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5、ユーゴという少年
④
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「やれやれ、人気者は辛いな」と人垣へと笑顔で手を振りながらユーゴが呟いて見せたのは明らかにただのポーズだろう。
その証明に、その機嫌はさほど悪いようには見えなかった。
「はぁ、さようで……」
莉々子は適当な相槌を打つ。
明らかに熱意と興味を圧倒的に欠如した莉々子の言い方に、けれどユーゴは怒らなかった。
莉々子の不作法など今更すぎて、咎める気にもならないのだろう。
「貴様が興味があるなら、後で劇団を覗こうか」
「あんまり興味ないです」
本当にかけらも興味がないので、そう淡白に返事を返した時だった。
「強盗だ! 捕まえてくれ!!」
通り中に空気を切り裂くような大声量が響き渡った。
何事かと周囲を見渡すと先ほどまでとは違い、辺りは騒然としていた。
おそらく、先ほどの声が告げていた強盗なのであろう、驚いて立ち止まる者や逃げ惑う人々とは明らかに異なる素早い動きをする5人ほどの男達が四方八方に散らばって、駆けていた。
莉々子が弾かれたように顔を上げたその時、そのうちの一人が、まさにこちらに向けて走ってくるところだった。
こちら――すなわち、莉々子とユーゴへ向けて。
「……っ!!」
恐ろしさと驚きに、莉々子は思わず頭を庇うように腕を顔の前に上げる。
「どけぇ……っ!」
乱暴に刃物がこちらに向けて振るわれる。それが当たるかと目を強く閉じて身をすくませた瞬間、鈍い音が莉々子の眼前で響いた。
予想したような痛みも衝撃も、何もない。
「………?」
そのことを疑問に思い、恐る恐る目を開く。
するとそこには、莉々子を庇うように前に立ち、男の剣をステッキで受け止めるユーゴが威風堂々と立っていた。
「………っ!!」
莉々子は思わず息を飲む。
陽射しの角度も相まって、その時のユーゴは燦然と光り輝いて見えた。
「……ちっ、この、くそがき……っ」
「おとなしく捕まったらどうだ? 悪あがきはみっともないぞ」
いきり立つ男を前にしても、変わらぬ落ち着きと典雅さを身に纏い、ユーゴは次の瞬間、男の剣を軽い動作でいなして弾き飛ばした。
男の顔が、赤から青に色を変える。
そのままユーゴがステッキを振り下ろそうとしたのをとっさに腕で防ぐと、分が悪いと悟ったのか、痛みに呻きながらも素早い身のこなしで脇をすり抜けるようにして逃げていった。
「……ユーゴ様」
は、とやっとのことで詰めていた息を吐き、無事を確認しようと莉々子が声をかけたところで、「リリィ」とユーゴの方が機先を制した。
「あの男を捕らえろ」
「えっ?」
思わず口をついて出た驚きの声とは裏腹に、莉々子の身体は自然と男の逃げた方へと向きを変えた。
その事実に、莉々子の頭から一気に血の気が引く。
(まさか……っ)
首に巻かれたリボンの下から強烈な熱が発せられているのがわかった。
横目で最後に見たユーゴの顔は、金色の瞳が三日月のように怪しく燦めき、笑みを作っていた。
「いけ」
単純なその言葉に、莉々子の身体はあらがえず、駆け出した。
(使いやがった!)
