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美しい装飾の街

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 彩り鮮やかなレタスとキュウリとトマトのサラダに黄金色のオニオンスープ。
 なすの煮浸しに芋を揚げてトマトソースとチーズをかけたピザもどきのようなものが机いっぱいに並んでいる。そして何よりも
「はい、どうぞ」
 微笑んでイヴが置いたのはオムライスだった。ソーセージたっぷりのチキンライスの上にはふわふわの半熟卵、その上にはキノコを混ぜ込んだ白いホワイトソースがたっぷりとかかっていて暖かい湯気をだしていた。人数分のオムライスをおのおのの前に置くと、イヴはゆっくりと自分も席へとついた。
 大変満足である。
 ちなみに老女はこの部屋にはいない。
 労働の代金として勝ち取った2階の部屋で、一行はやっと報酬を受け取っているところだった。
 それぞれお祈りをしたりしなかったりしながら食べ始める。リオンは少しだけ悩んだ後にお祈りをしないことに決めたらしい。
 それでいいと思う。
 思うに、リオンはこれまで自分の意思で何かを決めてきた経験が少ないのではないだろうか。
 親と教会の意思で引き取られ、国の意思で放置された。
 経験が少ないということは、学習する機会が少なかったということだ。
 いいや、その言い方は適切ではない。人はいつだって小さな決断を積み重ねて生きている。リオンだって決断をしてきたはずだ。諦める、という決断を。
 リオンはいつだって何かの選択の際にはきっと諦めるという決断を重ねて生きてきたのだ。
 しかしそれではこれから先、何か大きな決断をしなくてはいけない場面でリオンは困ってしまう。
 例えば自身の生き死にや、これから先の人生の可能性のすべて。
 それさえも諦めてしまうのならば本人さえ納得していれば良いのかも知れない。
 諦めてしまえば心は波立たずいつだって水平なままで、ある意味では安泰だ。
 しかしまだ10歳になるかならないかくらいの少年にその道筋をつけてしまうのは、あまりにも酷なのではないだろうか。
 普通幼い子どもの最初の道筋は、周りの大人がある程度はつけるものだ。
 それが正道であれ悪路であれ、なんらかの痕跡は存在する。
 それをたどって人は大人になり、そこから先の道を自力で開いていくのだ。
 リオンの道は真っ直ぐに美しく滅亡へと向かって整えられている。
 そこが穏やかな死に場なのか凄惨な死に場なのかはわからないが、その道の両脇にある柵は強固で誰かが壊してやらなければ、このままリオンは屠殺場まで歩いて行ってしまうのではないかとイヴにはそう思えてならない。
 何も知らず、たいして考えもしないまま。
 考えた結果そちらの道を選ぶのならば、それでもかまわないとイヴは最初そう思っていた。
 これはイヴの我が儘だ。ただの感傷だ。
 けれどその姿がイヴの心を確かにひっかいて、なんとかしたいという衝動を呼び覚ましたのだ。
 ありていに言ってしまえば納得がいかない。
 それがイヴを突き動かした原動のすべてだ。
 しかし今は考えた結果、リオンが死を選んでしまうことを恐れている。
 できることならば彼のこの先の人生に幸いがありますように。
 食事中に捧げる祈りではないが美味しそうにイヴの作ったオムライスをほおばる姿に、そう願わずにはいられなかった。
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