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フェニックスの祝祭5
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「おや? 琥珀? こんな所でどうしたんだ? ご主人様は?」
「な~ん……」
教皇ライオネルが側近を引き連れ、廊下を移動していると、尻尾の先をしょんぼりと垂らした琥珀を見つけた。
「ああ、教会は強固な結界が張ってあるから、決まったルートでないと影魔術も使えないんだ。とりあえず、フェリクス様の執務室に行こうか。そこならレイもいるだろ」
「にゃ」
ライオネルが両腕を広げると、琥珀がジャンプして飛び乗った。ライオネルはそのまま子猫サイズの琥珀を抱っこし、フェリクスの執務室に向かって歩き出した。
「これはこれは、猊下……猫、ですか?」
ライオネルが、執務区画の中央ホールに出ると、不意に、小太りの男性が話しかけてきた。
彼は緑色のラインが入った司教服を着ていて、大きな緑色の宝石が付いた金の指輪をじゃらりといくつも太い指にはめている。
「ウィンザー司教。この子はフェリクス大司教の御令嬢の使い魔ですよ」
「フェリクス大司教に御令嬢が……? それにしても随分珍しい柄の猫ですね。フェリクス大司教も珍しいものをお与えになる」
「フーッ!!」
ウィンザーが琥珀に手を伸ばしかけると、琥珀は牙を剥いて威嚇をした。そのままグルグルと低く唸っている。
「おやおや、嫌われてしまいましたか」
ウィンザーは、丸々と太った手を引っ込めた。
「それよりも猊下、うちの娘がまた上位の治癒魔術を覚えましてね。是非ともご覧にいれたいのですが」
ウィンザーが擦り寄るように、自身の娘を褒めたてた。まるで舞台役者を紹介する司会かのように、大仰に身振り手振りしている。
「猊下、この後は……」
ライオネルの後ろに控えていた側近が、さりげなく進言した。
「すまないな」
「おや、それは残念です。いつでもお待ちしておりますよ。それでは失礼いたします」
ウィンザーは思いの外素直に身を引いた。そのまま教会式の礼を取り、ライオネルが立ち去るのを待っていた。
『ライ。あいつ、何か嫌な匂いする』
『だよな。人間の司教は権力欲が強くてな……時々ああいうのがいるんだ。俺たちには一切効かない所か、毎回会う度に鼻が曲がりそうでかなわない……』
フェリクスの執務室に向かいつつ、二匹は鼻に皺を寄せて、念話を交わし合った。
***
「琥珀!!」
「なーん!!」
レイがフェリクスの執務室に入った途端、琥珀がバッと飛び込んできた。
レイはむぎゅっと琥珀を抱きしめて、頬ずりをした。
「迷子になったって聞いたよ。大丈夫だった?」
『ここ、影魔術、使いづらい。ライにリボン貰った。これで、どこでも通れる』
「えっ? リボン??」
レイが琥珀の首元を見ると、いつもの赤いリボンではなくて、白地に青いラインが入ったベルベットのリボンがされていた。
「いつものリボンも似合ってるけど、このリボンもかわいいね!」
レイは、琥珀を抱っこしたままその背中を撫でた。
ゴロゴロと甘える声がする。
「それはここでの通行許可証みたいなものだよ。基本的に、教会内で使い魔は、移動を制限されてるんだ。機密書類なんかも扱ってるからね」
フェリクスがにこにこと説明してくれた。
「じゃあ、このリボンがあれば、琥珀もここでは迷子にならなくて済むね」
「にゃ」
琥珀は甘えるように、スリスリと頭をレイに擦り付けた。
「レイ、そっ、その猫の模様……」
「琥珀はキラーベンガルですよ」
「だだだ、大丈夫なのか!?」
プルプルと震える指先で、ザックは琥珀を指差した。若干、腰も引けている。
「使い魔契約してあるので、大丈夫ですよ。ねー?」
「にゃ」
ザックはまだ信じられないものを見る目で、遠巻きにレイたちを見つめていた。
