鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
75 / 260

はじめての野営2

しおりを挟む
 翌日、日も明けきらぬ早朝から、銀の不死鳥メンバーは薬草の群生地に向かった。

 今回依頼された薬草はブルーメディコといい、魔力が豊富な森の奥地に自生している。
 鎮静作用があり、副作用も少なくて、さまざまな中級魔術薬に使われている。可憐な薄い青色の花を咲かせるため、「青いお医者さん」、「ブルーメディコ」と親しみを込めて呼ばれている。
 魔力が豊富な森の奥地に分け入らないと採集できないため、そこそこ高価だ。

 コカトリスは胃の調子を整えるため、時々この薬草を食べに来るそうだ。このため、薬草の群生地ではコカトリスが時々目撃される。

 森の中をひたすら目的地に向かって歩き、小さな沢を越え、ブルーメディコの群生地まであと少しという所で、琥珀が低く唸り声を上げ始めた。
 銀の不死鳥メンバーがピタリとその歩みを止め、全員で素早く森の茂みの陰に隠れた。

 レイが素早く探索魔術を周囲にかける。

「この先二百メートルぐらいの所に、魔物が一体います」
『コカトリスかも』
「琥珀が言うには、コカトリスのようです」

 レイが小声で、銀の不死鳥メンバーに伝えた。

「コカトリスはスキルで毒霧を吐く。もし変異種が風魔術で毒を拡散させたら、目も当てられないからな。早々に頭を叩く。あの雄鶏頭は、視野がやけに広い。ほぼ真後ろぐらいからしか気づかれずに近寄れない。あと、蛇のような尾にも気をつけろ。普通の蛇系魔物と同じだ。絞め上げられたら危険だ」

 ライが討伐の注意点を、声を抑えて教えてくれた。
 レイもレヴィも神妙な顔で話を聞いている。

「レイは氷魔術は使えるか? あと解毒魔術は?」
「両方使えます」
「コカトリスの嘴を凍らせれば、毒霧は吐けないから、氷魔術で真っ先に狙ってくれ。一応、解毒ポーションは持って来たが、もし毒をくらったメンバーがいたら、早めに解毒をしてやってくれ。俺はスキルで毒耐性がついてるから、問題ない。放っておいても大丈夫だ。琥珀はレイの護衛だ」
「了解です」
「グルル」

 レイがこくりと頷き、琥珀も同意して一鳴きした。

「レヴィは俺と一緒に、真後ろからコカトリスを叩く。弱点は首と心臓だ。尾を切り落とすのも有効だ。コカトリスは尾で絞め上げたり、薙ぎ払ったりして攻撃してくるからな」
「分かりました」

 レヴィも真面目な顔で頷いた。

 レイと琥珀は茂みの陰に身を潜め、ライとレヴィがコカトリスの後ろにまわるのを待った。


 森の中、少し開けた場所に、薄い青色の花が咲くブルーメディコの群生地がある。
 ぽかぽかとあたたかい朝の木漏れ日が差し込み、ブルーメディコの葉先にのった朝露が、キラキラと煌めいている。薬草の精霊——青く淡い光の玉がふわふわと浮かび、ひっそりと隠された花畑のようだ。
 そこには、緑色の蛇の尾を持った、高さ二メートルぐらいの白い羽毛の雄鶏がいた——変異種のコカトリスだ。ちょうどブルーメディコをついばんでいる。

(ギルドで聞いてた変異種みたい……)

 探索魔術でライたちが配置に着いたのを確認し、彼らに目配せすると、レイはコカトリスの頭にめがけて氷魔術を放った。

「「「「っ!!!」」」」

 氷魔術はコカトリスに見事に当たったが、威力が強すぎて頭ごと凍った。

「何をやってるんだ!!」

 ライが咄嗟に茂みから飛び出して、暴れるコカトリスの尾をどうにか半分切り落とした。

 コカトリスは、急に頭を氷で覆われてパニックを起こし、バサバサと翼を羽ばたかせて飛び上がって暴れまわり、風魔術を乱射した。
 ビュンビュンと四方八方にかまいたちが発射され、ブルーメディコの薄い青色の花が、ちぎれて周囲に舞った。

