鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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フェニックスの祝祭1

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「いやぁ、何故かみんな毎年盛大に祝ってくれるんだよね」
「教会への寄付と信仰の掻き入れ時ですよ、フェリクス様。盛大にやらないとです」

 現教皇役ライオネルは、聖属性の大司教フェリクスを大真面目な顔で見つめて嗜めた。

 レイたちは今日は義父の生誕祭、もといフェニックスの祝祭の打ち合わせに、聖鳳教会内にあるフェリクスの執務室に来ていた。

 応接スペースの黒い革張りソファに座っているのは、フェリクス、ライオネル、ルーファス、レイ、レヴィだ。琥珀はレイの膝の上で香箱を組んで良い子にしている。

 レイが来るということで、張り切ったフェリクスは、教会本部のあるドラゴニアの王都で人気の菓子をたくさん取り寄せており、テーブルの上は色とりどりの菓子でまるで茶会のような賑わいだ。

 レイが菓子に手を伸ばす度、それはどこどこのどういった菓子かをフェリクスが丁寧に説明してくれた。

「膝の上……」とフェリクスが口に出せば、直ぐにふるふるとレイが首を横に振り、フェリクスは非常に残念そうにレイを見つめた。


***


 聖鳳教会では、毎年十二月の最も夜の長い日に、フェニックスの祝祭が執り行われる。
 この日に祈りを捧げ、今年一年の無事を感謝するのだ。そして、祝祭期間中に、この一年に溜まった穢れを祓い、来年の息災を祈るのだ。

 聖鳳教会で、聖神アウロンの御使いとして、聖なる鳥として定められているフェニックスは、死と再生の象徴だ。その炎は全てのモノを燃やし尽くす——穢れや厄災でさえもだ。
 フェニックスのように、この一年に溜め込んだ厄を燃やし尽くし、真新しく生まれ変わるような新鮮な気持ちで新しい年を迎えるのだ。

——表向きは。

 実際には、聖鳳教会創設者であり、初代教皇も務めた先代魔王フェリクスの誕生日を祝う祭りである。
 二千年以上続くこの祝祭は、どうしてもフェリクスの誕生日をお祝いしたい先代魔王の側近たちによって、当時の教会内最高の意思決定機関——教会会議で満場一致にて可決した。

 それ以降、フェニックスの祝祭は毎年十二月になると開催され、今もなお続いている。
 今では世界各地の教会を中心に開催され、信徒だけでなく一般人も楽しめる、年に一度の大事な祝祭にまで発展したのだった。

 結果として、この祝祭で信者たちから聖鳳教会への寄付と信仰心を一挙に集めることが可能となった。

 最上位の聖属性魔物が手ずから浄化魔術をかけているのだ——効果はばつぐんだ。

 御利益が単なる気持ちの問題であれば、ただの年間行事として粛々とこなされていただろう。寄付額もそれなりのはずだった——だがしかし、先代魔王直々の浄化魔術はかなり効いた。効きまくった——特に祝祭での浄化担当がフェリクスになってからは、年々、参加者や寄付額が増加しているのだ。

 効果の高い浄化魔術を施していることもあり、信徒たちの教会への信仰心も高まっていった。

 聖鳳教会では、人々の信仰心を魔力に変えて取り込み、その魔力を、教会に所属する魔物や精霊たちで分け合っている。そうすることで力を蓄え、魔物としてのランクや精霊としての階級を上げているのだ——教会に所属する魔物や精霊たちにとっても、決して外せない、一年で最も力を入れる大事な祝祭になっていた。


***


「毎年、フェニックスの祝祭は忙しいからね。子供たちにも、神官見習いや聖騎士見習いをさせて、将来の進路の参考にさせているんだ。レイも神官見習いをしてみないかい? 僕のお手伝いだよ」
「義父さんのお手伝い!? 是非、やってみたいです!」
「祝祭だから、料理も特別なものが多いよ」
「特にディアロバードの本部では、毎年豪華な料理が用意されてます。子供たちにも配られてますよ」

 ライオネルが補足説明をしてくれた。一緒に冒険したこともあり、レイが美味しいもの好きなのは、しっかりと把握しているのだ。

「祝祭料理も!? 楽しみです!」
「それじゃあ、決まりだね。僕の区画にレイとレヴィが泊まれるように手配してもらえるかな? あと、レイは神官の見習い服を、レヴィには聖騎士の制服を手配してもらおう。二人とも、聖属性でね」
「承知いたしました」

 ライオネルが片手を胸元に当て、教会式の礼をした。

「……義父さん、制服にも属性があるんですか?」
「ああ、そっか。レイは初めてだったね。聖鳳教会では、聖属性、光属性、癒し属性の三つを主に扱っていて、制服を見れば、どの属性担当か分かるようにしているんだ」

 レイはちらりと隣のルーファスを見上げた。

 ルーファスの衣装の襟元のラインと、羽織っているケープの刺繍には、黄色い糸が使われていた。刺繍の意匠も異なっていて、フェリクスは飛び立とうとするフェニックスで、ルーファスは太陽のようだ。

「僕の衣装は光属性のものだよ。襟元と刺繍の一部に黄色い糸が使われているでしょ? フェリクス様はここが青色になっていて、猊下は教会のトップだから、公平にどの属性でもない白になってるんだ」
「あっ! 本当です! 癒し属性は何色なんですか?」
「癒し属性は緑色だよ。あと、見習いの子はまだ属性がハッキリしていない子も多いから、そういう子も無属性の白色だよ」
「教会では属性ごとに分かれてるんですね」
「その方が管理しやすいからね」

 フェリクスがのほほんと答えた。


***


 レイは、「また二日後においで」とにこやかにフェリクスに見送られて、彼の執務室を出た。

 レイとレヴィと琥珀は、本日は一旦、ユグドラに戻ることになった。ライオネルが彼らの受け入れ準備を進めてくれるのだ。
 ルーファスは祝祭に向けて準備があるため、レイたちとはここで別れてディアロバードに残る予定だ。


「レイ、フェリクス様へのプレゼントはもう決まった?」

 フェリクスの執務室を出て少し廊下を歩いた後、徐にルーファスが尋ねてきた。

「ゔっ……実は、まだ決まってないです。……ルーファス、義父さんの誕生日プレゼント、どうしましょう?」

 レイは眉を八の字に下げて、しょんぼりと答えた。悩んでいたことをズバリ当てられたのだ。

「フェリクス様は既に何でもお持ちだから難しいね……レイからのプレゼントなら何でも喜んでくださるとは思うけど……」
「それじゃあ、結局何がいいのか分からないですよ」
「そうだよねぇ……あ、そうだ! こういうのはどうかな?」

 ルーファスは少し屈むと、レイにこっそりと耳打ちをした。

「……わぁ! 何だか素敵ですね! でも、私にもできるんですか?」
「ちょっとコツがいるけど、レイならできるんじゃないかな? 魔力量も多いし、魔力コントロールの練習にもなるし」
「じゃあ、それにしましょう! 是非、教えてください!!」

(義父さん、喜んでくれるかな?)

 レイは期待に瞳をキラキラと輝かせて、ルーファスに秘密のお願いをしたのだった。


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