上 下
26 / 39

百層

しおりを挟む
 70階層に降りてきてから、上の階層とは何か違った雰囲気を感じていた。

「なんか、ずっと見られてるようなそんな感覚があるんだよな」

 だが、その尻尾を捕まえることができていない。人ではなく、生き物から監視されているような、そんな感覚を味わっていた。
 しかし、ヒューはその視線の中なぜか嬉しそうに喉を鳴らしていた。

「キュ~、キュ~!」
「なんで、私とこんなに反応が違うのかしら?」

 そんなことをぼやきながら走っていると、探知魔法に複数の気配が引っかかった。

「2体かな?」
「キャル!」
「なんだ、やる気だな。じゃ、今回もヒューだけで戦ってみようか」そして、出てきたのはトロールだった。
 トロールは醜い顔と体格で、ブヨブヨしている。再生能力も高く、内側に付いている屈強な筋肉まで攻撃が届かないと倒すことができない、とても面倒くさい相手だ。
 しかし、少しの間だが、魔物のを倒してきたヒューは相当強くなってきているようで、水魔法を爪に付与して、まさに、ドラゴンクローみたいな感じの技で簡単にトロール2体を倒した。

「流石はヒューだね。短期間で強くなりすぎでしょ」

 それから、お昼、夜と時間が流れ、今はボス部屋の前にいた。

「今回は多分あいつだよね」

 検討をつけながら、ボスの部屋のドアを開けた。
 そこには、やはり、トロールが五体、トロールキングが一体いた。

「想像通り。ヒュー、今回は手を出さないでね。一瞬で終わらせるから」

 カレンが、ヒューにそう言うと、ヒューは飛んで後ろに下がった。

 そして、トロールが遅いが重い一撃をカレンに叩き込もうと、走り出したがカレンの方が早かった。
 カレンが、刀に魔力を通して雷を纏った。それを刀の延長上まで伸ばして、トロール、トロールキングを切り焦がした。

「よし、終わった」

 カレンはその日もヒューと一緒にモンスタートラップまで戻り、攻略して寝た。





 それから、90層を攻略して今は、100層。ボス部屋の前に来ていた。

「ついに、これで、ママとパパから課されたダンジョン攻略は終わりだ!! ね、ヒュー。これが終わったら、ママとパパに会いに行こう。そして、一緒に暮らそうね」
「キュル!!」

 ヒューも嬉しそうに鳴き、私の頭の上を飛び回った。

 そして、100層ボスを倒すために扉を開いた。そこにいたのはドラゴンだった。

『やっと、ここまできたか冒険者よ』
「え? 喋った!?」
『ほぉ~、そのドラゴンは、エンシェントドラゴンの子供か。いい相棒を持ったな』
「え!? ヒューって、エンシェントドラゴンのの子供だったの!? そりゃ強いわけだ」
『強いに決まっておるだろ。なんたって、我の写し身なのだからな』
「え!? てことは、ボスってエンシェントドラゴン!?」
『その通りだ。では、開戦と行こうか』

 そうして、エンシェントドラゴン(略してエンドラ)VSカレン&ヒューの戦いが始まった。
 先に動いたのは、エンドラだ。大きく後ろに羽ばたき、カレンに向かって突撃してきた。その速さは、弾丸の速さに匹敵するほどだった。
 それをギリギリのところで躱す。

「あっぶない! これは、全力出さないとやばいね」

 カレンは全力の身体強化を施し、刀には全力の魔力を流した。

「ヒューは逃げることに専念して!!」
「キャル!」

 ヒューは覚悟を決めた顔で返事をした。

『作戦は決まったか? ならば、こっからは情けは無用だな。行くぞ!』

 エンドラは、大きく腕を振るい、カレンを裂き殺そうとしてきた。カレンは、刀で出来るだけ力を逃がしながら受け止める。

『ほぉ、これを止めるか』
「まさか、雷が効いてないとはね」

 カレンが刀で受け止める。それは、相手に刀が纏っている雷を流されるということだ。しかし、エンドラは、全くの無傷で鱗が焦げてもいない。
 顔には出さずに内心めっちゃ焦っているカレンは、一度距離を取るためにバックステップをした。

「身体強化を全力でやってるはずなんだけどね」

 それからも、防戦一方のカレン、ところどころに切り傷を負っている。

『ふん、そろそろ終わりか。やはり人間は脆いな。貴様も、今までの人間と同じだったわけか』

 そう言ってエンドラは、カレンを裂き殺そうと、腕を振るった。
 カレンも終わったと思ったその時!!

