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6、聖人君子の顔をした大悪党
⑦
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「それ、見せてもらうことは可能なのですか?」
できれば使用しているところも見てみたいがさすがに手首を切り落とされるのは勘弁なので、試すことは出来ないだろう。
しかし、実物を見ることで気づけることがあるはずだ。
「見れないわよ。審判があるまで厳重に保管されているんだから」
「そこをなんとか!!」
襟元に食いつきそうな勢いで莉々子は詰め寄った。
アンナはますます後方へと下がる。
「ちょっと! さっきからなんなのよ、あんた!! 稀少な神器をそう簡単に見せられるわけないでしょ!!」
莉々子の圧迫に堪えかねて、アンナは喚いた。
その時、くふくふ、と笑うのをこらえるような声が聞こえて、莉々子ははた、と我に返る。
周囲を見渡した。
特になんの変哲もない。
(いや……?)
よく見ると、茂みがわずかに揺れていた。
近くにある樹木の葉は揺れていないため、風によるものではないだろう。
その揺れに合わせ、再びくふくふと笑い声が聞こえる。
(なんだ……?)
笑い声からして、猫ではないだろう。
ドラゴンがいるらしい世界だ。ゴブリンやらなにやらが出てきても驚かない。
――いや、やっぱり驚くかもしれない。不意打ちで出てこられたら。
ごくり、と唾を飲み込むと、莉々子は何が出てきても悲鳴を上げないように口をひき結び、おっかなびっくり、ゆっくりとその茂みをかき分けた。
かき分けた、が……、それだけでは相手の姿が見えない。
茂みに突っ込んだ指に、何か、滑らかな物が触れた。
(ひぃいいぃいっ)
内心で悲鳴をあげながらも、本当に声を出すのはなんとかこらえる。しかし、それ以上手を動かす勇気はない。
怖すぎて、後退することも出来なかった。
そのまま硬直していると、その滑らかな物の方が動いた。
すりすりと莉々子の手にその滑らかな身体らしきものをすりつけたかと思うと、なんだかねっとりとした、温かいものに莉々子の指は包まれた。
なんだ、これは。
莉々子はこの感触を知っているような気がする。
恐る恐る、自由な方の手で茂みを更に避け、ぬめぬめとした感触のある方の手を引き抜いた。
「うひ……っ」
思わず変な声を出して尻餅をつく。
それ、は莉々子の指を腔内に含んだまま、茂みから姿を現した。
滑らかな銀色の髪に、暗い青色の瞳。
長い睫をゆっくりとしばたたせる。
それは、まごう事なき、人間の成人男性だった。
「あら、こんなところに居たのね。駄目よ、勝手に出てきては……」
絶句する莉々子を尻目に、アンナはその不審な男性に嫌に優しげな声をかける。
大人にかけるにはあまりにも優しすぎる声かけだ。それはまるで、幼子でも相手にしているかのような話し口調だった。
「イーハ、人の指をくわえては駄目よ。茂みの中に隠れるのも駄目。危ないわ」
わかる? と確認するように伝えるアンナの言葉に、そのイーハと呼ばれた男性は無言でこくこくと頷くと、茂みからその全身を現した。
その意外に高い身長に、莉々子は座り込んだままのけ反る。
2mを超えているのではないだろうか。
遠近感が狂ってしまったような気がして、思わずぱちぱちと瞬きをした。
「リリィ、彼はイーハ。療養施設の職員よ」
「……はじめまして」
「いーは、はじぇまして」
彼は自身のことを指さすとイントネーションのおかしなカタコトの言葉を話した。
目を見張る莉々子に気にした様子もなくにっこりと微笑みかけると彼は手を差し出してくれた。
思わずぽかんとしたままその手を握る。
強い力でそのまま引っ張り上げられる。
「えっとぉ、……よろしく」
「よろしく」
彼の挨拶に莉々子も返事を返す。
しかし、その目は彼の口元に釘付けだった。
だってイントネーションがおかしい。
どこか平板で、起伏に乏しい。
(これは……)
彼の全身を思わず確認する。よく見るとその右腕はだらんと垂れ下がっているように見えた。
捕まれていた左手が離される。
にっこりと屈託なく微笑むその唇の右の口角は、左の口角よりも下がっていた。
できれば使用しているところも見てみたいがさすがに手首を切り落とされるのは勘弁なので、試すことは出来ないだろう。
しかし、実物を見ることで気づけることがあるはずだ。
「見れないわよ。審判があるまで厳重に保管されているんだから」
「そこをなんとか!!」
襟元に食いつきそうな勢いで莉々子は詰め寄った。
アンナはますます後方へと下がる。
「ちょっと! さっきからなんなのよ、あんた!! 稀少な神器をそう簡単に見せられるわけないでしょ!!」
莉々子の圧迫に堪えかねて、アンナは喚いた。
その時、くふくふ、と笑うのをこらえるような声が聞こえて、莉々子ははた、と我に返る。
周囲を見渡した。
特になんの変哲もない。
(いや……?)
