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雨の回廊4
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「夜までには時間があるな。儀式からずっと休んでないだろ? 今のうちに休憩を取るか」
武王ショックから回復したダズが、幽鬼のようにゆらりと揺れて冴えない顔色で提案した。
「それもそうだな。休めるうちに休んでおこう」
サディクもチラチラとダズの様子を窺いながら、納得したように頷く。
「この世界のものを口にして良いか分からないので、こちらを召し上がってください」
クリフが空間収納から非常食を取り出して、テーブルの上に置いた。
半円形の薄いピタパンに、ゆで卵やきゅうり、トマト、レタス、スパイスで漬けて炙ったラム肉やひよこ豆などがサンドされている。甘辛ジューシーなケバブソースや、爽やかなヨーグルトソースがチラリとサンドの間に見えて、食欲をそそる。
空間収納内は時間が進まないので、作りたてを入れて、冒険や非常時用にとっておいたもののようだ。
「わぁ! 美味しそうですね! もし良かったら、こちらもどうぞ」
レイも空間収納からマンゴー、スイカ、イチジク、デーツ、ザクロを取り出して、テーブルの上に並べた。
「……なんでフルーツばっかりなんだ?」
ダズが不思議そうに尋ねる。
「この前、風邪を引いた時にいただいたお見舞いの品です……食べきれなかったので、空間収納にしまっておきました」
レイはいたずらがバレてしまった子供のように苦笑した。
「近衛隊のものだな。貰おう」
クリフは早速、デーツに手を伸ばした。
「ザクロ……アルメダを思い出すな」
サディクがザクロを手に取り、寂しげにぽつりと溢す。
「ぶっ!」
レイは、ラム肉とレタスのピタパンにかぶりついた瞬間に吹き出した。
「大丈夫か、レイ?」
「……すみません、大丈夫です……」
ダズは、レイを心配しているように見せかけて、その視線は「余計なことは言うな」と伝えていた。
レイも静かにこくりと頷く。
「ほら、お茶だ」
「ありがとうございます」
クリフも面倒をみるようにお茶を渡してきたが、その視線はダズと同じようなことを伝えていた。
(私がアルメダに変身してたってことは、言うなってことだね)
レイはしかりと頷くと、黙々と食事を続けた。
***
日が傾き始め、そろそろワルダの庭園に向かおうかと宿を出た瞬間、レイたちの時が進んだ。
オレンジ色の夕焼けが、抜けるような青空に変わる。
「ここで進むのか!?」
ダズが驚きの声をあげた。
これまで一体、どこにこれだけの人がいたのか分からないが、突如として街はたくさんの人々で溢れかえっていた。
「殿下、念のためにお顔を……」
「ああ、分かった」
クリフがサディクの方を振り向くと、サディクも心得たもので、目深にケープのフードを被った。貴人のお忍び用の、認識阻害の魔術が込められたケープだ。
街の住民たちはどこか一ヶ所を目指しているようで、緩やかに人波が動いている。
「みなさん、どこに向かっているのでしょう?」
レイは子供で特に背が低いので、人混みの中では余計に周囲の状況が分からず、背伸びするようにぴょんぴょんと跳ねて辺りを見回した。
「仕方ないな。乗れ」
ダズに抱き上げられると、レイは肩車をされた。落ちないように、ダズの頭を両手で掴む。
「あっ!」
レイが力強く指を差す。
その方向には、王宮へ続く大通り沿いに群がる人々と、立派な鎧や軍服に身を包んだ騎馬隊や歩兵の行列ができていた——王太子ラヒムの出陣パレードである。
その行進の中心にいるのは、白い馬に跨るラヒムだ。いつかの記憶の世界でも見た立派な鎧をまとい、観衆に応えるように、品良く手をあげている。
だが、レイが記憶の世界でも今までも見たことがないような、貼り付けたような硬い笑顔だった。
出陣のラッパの音が高らかと鳴り響き、前サハリア王国の旗を掲げた歩兵たちがザッザッと行進して行く。
王都は、住民たちの歓声で溢れかえっていた。
「まずいな。さすがにこの状況では接触できない。その前に取り押さえられてしまうな」
クリフが端正な眉間に皺を寄せた。
「次は確か、戦場だったか? これだけ時が飛んでしまうようでは、あとを追ってついて行くのも難しいな……」
サディクも顔をしかめる。
「どうしよう……」
レイは弱々しく呟いた。
元の世界に帰るヒントになりそうな人物であるラヒムは、馬に乗って、兵士たちと共に街の外へと行進していく。もうその背中も小さく、見えなくなってきている。
(このままじゃ元の世界に帰れないよ…………あっ!)
