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閑話 妖精の羽
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今夜は銀の不死鳥メンバーの送別会だ。
参加者は、銀の不死鳥メンバーのルーファス、レイ、レヴィはもちろん、主催者の鉄竜の鱗からは、カタリーナ、ダズ、クリフ、アッバス、シャマラが参加する。そして、今宵は特別に、クリフの弟のジョセフも参加する。
開催場所は鉄竜の鱗の拠点内、いつもみんなでご飯を食べたり、集まったりしていた中庭だ。
いつものように広い絨毯が敷かれていて、ローテーブルとクッションが並べられている。
一点だけ違いをあげれば、今日はグリルが中庭に設置され、既に炭と火が入れられていた。
砂漠の夜は、カラリと空気が澄んで、空には満天の星々が煌めいていた。見上げれば、中庭の壁を額縁に、満天の夜空がくっきりと絵画のように切り抜かれているかのようだった。
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
高らかに全員の声が揃う。
大人たちはエールかワインで、レイだけは安定のミントティーで乾杯だ。
本日のメインはラムの串焼きだ。一緒にピーマンや玉ねぎなどの野菜も串に刺して、早速グリルで焼き始めている。中庭にジュワッと炭火焼きの香ばしい香りが広がっていく。
テーブルの上には、トマトとオリーブの実と白身の魔魚が入ったタジン鍋、チキンとじゃがいもをスパイスで煮込んだスープ、ひよこ豆のフムス、丸くて平たいこの地方定番のパンが籠盛りで置かれた。
よく食べ、よく飲み、みんな笑顔で楽しく語らっていた。
(なんだかバーベキューみたいで、たまにはこういうのもいいかも!)
レイは片手に串焼き、もう片手にフムスをディップしたパンを持ってはしゃいでいる。
ぱくりとラム肉にかぶりつけば、甘辛いソースとジューシーな肉汁に頬がキュッと痛くなり、炭火の香りがふわりと香る。
「そういえば、気になってたことがあるんです」
食事もすすみ、大人たちはお酒をかなり飲んで、みんな頬に赤みが差し始めた頃、レイが徐に切り出した。
「どうした?」
ダズが目を丸くして訊き返す。だいぶお酒が回っているようで、首の方まで赤みが差している。
「クリフとジョセフの妖精の羽です。まだ一度も見たことが無かったので」
ユグドラでは、妖精たちはのびのびとその美しい羽を伸ばし、空を舞っていた。
妖精の羽は、蜻蛉のような形のものから、蝶のような形のもの、ガラスのように透き通っているもの、見る角度によってキラリと色が変わるものなど、色合いや質感もさまざまで、同じものは一つと無く、それぞれが独自の美しさを誇っていた。
「高位の妖精は羽を隠すのがマナーだからな。変身魔術が使える者は中低位の妖精でも、羽は隠している。妖精の羽目当てに、誘拐されたり、切り取られたりする事件も起こっているからな」
クリフはワインの入ったグラス片手に、説明してくれた。
「そうだったんですね! 確かに妖精の羽って、すっごく綺麗ですもんね」
レイは期待混じりにチラリチラリと、クリフとジョセフの方を見た。
「……レイ、何だ?」
クリフがじと目でレイを見つめ返す。
「そういえば、俺も二人の羽は見たこと無かったな」
ダズは、レイに援護射撃をした。こちらは単刀直入だ。
期待して、クリフとジョセフを見つめる。
「俺は嫌だぜ」
ジョセフが、顔を顰めて早々に言い放った。
「……分かった。勝負しよう。俺が勝ったら、羽を見せてくれ」
