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秘密の箱庭
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「うっそ!? 今日来れるって言ってたじゃん!」
親友のカレンからのLIMEで、「ごめん! 今日彼氏と出掛けることになっちゃった!」ってメッセージがきていた。
「せめてもうちょっと早めに連絡くれれば良かったのにぃ~! お肉いっぱい買っちゃったよぉ……」
私は缶ビールやお肉を詰め込んだ大きなクーラーボックスの前で、少しだけ途方に暮れた。
仕方がないからカレンには、「ハルトくんとのことおめでとう! こっちは気にしなくていいよ。楽しんで来てね!」とLIMEを返しておいた。
「はぁ。まぁ、いっか。やっとカレンの片想いが叶ったんだし、お肉はあの子達がいっぱい食べてくれると思うし」
私は某ブランドのコンパクトミラーを開いた。「大人の女性になるんだ!」と気合を入れて初任給で買ったやつだ。
ダブルミラーの拡大鏡の方には、私の姿ではなく、花や緑が溢れる楽園のような泉が映し出されていた。
——20××年、世界各地に突如としてダンジョンが現れた。
ダンジョンは、別世界「ミュートロギア」に繋がってる。
そこにはモンスターが生息していて、地球では想像上の生き物だったドラゴンや精霊、エルフやドワーフもいる。
ダンジョンだから、ダンジョンボスもいて、もちろん宝箱も財宝もあって、ダンジョンに潜って一攫千金を狙う「探索者」っていう職業もできた。
ミュートロギアの入り口は、たいていは地下鉄の入り口や大型商業施設の出入口みたいな、たくさんの人が出入りできる場所に現れる。
だけど、ごく稀に個人の持ち物に入り口が現れることもある——そう。私、和泉アリサが持っているコンパクトミラーみたいな物にも。
ダンジョンは普通、発見したらすぐに通報するのがルール。
でもちょっと変なんだよね。私がこのコンパクトミラーを持たないと、ダンジョンの入り口が現れないんだよね。
一応、このコンパクトミラーを国に通報したんだけど、「ダンジョンの入り口は無い」って突き返されちゃったんだよね。
訳が分からなかったけど、私にとっては記念の品だから、取られなくて良かったってホッとしてる。
私のコンパクトミラーにダンジョンが現れた時は、正直に言ってびっくりした。
ある日、急に私のコンパクトミラーが光ったから、びっくりしておそるおそる開いてみたら、そこにダンジョンの入り口ができてた。
おっかなびっくりフライパンと包丁で武装して、気合を入れて中に入ってみたら……
「キエェーーイ! 来るなら来いっ!! …………って、わぁ……すっごく綺麗~! セノーテみたい!」
とっても綺麗な場所につながっていた。
セノーテは、洞窟内にできた泉だ。石灰岩が長年雨水に浸食されてできたもので、綺麗なだけじゃなくて、とっても神秘的だ。
ダンジョンの中央には、綺麗に澄んだ青色~翡翠色にきらめく泉があった。
その泉の周りを、Vチューブのダンジョン配信で観たことがある珍しいダンジョン植物が生えていて、色とりどりの綺麗な花が咲いていた。
——楽園みたいな庭が、そこにはあった。
怖いモンスターがいたら嫌だったけど、そういったものは出なかったし、今では私が好きなように魔改造……じゃなくて、コーディネートして、お気に入りの庭になっている。
元々、平日は毎日残業で激務続きの典型的な社畜OLだったから、癒しが欲しくて、ずーっと田舎のスローライフに憧れてた。
でも、引っ越す当てもお金も勇気もなくて、結局、諦めてたんだ。
この箱庭みたいなダンジョンを手に入れてからは、週末はほとんどここに入り浸ってる。
思いっきりガーデニングや家庭菜園をしたり、モフモフ達と戯れたり、こっそり吸って怒られたり、泉で泳いだり、読書をしたりしてのんびり過ごしてる——本っ当に癒される! まさに理想郷!! スローライフ万歳!!!
しかもここに通い始めてから、会社でも「和泉さん、最近顔色が良くなったわね」って言われるようになったし!
