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町の外への遠い道のり
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「言葉がなんの救いになる」
「言葉だけじゃだめね。でも行動だけでもいけないわ」
イヴとジルはじっ、とお互いの目を見つめ合う。
紫の瞳と碧い瞳が交叉した。
「逃げ場所なんてねぇぞ」
先に目をそらしたのはジルだった。
「他国に行けば、容姿が伝わっていない分、人目は逃れられるかも知れねぇ。だが、角がある以上魔王は魔王だ。一生こそこそと逃げ続けるはめになる」
「ごめんね」
今からでも抜けてもいいのよ、とイヴは微笑む。
正直な所、ジルを巻き込むべきではないとわかってはいるのだ。
「おじさんはもう十分過ぎるほど手伝ってくれたわ。ここから先は、わたしとリオンだけでなんとかするから……」
あ、でも具体的にどう逃げたらいいのかとか作戦とか教えてくれてから抜けてもらえると助かるわ、とイヴが茶化す前に、
「そうじゃねぇ」
言葉を遮ると、ちっ、とジルは舌打ちを一つした。
「おまえら二人でどうにかできるわけねぇだろ」
「だから……」
「もういい。それよりもこれからのことだ。とにもかくにもまずは国外に出ることを目指さなきゃならねぇ。それには選択肢が3つあるが、あいにくと実現可能性があるのは1つだけだ」
「……。どうして?」
どうやらジルにはもう取り合う気がないらしい。実際問題ジルにある程度手伝ってもらわなくてはいけないので、イヴもそれ以上はもう言わなかった。
「海路と空路には“つて”がねぇ」
ずばり、とジルはそう断じる。それに「鳥便を使えばいいのに」とイヴは巨鳥で人の乗るゴンドラを運ぶ公共交通機関の利用を提案したが、すぐに「馬鹿言え、空中で襲われたらどこにも逃げ場がねぇぞ」とあっさりと切って捨てられた。
「元盗賊さんでも逃げるのは難しいのねぇ」
イヴはため息をつく。
「とうぞく」
いままで会話に混じらず飴に夢中だったリオンがその言葉に反応を示す。
「あら、リオン、盗賊を知っているの?」
「知ってる。ギルフォード・レインのこと」
ギルフォード・レイン。それはこの国で一番有名な盗賊と言っても差し支えないだろう。
騎士にも関わらず、盗賊達の手引きをして王宮の財宝をごっそりと盗んでいってしまった大悪党だ。
悪事が露呈して以降はその盗賊団の主要な戦闘要員としてそれはもう腕を振るったという。
最も、最近は雲隠れしてしまったのか影も形も姿が見えず、噂だけが1人歩きをしている状態だが。
「偉いのねぇ、でも盗賊はギルフォード・レインだけじゃないのよ。そんなに有名じゃなくて、そんなに優秀じゃない盗賊もたくさんいるの」
こてり、とリオンは首を傾げる。
「おじさんは優秀じゃない盗賊?」
「盗賊だった時のおじさんのことは良く知らないけど、ジルって名前の盗賊は聞いたことがないわねぇ」
「うるせぇな、ほっとけ!」
2人の言いたい放題の言葉にジルが割って入る。
「言っとくがこう見えておれぁ、昔は名の知れた盗賊だったんだからな。俺の名前を聞くとみんな震え上がったもんだ」
「自分で言うとかちょっと痛々しいわ」
「いたいたしい」
「うるせぇ、指さすな」
ごほん、と咳払いをして、ともかく、とジルは話を無理矢理元に戻した。
「陸路を行くしかねぇ、正確に言うなら山越えだ」
ジルが指さす先には、頂上付近がもやに覆われてその全体像は見えないものの、それでもこの距離から視認できるほどに大きな山脈が遠くにその姿を覗かせていた。
「リリクラック山脈、あそこを超える。他にも近い国境はあるがどこも警備が厳重だしなにより軍事国家のアイドグリーンに向かうより、商業国家のシシリアに向かったほうが後々の逃亡を考えるとやりやすい」
「そうなの?」