ダズが胡座をかいている自分の両膝をバシッと叩いて、言い切った。完全に酔っ払っている。
「俺が勝ったら?」
ジョセフが眉根を寄せて尋ねる。
「アレを買ってもらえ。バレット商会で見かけた変異種のラミアーの鱗だ」
クリフがニッと唇の端を上げた。
「高価すぎて魔術研究所の予算が下りなかったやつか。それならいいぞ」
ジョセフもニヤリと口の端を上げる。
悪そうな笑みがよく似た兄弟だ。
「はぁ!? それじゃあ、割に合わねぇだろ。ジョセフが負けたら、クリフも羽見せてくれ」
ダズがクリフを指差した。
「言ったな? ジョセフ、やってやれ。そのために普段鍛えてるんだろ?」
「アイアイ、サー」
ジョセフが似合っていない魔術師のローブを脱ぎ捨て、ムキッとマッスルポーズをとった。ぴくりと黒光りする筋肉が動く。
勝負は定番の腕相撲に決まった。
食事の席で埃が立つのを嫌がった女性陣の意見が通ったのだ。
審判にはアッバスがつく。
ダズとジョセフは右肘をテーブルに付け、がっしりと拳を組み合った。
二人の睨み合う視線は、真剣そのものだ。
アッバスが、二人の拳の上に自らの手を置く。
レイたちもテーブルの周りにわらわらと集まって、料理やドリンク片手に今か今かと勝負の時を待っていた。
「……レディ、ゴー!!」
アッバスが、勝負の合図を叫び、一気に手を放した。
「「ゔおおぉっ!!」」
ダズとジョセフが同時に咆えた。
互いにこれでもかと力を込めているが、両者、ピクリとも動かない。
ジョセフは、応用魔術しか使えないというある意味短所を補うために、日々筋肉を鍛えている。それこそ、百年近く。——筋肉は裏切らないのである。
だが、ダズも負けてはいない。現役のAランク冒険者で、前衛の大剣使いだ。しかも、軍の訓練にもマメに参加していて、鍛錬は欠かさない。——魔術師になど負けていられないのだ。
二人の力は互角。拳の位置は全く動いていないが、二人とも腕や首筋に太い血管が浮かび、額には汗をかき始めていた。
「レイーーー! 身体強化!!」
「イエッサー!」
レイはダズに応えて、彼に身体強化魔術をかけた。
完全に悪ノリである。
「兄貴ィ! ヘルプ!!」
「分かった」
ジョセフも声を荒げる。
クリフも弟に身体強化魔術をかけた。——だが、一足遅かった。
「うらぁあああぁっ!!」
ダズが雄叫びをあげ、一気にラストスパートをかけた。
ドシンッと、テーブルの上に、ジョセフの手の甲が付く。
「よっしゃあぁあ!!」
ダズが両拳を突き上げ、勝ち鬨を上げた。
「卑怯だろ!!」
ジョセフがすぐさま反論する。
「だが、勝負は勝負だろ」
「…………分かった。見てろよ。後で後悔しても知らないからな」
盗人猛々しく堂々と言い放つダズに、ジョセフが低い声で忠告をした。
まずはクリフからお披露目になった。
クリフが妖精の羽を広げた。
クリフの羽は、尾状突起のついた華やかなアゲハ蝶型だ。
繊細な翅脈は、薄墨色で、非常に淡いアイシーブルーやパープルなど寒色系がメインカラーだ。両羽には、ぽとりと一点、インクを落としたかのような紅色のポイントが入っている。
ひらりと羽ばたけば、光の加減で羽は白銀色に輝き、ダイヤモンドダストのようなひやりと白い鱗粉が煌めく。
クリフは、透けるような白い肌で、髪や瞳の色も淡く、全体的な色合いに抜けるような透明感があるためか、冷たいほどに儚げな印象だ。
「わぁ! 綺麗~!!」
「クリフ、よく似合ってるよ!」
「初めて見たけど、すっごく素敵だね!」
女性陣から次々と賞賛の声が上がった。
「次はジョセフだな」
「目ぇかっぽじって、よく見てろよ」
ジョセフがみんなの前に出て、力強く指差して言い放った。
……ギャハハハハハッ!!!
