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7.女神VS吸血鬼

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「昨日も思ったんですがなんか、多くないですか?」

 空に蠢く巨大な影とその周囲を飛び回る小さな影を見上げて莉々子はぼやいた。
 夜が明けて白み始めた空を傍目に二人は山の中を彷徨い歩いていた。
 昨日は動揺しすぎて現在位置などろくに考えもしなかったが、こうして見ると随分と下まで落とされたらしい。
 下に落とされたということはそれだけ街に近づいたという意味でもあるが、本道からずれてしまうということはそれだけ街に辿り着きづらいということでもある。
 方位磁石を片手に崖の上にあるはずの本道からあまり離されないように街に向かって併走して歩くユーゴの後ろをぼやっとついていくのが目下の莉々子の仕事である。
 あまりしっかり眠れた気はしないがそれでも休憩にはなったのか、意外にその足取りは軽かった。

「エラントドラゴンだけでなくコモドラゴンもいたらしいな。下見をしに来て正解だった」
「コモドラゴン……」

 どこかで聞いた単語だと思ったら、それも食堂で青鷹団と一緒の時に聞いた言葉だった。
ニュアンスからしてエラントドラゴンよりも小さくて弱い種類のドラゴンのようだったが、いくら弱いといえどあの数は十分に脅威な気がする。

「今こうして見るだけでも12羽はいますね」

 果たして『12羽』という数え方が正しいのかどうかはわからないが、まぁ、羽が生えて飛んでいるから鳥類の一種のようなものだろう。

「12か……」

 数え方には言及せずにユーゴは莉々子の発言を反芻した。

「当初の設定を見直さなくてはならんな。戦力が足りんかもしれん」
「というか元々足りてない計算なんですけどね」

 240人で辛勝した相手に12人で挑むというザルというのもあまりに無礼な計算だ。
 莉々子のちゃちゃに、ユーゴはごほん、と威厳たっぷりに咳払いをしてみせた。

「当初の予定では“ほどほどに足りていない”状況だったんだ。それがコモドラゴンの出現で“かなり足りていない”状況になってしまった」
「というか種類の違う生き物同士が同じ範囲に存在するなんて、単純に縄張り争いで共食いでもしてくれる状況なのでは?」

 ユーゴの言い分を無視して莉々子はぼやく。しかしその推測にユーゴは「いや……」と首を横に振った。

「コモドラゴンという生き物は非常に珍しい性質の持ち主でな。種類が異なっていても自分よりも強いと認識した相手には服従してしまう性質があるのだ。良くある目撃例では今回のようにエラントドラゴンのような強力なドラゴンに付き従っているものが多いが、珍しい例では狼に従っていたこともあるという。あとはまぁ、人間にも服従しやすいからよく飼育されている個体でもあるな」
「なんていうはた迷惑な性質なんでしょう」

 うんざりとした表情を隠せない莉々子にユーゴは苦笑する。

「強い個体に追従することで生き残るという方策をとっているのだろう。まぁ、そこまでとんでもない理屈でもない」

(まぁ、確かに……)

 ふてくされながらもそう言われると否定は出来ない。現在の莉々子もユーゴという“社会的地位のある強い異世界人”に生きるために服従しているような状態なのだ。
 そう思うとなんだかコモドラゴンに対して急に親近感が湧いてきた。

(どこの世界にも媚びを売りごまをする小心者がいるんだな……)

 この異界の地で初めて同志に出会った気分だった。
 なんだか心がすがすがしい。

「何か馬鹿なことを考えているのはわかるが、ほどほどで切り上げろよ」

 ユーゴのいつもの千里眼が発現されたところで現実に戻ろう。
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