」
その日の全ての対応が終わり、ミゼラが遠慮がちに声を掛けたのは、サフォーネが疲れ果てている様子だったからだ。
案の定、サフォーネは力なく首を横に振った。
「…サフォ、ねむい…」
再生活動二回目となると、それなりに訪問者も増えてきていた。
更に初日には、どうしてもサフォーネに直接会いたいと懇願する病状の老人が居て、その願いを一度聞き入れたことで、他にもそんな要望が集まり始めてしまったのだ。
『再生の天使』としての偶像が先行しているのか、植物を蘇らせるなら人の命に関わることも可能だろう、と想像する者もいるようだった。
しかし、サフォーネの再生の力は、また再び命が輝ける見込みがあるところに助力を与えるものであり、万能ではない。
幸いにもその老人の病は、再生の力を使うまでもなく、癒しの力の施しで何とかなるものだった。
ナコラの子山羊のように生死をさ迷う状態ではない限り、再生の力は必要ないのだが、人々からすれば、その差が解る筈もなかった。
その後もほぼ毎日、再生の種を作りながら病人の相手もこなすサフォーネは、端から見てもその疲労が明らかだった。
ナチュアが止めるように言うのだが、平等に願いを叶えてあげたいと、依頼があれば応える状態で、結局それは最終日まで続いた。
ボルザークとミゼラは、サフォーネの遊び相手としての役割が叶わず、がっかりする半面、心配が先行して蒼の聖殿に帰る朝、二人で話し合った。
「この状況、改めた方がいいと思うな…このままではサフォーネが倒れてしまう…」
「そうだな…これは問題として報告しよう」
ルシュアは二人からの報告を受けると、その月のサフォーネの浄清の天使としての活動を半減させ、『再生の館』建立後は、新たな掟を設けようと王都と話合うことにした。
アリューシャの精霊石を通して行われた緊急会議は、蒼の聖殿側からルシュアとババ様が、王都側には、祖人の王とフノラが顔を揃えた。
『なるほど…しかし、全ての民にそれらを理解させるのは難しくは無いだろうか?』
祖人の王の懸念に、ババ様が口を開く。
「そうですね。ならばいっそ、そういう願いも聞き届けてしまうのはいかがでしょう?サフォーネの負担を減らすために、再生活動期間中には、こちらから癒しの天使も派遣させましょう」
その提案に、王も納得したように頷いた。
一度受け入れてしまったものを撤回すれば、不満を漏らす者も増え、下手をすると暴動も起きかねない。
王の考えを察知したか、フノラが素早く館建設の工程表を捲りだす。
『この段階でしたら、まだ館の内部構造は手が加えられそうですね。癒しの天使たちが滞在する部屋と、癒しを行う部屋を用意できると思います』
『解った。ではそのようにしよう』
祖人の王の言葉に、フノラは執務机でその工程表に手を加え始めた。
ルシュアが加えて切り出す。
「ただ、それだけでは民の心も納得しないでしょう。再生の天使に会いたくてやってくる者も多いはずです。そういった者たちと顔を合わせる時間を設けたいと考えているのですが」
それには祖人の王が唸り声を上げた。
『それはそうかもしれぬが…。やはり姿は見せない方がいいのではないか?再生の天使の容姿に不安を抱く者が暴挙に出る恐れもあるからと…最初にそのように決めた筈だが…』
祖人の王の親心が垣間見えると、アリューシャは静かに口元に笑みを浮かべたが、今回は交信術師として口を挟まないことにしている。
ルシュアなら、納得のいくことを言ってくれると信じ、そちらを見た。
「はい。そのつもりでしたが、館が完成すれば、こちらの派遣騎士に加えて、王都の兵士たちも増えます。そういった点で安全面は増えますし、これまで二回の活動期間中に起こった問題点の改善も含め、厳しい規則を設ければ…」
『…うーむ……』
蒼の聖殿にとって財産と言える天使に対し、彼らが考えることに間違いはないのだろう。
だが、承諾しかねる自分がいる。
それは何故なのか…。
顔を上げると、フノラの強い視線とかち合った。
『…いや、解った。では、その掟を設け、再生の天使との対話の時間を増やすことにしよう』
明らかに、自身が公務とは違う感情に流されそうになっていることに気が付いた王は、咳払いをするとそう返した。
「承知いたしました。では…」
再生の館運営に向けての話し合いはその後も続き、準備は着々と進んで行った。