ジョセフが妖精の羽をファサリと可憐に広げた瞬間、鉄竜の鱗の拠点は盛大な笑い声で包まれた。
「ヒーッ! お、お腹痛い!」
カタリーナがお腹を抱えて、絨毯の上で転げ回った。
戦わずして竜の第一席を倒した快挙である。
「なんつーバランスしてんだっ!!」
ダズは腹を抱えつつ、太い指でジョセフを指差している。
「そ、そんなこと……ゴフッ!」
気を遣おうとして、結局二の句が継げられなかったルーファスが咽せる。
ジョセフの妖精の羽も、アゲハ蝶型だ。ただ、クリフとは違って極彩色だ。力強い黒々とした翅脈が縦横無尽に走り、絢爛豪華だ。
赤、青、緑、黄、紫などさまざまな色が入り混じっているが、ジョセフ自身の黒光りする筋肉美もインパクトが強いため、なぜか共鳴し合って、ある意味しっくりきている。
妖精の羽を動かせば、ビロードのような羽はミラーボールのように光を反射し、キラリキラリと虹色の鱗粉が舞った。
——華麗な妖精の羽とむさ苦しい筋肉のギャップが、非常に暴力的だ。そこに妖精の鱗粉がマジカル味を加えている……
モスト・マスキュラー
フロント・ダブル・バイセップス
サイド・チェスト
バック・ダブル・バイセップス
ジョセフが気合を入れてマッスルポーズを組み替えていく度に、見事な筋肉がこんもりと盛り上がり、妖精の羽も繊細にピルピルと動いては、キラキラと虹色に輝く鱗粉が特殊エフェクトのように舞う。
「相変わらず酷いな。昔はよく似合ってたのに」
クリフは呆れ顔で、まだ身体を鍛える前の幼いジョセフを思い出していた。
クリフとは色違いの、端正な美貌がよく似た美少年に映えるアゲハ蝶型の妖精の羽——丸みのある頬は柔らかく、妖精らしい可憐な愛らしさのある、まるでお人形さんのように美しい少年だった。
色違いとしか言いようのない妖精の兄弟は、王宮内で非常に人気が高かった。
クリフは、「あの頃は王宮の侍女やメイドたちに随分可愛がられてたな」と思い返していた。
「昔っていつの話だよ? これがあるから、俺は羽見せるの嫌なんだよ」
そう言いつつも、ジョセフは悪い笑みを浮かべ、次から次へとマッスルポーズを繰り出していく。
誰も彼もが、ギャハハハハ……とお腹を抱えて、息も絶え絶えに絨毯の上で笑い転げていた。
「てめぇら、そのまま笑い転げてくたばれ」
ジョセフは、今日一番の極悪な笑顔をキメた。
こうして宴の夜は更けていった……
参加者は、銀の不死鳥メンバーのルーファス、レイ、レヴィはもちろん、主催者の鉄竜の鱗からは、カタリーナ、ダズ、クリフ、アッバス、シャマラが参加する。そして、今宵は特別に、クリフの弟のジョセフも参加する。
開催場所は鉄竜の鱗の拠点内、いつもみんなでご飯を食べたり、集まったりしていた中庭だ。
いつものように広い絨毯が敷かれていて、ローテーブルとクッションが並べられている。
一点だけ違いをあげれば、今日はグリルが中庭に設置され、既に炭と火が入れられていた。
砂漠の夜は、カラリと空気が澄んで、空には満天の星々が煌めいていた。見上げれば、中庭の壁を額縁に、満天の夜空がくっきりと絵画のように切り抜かれているかのようだった。
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
高らかに全員の声が揃う。
大人たちはエールかワインで、レイだけは安定のミントティーで乾杯だ。
本日のメインはラムの串焼きだ。一緒にピーマンや玉ねぎなどの野菜も串に刺して、早速グリルで焼き始めている。中庭にジュワッと炭火焼きの香ばしい香りが広がっていく。
テーブルの上には、トマトとオリーブの実と白身の魔魚が入ったタジン鍋、チキンとじゃがいもをスパイスで煮込んだスープ、ひよこ豆のフムス、丸くて平たいこの地方定番のパンが籠盛りで置かれた。
よく食べ、よく飲み、みんな笑顔で楽しく語らっていた。
(なんだかバーベキューみたいで、たまにはこういうのもいいかも!)
レイは片手に串焼き、もう片手にフムスをディップしたパンを持ってはしゃいでいる。
ぱくりとラム肉にかぶりつけば、甘辛いソースとジューシーな肉汁に頬がキュッと痛くなり、炭火の香りがふわりと香る。
「そういえば、気になってたことがあるんです」
食事もすすみ、大人たちはお酒をかなり飲んで、みんな頬に赤みが差し始めた頃、レイが徐に切り出した。
「どうした?」
ダズが目を丸くして訊き返す。だいぶお酒が回っているようで、首の方まで赤みが差している。
「クリフとジョセフの妖精の羽です。まだ一度も見たことが無かったので」
ユグドラでは、妖精たちはのびのびとその美しい羽を伸ばし、空を舞っていた。
妖精の羽は、蜻蛉のような形のものから、蝶のような形のもの、ガラスのように透き通っているもの、見る角度によってキラリと色が変わるものなど、色合いや質感もさまざまで、同じものは一つと無く、それぞれが独自の美しさを誇っていた。
「高位の妖精は羽を隠すのがマナーだからな。変身魔術が使える者は中低位の妖精でも、羽は隠している。妖精の羽目当てに、誘拐されたり、切り取られたりする事件も起こっているからな」
クリフはワインの入ったグラス片手に、説明してくれた。
「そうだったんですね! 確かに妖精の羽って、すっごく綺麗ですもんね」
レイは期待混じりにチラリチラリと、クリフとジョセフの方を見た。
「……レイ、何だ?」
クリフがじと目でレイを見つめ返す。
「そういえば、俺も二人の羽は見たこと無かったな」
ダズは、レイに援護射撃をした。こちらは単刀直入だ。
期待して、クリフとジョセフを見つめる。
「俺は嫌だぜ」
ジョセフが、顔を顰めて早々に言い放った。
「……分かった。勝負しよう。俺が勝ったら、羽を見せてくれ」
ダズが胡座をかいている自分の両膝をバシッと叩いて、言い切った。完全に酔っ払っている。
「俺が勝ったら?」
ジョセフが眉根を寄せて尋ねる。
「アレを買ってもらえ。バレット商会で見かけた変異種のラミアーの鱗だ」
クリフがニッと唇の端を上げた。
「高価すぎて魔術研究所の予算が下りなかったやつか。それならいいぞ」
ジョセフもニヤリと口の端を上げる。
悪そうな笑みがよく似た兄弟だ。
「はぁ!? それじゃあ、割に合わねぇだろ。ジョセフが負けたら、クリフも羽見せてくれ」
ダズがクリフを指差した。
「言ったな? ジョセフ、やってやれ。そのために普段鍛えてるんだろ?」
「アイアイ、サー」
ジョセフが似合っていない魔術師のローブを脱ぎ捨て、ムキッとマッスルポーズをとった。ぴくりと黒光りする筋肉が動く。
勝負は定番の腕相撲に決まった。
食事の席で埃が立つのを嫌がった女性陣の意見が通ったのだ。
審判にはアッバスがつく。
ダズとジョセフは右肘をテーブルに付け、がっしりと拳を組み合った。
二人の睨み合う視線は、真剣そのものだ。
アッバスが、二人の拳の上に自らの手を置く。
レイたちもテーブルの周りにわらわらと集まって、料理やドリンク片手に今か今かと勝負の時を待っていた。
「……レディ、ゴー!!」
アッバスが、勝負の合図を叫び、一気に手を放した。
「「ゔおおぉっ!!」」
ダズとジョセフが同時に咆えた。
互いにこれでもかと力を込めているが、両者、ピクリとも動かない。
ジョセフは、応用魔術しか使えないというある意味短所を補うために、日々筋肉を鍛えている。それこそ、百年近く。——筋肉は裏切らないのである。
だが、ダズも負けてはいない。現役のAランク冒険者で、前衛の大剣使いだ。しかも、軍の訓練にもマメに参加していて、鍛錬は欠かさない。——魔術師になど負けていられないのだ。
二人の力は互角。拳の位置は全く動いていないが、二人とも腕や首筋に太い血管が浮かび、額には汗をかき始めていた。
「レイーーー! 身体強化!!」
「イエッサー!」
レイはダズに応えて、彼に身体強化魔術をかけた。
完全に悪ノリである。
「兄貴ィ! ヘルプ!!」
「分かった」
ジョセフも声を荒げる。
