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第2章 人狼さん、冒険者になる
32話 人狼さん、迷い込んだ模様
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「ところで、ニケはどこまで内情を知っているんだ?」
肉球に未練を残しながらも握手を解き、ポーカーフェイスのまま問うてみる。
この顔の表情筋が死んでいることに、何度助けられたことか。
中身の私がタダ漏れだったら、確実に残念なイケメンになっていたと思う。
「イヴァリースが黒狼を復元しようとして、中身を別世界にスカウトしに行ったというのは知ってるニャー。クロウがそのスカウトされてきた中身で、間違いないかニャ?」
「ああ、そうだ。イヴァリースが言うには、実験に付き合うのと黒狼のイメージを改善するのが俺の役目らしい」
ふむ。大体の話は通っているんだね。
私がこの体と別の意識体だと知ってるなら、話がおかしくなることは無さそうかな。
「ム、僕もそう聞いてるニャ。それと、イヴァリース的には復元の話は広める気は無い様だニャ。クロウは黒狼の生き残りとして口裏合わせるニャー」
「ああ、そうらしいな。人狼の里でもそう言われたぞ」
そうそう。
イヴァリースは復元出来ることを、この世界の人達にら知られたくないらしいんだよね。
まだ実験中だし、他も復元してくれって頼まれるとメンドイとか言ってるって、神託聞いたノアが呆れてたからな……。
「今の所イヴァリースが復元したいのは黒狼だけのようだニャ。他は諦めたようだから、上手くいくといいニャ」
うんうんとニケが頷く。
え? 他にも絶滅した種族って、いるんじゃなかったけ?
で、その中で黒狼だけ復元に成功したって言っていたような……。
他は諦めたって、諦めるの早!
まぁ、神様っていうのは気まぐれで自分勝手と相場が決まってるしね。好きにやればいいんじゃないかな。
私はヒナと日本にいた頃のように生活出来れば文句は無いしね。
まだそこまで到達してないけどさ。
「けど、ユーシスの体を復元するとは思ってなかったニャー。もっと人懐っこい個体がいたはずニャ。黒狼の印象を良くするのに、強面のユーシスはないニャ……」
そう首を振りながら言われ、全力で頷いて見せる。
私もそう思うよ。絶対この顔のせいで、しなくていい損をしていると思う。
でも、この体の恩恵や強さには助けられてきたので、あながち悪い選択ではないのかとも思う。
あの神様がそこまで考えてこの個体にしたのかは分からないけど。
「で、そのユーシスというのがこの体のオリジナルなのか? ニケみたいに顔見知りがいたらややこしいな」
「それは大丈夫、本体は百年以上前の個体だニャ。クロウのいる場所なら問題無いニャ」
「そうなのか」
そういや、死んでるとか言ってたもんね。
百年以上前か。なら、この体の知り合いに会うことは無いかな。
一応人狼は人間と同じぐらいの寿命だし、他の亜人もそれぐらいだ。百年生きれば御の字と言われているから、他種族でもオリジナルの体の知り合いはいないだろう。
いたとしても、亜人の中で長生きなエルフぐらいかなぁ。でも、彼らは他の人族にあまり興味を持たないから、絡まれることは無さそう。
もし知り合いに出会ったとしても、他人の空似で十分通用するでしょ。というか、私がそう押し通す。説明するのが面倒だもん。
それにしてもこの体、やっぱり古い個体だったんだね。通りで周囲から浮いてると思ったよ。堅苦しい口調にも納得だ。
まぁ、みんな気にしないで接してくれてるみたいだからいいけどさ。
私は地の口調さえ出なければどうでもいいんだけどね。
「ところで、ここはどこなんだろうか。いつの間にか別の場所に来てしまったようなんだが」
周囲をぐるりと見まわすが、私のいた昼の世界はどこにも見当たらない。
あるのは、不思議な光る木や花が咲いている夜の世界だけだ。
ここって綺麗なんだけど、静かすぎてなんだか怖くなる。
索敵が機能しないせいか、生き物の気配が全然しないんだよね……。
「フム。クロウは妖精の道に迷い込んだんだニャ」
「妖精の道?」
なにそのメルヘンな名前。可愛くない?