そして三回目の再生活動。初夏を迎える『待機の月』に、ようやく『再生の館』が完成された。
館の設計も急遽変更されたが、何とか目標の二ヶ月でその施工が完了すると、その知らせは、また大陸中に広められた。
その頃には、再生の力の噂が噂を呼び、一日に百人以上の人が押し掛けると予測された。
今回の護衛には、第二部隊のカルニスとニカウがつくことになった。
聖殿の前に停められている天馬の馬車には、既に癒しの天使が二名乗車している。
その馬車の前で、カルニスはサフォーネに頭を下げた。
「ごめん。本当なら、隊長が来るはずだったんだけど、今回の任務の事後処理に追われて、俺たちが代わりに…五日後くらいに合流すると言ってるから…そうがっかりしないでくれよ…」
第二部隊の騎士が護衛に入ると聞いたのは、昨日のことだった。
サフォーネはてっきりデュークが来るものと思い込んでいたのだが…。
思い切り落胆したサフォーネの表情を目の当たりにして、カルニスが申し訳なさそうに説明すると、ナチュアが苦笑を漏らしつつ、元気な声をあげる。
「サフォーネ様、そうがっかりなさらずに。皆さんが造ってくれた新しい館は、きっと素晴らしいですよ?」
ナチュアは設計当初からアリューシャの精霊石を通して企画に参加し、サフォーネが過ごしやすいようにと、様々な注文を出していたのだ。
ひょっとしたら、サフォーネ以上に館の完成を待ちわびていたかもしれない。
そこへトワが聖都から到着した。
乗合馬車で聖殿の正門前で降りると、社を抜けて駆け寄ってきた。
「遅くなって悪い。…いよいよ、完成したんだってな、楽しみだな?サフォーネ」
二人に元気づけられ、サフォーネもようやく笑顔を取り戻す。
聖殿で過ごす間、休暇を多めにもらえたおかげで体力も回復している。
力強く頷くと、馬車に乗り込んだ。
蒼の聖殿からセレーネ島まで、天馬の馬車で小一時間で到着する。
その道中で、ほぼ初顔合わせの癒しの天使たちがそれぞれ自己紹介をしてきた。
一人は長い白髪を一つに束ねた初老の夫人で、もう一人は珊瑚色の柔らかい髪を肩までに揃えた幼い少女だった。
「私はスラワと申します。騎士様たちに同行したのはもう何年前かしらね…。皆さんから見ればお婆ちゃんだけど、聖殿内で癒しのお仕事はまだ現役でやっているのよ?よろしくね。それからこちらは私の孫の…」
「マオラです。13歳になります。先日やっと一人前と認められたばかりですが…。サフォーネ様をお助けできるよう、精一杯頑張ります!」
恐らくルシュアの計らいなのだろう。
どちらも穏やかで親しみやすい人柄にナチュアはほっとした。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。再生の館になって初めての試みになりますが…どうか、サフォーネ様をお支えください」
ナチュアが頭を下げると、それを見たサフォーネも頭を下げたので、二人はきょとんとした。
その様子にトワが笑い出す。
「まぁ、畏まらず気楽にやろうぜ。俺はトワ。今日から再生の館に居候する身だ。恐らく今日はかなりの人出になると思うからな。よろしく頼むぜ?」
セレーネ島までの短い道のりは談笑に包まれた。
三日月湖に近づくと、御者台のカルニスとニカウが、島が見えてきたと知らせてくれた。
馬車から見下ろすと、島の中にこれまではなかった建物が見え、その館と橋を結ぶように道が造られている。
カルニスは、ナチュアの要望で馬車をその道沿いに降り立たせた。
道は石畳になっており、これまでの草地より歩きやすそうだ。
天馬をゆっくり歩ませ、徐々に近づいてくる館を馬車から覗き見る。
「上から見たときはちょっと小さいと思ったけど、思ってたより立派じゃないか…」
カルニスの言葉にナチュアが得意そうな顔をした。
館は、青色の屋根に三階建ての木造建築になっている。
トワが長く過ごすことを考え、また、サフォーネの出身が緑の聖都ということで、ナチュアは森の恵みである木製の家がいいと思っていたのだ。
正門まで来ると、王都から派遣された兵士が三名近づいてきて敬礼する。
カルニスが馬を止めるとひとりが手綱を受け取り、他二名は馬車の乗降口に回った。
「サフォーネ様ですね。お待ちしておりました」
一礼する兵士たちに戸惑いながらもサフォーネが頷くと、ひとりの兵士が手を差し伸べてきた。