Aランク魔獣のキラーベンガルは、普通、人間に懐いたり、使い魔にできるような種類の魔物ではないのだ。
「そういえば、どうだった?」
フェリクスが、レイをじっと見据えて尋ねてきた。
「聖堂を見て来ました! とっても綺麗な所ですね。あそこが会場になるんですよね?」
「そうだよ。あの聖堂が、浄化の儀の時には、信徒でいっぱいになるんだ……そうだね、レイには詠唱を手伝ってもらおうかな」
「なっ!? 見習いの子に詠唱は早すぎます! 彼女には、他の見習いの子と同様に、香炉持ちをしてもらおうかと考えてたのですが……」
フェリクスがのほほんとそう言い放つが早いか、即座にザックが異議を申し立てた。
「詠唱? 香炉持ち?」
「詠唱は、僕の浄化魔術を補助するものだよ。主に聖属性の神官たちにお願いしてるんだ。浄化の儀では、特殊な香を使って、信徒が今年一年溜め込んだ穢れ——というか呪いや不要な魔術の痕跡なんかを浮かび上がらせるんだ。その方が浄化もしやすいからね。香炉持ちは、その特殊な香炉を持って、聖堂内を歩き回るんだ」
「香炉持ちは、毎年、見習いの子の仕事です。詠唱は、聖堂自体があの規模ですし、相当な魔力量が必要になります。さらに、魔力コントロールが難しいので、神官でも魔術の得意な選りすぐりの者が担当しています」
フェリクスの説明を、ザックが補足した。
「レイなら、問題ないんじゃないかな? 魔力量は問題ないし、魔力コントロールは、加護持ちだから筋がいいよ。試しに、ちょっと教えてみてもらえる?」
「加護持ち……」
ザックが目を大きく見開いて、レイの方を振り向いた。加護持ちは珍しいのだ。
「? えっと……よろしくお願いします?」
レイは、とりあえず教えてもらえるのかな? と、ザックの方を向いてぺこりとお辞儀をした。
「…………分かりました、お教えします……」
ザックも、そんなきょとんとしたレイの様子に毒気を抜かれたのか、肩を落とし片手で顔を覆って、了承した。
***
レイとザックは、神官の鍛錬場に来ていた。
鍛錬場は、宿舎の北側にあり、鍛錬中に魔術が暴発しても大丈夫なように、その周囲に頑丈な結界が施されている。
祝祭前のためか、鍛錬場にいる人もまばらだ。
「レイは、聖魔術は何か使ったことは?」
「う~ん……基礎と浄化を少し?」
「……何で疑問系なんだ?」
「基礎は一応習いました。浄化の方は……結果として浄化はできたけど、あれで良かったのかどうか……急なことでしたので」
レイが今までに使ったことのある聖魔術は、浄化砲……のようなものだった。
魔剣レーヴァテインを浄化した際に、がむしゃらに撃ってみたら出たものだったため、あれが正式な聖魔術なのか、レイにはいまいちピンときてないのだ。
魔術の基礎は一通り師匠のウィルフレッドから習ってはいるが、どうしても、はじめから適性が高かった水魔術や、普段使い回しの効く火・風・地属性の魔術、回復や結界などの使用頻度の高い魔術を練習することの方が多かった。
聖魔術の初級魔術は、基礎を習った時に一回試したきりだった。
「まぁ、聖魔術は日常生活ではほとんど使われないからな。それに、魔術は土壇場でいきなり覚醒することもある。特に命の危険があった場合は覚醒しやすい」
ザックがちらりとレイを見ると、彼女は静かにこくりと頷いた。
「……はぁ、なるほどな。それなら、さっさと練習するか。本番は明日からだからな……」
ザックは首裏をポリポリと掻くと、真剣な表情で詠唱の説明を始めた。
***
「レイ、今日の魔術の授業はどうだった?」
フェリクスが、白ワインを一口飲んで、にこやかに尋ねてきた。
夜の離宮で、フェリクスとレイとレヴィは食卓を囲んでいた。
本日のディナーは、蕪とサーモンの冬野菜のマリネに、鹿肉と蓮根のテリーヌ、外はカリカリ中はふわふわな白身魚とブロッコリーのバターソテー、それから、レイの大好きなクリームシチューだ。ふかふかの丸パンも付いている。
