鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
127 / 210

閑話 女子部屋

しおりを挟む
 村の宿では、男女に分かれて部屋を取ることになった。
 男性陣四人は、五人まで泊まれる大部屋で、レイとカタリーナは女子だけの二人部屋だ。

 夕食も終わり、レイは自身と琥珀に洗浄魔術をかけると、宿のベッドに飛び乗った。少し固めのベッドだが、リネンはお日さまの香りがして、清潔に整えられているようだ。

 カタリーナも洗浄魔術をかけた後は、パジャマ代わりの柔らかいシャツとパンツに着替え、自分のベッドにごろりと横になってリラックスしている。

「冒険者を始めてから、ずっと琥珀と二人きりだったので、何だか嬉しいです!」
「おや? じゃあ、あたしが初めてのルームメイトだね」
「はいっ! なので、いっぱいお話ししたいです。冒険のこととか、この世界のこととか、いろいろ……恋バナも聞きたいですし……」

 レイは部屋に備え付けの枕をクッション代わりに、バフッと抱きしめた。口元が少し隠れて、恥ずかしがってるためか、声も小さくなる。

「ははっ! 女子なら恋バナメインだろ。レイはどうなんだ?」
「う~ん、私は子供なのでまだ……」
『レイはSSランクのサーペントに言い寄られてる』
「琥珀!?」

 琥珀はレイにピタッとくっついて香箱座りをすると、念話で話し始めた。

「お、使い魔も恋バナイケるクチだね。なんだ~、いるんじゃない! SSランクのサーペントなんて、滅多にいないよ! あたしが知ってるのは、氷河で冬眠してる爺さんか、風の渓谷の主か、大滝の守り人か……あとはユークラストの水災だね」

「……ゔっ……」
「なんだ、この中に該当する奴がいるのかい?」
『ユークラストの』
「ああ、あいつね~。気難しい奴じゃないし、この中では一番いいんじゃない?」
「ええっ!? そうなんですか!?」

「爺さんはここ数百年寝てばっかだから無理だろ。風の渓谷のは、ワイバーンとの小競り合いでいつもピリピリしてるし、大滝のは、頭堅すぎて面倒臭いよ。まぁ、どいつもこいつも水系だから、レイは気に入られそうだけどね」

「ゔぅっ……」
「おや? 魔物は嫌かい?」

「……正直、よく分かんないです。魔物自体、初めて出会いましたし、寿命が違いすぎるから、何だかいろんな感覚がズレてますし、やっぱり人と魔物で価値観、というか倫理観が違う気がして……」

「まあ、違うんだから当たり前だろ」
「……違うから当たり前……」

「そっ。そもそも生き物として違うんだから、いろいろ違うのは当たり前さ。違うから嫌ったり避けたりするんじゃなくて、まずは『こういう生き物なんだ』『だからこういう考え方なんだ』って知って欲しいかな~嫌うのなんて、後からでもできるし」

「確かに……」
「で、何を迷ってんの?」

 カタリーナは色鮮やかな黄金眼をキラリと光らせて、さらに追求してきた。

「水系の魔物は愛情深いけど、嫉妬深くてよく刺すって聞きました」
「……それは割と良くあることだから、否定しない。ユークラストのは、そんな感じの男なのかい?」
「う~ん、アイザックはそんな感じはしないです。マイペースで、割と大らかな方かもです」
「じゃあ、性格は問題なさそうだね」
「……そうですね」
「ん? まだ何か引っかかってんの?」

「う~ん……好きかどうかよく分からない?」
「あははっ! 根本的な問題じゃないか! それなら、自然に好きな人ができるまで待つことだね! 魔物は寿命が長くて、気が長いんだろ? そんなの、待たせとけばいいんだよ!」

 レイは目をぱちくりさせた。

「そんなので、いいんですか?」
「いいんだよ! それとも、レイはその気も無いのに付き合うのかい?」

 ぶんぶんと、レイは左右に大きく首を振った。

「じゃあ、それでいいんだよ。無理に付き合うのも相手に失礼だろ?」
「……確かに……」

 レイはこくりと頷いた。

(……自分のペースでいいんだ……)

