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序章

第3話 ドロップ品

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 盗賊から助けたのは、ダンジョン都市ウォルターの領主の一人娘だった。

「本当に良かったのか? ウォルターまで乗せてもらって」
「はい! 助けられた恩を少しづつでも返したいので、それに、一緒に居たかったから」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ! お父さんに早く会いたいなって……は、はは」
「ま、盗賊に襲われるなんて、トラウマになっちゃうからな。早く、会いたいよな」

 ノンノちゃんは、顔を赤らめて俯いてしまった。沈黙に耐え切れなくなり、メイドのシュシュさんが口を開いた。

「レイクさんは、何しにウォルターに?」
「ダンジョン攻略をしに行くんだよ」
「では、もうギルドに入ったんですか?」
「まだだよ。ウォルターに着いたら作る予定だよ」
「え!? 自分で作るんですか!?」
「そ、そうですよ」
「すごいですね」

 ギルドを作るに必要なのは、金貨が1000枚必要なのだ。ここで、この世界のお金について説明しよう。
 この世界のお金は、銅貨・銀貨・金貨・白銀貨・白金貨の5つが存在している。

銅貨10枚→銀貨1枚(100円)

銀貨10枚→金貨1枚(1000円)

金貨1000枚→白銀貨1枚(1000000円)

白銀貨100枚→白金貨1枚(100000000円)

 と、なっている。
 ギルドを作るのに必要なお金の多さは分かって貰えたと思う。

「家を出るときにくれたんですよ」
「す、すごい家ですね」
「そんな大金をポンって渡せるって、公爵家の人ぐらいしか無理ですよ」
「そ、そう、ですかね?」
「でも、レイクさんは名前しかないので、貴族じゃないんですよね。一体、レイクさんは何者ですか?」
「は、はは。ただ一般人ですよ」
「そうですよね。失礼しました」

 それからは、盗賊に襲われる事も無くダンジョン都市の中心部、ウォルターダンジョンに着いた。

「そこの馬車止まれ」

 ダンジョンがある中心部に着いた時、大きな石壁が現れた。俺は、何度も見ている光景だが、何回見ても圧倒される。そして、中に入るための門の前で馬車を止められた。

「ただ今戻りました~」

 ノンノちゃんが、馬車から顔を出して門番に挨拶をしていた。

「っ! ノンノ様でしたか。仕事ですので、荷物を調べさせて下さい」
「はい。いいですよ」

 何人かがこの馬車の中を調べ始めた。

「すみません。貴方は?」
「ん? 俺?」
「はい。そうです」
「あ! そうでした。この方は、私を助けてくれたんです」
「と、言うと?」
「実は、盗賊に襲われたんです。そこを、通りがかったレイクさんが助けてくれたんです」
「と、盗賊に! 襲われた!」

 その声は周りに響き、周りにいる人達がこちらをバッと振り向いてきた。

「それは、本当ですか!?」
「はい!」
「そんな、この辺りにいる盗賊は『ダークス』だけです。それを、倒したんですか?」

 盗賊の名前を聞いた周りの人はざわざわし始めた。

「あ、聞いたことがある。襲われた人は忽然と姿を消して、いつのまにか『ダークス』に襲われたって噂になって、未だに全容が掴めない盗賊ですよね?」
「そうです。『ダークス』は、誰もが精鋭ぞろいで、討伐も難しい盗賊なんです」
「そうなんですか? あまり強くなかったですよ」
「すみません。こっちで、確認をさせてくれませんか?」
「はい。いいですよ」

 門番の1人に連れられて、門の右側にある部屋に入るように促された。

「この水晶に手を置いて下さい」
「分かりました」

 少し経ってから手を離して良いよと言われ、水晶から手を離した。すると、近くにある魔導具から、小さな紙が出てきた。

「うわ、本当に倒してる。悪いようにはしませんが、上にこの事を報告していいですか?」
「構いませんよ」
「ありがとうございます」

 それからは直ぐに解放され、中に入る事が出来た。

「大丈夫でしたか?」
「大丈夫だったよ。ちゃんと、倒したことは認められたみたい。上に報告するとも言ってたね」
「え、上に報告されちゃうんですか?」
「何か、悪いことでもあるの?」
「えっと、もしかしたら、目をつけられるかもしれないですね」
「うわ、まじか。面倒ごとに巻き込まれなければいいけど」
「そんなことより、泊まる場所はどうするか決めたんですか?」
「いや、まだだな」
「それなら、家に泊まりませんか!?」
「え、いいのか? 物凄い助かるんだけど」

 チラッとメイドのシュシュさんの方を見ると、コクコクと頷いていた。

「はい! それに、助けてくれたお礼もしたいんですよ」
「そっか。じゃ、お言葉に甘えようかな」

 馬車は、それから止まることなくノンノちゃんの自宅に向かって進んでいた。

「レイクさん、聞いてもいいですか?」
「何を?」
「レイクさんの職業です」
「ちょっと、ノンノ様。それは聞いちゃダメです!」
「別に、いいですよ」
「え、良いんですか!?」

 この世界では、職業を他人に聞くのはタブー、いや、暗黙の了解で禁止されている。

「はい。俺の職業は【攻略者】です」
「【攻略者】? 聞いたことない職業ですね」
「俺も、始めて聞いた職業だよ」
「だから、自分の職業を言えたんですね。納得です」
「ちょっと何言ってるか分かんないや」

 それから、約10分後。ノンノちゃんの自宅に着いたようだ。

「着いたみたいですね。さ、ここが私の自宅です!」

 馬車から降りた俺はその光景に目を奪われ、無かった。だって、何度も見てる光景だからね。だけど、それでも綺麗だといつも思う。

「凄い。山を切り崩してその中に家を作ったんだ」
「その通りです。夏は冷んやり、冬はポカポカの完璧な家です」

 ノンノちゃんは、どうです? 凄いでしょ? とでも言いたげな感じだ。

「ああ、凄いな」

 そう言いながら、頭を撫でてやると、赤面しながら「うへへ」と、変な声で喜んでいた。

「お帰りなさいませ。ノンノお嬢様」
「爺じただいま」
「はい。はじめましてレイク殿。私領主様専属の執事のチャランと申します」
「はじめまして。ってか、何で俺の名前知ってるんですか?」
「ノンノ様を盗賊から助けていただいた話を聞きました。その時にレイク殿の名前を聞き存じました」
「あー。なるほど」
「奥で領主様が待っていますよ」
「さ、行きましょう、レイクさん」

 執事のチャランさんの後をノンノ俺の順番で廊下を歩いていく。

「あれは、何だっけ?」

 廊下の壁に何かのツノが飾られていた。

「あれは、ダンジョンのサイ型の魔物からドロップした物ですね」
「サイの魔物って結構下の層にしか居ないですよね」
「そうですね。確かあれは、ちょっとした異常事態の時でしたね。魔物の数体が上の層に上がってきたんですよ。その時にドロップしたんですよね」
「そんな事があったんですね」
「レイクさんは、無理しないで下さいね」
「分かってるよ。ノンノちゃん」
「着きました」

 チャランさんは、ドアをノックした。

「執事のチャランです。ノンノお嬢様とお客人を連れてまいりました」
「よい。入れ」

 チャランさんがドアを開けると、中には少し大きめな窓の側に机が1つ。壁際に沿って本棚が置いてあった。机には髭を生やした渋い人が座っていた。
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