((カレンは殺させない!!))

 それは、エンドラの腕を受け止めた。

「え? な、んで、どうやって?」

 カレンが驚くのも無理はないだろう、助けに入ったそれは、カレンが腰に下げていた双剣だったのだ。

(カレンには、まだまだ私たちを使ってもらわないといけないんだよ)

 双剣はカレンの頭の中に直接語りかけてきている。

『なんだ、それは!?』
「これは、私と剣との絆だ!!」

 これで、形勢逆転したカレンと双剣は、エンドラに三方向からの攻撃を始めた。どれも、一つを防げば他は防げないように、絶妙なタイミングで攻撃を開始した。

『く、くそ! 小癪な!!』

 エンドラは、その大きな巨体を回転させ、双剣とカレンを後方に吹き飛ばした。

『まだまだ、我はやられん!!』
「いーや、これで終わりだよ。ヒュー!!」
「キャル!」

 カレンと双剣の攻撃でとろこどころに大きな傷を負っていたエンドラは、少し反応が遅れた。

「やっちゃえ!! ヒュー!!!」

 そして、ヒューはエンドラに向かって極大で高威力の水の、いや、氷のブレスを放った。それは、エンドラの傷に入り、体の中からエンドラを氷尽くした。

『ふっ、ふっ、ふっ、よく、我を倒した、冒険者よ』
「はぁ、はぁ、もう、あんたとは戦いたくないよ」
『あぁ、いい勝負だった。まさか、剣たちがそれぞれ攻撃してくるとは思わんかったがな』
「まぁね、私もすごく驚いたよ。あれがなかったら私の方が負けてたよ」
『さぁ、先に進むが良い。まだここは、中間地点でも何でもないからな』

 その言葉に、カレンは衝撃を受けていた。

「? ここが最後じゃないの?」
『このダンジョンは、千層だからな』
「って、ことは、まだ攻略じゃないの!!??」

 カレンは崩れ落ちた。そこにヒューが乗ってきた。

「まだ、パパとママには会えないのか」

 それから、エンドラの体力が底を尽きる寸前こんなことを言っていた。

『実はな、そいつは、我の写し身であるが、本当は、写し身の写し身だと言うことを忘れないことだな』
「???」

 そう言って、エンドラは魔石だけを残して、消えていった。
 その言葉の意味を考えていたカレンだが、答えは見つからなかった。

「さて、百層のボスを倒したし、魔石を回収して、チェックポイントをつけて、帰りましょうか。ギルドに報告しなきゃだしね」

 そう言って、百一層に行こうと、下に下っていた時、事件は起きた。足元に転移魔法陣が発動したのだ。

「な!?」

 景色は一瞬で変わった。

「ここは?」
「キュル?」

 そこは、太陽の陽が届かないほど気が密集した密林だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法の才能がないと魔法学院を退学(クビ)になった俺が気づかないうちに最強の剣士となっていた

つくも
ファンタジー
高名な魔法使いの家系アルカード家に生まれた主人公トールは魔法の才能がない為、優秀な双子の弟カールに対して劣等感を持って育つ事となる。そしてついには通っていた魔法学院を退学になってしまう。死に場所を求め彷徨う中モンスターに襲われ、偶然剣聖レイ・クラウディウスに助けられる。 その姿に憧れたトールはレイに弟子入りする事になるが、瞬く間に剣の才能を発揮しいつの間にか師であるレイを超える実力になってしまう。 世界最強の剣士となった事に気づいていないトールは下界に降り、剣士学院に入学する事になるのであった。 魔法の才能がないと罵られたトールが剣の力で無双する、成り上がりの英雄譚 ※カクヨム 小説家になろうでも掲載しています 残酷な暴力描写 性描写があります

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第8章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

毒にも薬にもなりたくないっ

新堂茶美
ファンタジー
全てを癒し、全てを解呪できる偉大な力を持ったその少女はただただ平穏な日々を願う。 「毒みたいな女」「毒のお前にできるのか」「お前は毒だ」 ひょんなことから竜国の王子ミケラウスの呪いを解くことになった田舎娘な主人公スイレンが、嫌々ながらもミケラウスや出会う人々と向き合い、解決していく、そんなお話です。 小説を書くのは初めてです。元々は主人公スイレンの子供時代から書き溜めていたお話の閑話が切り離しても読める気がしたので載せてみました。自分の世界すぎて意味不明だったり、ご都合主義、拙い文章、お目汚し多々あるかと思いますがよろしくお願いいたします(;∀;)

無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》  社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。  このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...