フェリクス専任のコックが離宮には控えているらしく、どの料理も絶妙な味わいで、レイはリスのように頬をパンパンにして頬張っていた。
「すっごく面白かったです! ザックさんの説明も分かりやすかったですし、いろいろな視点から教えてもらえたので、とても魔術の勉強になりました」
元三大魔女リリスの加護を受けたレイは、魔術について非常に飲み込みが早かった。
ザックも始めは様子を見ながら少しずつ教えていたが、生徒の吸収が早いと知るや否や、次から次へとより上級のものを教え始めた。
最後の方はほぼ雑談だったが、彼の魔術についての洞察は深く、非常にためになるものだったので、レイもずっと興味津々に彼の話を聴いていた。
「彼は言葉を使う魔術が得意だからね。魔術の一つ一つを言語化して定義するから、魔術を紡ぐのは少し遅いけど、かなり正確で均一な質の良い魔術を撃てる珍しい人間なんだよ」
「そうだったんですね。確かに、ザックさんの詠唱には、言葉に魔力がなめらかに乗ってました」
「そう! そこが詠唱のポイントだよ。詠唱は時間がかかるから、実戦重視の魔術師からは敬遠されやすいけど、祭祀なんかでは時間がしっかり取れるからね。むしろ、彼のように均一で質の良い魔術の方が求められるんだよ。要は使い処だね」
「冒険者だけをやってると、そこら辺はきっと分からなかったですね。……レヴィは今日はどうだった?」
レイはぶどうジュースを飲んで一息つくと、レヴィの方を向いた。
「今日は、鍛錬と教会内の見回りです。早くも騎士見習いの子たちがいました。みんな熱心でしたね」
「アルバンから報告は受けてるよ。子供たちだけじゃなくて、聖騎士からも指導をお願いされたようだね……アルバンがびっくりしてたよ」
「……レヴィ、ほどほどにね……」
「ほどほどですか。かしこまりました」
「う~~ん、やっぱりレヴィには、レイの護衛に付いてもらおうか。他の聖騎士と一緒に教会内を見回ってもらうつもりだったけど……」
フェリクスは、思案顔で小首を傾げた。
後にこの判断が明暗を分けることになった。
「な~ん……」
教皇ライオネルが側近を引き連れ、廊下を移動していると、尻尾の先をしょんぼりと垂らした琥珀を見つけた。
「ああ、教会は強固な結界が張ってあるから、決まったルートでないと影魔術も使えないんだ。とりあえず、フェリクス様の執務室に行こうか。そこならレイもいるだろ」
「にゃ」
ライオネルが両腕を広げると、琥珀がジャンプして飛び乗った。ライオネルはそのまま子猫サイズの琥珀を抱っこし、フェリクスの執務室に向かって歩き出した。
「これはこれは、猊下……猫、ですか?」
ライオネルが、執務区画の中央ホールに出ると、不意に、小太りの男性が話しかけてきた。
彼は緑色のラインが入った司教服を着ていて、大きな緑色の宝石が付いた金の指輪をじゃらりといくつも太い指にはめている。
「ウィンザー司教。この子はフェリクス大司教の御令嬢の使い魔ですよ」
「フェリクス大司教に御令嬢が……? それにしても随分珍しい柄の猫ですね。フェリクス大司教も珍しいものをお与えになる」
「フーッ!!」
ウィンザーが琥珀に手を伸ばしかけると、琥珀は牙を剥いて威嚇をした。そのままグルグルと低く唸っている。
「おやおや、嫌われてしまいましたか」
ウィンザーは、丸々と太った手を引っ込めた。
「それよりも猊下、うちの娘がまた上位の治癒魔術を覚えましてね。是非ともご覧にいれたいのですが」
ウィンザーが擦り寄るように、自身の娘を褒めたてた。まるで舞台役者を紹介する司会かのように、大仰に身振り手振りしている。
「猊下、この後は……」
ライオネルの後ろに控えていた側近が、さりげなく進言した。
「すまないな」
「おや、それは残念です。いつでもお待ちしておりますよ。それでは失礼いたします」
ウィンザーは思いの外素直に身を引いた。そのまま教会式の礼を取り、ライオネルが立ち去るのを待っていた。
『ライ。あいつ、何か嫌な匂いする』
『だよな。人間の司教は権力欲が強くてな……時々ああいうのがいるんだ。俺たちには一切効かない所か、毎回会う度に鼻が曲がりそうでかなわない……』
フェリクスの執務室に向かいつつ、二匹は鼻に皺を寄せて、念話を交わし合った。
***
「琥珀!!」
「なーん!!」
レイがフェリクスの執務室に入った途端、琥珀がバッと飛び込んできた。
レイはむぎゅっと琥珀を抱きしめて、頬ずりをした。
「迷子になったって聞いたよ。大丈夫だった?」
『ここ、影魔術、使いづらい。ライにリボン貰った。これで、どこでも通れる』
「えっ? リボン??」
レイが琥珀の首元を見ると、いつもの赤いリボンではなくて、白地に青いラインが入ったベルベットのリボンがされていた。
「いつものリボンも似合ってるけど、このリボンもかわいいね!」
レイは、琥珀を抱っこしたままその背中を撫でた。
ゴロゴロと甘える声がする。
「それはここでの通行許可証みたいなものだよ。基本的に、教会内で使い魔は、移動を制限されてるんだ。機密書類なんかも扱ってるからね」
フェリクスがにこにこと説明してくれた。
「じゃあ、このリボンがあれば、琥珀もここでは迷子にならなくて済むね」
「にゃ」
琥珀は甘えるように、スリスリと頭をレイに擦り付けた。
「レイ、そっ、その猫の模様……」
「琥珀はキラーベンガルですよ」
「だだだ、大丈夫なのか!?」
プルプルと震える指先で、ザックは琥珀を指差した。若干、腰も引けている。
「使い魔契約してあるので、大丈夫ですよ。ねー?」
「にゃ」
ザックはまだ信じられないものを見る目で、遠巻きにレイたちを見つめていた。
Aランク魔獣のキラーベンガルは、普通、人間に懐いたり、使い魔にできるような種類の魔物ではないのだ。
「そういえば、どうだった?」
フェリクスが、レイをじっと見据えて尋ねてきた。
「聖堂を見て来ました! とっても綺麗な所ですね。あそこが会場になるんですよね?」
「そうだよ。あの聖堂が、浄化の儀の時には、信徒でいっぱいになるんだ……そうだね、レイには詠唱を手伝ってもらおうかな」
「なっ!? 見習いの子に詠唱は早すぎます! 彼女には、他の見習いの子と同様に、香炉持ちをしてもらおうかと考えてたのですが……」
フェリクスがのほほんとそう言い放つが早いか、即座にザックが異議を申し立てた。
「詠唱? 香炉持ち?」
「詠唱は、僕の浄化魔術を補助するものだよ。主に聖属性の神官たちにお願いしてるんだ。浄化の儀では、特殊な香を使って、信徒が今年一年溜め込んだ穢れ——というか呪いや不要な魔術の痕跡なんかを浮かび上がらせるんだ。その方が浄化もしやすいからね。香炉持ちは、その特殊な香炉を持って、聖堂内を歩き回るんだ」
「香炉持ちは、毎年、見習いの子の仕事です。詠唱は、聖堂自体があの規模ですし、相当な魔力量が必要になります。さらに、魔力コントロールが難しいので、神官でも魔術の得意な選りすぐりの者が担当しています」
フェリクスの説明を、ザックが補足した。
「レイなら、問題ないんじゃないかな? 魔力量は問題ないし、魔力コントロールは、加護持ちだから筋がいいよ。試しに、ちょっと教えてみてもらえる?」
「加護持ち……」
ザックが目を大きく見開いて、レイの方を振り向いた。加護持ちは珍しいのだ。
「? えっと……よろしくお願いします?」
レイは、とりあえず教えてもらえるのかな? と、ザックの方を向いてぺこりとお辞儀をした。
「…………分かりました、お教えします……」
ザックも、そんなきょとんとしたレイの様子に毒気を抜かれたのか、肩を落とし片手で顔を覆って、了承した。
***
レイとザックは、神官の鍛錬場に来ていた。
鍛錬場は、宿舎の北側にあり、鍛錬中に魔術が暴発しても大丈夫なように、その周囲に頑丈な結界が施されている。
祝祭前のためか、鍛錬場にいる人もまばらだ。