少しは動いてるんだし、もう少しお腹のお肉の方も……ううん、なんでもない……
「ステータスオープン!」
ダンジョンに入ると、自分のステータスが見れる「ステータスオープン」という魔法が使えるようになる。
人によって、スキルとか魔法とか、ダンジョン内限定で使えるようになるみたいなんだけど、私は残念ながら——
「う~ん……。やっぱり、何にもスキルも魔法も載ってない。いいなぁ~魔法撃てる人とか、羨ましいなぁ~」
私のスキル欄にも魔法欄にも、何も記載は無し。
ただ一つ書いてあるのは——
「称号欄の『セノーテ翡翠の支配者』って何だろう……? 相変わらずよく分かんないや」
今日も何も減っても増えてもいない自分のステータスを確認して、あとはただ遊ぶことにした。
水着に着替えて泉の方へ向かうと、ブンブンッとふさふさの尻尾を振って、真っ白な大型犬がやって来た。
「ポチ、おはよう! 今日もかっこいいね! ゴフッ!」
「ワフッ!」
ポチは、白くて長い毛並みがかっこいい大型犬だ。
ワンちゃんらしく忠誠心が強くて、私がダンジョンに入ると、いつも一番最初に私の所にやって来て挨拶をしてくれる。
——そして、毎回歓喜しまくったポチに突撃されて押し倒されるのがお約束だ。
「会えて嬉しいのは分かるけど、もう少し力加減を覚えようか……?」
私はポチをわしゃわしゃと撫でながら伝えた。
嬉しいっちゃあ、嬉しいんだけど……人間って、とっても非力……
「あ、タマだ! かわいい~!」
大型猫のタマが、私がゆったり読書できるように張ったハンモックの下で、へそ天して豪快に寝ていた。
タマは、真っ白な体に、光の加減で淡い色のロゼッタ模様が浮き上がるユキヒョウみたいな子だ。
私が可愛がって顔周りをなでなですると、迷惑そうに薄目を開けてこっちを見てきた。でも、喉をゴロゴロ鳴らしてるから、そこまでは嫌がってないみたい。
じゃあ、猫吸いを……ってなると、両方の太い前足で突っぱねられて拒否された。でも、ぱふぱふの大きな肉球が当たって、ご褒美になってる——アリガトウゴザイマス!
カレンには「アリサって、ネーミングセンス無いよね」って言われるけど、どっちも呼びやすくて可愛いよね!?
私は、ひとしきりタマをモフって満足すると、泉の方に向かった。
ダンジョンの天井はものすごく高くて、なぜか日の光っぽい明かりが入り込んでる。
ダンジョンの研究はまだ始まったばかりだし、分かっていないことも多いから、ダンジョンをただ楽しみたいエンジョイ勢の私は、「不思議は不思議のままで」ってことで気にしないようにしてる。
ザッパーンッ!
泉の水は泳ぐのに丁度いい水温だ。
とにかくどこまでも透き通っていて、水底まで綺麗に見通せる。
泉の中は日の光が差し込んで、キラキラと輝いていて神秘的だ。
泉には他に誰もいないし、好きなように泳いでいられる。
ただ、ちょっと底が深い場所があるので注意!
泳ぐ時は、いつも無理はしないようにしてる。
気持ち良く泳いでいると、真っ白な巨体が近くを横切った。
その大きな生き物は私の下に潜り込むと、水面に急上昇してきた。
私はその生き物と一緒に、水面までザバンッと浮き上がった。
「あははっ! びっくりさせないでよ~、ドラ男!」
「クルルルル」
長い首をぐるりと背中にめぐらせて、雪のように白い鱗の大きなドラゴンが私を見ていた。
甘えるように鼻づらを差し出してくるので、撫でてあげる。
「ピルルルルッ!」
「あ、ピーちゃん! ……なんかいつもと様子が違う?」
泉の上空で旋回しているのは、孔雀のように華やかな大型の鳥だ。全身真っ白で、とっても神々しい。
私がピーちゃんの様子に首を捻っていると、
「わっ! ドラ男? 急にどうしたの?」
ドラ男が、私を乗せて急に泳ぎ始めた。ピーちゃんが飛んで行く方向に向かうようだ。
ピーちゃんが泉の岸辺に優雅に着陸すると、そこには男の人が倒れていた。
「えっ……!? 誰か倒れてる!?」
私はペチペチとドラ男の背中を叩いて、岸辺に急いでもらった。
親友のカレンからのLIMEで、「ごめん! 今日彼氏と出掛けることになっちゃった!」ってメッセージがきていた。
「せめてもうちょっと早めに連絡くれれば良かったのにぃ~! お肉いっぱい買っちゃったよぉ……」
私は缶ビールやお肉を詰め込んだ大きなクーラーボックスの前で、少しだけ途方に暮れた。
仕方がないからカレンには、「ハルトくんとのことおめでとう! こっちは気にしなくていいよ。楽しんで来てね!」とLIMEを返しておいた。
「はぁ。まぁ、いっか。やっとカレンの片想いが叶ったんだし、お肉はあの子達がいっぱい食べてくれると思うし」
私は某ブランドのコンパクトミラーを開いた。「大人の女性になるんだ!」と気合を入れて初任給で買ったやつだ。
ダブルミラーの拡大鏡の方には、私の姿ではなく、花や緑が溢れる楽園のような泉が映し出されていた。
——20××年、世界各地に突如としてダンジョンが現れた。
ダンジョンは、別世界「ミュートロギア」に繋がってる。
そこにはモンスターが生息していて、地球では想像上の生き物だったドラゴンや精霊、エルフやドワーフもいる。
ダンジョンだから、ダンジョンボスもいて、もちろん宝箱も財宝もあって、ダンジョンに潜って一攫千金を狙う「探索者」っていう職業もできた。
ミュートロギアの入り口は、たいていは地下鉄の入り口や大型商業施設の出入口みたいな、たくさんの人が出入りできる場所に現れる。
だけど、ごく稀に個人の持ち物に入り口が現れることもある——そう。私、和泉アリサが持っているコンパクトミラーみたいな物にも。
ダンジョンは普通、発見したらすぐに通報するのがルール。
でもちょっと変なんだよね。私がこのコンパクトミラーを持たないと、ダンジョンの入り口が現れないんだよね。
一応、このコンパクトミラーを国に通報したんだけど、「ダンジョンの入り口は無い」って突き返されちゃったんだよね。
訳が分からなかったけど、私にとっては記念の品だから、取られなくて良かったってホッとしてる。
私のコンパクトミラーにダンジョンが現れた時は、正直に言ってびっくりした。
ある日、急に私のコンパクトミラーが光ったから、びっくりしておそるおそる開いてみたら、そこにダンジョンの入り口ができてた。
おっかなびっくりフライパンと包丁で武装して、気合を入れて中に入ってみたら……
「キエェーーイ! 来るなら来いっ!! …………って、わぁ……すっごく綺麗~! セノーテみたい!」
とっても綺麗な場所につながっていた。
セノーテは、洞窟内にできた泉だ。石灰岩が長年雨水に浸食されてできたもので、綺麗なだけじゃなくて、とっても神秘的だ。
ダンジョンの中央には、綺麗に澄んだ青色~翡翠色にきらめく泉があった。
その泉の周りを、Vチューブのダンジョン配信で観たことがある珍しいダンジョン植物が生えていて、色とりどりの綺麗な花が咲いていた。
——楽園みたいな庭が、そこにはあった。
怖いモンスターがいたら嫌だったけど、そういったものは出なかったし、今では私が好きなように魔改造……じゃなくて、コーディネートして、お気に入りの庭になっている。
元々、平日は毎日残業で激務続きの典型的な社畜OLだったから、癒しが欲しくて、ずーっと田舎のスローライフに憧れてた。
でも、引っ越す当てもお金も勇気もなくて、結局、諦めてたんだ。
この箱庭みたいなダンジョンを手に入れてからは、週末はほとんどここに入り浸ってる。
思いっきりガーデニングや家庭菜園をしたり、モフモフ達と戯れたり、こっそり吸って怒られたり、泉で泳いだり、読書をしたりしてのんびり過ごしてる——本っ当に癒される! まさに理想郷!! スローライフ万歳!!!
しかもここに通い始めてから、会社でも「和泉さん、最近顔色が良くなったわね」って言われるようになったし!