ふと、レイはルーファスの言葉を思い出した。
——いざとなったら、僕の加護を使うんだよ?——
(今がピンチなら、あの加護が使える!!)
レイはダズの頭の上で両手を組むと、祈るようなポーズをとった。
「? どうした?」
急に静かになったレイに、ダズも肩の上の彼女を訝しむ。
(ルーファスの加護を使いたい! 今、すっごくピンチなの! お願い、助けて!)
ぐぐぐっとお腹のあたりを意識して魔力を込めると、なんだか自分がぽわりと柔らかく光った感じがした。
「やった! 成功!? わっ!!?」
レイが両手を上げてバンザイすると、肩の上でぐらりとバランスを崩す。
「!? ばかやろ!」
ダズがレイを落とさないように、慌てて体勢を整えようとしたその瞬間——
「おや、珍しい。この世界にお客様ですか」
トン、と静かにレイの背中を支える者が現れた。
「えっ!?」
レイが自分の肩越しに振り向くと、そこにはスラリと背の高い、スーツ姿の男性がいた。
人間離れした人形のように整った顔立ちの男性だ。真っ白な髪は絹のように艶やかで、柔らかに編まれ、黒いシルクハットをかぶっている。深緑の中に木漏れ日が差し込むような瞳は、妖精らしい魔術の光を灯している。
妖精の羽は、変身魔術で隠しているようだ。
「……妖精さん……?」
「そう警戒しないで下さい。私は、この世界の管理人みたいなものですよ」
レイがぽつりと呟くと、男性はにこりと微笑んだ。
「……管理人さん? あ、ありがとうございます」
レイはお礼を言ってないことを思い出し、慌てて感謝を伝える。
「そうですね……立ち話もなんですので、お茶でもしますか。あなた方も、一緒にどうぞ」
男性は、正確にサディクとクリフの方を振り向いて誘った。
***
妖精の男性は、転移魔術でどこかの庭園に四人を連れてきた。
庭園の真ん中には白く塗られた瀟酒なガゼボがあり、その周りには、沈丁花が白と濃いピンク色の見事な花を咲かせていて、ツンと鮮やかな香りを漂わせていた。
ガゼボに入ると、妖精の男性は空間収納から茶器を取り出して、紅茶を淹れ始めた。
「どうぞ。毒などは入れておりませんから、大丈夫ですよ。もちろん、魔術的な影響も無いです」
妖精の男性は朗らかに微笑むと、自身も一口、優雅に紅茶に口をつける。
レイは目に魔力を込めてチェックしたが、特に何もなく、本当にただの紅茶のようだ。
「ありがとうございます。いただきます」
レイは一口、紅茶を飲んだ。ふっと、ふくよかな紅茶の香りがする。
サディクたちもそれを見て、「いただきます」と紅茶を口にしていた。
「私はイヴァンと申します。お客様がこの世界に来られたのは、初めてですね。お見受けする限り、サハリアの王宮関係の方々でしょうか?」
イヴァンは、真っ直ぐにサディクの方を見つめた。明らかに、この世界での王太子ラヒムと瓜二つの顔だ。否定しようがなかった。
「そうですね。王宮での儀式の際に、こちらの世界に引き込まれてしまったようです」
サディクも対外的な微笑みを浮かべ、小さく頷く。
「なるほど。……どうやら、ここに落ちて来たのは、あなた方だけのようですね。その影響で、この世界に穴が空いてしまったようです」
イヴァンの深緑の瞳に、木漏れ日の光が浮かんで消える。何か妖精の魔術を使って調べたようだ。
「あの、ここはどういった世界なんでしょうか?」
レイは思い切って尋ねてみた。
「ここは時を閉じ込めた、砂竜王の世界ですよ。彼女の最後の輝きが、何度でも見れる私の庭です」
「そうなんですね……そんなことができるんですね」
レイが相槌を打つ。
「ええ。私は糸車の妖精ですから」
イヴァンの回答に、レイ以外の三人の顔が、一瞬、少しだけ強張った。彼には悟られないよう、何でもないように微笑んで繕う。
「イヴァンさんのお邪魔をしたくないですし、私たちがここから出るにはどうしたらいいのでしょうか?」