その意味が分からないでいると、横からトワが馬車を飛び降りるのが見えて、サフォーネもそれに続こうとした。
「あ、危ないですよ!」
兵士は咄嗟にサフォーネを抱き留めたが、気安く触ってしまったことに恐縮したか、静かにサフォーネを地に降ろすと、兜の柄を下げて一礼した。
その耳が真っ赤になっているのを見てトワは吹き出した。
続いて、ナチュアや癒しの天使たちも、兵士に手を取ってもらいながら馬車を降りる。
「天馬と馬車はお預かりします。皆様はどうぞ館の方へ」
兵士の言葉に一同は歩を進め、正門を潜りながら辺りを見渡した。
館を囲うように塀は拵えてあるものの、それは子供でも簡単に飛び越えられるほど低く、圧迫感は無かった。
塀沿いには張役の詰め所となる建物が二軒用意され、王都から派遣された兵士と、蒼の聖殿から来る騎士の滞在場所となるようだった。
その奥には馬車を納める倉と、馬舎もある。
聖殿の造りをそのまま小さくしたようだ。
「…わぁ、近くで見ると、すごいですね…」
正門を潜ったところで、館を見上げたニカウから、思わず声が漏れた。
木造の外壁には随所に植物の彫刻が施され、屋根も飾り彫になっていて、美しくも愛らしい印象だ。
マオラはその建物に一度で魅了されたか、両手を組んで目を輝かせている。
スラワも「ほう」と息を吐いた。
「再生の力を象徴するものがあるといいのでは…と、これはデューク様の意見でしたが、予想以上でしたね…」
その彫刻の中にサフォネリアを象ったものもあり、サフォーネに笑顔が溢れた。
「さぁ、こちらもきっと、サフォーネ様に喜んでいただけますよ?」
ナチュアに促され、サフォーネを先頭に皆ついて行く。
門を抜け、館に続く敷石の両側には小さな庭が造られていた。
その中央にあるものを見て、サフォーネは目を輝かせて歩み寄る。
「ふんすい…!」
そこには、聖殿よりも半分くらいの大きさだったが、小さな噴水が造られていた。
三段の水受けも、聖殿の噴水と似た造りになっている。
小さいとはいえ、館の敷地には十分な存在感だ。
「聖殿でのサフォーネ様のお好きな場所を、こちらの館にも造ってもらったんです」
ナチュアの言葉にサフォーネは振り返ると、感謝の気持ちのまま抱き着いた。
「ありがと…ナチュ…」
サフォーネの喜びが伝わると、ナチュアもほっとし目を潤ませる。
そんな二人を他所に、トワが噴水を覗き込んでその水を掬い上げた。
「こりゃ冷たくて気持ちいい。夏の水浴びには最高だな」
「ちょ…トワ様?噴水はそんなことに使うものではありません!」
トワの言葉に驚いてナチュアが訂正すると、皆が笑った。
再び歩を進め、館の玄関に立つ。
教会のように重厚な扉を、カルニスとニカウが引き開けると、種を求めてきた人を受け入れる広間が用意されていた。
広間の端には控え部屋もあり、待機が必要な訪問者に利用して貰えるようになっている。
「へぇ…聖殿の中央塔と似てるなぁ」
「この扉は、聖殿の正面入り口と同じく、活動時間中は開け放つことにするそうです。訪ねてきてすぐに依頼を受け付けてもらえる印象にしたいとか…」
室内は木の作りとはいえ、壁の一部は灰と砂と水を混ぜた土壁も使用されていた。
その白い壁が、より『聖なる場所』を表すようで、レンガで作られた祭壇のような場所には椅子が設えてあり、絹の敷物が架けられていた。
「ここがサフォーネ様のお席になります」
「え?サフォーネは表に出ないんじゃなかったのか?」
カルニスの言葉にナチュアは静かに頷いた。
「今まではサフォーネ様が直接訪問者と会うことは控えようという風潮でしたが…これからは一日のうちの数時間だけ、ここで訪問者の方と触れ合う機会を作ろう、いうことです。こちらで種を用意する以外にも要望はありますしね。それを直接聞き届けて欲しい、と」
「…サフォ、おはなし、する?」
「どちらかと言えば、お話を聞いてあげる、というほうですね。私も傍で一緒にお聞きしますので、その人の望みをかなえてあげるお手伝いをしましょう」
話の様子を聞きながら、トワが溜息をついた。
「何だか仰々しいな…サフォーネをどれだけ偶像化したいんだ?叶えられない望みが来たらどうするんだ」
「そこは前もって受け付けられる内容を提示するそうですよ?あとは、護衛の騎士様やトワ様の判断で断りを入れる、ってお聞きしてますけど…」
その言葉に、トワはルシュアを想い出した。
「任せる」とはこのことだったのか…?