よく見ると、茂みがわずかに揺れていた。
近くにある樹木の葉は揺れていないため、風によるものではないだろう。
その揺れに合わせ、再びくふくふと笑い声が聞こえる。
(なんだ……?)
笑い声からして、猫ではないだろう。
ドラゴンがいるらしい世界だ。ゴブリンやらなにやらが出てきても驚かない。
――いや、やっぱり驚くかもしれない。不意打ちで出てこられたら。
ごくり、と唾を飲み込むと、莉々子は何が出てきても悲鳴を上げないように口をひき結び、おっかなびっくり、ゆっくりとその茂みをかき分けた。
かき分けた、が……、それだけでは相手の姿が見えない。
茂みに突っ込んだ指に、何か、滑らかな物が触れた。
(ひぃいいぃいっ)
内心で悲鳴をあげながらも、本当に声を出すのはなんとかこらえる。しかし、それ以上手を動かす勇気はない。
怖すぎて、後退することも出来なかった。
そのまま硬直していると、その滑らかな物の方が動いた。
すりすりと莉々子の手にその滑らかな身体らしきものをすりつけたかと思うと、なんだかねっとりとした、温かいものに莉々子の指は包まれた。
なんだ、これは。
莉々子はこの感触を知っているような気がする。
恐る恐る、自由な方の手で茂みを更に避け、ぬめぬめとした感触のある方の手を引き抜いた。
「うひ……っ」
思わず変な声を出して尻餅をつく。
それ、は莉々子の指を腔内に含んだまま、茂みから姿を現した。
滑らかな銀色の髪に、暗い青色の瞳。
長い睫をゆっくりとしばたたせる。
それは、まごう事なき、人間の成人男性だった。
「あら、こんなところに居たのね。駄目よ、勝手に出てきては……」
絶句する莉々子を尻目に、アンナはその不審な男性に嫌に優しげな声をかける。
大人にかけるにはあまりにも優しすぎる声かけだ。それはまるで、幼子でも相手にしているかのような話し口調だった。
「イーハ、人の指をくわえては駄目よ。茂みの中に隠れるのも駄目。危ないわ」
わかる? と確認するように伝えるアンナの言葉に、そのイーハと呼ばれた男性は無言でこくこくと頷くと、茂みからその全身を現した。
その意外に高い身長に、莉々子は座り込んだままのけ反る。
2mを超えているのではないだろうか。
遠近感が狂ってしまったような気がして、思わずぱちぱちと瞬きをした。
「リリィ、彼はイーハ。療養施設の職員よ」
「……はじめまして」
「いーは、はじぇまして」
彼は自身のことを指さすとイントネーションのおかしなカタコトの言葉を話した。
目を見張る莉々子に気にした様子もなくにっこりと微笑みかけると彼は手を差し出してくれた。
思わずぽかんとしたままその手を握る。
強い力でそのまま引っ張り上げられる。
「えっとぉ、……よろしく」
「よろしく」
彼の挨拶に莉々子も返事を返す。
しかし、その目は彼の口元に釘付けだった。
だってイントネーションがおかしい。
どこか平板で、起伏に乏しい。
(これは……)
彼の全身を思わず確認する。よく見るとその右腕はだらんと垂れ下がっているように見えた。
捕まれていた左手が離される。
にっこりと屈託なく微笑むその唇の右の口角は、左の口角よりも下がっていた。
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