レイは今一番知りたいことを単刀直入に尋ねた。せっかくのチャンスを逃してはいけないのだ。
「そうですね。穴を塞がない限りは、この庭から出ようとしても迷ってしまう可能性が高いですね。修復が終わるまでお待ちいただけますか? 終わりましたら、外の世界へお送りしましょう」
「すみませんが、よろしくお願いします」
「いえいえ」
レイがぺこりとお辞儀をすると、イヴァンはにこやかに頷いた。
「おや? そろそろですね」
イヴァンはスーツの胸元から銀の懐中時計を取り出して、何やら確認していた。
「えっ? 何が……?」
「砂竜王が砂漠になったんです。ラヒムを守るためにね」
イヴァンの少し棘のある声音と共に、まるで津波のように、ローズ色の砂が大量に庭に押し寄せて来た。
「「「「っ!!?」」」」
四人は声もあげる暇も無く、ローズ色の砂の中へと押し流されていった。
レイが次に目を開けると、どこかで見たことがあるような森の中の空き地だった。
色鮮やかな緑の下草や木々が生え、鬱蒼とした森が広がっている。
「嘘……ここって、一番最初の場所? あ、ダズ!? 大丈夫ですか!?」
地面から起き上がって、辺りを見回すと、ダズも飛ばされて来ていたようだ。
レイの声に気付いて、ダズも彼女の方を振り返った。
「レイか……ここにいるのは、俺たちだけみたいだな……」
ダズもむくりと地面から起き上がる。
「イヴァンさんは、『何度でも見れる』って仰ってましたけど、もしかして……?」
「ああ。そのまさかだろう。……一からやり直しか」
ダズは悔しそうに、暗く重たいグレーがかった雨空を見上げた。
武王ショックから回復したダズが、幽鬼のようにゆらりと揺れて冴えない顔色で提案した。
「それもそうだな。休めるうちに休んでおこう」
サディクもチラチラとダズの様子を窺いながら、納得したように頷く。
「この世界のものを口にして良いか分からないので、こちらを召し上がってください」
クリフが空間収納から非常食を取り出して、テーブルの上に置いた。
半円形の薄いピタパンに、ゆで卵やきゅうり、トマト、レタス、スパイスで漬けて炙ったラム肉やひよこ豆などがサンドされている。甘辛ジューシーなケバブソースや、爽やかなヨーグルトソースがチラリとサンドの間に見えて、食欲をそそる。
空間収納内は時間が進まないので、作りたてを入れて、冒険や非常時用にとっておいたもののようだ。
「わぁ! 美味しそうですね! もし良かったら、こちらもどうぞ」
レイも空間収納からマンゴー、スイカ、イチジク、デーツ、ザクロを取り出して、テーブルの上に並べた。
「……なんでフルーツばっかりなんだ?」
ダズが不思議そうに尋ねる。
「この前、風邪を引いた時にいただいたお見舞いの品です……食べきれなかったので、空間収納にしまっておきました」
レイはいたずらがバレてしまった子供のように苦笑した。
「近衛隊のものだな。貰おう」
クリフは早速、デーツに手を伸ばした。
「ザクロ……アルメダを思い出すな」
サディクがザクロを手に取り、寂しげにぽつりと溢す。
「ぶっ!」
レイは、ラム肉とレタスのピタパンにかぶりついた瞬間に吹き出した。
「大丈夫か、レイ?」
「……すみません、大丈夫です……」
ダズは、レイを心配しているように見せかけて、その視線は「余計なことは言うな」と伝えていた。
レイも静かにこくりと頷く。
「ほら、お茶だ」
「ありがとうございます」
クリフも面倒をみるようにお茶を渡してきたが、その視線はダズと同じようなことを伝えていた。
(私がアルメダに変身してたってことは、言うなってことだね)
レイはしかりと頷くと、黙々と食事を続けた。
***
日が傾き始め、そろそろワルダの庭園に向かおうかと宿を出た瞬間、レイたちの時が進んだ。
オレンジ色の夕焼けが、抜けるような青空に変わる。