少しだけ面倒になったのを感じながら、トワは乱暴に頭を掻いた。
「あ、この部屋がサフォーネの仕事部屋になるのかな」
カルニスが広間から続く扉の中を確認すると、荘厳な雰囲気を施した部屋があった。
「はい。そちらがサフォーネ様の仕事場『祈りの間』になりますね。窓も大きくしてもらいましたので、外の景色もよく眺められますよ?」
ナチュアの言葉にサフォーネも部屋を覗き、その奥にある大きな窓から見える景色を確認する。
そこには新緑が広がっており、メルクロの診療所がある林を思い起こさせた。
広間の両端には、二階に続く階段があり、そこを上がると、トワの部屋や、癒しの天使が寝泊まりする部屋、館の管理をする職員の部屋、彼らが生活に必要な設備も整えられていた。
「となると、三階がサフォーネの部屋か」
「はい。聖殿のサフォーネ様の部屋と似た部屋にして頂いています。私の控え部屋もありますから、聖殿で過ごすときと同じように、いつでも呼んでくださいね」
切り出されたばかりの木の匂いが心地よく、サフォーネは穏やかな気持ちになる。
三階の自分の部屋には大きなバルコニーもついていて、そこから見える景色は格別なものだった。
セレーネ島の美しい自然を飛び越えて、北西の方角に蒼の聖殿の形が浮かび上がっている。
「あおのせいでん、みえる…こっちも、みえる?」
「そうですね…高い塔のお部屋からなら、見えるかもしれませんね」
ナチュアの言葉に、サフォーネは笑顔を浮かべて大きく手を振った。
恐らくデュークに向かって手を振っているのだろうが、それは向こうから見える筈も無い。
皆そう思ったが、誰も笑おうとは思わなかった。
そこへ、ひとりの兵士がやってきて、敬礼と共に口を開いた。
「皆様、失礼いたします。この館に勤める者が一同集まりましたので、一階の『受け取りの間』にお越し頂けますか」
その言葉に、最初に通った広間に行くと、十名の男女が頭を下げて出迎えた。
王都から派遣された兵士が五名。
同じく王都から派遣された、館を管理する職員五名。
その中には、王都との連絡要員として、術師も派遣されているようだ。
職員の中で一番の年長者である初老の男性が一歩前に出てきた。
「サフォーネ様。お初にお目にかかります。私は祖人の王直属の部下、サニエルと申します。王都の代表としてご挨拶申し上げます。こちらに派遣された者たちは、皆、王より貴方様の活動をお助けするよう、直接命じられた者ばかりです。何かあれば遠慮なくお申し付けください。外にまだ二名ほど兵士がおりますが、その者たちも追々紹介致しましょう」
皆それぞれ名前を読み上げられると、一歩前に出て最敬礼する。
サフォーネは顔を覚えるのが精一杯のようだったが、ナチュアは抜かりなく全て記憶した。
続いて癒しの天使たちが挨拶を終えると、ナチュアがトワを皆に紹介した。
「サニエル様とトワ様のお二人で、再生の館を管理して頂くことになっておりますので、よろしくお願いします」
一同の顔合わせが終わったところで、外を守っていた兵士が一人、広間に入ってきた。
「訪問者の方が徐々に集まってきております。サフォーネ様、お支度を…」
その言葉に、皆の顔が引き締まった。
癒しの天使たちは『癒しの間』に移動し、兵士たちは裏口から詰め所へと戻って行った。
職員たちも自身の持ち場につく中で、サフォーネの元へ、サニエルが両手に包みを掲げてやって来た。
「王より、館の完成を祝って、サフォーネ様への贈り物になります」
ナチュアが受け取り、中を改めると目を見開いた。
それは、輝くような高価な絹で作られた肩掛けの衣だった。
どの衣装にも合いそうな、簡素で美しい装飾が施された上品な衣だ。
ナチュアは丁重にそれを拡げると、サフォーネの肩に掛けた。
その美しさに自然と一同から吐息が漏れる。
「素敵な衣です。良かったですね。サフォーネ様」
「…うん」
衣の肌触りは優しく、仄かに暖かい。
サフォーネは不思議と心が安らいだ。
「では、開門いたします」
兵士の言葉が届くと、サフォーネは顔を上げた。
~つづく~
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
インフィニティ•ゼノ•リバース
タカユキ
ファンタジー
女神様に異世界転移された俺とクラスメイトは、魔王討伐の使命を背負った。
しかし、それを素直に応じるクラスメイト達ではなかった。
それぞれ独自に日常謳歌したりしていた。
最初は真面目に修行していたが、敵の恐ろしい能力を知り、魔王討伐は保留にした。
そして日常を楽しんでいたが…魔族に襲われ、日常に変化が起きた。
そしてある日、2つの自分だけのオリジナルスキルがある事を知る。
その一つは無限の力、もう一つが人形を作り、それを魔族に変える力だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
精霊のジレンマ
さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。
そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。
自分の存在とは何なんだ?
主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。
小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
学園アルカナディストピア
石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。
その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。
何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。
【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。
スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。
国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。
国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。
何故か暗躍する人々。
大アルカナの中でも発生するスクールカースト。
入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。
ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……?
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる