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乙女の本気は、どんな困難だって乗り越えてみせるんだから!

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「…………はぁ……にゃんタローは……?」
「どこかに飛ばした。ここで魔力暴走で爆発されるよりもマシだろ」

 キアラの問いに、男性がそっけなく答えた。
 埃を払うように、軍服のような制服を手でパンッと軽く叩いている。

「……爆発……」

(にゃんタローが、ボンッ⭐︎に……?)

 キアラは口元を押さえ、顔色を真っ青にした。
 すでに魔法少女の変身は解けていて、騎士家の娘キアラの姿に戻っていた。

「だが妙だな……いや、まさかな……」

 男性は口元に手を当て、眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

「あの……もしかして、にゃんタローは……?」
「あの太々ふてぶてしい精霊なら無事だろう。転移魔術も使えるし、本当に危険なら自分で退避するだろう」
「……そう、ですよね……」

 キアラはショックで、半分呆けた調子で口にした。

(にゃんタローについては、もう無事を信じて祈るしかないわ。それよりも……)

「あの杖が無くなってしまったら、私はどうやって魔術を使えばいいの……?」

 キアラは、ガックリと膝をついた。

「何を言う? 君は十分に魔術を使えていた。あの杖は、その拳を光らせるぐらいの魔術効果しか持っていなかった」
「えっ?」

 思いがけない言葉に、キアラは男性の方を見上げた。

「魔力コントロールは、集中力と心の安定が必要だ。『自分にはできない』と思い込めば思い込む程、心の不安定さからコントロールが乱れる。変身していた時の君は自信に満ち溢れて、難なく魔力をコントロールし、魔術を使えていた」

 男性の分析するような冷静な一言に、キアラは心の中にわだかまっていた何かが、スッと抜けて消えていくような感覚になった。

 きゅきゅん⭐︎

 キアラのスッキリした心の内に、甘く締め付けるようなトキメキが湧き上がった。

「あの、あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」

 キアラは勇気を振り絞って、彼の名前を尋ねてみた。
 ドキドキとけたたましく鳴る血潮の音が、耳にうるさく聞こえた。

「ジャスティン・アスターだが」

 ジャスティンは面倒臭そうに答えた。

「ジャスティン様……」

 キアラはとてもあたたかい気持ちで、彼の名前を口にした。


——この時、キアラは重大な勘違いをしていた。

 キアラの父や兄達は、王宮内の騎士団に勤めている——一般人で王宮に勤めているのは「王国騎士」であると完全に思い込んでしまっていたのだ。

 また、ジャスティンが着ていたのが、軍服風の真っ黒な魔術師の制服だったことも、キアラの勘違いに拍車をかけていた。
 むしろ、見慣れない軍服風の制服は、まだ見たこともない王族を護衛するという近衛騎士の制服ではないかと、とんでもない妄想に発展していた。


「ジャスティン様……私! 苦手な魔力コントロールも頑張って、あなた様の元に参ります!!」
「……君の魔力特性では、難しいとは思うが……」
「でも! 私、頑張ります! 父も兄達も常々申してました。『努力は人を裏切らない』と」

 キアラは真剣な眼差しで、ジャスティンの瞳を射抜いた。

 キアラは「ヘーゼルの瞳も、優しげで素敵すぎる!」と更に恋に落ちた。

 キアラのやけに圧の強い、異様に気合いの入った様子に押され、ジャスティンはたじろいで「そ、そうか。それなら頑張ってくれ」としか返すことができなかった。

「キアラ、頑張って……!」

 ライラは、口元を手で押さえ、陰ながら親友の初恋を応援していた。


 キアラの意志は固く決まっていた——魔力コントロールをマスターし、立派な女性騎士となって、ジャスティンの横に並び立とう。そしてその暁には、彼に自分の本当の胸の内を告げよう、と。

(乙女の本気は、どんな困難だって乗り越えてみせるんだから!)

 その日から、恋する乙女キアラの修行が始まった。

 今までにないほど魔術の授業に集中し、メキメキと実力を上げていくキアラに、魔術のお爺ちゃん先生や両親、兄達は感動の涙を流した。
 まさか初恋がきっかけで、真面目に授業を受けるようになったとは、誰しもが思わなかった。

 魔力コントロールが上達して、身体強化魔術を上手に扱えるようになると、剣術にも体術にもますます磨きがかかった。
 特に体術は、キアラがハヌマン家で一番の使い手になった。
 もちろん、得意技は爆裂拳キララ⭐︎スマッシュである。

 メラメラと燃え上がる恋心は、却ってキアラを盲目にした。
 猪突猛進に目標まっしぐらに突き進むキアラは、目の前のことに一生懸命すぎて、大事なことを見落として気付かないままだった。

——こうして、修行を頑張った恋する乙女キアラ・ハヌマンは、元々恵まれた才能と潜在能力を持ち合わせていたこともあり、女性として最年少で王国騎士団の入団試験に合格したのだった。


「ジャスティン様は騎士団にいらっしゃらないじゃない!!!」とキアラが気づくのは、王国騎士団に入団してしばらく経った後のことだった。


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