「ここで進むのか!?」
ダズが驚きの声をあげた。
これまで一体、どこにこれだけの人がいたのか分からないが、突如として街はたくさんの人々で溢れかえっていた。
「殿下、念のためにお顔を……」
「ああ、分かった」
クリフがサディクの方を振り向くと、サディクも心得たもので、目深にケープのフードを被った。貴人のお忍び用の、認識阻害の魔術が込められたケープだ。
街の住民たちはどこか一ヶ所を目指しているようで、緩やかに人波が動いている。
「みなさん、どこに向かっているのでしょう?」
レイは子供で特に背が低いので、人混みの中では余計に周囲の状況が分からず、背伸びするようにぴょんぴょんと跳ねて辺りを見回した。
「仕方ないな。乗れ」
ダズに抱き上げられると、レイは肩車をされた。落ちないように、ダズの頭を両手で掴む。
「あっ!」
レイが力強く指を差す。
その方向には、王宮へ続く大通り沿いに群がる人々と、立派な鎧や軍服に身を包んだ騎馬隊や歩兵の行列ができていた——王太子ラヒムの出陣パレードである。
その行進の中心にいるのは、白い馬に跨るラヒムだ。いつかの記憶の世界でも見た立派な鎧をまとい、観衆に応えるように、品良く手をあげている。
だが、レイが記憶の世界でも今までも見たことがないような、貼り付けたような硬い笑顔だった。
出陣のラッパの音が高らかと鳴り響き、前サハリア王国の旗を掲げた歩兵たちがザッザッと行進して行く。
王都は、住民たちの歓声で溢れかえっていた。
「まずいな。さすがにこの状況では接触できない。その前に取り押さえられてしまうな」
クリフが端正な眉間に皺を寄せた。
「次は確か、戦場だったか? これだけ時が飛んでしまうようでは、あとを追ってついて行くのも難しいな……」
サディクも顔をしかめる。
「どうしよう……」
レイは弱々しく呟いた。
元の世界に帰るヒントになりそうな人物であるラヒムは、馬に乗って、兵士たちと共に街の外へと行進していく。もうその背中も小さく、見えなくなってきている。
(このままじゃ元の世界に帰れないよ…………あっ!)
ふと、レイはルーファスの言葉を思い出した。
——いざとなったら、僕の加護を使うんだよ?——
(今がピンチなら、あの加護が使える!!)
レイはダズの頭の上で両手を組むと、祈るようなポーズをとった。
「? どうした?」
急に静かになったレイに、ダズも肩の上の彼女を訝しむ。
(ルーファスの加護を使いたい! 今、すっごくピンチなの! お願い、助けて!)
ぐぐぐっとお腹のあたりを意識して魔力を込めると、なんだか自分がぽわりと柔らかく光った感じがした。
「やった! 成功!? わっ!!?」
レイが両手を上げてバンザイすると、肩の上でぐらりとバランスを崩す。
「!? ばかやろ!」
ダズがレイを落とさないように、慌てて体勢を整えようとしたその瞬間——
「おや、珍しい。この世界にお客様ですか」
トン、と静かにレイの背中を支える者が現れた。
「えっ!?」
レイが自分の肩越しに振り向くと、そこにはスラリと背の高い、スーツ姿の男性がいた。
人間離れした人形のように整った顔立ちの男性だ。真っ白な髪は絹のように艶やかで、柔らかに編まれ、黒いシルクハットをかぶっている。深緑の中に木漏れ日が差し込むような瞳は、妖精らしい魔術の光を灯している。
妖精の羽は、変身魔術で隠しているようだ。
「……妖精さん……?」
「そう警戒しないで下さい。私は、この世界の管理人みたいなものですよ」
レイがぽつりと呟くと、男性はにこりと微笑んだ。
「……管理人さん? あ、ありがとうございます」
レイはお礼を言ってないことを思い出し、慌てて感謝を伝える。
「そうですね……立ち話もなんですので、お茶でもしますか。あなた方も、一緒にどうぞ」
男性は、正確にサディクとクリフの方を振り向いて誘った。
***
妖精の男性は、転移魔術でどこかの庭園に四人を連れてきた。
庭園の真ん中には白く塗られた瀟酒なガゼボがあり、その周りには、沈丁花が白と濃いピンク色の見事な花を咲かせていて、ツンと鮮やかな香りを漂わせていた。
ガゼボに入ると、妖精の男性は空間収納から茶器を取り出して、紅茶を淹れ始めた。
「どうぞ。毒などは入れておりませんから、大丈夫ですよ。もちろん、魔術的な影響も無いです」
妖精の男性は朗らかに微笑むと、自身も一口、優雅に紅茶に口をつける。
レイは目に魔力を込めてチェックしたが、特に何もなく、本当にただの紅茶のようだ。
「ありがとうございます。いただきます」
レイは一口、紅茶を飲んだ。ふっと、ふくよかな紅茶の香りがする。
サディクたちもそれを見て、「いただきます」と紅茶を口にしていた。
「私はイヴァンと申します。お客様がこの世界に来られたのは、初めてですね。お見受けする限り、サハリアの王宮関係の方々でしょうか?」
イヴァンは、真っ直ぐにサディクの方を見つめた。明らかに、この世界での王太子ラヒムと瓜二つの顔だ。否定しようがなかった。
「そうですね。王宮での儀式の際に、こちらの世界に引き込まれてしまったようです」
サディクも対外的な微笑みを浮かべ、小さく頷く。
「なるほど。……どうやら、ここに落ちて来たのは、あなた方だけのようですね。その影響で、この世界に穴が空いてしまったようです」
イヴァンの深緑の瞳に、木漏れ日の光が浮かんで消える。何か妖精の魔術を使って調べたようだ。
「あの、ここはどういった世界なんでしょうか?」
レイは思い切って尋ねてみた。
「ここは時を閉じ込めた、砂竜王の世界ですよ。彼女の最後の輝きが、何度でも見れる私の庭です」
「そうなんですね……そんなことができるんですね」
レイが相槌を打つ。
「ええ。私は糸車の妖精ですから」
イヴァンの回答に、レイ以外の三人の顔が、一瞬、少しだけ強張った。彼には悟られないよう、何でもないように微笑んで繕う。
「イヴァンさんのお邪魔をしたくないですし、私たちがここから出るにはどうしたらいいのでしょうか?」
レイは今一番知りたいことを単刀直入に尋ねた。せっかくのチャンスを逃してはいけないのだ。
「そうですね。穴を塞がない限りは、この庭から出ようとしても迷ってしまう可能性が高いですね。修復が終わるまでお待ちいただけますか? 終わりましたら、外の世界へお送りしましょう」
「すみませんが、よろしくお願いします」
「いえいえ」
レイがぺこりとお辞儀をすると、イヴァンはにこやかに頷いた。
「おや? そろそろですね」
イヴァンはスーツの胸元から銀の懐中時計を取り出して、何やら確認していた。
「えっ? 何が……?」
「砂竜王が砂漠になったんです。ラヒムを守るためにね」
イヴァンの少し棘のある声音と共に、まるで津波のように、ローズ色の砂が大量に庭に押し寄せて来た。
「「「「っ!!?」」」」
四人は声もあげる暇も無く、ローズ色の砂の中へと押し流されていった。
レイが次に目を開けると、どこかで見たことがあるような森の中の空き地だった。
色鮮やかな緑の下草や木々が生え、鬱蒼とした森が広がっている。
「嘘……ここって、一番最初の場所? あ、ダズ!? 大丈夫ですか!?」
地面から起き上がって、辺りを見回すと、ダズも飛ばされて来ていたようだ。
レイの声に気付いて、ダズも彼女の方を振り返った。
「レイか……ここにいるのは、俺たちだけみたいだな……」
ダズもむくりと地面から起き上がる。
「イヴァンさんは、『何度でも見れる』って仰ってましたけど、もしかして……?」
「ああ。そのまさかだろう。……一からやり直しか」
ダズは悔しそうに、暗く重たいグレーがかった雨空を見上げた。
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