「僕らのいる幽世と、クロウのいる現世を結ぶ道ニャ。普通は現世の住人は生きたままは通らない道ニャ。何故かクロウは、そこを通って幽世に来てしまっている状態ニャ」
へー、そうなんだ。
そういえば、幽世って聞いたことがある。
それって死後の世界じゃなかったっけ? それか神域。黄泉の世界もあったはず。日本神話に出てくるよね。
あと、生きたままは通らない道って……あ、あれ? 一気に怪しくなったんですけど?
というか、また死んだの、私。え?
やっとヒナに会えたのに、運無くない!?
「ちょっと待ってくれ。幽世というのは死後の世界では……」
「それは常世だニャ。死者の住む世界だニャ。幽世は僕たち幻獣や神々が住む世界だニャ」
え、そうなんだ?
常世は幽世の別の読み方じゃ……ああ、これは日本の神話だったね。
在り方が若干違うんだ。
似ているせいで余計にややこしいな。一旦まとめてみようか。
えーっと、幽世が神様や幻獣の住む場所で、現世が私達が住む場所。
常世が死人の住む場所、という感じかな。
で、妖精の道とやらは普通は通らない道で、たまたま私が入り込んで幽世に来てしまった、と。
「という事は、俺は死んでないんだな」よかったぁ。また死ぬとかシャレにならないよ。
「当たり前だニャー」
呆れた顔でモノクルを元の位置に押し上げるニケ。
その際にチラリと、なめし皮のような肉球が見えた。
うおお、肉球可愛い……。
「俺のいた世界では、幽世と常世は同じ意味だったんだ。こちらでは別なんだな」
「それはややこしいニャ。まぁ、死んではいないから安心するといいニャ」
「ああ。それを聞いて安心した」
いやぁ、良かった良かった。
思わず胸を撫でおろす。
そんな私から視線を逸らして、ニケがポツリと呟く。
「でも、人族じゃ自力で戻れないから、いつか力尽きて常世へ旅立ってしまうニャ……」
「は?」
ちょ、それって、全然安心できない状況じゃん!
肉球に未練を残しながらも握手を解き、ポーカーフェイスのまま問うてみる。
この顔の表情筋が死んでいることに、何度助けられたことか。
中身の私がタダ漏れだったら、確実に残念なイケメンになっていたと思う。
「イヴァリースが黒狼を復元しようとして、中身を別世界にスカウトしに行ったというのは知ってるニャー。クロウがそのスカウトされてきた中身で、間違いないかニャ?」
「ああ、そうだ。イヴァリースが言うには、実験に付き合うのと黒狼のイメージを改善するのが俺の役目らしい」
ふむ。大体の話は通っているんだね。
私がこの体と別の意識体だと知ってるなら、話がおかしくなることは無さそうかな。
「ム、僕もそう聞いてるニャ。それと、イヴァリース的には復元の話は広める気は無い様だニャ。クロウは黒狼の生き残りとして口裏合わせるニャー」
「ああ、そうらしいな。人狼の里でもそう言われたぞ」
そうそう。
イヴァリースは復元出来ることを、この世界の人達にら知られたくないらしいんだよね。
まだ実験中だし、他も復元してくれって頼まれるとメンドイとか言ってるって、神託聞いたノアが呆れてたからな……。
「今の所イヴァリースが復元したいのは黒狼だけのようだニャ。他は諦めたようだから、上手くいくといいニャ」
うんうんとニケが頷く。
え? 他にも絶滅した種族って、いるんじゃなかったけ?
で、その中で黒狼だけ復元に成功したって言っていたような……。
他は諦めたって、諦めるの早!