何をって? もちろん、『服従の首輪』をだ。
莉々子の思考は突然のことに確かに混乱しているはずなのに、それと同時に主人の命令をこなそうと効率の良い捕まえ方を弾き出す思考も同時に存在していた。
その思考が、莉々子の事を無理矢理強盗へと立ち向かわせる。
「① 《まるいち》!」
そのかけ声とともに、莉々子の走る速度は一気に加速し、そして――
「………なっ」
驚愕の声を上げる強盗の目の前に、ブレーキを踏むような形で突如立ちふさがった。
強盗にしてみれば、突然莉々子が目の前に出現したように見えたことだろう。
その勢いのまま、莉々子は強盗の男に体当たりをかます。
向こうも走っていたのだ、その状態で障害物に衝突などしたら、当然、ただではすまない。
肘を突き出すようにして我が身を守り、足を踏ん張っていた莉々子とは違い、その男はぶつかった衝撃で、派手に後方へと倒れた。
当然、莉々子も無事ではない。突然に加速したスピードからブレーキを掛けた右の足首と、男とぶつかった部分が痛む。
しかし、なんとか転ぶことだけはまぬがれて、踏みとどまってその場に立ち尽くした。
息も動悸も上がって辛い。
魔法を使用した、その負荷が身体には出ていた。
その証明に、その機嫌はさほど悪いようには見えなかった。
「はぁ、さようで……」
莉々子は適当な相槌を打つ。
明らかに熱意と興味を圧倒的に欠如した莉々子の言い方に、けれどユーゴは怒らなかった。
莉々子の不作法など今更すぎて、咎める気にもならないのだろう。
「貴様が興味があるなら、後で劇団を覗こうか」
「あんまり興味ないです」
本当にかけらも興味がないので、そう淡白に返事を返した時だった。
「強盗だ! 捕まえてくれ!!」
通り中に空気を切り裂くような大声量が響き渡った。
何事かと周囲を見渡すと先ほどまでとは違い、辺りは騒然としていた。
おそらく、先ほどの声が告げていた強盗なのであろう、驚いて立ち止まる者や逃げ惑う人々とは明らかに異なる素早い動きをする5人ほどの男達が四方八方に散らばって、駆けていた。
莉々子が弾かれたように顔を上げたその時、そのうちの一人が、まさにこちらに向けて走ってくるところだった。
こちら――すなわち、莉々子とユーゴへ向けて。
「……っ!!」
恐ろしさと驚きに、莉々子は思わず頭を庇うように腕を顔の前に上げる。
「どけぇ……っ!」
乱暴に刃物がこちらに向けて振るわれる。それが当たるかと目を強く閉じて身をすくませた瞬間、鈍い音が莉々子の眼前で響いた。
予想したような痛みも衝撃も、何もない。
「………?」
そのことを疑問に思い、恐る恐る目を開く。
するとそこには、莉々子を庇うように前に立ち、男の剣をステッキで受け止めるユーゴが威風堂々と立っていた。
「………っ!!」
莉々子は思わず息を飲む。
陽射しの角度も相まって、その時のユーゴは燦然と光り輝いて見えた。
「……ちっ、この、くそがき……っ」
「おとなしく捕まったらどうだ? 悪あがきはみっともないぞ」
いきり立つ男を前にしても、変わらぬ落ち着きと典雅さを身に纏い、ユーゴは次の瞬間、男の剣を軽い動作でいなして弾き飛ばした。
男の顔が、赤から青に色を変える。
そのままユーゴがステッキを振り下ろそうとしたのをとっさに腕で防ぐと、分が悪いと悟ったのか、痛みに呻きながらも素早い身のこなしで脇をすり抜けるようにして逃げていった。
「……ユーゴ様」
は、とやっとのことで詰めていた息を吐き、無事を確認しようと莉々子が声をかけたところで、「リリィ」とユーゴの方が機先を制した。
「あの男を捕らえろ」
「えっ?」
思わず口をついて出た驚きの声とは裏腹に、莉々子の身体は自然と男の逃げた方へと向きを変えた。
その事実に、莉々子の頭から一気に血の気が引く。
(まさか……っ)
首に巻かれたリボンの下から強烈な熱が発せられているのがわかった。
横目で最後に見たユーゴの顔は、金色の瞳が三日月のように怪しく燦めき、笑みを作っていた。
「いけ」
単純なその言葉に、莉々子の身体はあらがえず、駆け出した。
(使いやがった!)
何をって? もちろん、『服従の首輪』をだ。
莉々子の思考は突然のことに確かに混乱しているはずなのに、それと同時に主人の命令をこなそうと効率の良い捕まえ方を弾き出す思考も同時に存在していた。
その思考が、莉々子の事を無理矢理強盗へと立ち向かわせる。
「① 《まるいち》!」
そのかけ声とともに、莉々子の走る速度は一気に加速し、そして――
「………なっ」
驚愕の声を上げる強盗の目の前に、ブレーキを踏むような形で突如立ちふさがった。
強盗にしてみれば、突然莉々子が目の前に出現したように見えたことだろう。
その勢いのまま、莉々子は強盗の男に体当たりをかます。
向こうも走っていたのだ、その状態で障害物に衝突などしたら、当然、ただではすまない。
肘を突き出すようにして我が身を守り、足を踏ん張っていた莉々子とは違い、その男はぶつかった衝撃で、派手に後方へと倒れた。
当然、莉々子も無事ではない。突然に加速したスピードからブレーキを掛けた右の足首と、男とぶつかった部分が痛む。
しかし、なんとか転ぶことだけはまぬがれて、踏みとどまってその場に立ち尽くした。
息も動悸も上がって辛い。
魔法を使用した、その負荷が身体には出ていた。
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