 レイは、猛アタックしてくるアイザックに対して、何も応えられていないのを申し訳なく思っていたが、自分のペースでいいんだと気づくと、なんだかスッと腹落ちした。

「……そうですね。私には私のペースがありますもんね」

 レイはスッキリして、にこりと笑った。

「カタリーナはどうなんですか?」
「火竜王ガロンって知ってるかい?」
「知らないです」

 レイはふるふると首を横に振った。

「竜族の第三席なんだけど、すっごくいい男なんだ!」
「おおっ! いい男! ……恋人なんですか?」

「そうなれたらいいんだけど、アプローチ中だ。……漢気があって、面倒見が良くて、賢くて、仲間想いのいい奴なんだ。表向きは『火竜の鉤爪かぎづめ』っていうSランク冒険者パーティーのリーダーをやってるよ。『炎帝』って通り名もある。冒険者をやってれば、そのうち出会うだろ」

「カタリーナは、火竜王様に憧れて、冒険者をやってるんですか?」
「それもあるかな~……きっかけは、鉄竜の里から出て世界中を見て回りたいから冒険者になったんだけど……ガロンと一緒に旅をするのも憧れるし、今ではあたしにも仲間がいるから、そいつらと旅するのも楽しいし……まあ、いろいろだ」

「火竜王様と一緒に冒険できたらいいですね!」
「あいつったら、あたしの誘いを断ってばかりなんだ! 『カタリーナがいたら、冒険がラクになりすぎてつまんなくなるだろう』って」

「そうなんですね。そのうちギルドの合同依頼が出てくるといいですね」
「あっはっは。Sランクパーティーを二つも指名する依頼ってどんなのだよ? それこそ、戦争か、国家転覆か、魔王討伐ぐらいだろ」

「まっ、魔王討伐はダメです! 義父さんも、ミーレイ様も倒しちゃダメです!」

 レイは慌ててバタバタと両手を振った。

「あははっ。あたしじゃ魔王討伐は無理だよ! ガロンがいてもダメさ。魔王種ぐらいじゃないと、ただの無駄死にだよ。……それだけ魔王っていうのは、特別なのさ」

 カタリーナはからりと言ってのけた。

(SSSランクの魔物ってすっごく強いと思うんだけど、それでもまだ足りないの……??)

 魔王がどれだけ強いのか、レイには見当もつかなくて、小首を傾げた。


 その時、琥珀がレイと枕の間に入り込もうとむぎゅむぎゅと頭を押し付け始めた。とてもかまって欲しそうだ。

「琥珀は最近、ふわふわのモチモチなのです!」

 レイは枕を手放して、むぎゅっと琥珀を抱きしめた。琥珀も満更ではなさそうに、ゴロゴロと喉を鳴らしている。

『うん。ライがいっぱいおやつくれる』
「えっ!?」
「ライって誰だい?」

 カタリーナは興味津々だ。

『Aランクの翼獅子。フェリクス様の側近』
「ああ、現教皇のライオネルか」

「このふわモチは、てっきり冬毛になってきたからだと思ってました! ライが餌付けしてたんですね!?」

『毛艶が良くて、モチモチな女の子、モテる。ライが言ってた』
「なんだ、好みの女に育ててるのか、あいつ……」

 カタリーナが呆れて、若干引いたような顔をした。

「確かに、モチモチの猫さんは魅力的ですが、健康も大事です。琥珀、食べすぎ注意ですよ!」

 琥珀は叱られたと思ったのか、しゅんとして、空間収納から使い魔用のジャーキーや燻製肉などをボロボロと大量に出してきた。しっぽの先はしおらしく垂れ下がっている。

「!?」
「あいつ、おやつあげすぎだろ! ……よく一気に食べなかったな……」
『レイの魔力、美味しい。満腹感いっぱい。でも、おやつも美味しい。時々食べるの、好き』

 琥珀がしゅんと項垂れながら正直に話した。

「……レイ、この子は自分でおやつ管理ができてるようだから、さすがに取り上げなくていいと思うよ。どこかおつかいに出て迷子になったら、非常食になっていいしね」

「……そうですね。琥珀、びっくりさせちゃってごめんね。勝手におやつを食べてたのを怒ったわけじゃないです。琥珀が食べすぎて不健康になったら嫌だな、って心配したんです……」

 レイが琥珀を撫でると、叱られたわけじゃないんだと理解した琥珀は、頭をぐりぐりとレイの手に押し付けた。

「……それにしても、おやつをあげるにしても限度があるだろ。絞るならライオネルの方だな」
「う~ん……義父さんに相談です」

 レイとカタリーナは、互いに顔を見合わせた。


***


 後日、ライオネルはフェリクスより直々に、「琥珀へのおやつあげすぎ禁止令」が出ることになった。

 琥珀と遊んだり、おやつをあげるのを楽しみにしていたライオネルは、しばらく肩を落とし、しょんぼりしていたとのことだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

処理中です...