少しは動いてるんだし、もう少しお腹のお肉の方も……ううん、なんでもない……
「ステータスオープン!」
ダンジョンに入ると、自分のステータスが見れる「ステータスオープン」という魔法が使えるようになる。
人によって、スキルとか魔法とか、ダンジョン内限定で使えるようになるみたいなんだけど、私は残念ながら——
「う~ん……。やっぱり、何にもスキルも魔法も載ってない。いいなぁ~魔法撃てる人とか、羨ましいなぁ~」
私のスキル欄にも魔法欄にも、何も記載は無し。
ただ一つ書いてあるのは——
「称号欄の『セノーテ翡翠の支配者』って何だろう……? 相変わらずよく分かんないや」
今日も何も減っても増えてもいない自分のステータスを確認して、あとはただ遊ぶことにした。
水着に着替えて泉の方へ向かうと、ブンブンッとふさふさの尻尾を振って、真っ白な大型犬がやって来た。
「ポチ、おはよう! 今日もかっこいいね! ゴフッ!」
「ワフッ!」
ポチは、白くて長い毛並みがかっこいい大型犬だ。
ワンちゃんらしく忠誠心が強くて、私がダンジョンに入ると、いつも一番最初に私の所にやって来て挨拶をしてくれる。
——そして、毎回歓喜しまくったポチに突撃されて押し倒されるのがお約束だ。
「会えて嬉しいのは分かるけど、もう少し力加減を覚えようか……?」
私はポチをわしゃわしゃと撫でながら伝えた。
嬉しいっちゃあ、嬉しいんだけど……人間って、とっても非力……
「あ、タマだ! かわいい~!」
大型猫のタマが、私がゆったり読書できるように張ったハンモックの下で、へそ天して豪快に寝ていた。
タマは、真っ白な体に、光の加減で淡い色のロゼッタ模様が浮き上がるユキヒョウみたいな子だ。
私が可愛がって顔周りをなでなですると、迷惑そうに薄目を開けてこっちを見てきた。でも、喉をゴロゴロ鳴らしてるから、そこまでは嫌がってないみたい。
じゃあ、猫吸いを……ってなると、両方の太い前足で突っぱねられて拒否された。でも、ぱふぱふの大きな肉球が当たって、ご褒美になってる——アリガトウゴザイマス!
カレンには「アリサって、ネーミングセンス無いよね」って言われるけど、どっちも呼びやすくて可愛いよね!?
私は、ひとしきりタマをモフって満足すると、泉の方に向かった。
ダンジョンの天井はものすごく高くて、なぜか日の光っぽい明かりが入り込んでる。
ダンジョンの研究はまだ始まったばかりだし、分かっていないことも多いから、ダンジョンをただ楽しみたいエンジョイ勢の私は、「不思議は不思議のままで」ってことで気にしないようにしてる。
ザッパーンッ!
泉の水は泳ぐのに丁度いい水温だ。
とにかくどこまでも透き通っていて、水底まで綺麗に見通せる。
泉の中は日の光が差し込んで、キラキラと輝いていて神秘的だ。
泉には他に誰もいないし、好きなように泳いでいられる。
ただ、ちょっと底が深い場所があるので注意!
泳ぐ時は、いつも無理はしないようにしてる。
気持ち良く泳いでいると、真っ白な巨体が近くを横切った。
その大きな生き物は私の下に潜り込むと、水面に急上昇してきた。
私はその生き物と一緒に、水面までザバンッと浮き上がった。
「あははっ! びっくりさせないでよ~、ドラ男!」
「クルルルル」
長い首をぐるりと背中にめぐらせて、雪のように白い鱗の大きなドラゴンが私を見ていた。
甘えるように鼻づらを差し出してくるので、撫でてあげる。
「ピルルルルッ!」
「あ、ピーちゃん! ……なんかいつもと様子が違う?」
泉の上空で旋回しているのは、孔雀のように華やかな大型の鳥だ。全身真っ白で、とっても神々しい。
私がピーちゃんの様子に首を捻っていると、
「わっ! ドラ男? 急にどうしたの?」
ドラ男が、私を乗せて急に泳ぎ始めた。ピーちゃんが飛んで行く方向に向かうようだ。
ピーちゃんが泉の岸辺に優雅に着陸すると、そこには男の人が倒れていた。
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