まぁ、神様っていうのは気まぐれで自分勝手と相場が決まってるしね。好きにやればいいんじゃないかな。
私はヒナと日本にいた頃のように生活出来れば文句は無いしね。
まだそこまで到達してないけどさ。
「けど、ユーシスの体を復元するとは思ってなかったニャー。もっと人懐っこい個体がいたはずニャ。黒狼の印象を良くするのに、強面のユーシスはないニャ……」
そう首を振りながら言われ、全力で頷いて見せる。
私もそう思うよ。絶対この顔のせいで、しなくていい損をしていると思う。
でも、この体の恩恵や強さには助けられてきたので、あながち悪い選択ではないのかとも思う。
あの神様がそこまで考えてこの個体にしたのかは分からないけど。
「で、そのユーシスというのがこの体のオリジナルなのか? ニケみたいに顔見知りがいたらややこしいな」
「それは大丈夫、本体は百年以上前の個体だニャ。クロウのいる場所なら問題無いニャ」
「そうなのか」
そういや、死んでるとか言ってたもんね。
百年以上前か。なら、この体の知り合いに会うことは無いかな。
一応人狼は人間と同じぐらいの寿命だし、他の亜人もそれぐらいだ。百年生きれば御の字と言われているから、他種族でもオリジナルの体の知り合いはいないだろう。
いたとしても、亜人の中で長生きなエルフぐらいかなぁ。でも、彼らは他の人族にあまり興味を持たないから、絡まれることは無さそう。
もし知り合いに出会ったとしても、他人の空似で十分通用するでしょ。というか、私がそう押し通す。説明するのが面倒だもん。
それにしてもこの体、やっぱり古い個体だったんだね。通りで周囲から浮いてると思ったよ。堅苦しい口調にも納得だ。
まぁ、みんな気にしないで接してくれてるみたいだからいいけどさ。
私は地の口調さえ出なければどうでもいいんだけどね。
「ところで、ここはどこなんだろうか。いつの間にか別の場所に来てしまったようなんだが」
周囲をぐるりと見まわすが、私のいた昼の世界はどこにも見当たらない。
あるのは、不思議な光る木や花が咲いている夜の世界だけだ。
ここって綺麗なんだけど、静かすぎてなんだか怖くなる。
索敵が機能しないせいか、生き物の気配が全然しないんだよね……。
「フム。クロウは妖精の道に迷い込んだんだニャ」
「妖精の道?」
なにそのメルヘンな名前。可愛くない?
「僕らのいる幽世と、クロウのいる現世を結ぶ道ニャ。普通は現世の住人は生きたままは通らない道ニャ。何故かクロウは、そこを通って幽世に来てしまっている状態ニャ」
へー、そうなんだ。
そういえば、幽世って聞いたことがある。
それって死後の世界じゃなかったっけ? それか神域。黄泉の世界もあったはず。日本神話に出てくるよね。
あと、生きたままは通らない道って……あ、あれ? 一気に怪しくなったんですけど?
というか、また死んだの、私。え?
やっとヒナに会えたのに、運無くない!?
「ちょっと待ってくれ。幽世というのは死後の世界では……」
「それは常世だニャ。死者の住む世界だニャ。幽世は僕たち幻獣や神々が住む世界だニャ」
え、そうなんだ?
常世は幽世の別の読み方じゃ……ああ、これは日本の神話だったね。
在り方が若干違うんだ。
似ているせいで余計にややこしいな。一旦まとめてみようか。
えーっと、幽世が神様や幻獣の住む場所で、現世が私達が住む場所。
常世が死人の住む場所、という感じかな。
で、妖精の道とやらは普通は通らない道で、たまたま私が入り込んで幽世に来てしまった、と。
「という事は、俺は死んでないんだな」よかったぁ。また死ぬとかシャレにならないよ。
「当たり前だニャー」
呆れた顔でモノクルを元の位置に押し上げるニケ。
その際にチラリと、なめし皮のような肉球が見えた。
うおお、肉球可愛い……。
「俺のいた世界では、幽世と常世は同じ意味だったんだ。こちらでは別なんだな」
「それはややこしいニャ。まぁ、死んではいないから安心するといいニャ」
「ああ。それを聞いて安心した」
いやぁ、良かった良かった。
思わず胸を撫でおろす。
そんな私から視線を逸らして、ニケがポツリと呟く。
「でも、人族じゃ自力で戻れないから、いつか力尽きて常世へ旅立ってしまうニャ……」
「は?」
ちょ、それって、全然安心できない状況じゃん!
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