クリフも弟に身体強化魔術をかけた。——だが、一足遅かった。
「うらぁあああぁっ!!」
ダズが雄叫びをあげ、一気にラストスパートをかけた。
ドシンッと、テーブルの上に、ジョセフの手の甲が付く。
「よっしゃあぁあ!!」
ダズが両拳を突き上げ、勝ち鬨を上げた。
「卑怯だろ!!」
ジョセフがすぐさま反論する。
「だが、勝負は勝負だろ」
「…………分かった。見てろよ。後で後悔しても知らないからな」
盗人猛々しく堂々と言い放つダズに、ジョセフが低い声で忠告をした。
まずはクリフからお披露目になった。
クリフが妖精の羽を広げた。
クリフの羽は、尾状突起のついた華やかなアゲハ蝶型だ。
繊細な翅脈は、薄墨色で、非常に淡いアイシーブルーやパープルなど寒色系がメインカラーだ。両羽には、ぽとりと一点、インクを落としたかのような紅色のポイントが入っている。
ひらりと羽ばたけば、光の加減で羽は白銀色に輝き、ダイヤモンドダストのようなひやりと白い鱗粉が煌めく。
クリフは、透けるような白い肌で、髪や瞳の色も淡く、全体的な色合いに抜けるような透明感があるためか、冷たいほどに儚げな印象だ。
「わぁ! 綺麗~!!」
「クリフ、よく似合ってるよ!」
「初めて見たけど、すっごく素敵だね!」
女性陣から次々と賞賛の声が上がった。
「次はジョセフだな」
「目ぇかっぽじって、よく見てろよ」
ジョセフがみんなの前に出て、力強く指差して言い放った。
……ギャハハハハハッ!!!
ジョセフが妖精の羽をファサリと可憐に広げた瞬間、鉄竜の鱗の拠点は盛大な笑い声で包まれた。
「ヒーッ! お、お腹痛い!」
カタリーナがお腹を抱えて、絨毯の上で転げ回った。
戦わずして竜の第一席を倒した快挙である。
「なんつーバランスしてんだっ!!」
ダズは腹を抱えつつ、太い指でジョセフを指差している。
「そ、そんなこと……ゴフッ!」
気を遣おうとして、結局二の句が継げられなかったルーファスが咽せる。
ジョセフの妖精の羽も、アゲハ蝶型だ。ただ、クリフとは違って極彩色だ。力強い黒々とした翅脈が縦横無尽に走り、絢爛豪華だ。
赤、青、緑、黄、紫などさまざまな色が入り混じっているが、ジョセフ自身の黒光りする筋肉美もインパクトが強いため、なぜか共鳴し合って、ある意味しっくりきている。
妖精の羽を動かせば、ビロードのような羽はミラーボールのように光を反射し、キラリキラリと虹色の鱗粉が舞った。
——華麗な妖精の羽とむさ苦しい筋肉のギャップが、非常に暴力的だ。そこに妖精の鱗粉がマジカル味を加えている……
モスト・マスキュラー
フロント・ダブル・バイセップス
サイド・チェスト
バック・ダブル・バイセップス
ジョセフが気合を入れてマッスルポーズを組み替えていく度に、見事な筋肉がこんもりと盛り上がり、妖精の羽も繊細にピルピルと動いては、キラキラと虹色に輝く鱗粉が特殊エフェクトのように舞う。
「相変わらず酷いな。昔はよく似合ってたのに」
クリフは呆れ顔で、まだ身体を鍛える前の幼いジョセフを思い出していた。
クリフとは色違いの、端正な美貌がよく似た美少年に映えるアゲハ蝶型の妖精の羽——丸みのある頬は柔らかく、妖精らしい可憐な愛らしさのある、まるでお人形さんのように美しい少年だった。
色違いとしか言いようのない妖精の兄弟は、王宮内で非常に人気が高かった。
クリフは、「あの頃は王宮の侍女やメイドたちに随分可愛がられてたな」と思い返していた。
「昔っていつの話だよ? これがあるから、俺は羽見せるの嫌なんだよ」
そう言いつつも、ジョセフは悪い笑みを浮かべ、次から次へとマッスルポーズを繰り出していく。
誰も彼もが、ギャハハハハ……とお腹を抱えて、息も絶え絶えに絨毯の上で笑い転げていた。
「てめぇら、そのまま笑い転げてくたばれ」
ジョセフは、今日一番の極悪な笑顔をキメた。
こうして宴の夜は更けていった……
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