「アイドグリーンは閉鎖的過ぎてよそ者が目立つ。それに対してシシリアは商業国家なだけあって貿易が盛んだ。見かけねぇ顔があってもあまり気にされねぇ」
「言葉だけじゃだめね。でも行動だけでもいけないわ」
イヴとジルはじっ、とお互いの目を見つめ合う。
紫の瞳と碧い瞳が交叉した。
「逃げ場所なんてねぇぞ」
先に目をそらしたのはジルだった。
「他国に行けば、容姿が伝わっていない分、人目は逃れられるかも知れねぇ。だが、角がある以上魔王は魔王だ。一生こそこそと逃げ続けるはめになる」
「ごめんね」
今からでも抜けてもいいのよ、とイヴは微笑む。
正直な所、ジルを巻き込むべきではないとわかってはいるのだ。
「おじさんはもう十分過ぎるほど手伝ってくれたわ。ここから先は、わたしとリオンだけでなんとかするから……」
あ、でも具体的にどう逃げたらいいのかとか作戦とか教えてくれてから抜けてもらえると助かるわ、とイヴが茶化す前に、
「そうじゃねぇ」
言葉を遮ると、ちっ、とジルは舌打ちを一つした。
「おまえら二人でどうにかできるわけねぇだろ」
「だから……」
「もういい。それよりもこれからのことだ。とにもかくにもまずは国外に出ることを目指さなきゃならねぇ。それには選択肢が3つあるが、あいにくと実現可能性があるのは1つだけだ」
「……。どうして?」
どうやらジルにはもう取り合う気がないらしい。実際問題ジルにある程度手伝ってもらわなくてはいけないので、イヴもそれ以上はもう言わなかった。
「海路と空路には“つて”がねぇ」
ずばり、とジルはそう断じる。それに「鳥便を使えばいいのに」とイヴは巨鳥で人の乗るゴンドラを運ぶ公共交通機関の利用を提案したが、すぐに「馬鹿言え、空中で襲われたらどこにも逃げ場がねぇぞ」とあっさりと切って捨てられた。
「元盗賊さんでも逃げるのは難しいのねぇ」
イヴはため息をつく。
「とうぞく」
いままで会話に混じらず飴に夢中だったリオンがその言葉に反応を示す。
「あら、リオン、盗賊を知っているの?」
「知ってる。ギルフォード・レインのこと」
ギルフォード・レイン。それはこの国で一番有名な盗賊と言っても差し支えないだろう。
騎士にも関わらず、盗賊達の手引きをして王宮の財宝をごっそりと盗んでいってしまった大悪党だ。
悪事が露呈して以降はその盗賊団の主要な戦闘要員としてそれはもう腕を振るったという。
最も、最近は雲隠れしてしまったのか影も形も姿が見えず、噂だけが1人歩きをしている状態だが。
「偉いのねぇ、でも盗賊はギルフォード・レインだけじゃないのよ。そんなに有名じゃなくて、そんなに優秀じゃない盗賊もたくさんいるの」
こてり、とリオンは首を傾げる。
「おじさんは優秀じゃない盗賊?」
「盗賊だった時のおじさんのことは良く知らないけど、ジルって名前の盗賊は聞いたことがないわねぇ」
「うるせぇな、ほっとけ!」
2人の言いたい放題の言葉にジルが割って入る。
「言っとくがこう見えておれぁ、昔は名の知れた盗賊だったんだからな。俺の名前を聞くとみんな震え上がったもんだ」
「自分で言うとかちょっと痛々しいわ」
「いたいたしい」
「うるせぇ、指さすな」
ごほん、と咳払いをして、ともかく、とジルは話を無理矢理元に戻した。
「陸路を行くしかねぇ、正確に言うなら山越えだ」
ジルが指さす先には、頂上付近がもやに覆われてその全体像は見えないものの、それでもこの距離から視認できるほどに大きな山脈が遠くにその姿を覗かせていた。
「リリクラック山脈、あそこを超える。他にも近い国境はあるがどこも警備が厳重だしなにより軍事国家のアイドグリーンに向かうより、商業国家のシシリアに向かったほうが後々の逃亡を考えるとやりやすい」
「そうなの?」
「アイドグリーンは閉鎖的過ぎてよそ者が目立つ。それに対してシシリアは商業国家なだけあって貿易が盛んだ。見かけねぇ顔があってもあまり気にされねぇ」
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