鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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ランクアップ試験2

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「次はレヴィの実技試験だな。レヴィには冒険者の先輩に相手をしてもらう……バート!」
「ああ」

 ギルド職員の控えスペースの方から、壮年の剣士が軽く返事をして、前へ歩み出て来た。

 バートは強面の男性だ。元冒険者らしく、がっしりと筋肉質だ。腕にはいくつもの古傷の痕が見える。
 
 レヴィとバートは、ギルド裏の空き地の真ん中に歩み出た。

 オーガストは、レヴィとバートに向けて木刀を投げた。二人とも、危なげなく木刀をキャッチをする。

「バートは元Bランク冒険者だ。セルバで剣術道場もやっている。バートに勝つか、三分間打ち合いが持てば、合格だ」

 オーガストが実技試験の内容を説明した。

 レイは、ライとルーファスと並んで、空き地の端の方でレヴィの試合を応援していた。レイは胸の前できゅっと手を握ると、祈るようにレヴィを見つめた。

(……レヴィ、本気出しちゃダメよ!)


「では、始め!」

 オーガストの一声で、実技試験が開始された。

 いきなりバートが仕掛けてきた。
 レヴィの前に駆け足で躍り出ると、中段、上段、下段、とどんどんと打ち方を変えて、木刀で攻撃を繰り出してくる。
 レヴィもバートの攻撃に木刀で応戦して、器用に受けている。
 カンカンカンカンと木刀を打ち合う音が、空き地に響く。

 その様子を、ギャラリーのギルド職員や冒険者が、ポカンと口を開けて見ている。

 バートは、後ろに飛んでレヴィと距離をあけると、徐に口を開いた。

「いい腕だな。基礎がしっかりしてるし、受け方も綺麗だ。無駄が無い」

「おお……」

 ギャラリーから感嘆の声があがった。

「バート師匠があんなに褒めるのは珍しい……」

 冒険者の剣士が目を丸くして、呆然と呟いている。


 今度はレヴィから仕掛けた。
 器用に攻撃に強弱をつけ、フェイントも混ぜて攻撃を繰り出している。
 バートが渋い表情で受けている。

 カンカンカンとさらに数合打ち合った後、レヴィが隙をついて、下段から木刀を強く跳ね上げた。

「それまで!」

 カラン……

 レヴィとバートから離れた所に、木刀が落ちた。

「レヴィ、実技試験、合格!」

 オーガストが声を張り上げて、試験結果を告げた。

「おお! あいつもすげぇな!」
「師匠を負かしただって!?」

 ギャラリーの冒険者たちがざわついている。

「いい試合でした、ありがとうございます」
「いや、こちらこそ。いい経験になった」

 レヴィとバートは笑顔で握手を交わした。


***


「「「「乾杯っ!!」」」」

 銀の不死鳥メンバーは、カンッと木製のジョッキをぶつけ合い、エールを呷った。レイだけはぶどうジュースで乾杯だ。

 銀の不死鳥は、夕食にセルバにある肉料理屋に来ていた。
 ペーパーテストにも無事に合格し、レイもレヴィもCランク冒険者にランクアップしたので、お祝いだ。

 丸テーブルの上には、ピリ辛ソースのポークソテー、ザワークラウト、じゃがいものチーズ焼き、鶏肉と豆のトマト煮込みがガツンと大盛りで載っている。
 ここは美味くてボリュームたっぷりなことで有名なお店だ。冒険者フレンドリーなのだ。

「レイもレヴィも、無事に合格して良かったな。Cランク、昇級おめでとう!」
「ありがとうございます! ライのご指導の賜物です」
「おかげさまで、無事に合格できました。ありがとうございます」

 レイもレヴィも、にっこりとライにお礼を言った。

「そろそろ期限の一ヶ月になるし、一通り冒険者の基礎も教えたし、二人の昇級も見届けられたからな。元いた場所に戻らないとな……ルーファス、銀の不死鳥のリーダーを頼めるか?」
「ああ、任せてくれ」

 ライとルーファスは、互いの目をしっかり見合って頷き合った。

「それで、これからどうするつもりなんだ?」
「……そうですね。まずは師匠やみんなにランクアップしたことを報告しに行こうかと思います。たまにはみんなの顔を見たいですし」

 レイにとって、いつの間にかユグドラが第二の故郷になっていた。ユグドラに帰ることを考えると、実家に帰るような、どこかほっとするような安心感を胸のあたりに感じるのだ。