「レイは、聖魔術は何か使ったことは?」
「う~ん……基礎と浄化を少し?」
「……何で疑問系なんだ?」
「基礎は一応習いました。浄化の方は……結果として浄化はできたけど、あれで良かったのかどうか……急なことでしたので」
レイが今までに使ったことのある聖魔術は、浄化砲……のようなものだった。
魔剣レーヴァテインを浄化した際に、がむしゃらに撃ってみたら出たものだったため、あれが正式な聖魔術なのか、レイにはいまいちピンときてないのだ。
魔術の基礎は一通り師匠のウィルフレッドから習ってはいるが、どうしても、はじめから適性が高かった水魔術や、普段使い回しの効く火・風・地属性の魔術、回復や結界などの使用頻度の高い魔術を練習することの方が多かった。
聖魔術の初級魔術は、基礎を習った時に一回試したきりだった。
「まぁ、聖魔術は日常生活ではほとんど使われないからな。それに、魔術は土壇場でいきなり覚醒することもある。特に命の危険があった場合は覚醒しやすい」
ザックがちらりとレイを見ると、彼女は静かにこくりと頷いた。
「……はぁ、なるほどな。それなら、さっさと練習するか。本番は明日からだからな……」
ザックは首裏をポリポリと掻くと、真剣な表情で詠唱の説明を始めた。
***
「レイ、今日の魔術の授業はどうだった?」
フェリクスが、白ワインを一口飲んで、にこやかに尋ねてきた。
夜の離宮で、フェリクスとレイとレヴィは食卓を囲んでいた。
本日のディナーは、蕪とサーモンの冬野菜のマリネに、鹿肉と蓮根のテリーヌ、外はカリカリ中はふわふわな白身魚とブロッコリーのバターソテー、それから、レイの大好きなクリームシチューだ。ふかふかの丸パンも付いている。
フェリクス専任のコックが離宮には控えているらしく、どの料理も絶妙な味わいで、レイはリスのように頬をパンパンにして頬張っていた。
「すっごく面白かったです! ザックさんの説明も分かりやすかったですし、いろいろな視点から教えてもらえたので、とても魔術の勉強になりました」
元三大魔女リリスの加護を受けたレイは、魔術について非常に飲み込みが早かった。
ザックも始めは様子を見ながら少しずつ教えていたが、生徒の吸収が早いと知るや否や、次から次へとより上級のものを教え始めた。
最後の方はほぼ雑談だったが、彼の魔術についての洞察は深く、非常にためになるものだったので、レイもずっと興味津々に彼の話を聴いていた。
「彼は言葉を使う魔術が得意だからね。魔術の一つ一つを言語化して定義するから、魔術を紡ぐのは少し遅いけど、かなり正確で均一な質の良い魔術を撃てる珍しい人間なんだよ」
「そうだったんですね。確かに、ザックさんの詠唱には、言葉に魔力がなめらかに乗ってました」
「そう! そこが詠唱のポイントだよ。詠唱は時間がかかるから、実戦重視の魔術師からは敬遠されやすいけど、祭祀なんかでは時間がしっかり取れるからね。むしろ、彼のように均一で質の良い魔術の方が求められるんだよ。要は使い処だね」
「冒険者だけをやってると、そこら辺はきっと分からなかったですね。……レヴィは今日はどうだった?」
レイはぶどうジュースを飲んで一息つくと、レヴィの方を向いた。
「今日は、鍛錬と教会内の見回りです。早くも騎士見習いの子たちがいました。みんな熱心でしたね」
「アルバンから報告は受けてるよ。子供たちだけじゃなくて、聖騎士からも指導をお願いされたようだね……アルバンがびっくりしてたよ」
「……レヴィ、ほどほどにね……」
「ほどほどですか。かしこまりました」
「う~~ん、やっぱりレヴィには、レイの護衛に付いてもらおうか。他の聖騎士と一緒に教会内を見回ってもらうつもりだったけど……」
フェリクスは、思案顔で小首を傾げた。
後にこの判断が明暗を分けることになった。
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