「ああ、それがいいだろうな」

 ライも深く頷いた。

「それから、セルバ以外の所でも冒険者をやってみるのもいいかもね。冒険者証があれば、国境は通りやすくなるし、今のうちにいろんな所を旅するのもいいね」

 ルーファスが冒険者の先輩としてアドバイスをしてくれた。エールでほんのりと頬が赤くなっていて、いつも以上に艶っぽい。

「いろんな所……確かに、私は世界にどんな所があるか、知らないです。せっかくなのでいろいろ行ってみたいですね」
「私も賛成です」

 人型になっているうちに、いろいろな人生体験をしてみたいレヴィも、積極的に賛成した。


 その日、銀の不死鳥メンバーは、たくさん食べ、飲み、冒険の思い出話をし、笑い合いって夜遅くまで飲み明かした。


***


 数日後、ライは朝食が終わると、銀の不死鳥メンバーを男部屋に集めた。

「もう一月か。この一ヶ月はとても楽しかったよ。久々に冒険者をやって羽を伸ばせたし、何よりレイたちと一緒に冒険できて本当に良かった。レイたちが慣れない討伐や依頼でも諦めずに頑張る姿は心打たれたし、俺も頑張ろうって元気をもらえた……ありがとう」

 ライはレイに握手を求めた。

「ライがいてくれたおかげで、スムーズに冒険者生活のスタートを切れましたし、こんなに早くランクアップできました。魔物や冒険者に必要な知識も丁寧に教えてもらえて、本当に嬉しかったです。何より、ライがパーティーにいてくれたことが、すごく安心感がありました! こちらこそ、ありがとうございました!!」

 レイはぎゅっと両手でライに握手した。

「私もライと一緒に冒険できて良かったです。ライのおかげで新しい世界をいろいろ見て聞いて体験することができました。ありがとうございます」
「レヴィに関しては、ほとんど教えるようなことは無かったな……お前はなかなか変わってる奴だが、一緒にいてすごく楽しかった。このまま変わらず、レイを支えてやってくれ」
「ええ、お任せください」

 ライとレヴィは右手でがっしりと握手を交わすと、互いにもう片方の手でぽんぽんと肩を叩き合った。

「ルーファスも、後は頼みましたよ」
「ええ、かしこまりました」

 ルーファスはふわりと微笑んで頷いた。

「な~ん」

 レイのローブのフードから、琥珀がひょっこり顔を覗かせた。

「琥珀もお話ししたいみたいです。とてもライに懐いてたので……」

 レイが琥珀を抱き上げると、ライに手渡した。

「な~ん、にゃにゃにゃ」
「うん、うん、よしよし。そうだな……」

 ライは小さな琥珀を抱っこして、あやすようにぽんぽんと背中を叩いた。
 琥珀も何やら一生懸命ニャーニャーと話している。

(ぐぅ……なんで召喚特典で猫語は対象外なの!?)

 レイはこの時ばかりは猫語が分からないことにギリリと歯噛みした。かわいい琥珀が何を話しているのかものすごく気になったのだ。

 小さな琥珀を大柄なライが抱っこしてあやしている姿は、とても微笑ましかった。


 冒険者ギルドでライのパーティー脱退を告げると、オーガストは珍しくしんみりと見送ってくれた。

「Aランク冒険者はなかなかいないし、ライは実力も知識も落ち着きもあって、他の冒険者のいい手本になれたんだけどな、残念だ。元の仕事に戻っても、頑張れよ」
「ああ。ギルマスも達者でな」

 二人はがっしりと固く握手を交わした。


 ライが転移していくのを、銀の不死鳥メンバーは見送った。

「あっ!!」
「どうしたんだ?」

 急に声を上げたレイを、ルーファスが目を丸くして振り向いた。

「ライに、翼のライオンさんに乗せてもらうのを忘れてました!!」
「翼のライオン……翼獅子のことか? ライはいつでも教会にいるし、またそのうち会えるから、機会もあるだろう」
「ゔぅ……ライオンさん……」

 レイは項垂れて、がっくりと地面に膝をついた。

 ライの魔物の姿は、威風堂々とした黄金の雄ライオンの姿で、背中に翼が四枚付いていて、非常にかっこ良かったのだ。猫好きなレイとしては、カッコいいライオンと戯れるせっかくのチャンスを棒に振ってしまい、悔しく思った。

「レイ、また次の機会がありますよ」
「レヴィはちゃっかり乗せてもらってましたね……」

 レイの肩にポンッと手を置き、レヴィが珍しく励ましてくれた。
 レイは少し恨めしそうに、レヴィを見上げた。

「翼獅子は初めて乗りましたが、すごく良かったですよ」

 レヴィは翼獅子の背中に乗った時のことを思い出したのか、目を閉じて、うっとりとしている。

「レヴィ! フォローになってない!!」

 火に油を注ぐなと、ルーファスが嗜めた。

 ライが抜け、ルーファスは先が思いやられるな、と少しげっそりとした。


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