 ライが、かまいたちを上手く躱しながら、コカトリスから距離をとった。
 レイは慌てて、コカトリスを囲うように結界を張った。

 レイの元に、ライが駆け寄って来た。

「大丈夫かっ!?」
「大丈夫ですが……すみません! 久々に氷魔術を使ったので、加減を間違えました……」
「レイは後で、魔術の練習だな」
「はい……」

 レイがしょぼくれていると、ドシンッと大きな音がした。
 逃げ出そうと駆け出したコカトリスが結界に激突したようだ。地面の上にひっくり返ってジタバタしている。

「レイ、結界を解いてください!」
「はいっ!」

 レイが結界を解くと、レヴィがズバンッとコカトリスの首を落とした。

「これで討伐完了ですね」

 レヴィがふうっと一息つくように、肩の力を抜いた。


***


 依頼のブルーメディコは、何事もなく無事に採集できた。
 変異種のコカトリスは、ライが空間収納にしまった。ギルドに提出すれば、換金できるらしい。

 目当ての薬草の採集が完了し、野営も経験し、Bランク魔物も一応倒したので、銀の不死鳥としては今回の目標はクリアだ。
 午前中の早い時間帯に目標達成したので、今日は森の中で一泊せずに、このままセルバの街に帰ることになった。


 夕方頃にセルバにたどり着くと、銀の不死鳥メンバーはすぐさま冒険者ギルドへと向かった。

「はぁぁ……本っ当に、疲れた!」

 一番体力が無いレイが大きく溜め息を吐いた。今日は氷魔術でもやらかしていたので、精神的にも疲れていたようだ。

「おう、無事に戻って来れたようで良かったぜ。おかえり。それで、どうだった?」

 ギルドマスターのオーガストが珍しく出迎えてくれた。他のBランクパーティーが一度は失敗した依頼だったので、心配していたのだろう。

「いたぞ、変異種のコカトリス。薬草を提出した後に、解体工房の方に出す予定だ」
「しかも討伐して来たのか!? さすが、銀の不死鳥だな」

 ライがにかっと笑顔で報告し、オーガストも笑顔でバシッとライの背中を叩いた。がっしりと大柄なライは、オーガストの馬鹿力にはよろめかなかった。


 ギルドの受付でブルーメディコを提出すると、今度はギルド裏の解体工房にまわって、コカトリスの買取だ。

 ギルド内でライとオーガストの会話に聞き耳を立てていた他の冒険者や職員たちも、続々と解体工房の方について来ていた——コカトリスの変異種だ。滅多に見れるものではない。

「びっくりするなよ」

 ギルド裏に併設されている解体工房に到着すると、ライは一声かけて、空間収納から解体工房の空き地に本日の獲物を出した。

 コカトリスの変異種に、解体工房にはザワザワとどよめきが広がった。

「おお……! これが変異種のコカトリスか!」
「通常のコカトリスより少しデカいな」
「本当に蛇尾の色が違うんだな」

 野次馬に来ていた冒険者やギルド職員だけでなく、コカトリスを見慣れているはずの解体工房の作業員も目を丸くして驚きを口にしている。

「蛇尾が緑色か……風魔術、撃ってきたんだろ?」
「ああ、かまいたちを撃ってきた」
「中級魔術か、よく倒せたな」

 オーガストが素直に驚き、ライは苦笑した。
 レイはその言葉にフイッと目線を外した。なんだか居た堪れない気持ちがしたのだ。

「随分、コカトリスの頭が濡れてるな……」
「ああ、それは……」

(そこ気づかなくてもいいのに! ここで説明しなくてもいいのに!!)

 レイは、ライのコカトリス討伐の説明に、頬を真っ赤にさせ、両手で覆った。

「はっはっは。まあ、よくある失敗だ……レイは氷魔術も使えるのか? ああ、勘違いしないでくれ。登録漏れを怒ってるんじゃなくて、魔術師なら、研鑽を積んでいくうちに他の属性を扱えるようになるのは良くある話だからな。特に、水と氷のような近い属性同士ならしょっ中あることだ。とりあえず、氷魔術が本当に使えるか、確認だけさせてくれ」

 オーガストは恥ずかしがって耳まで真っ赤になったレイに、わたわたと焦りながらも、氷魔術の確認をしてきた。

 レイはむすっとむくれながらも、簡単にその場で氷を魔術で出して、実技試験をパスした。

 こうして、レイの冒険者証には「水属性」のほかに「氷属性」が追加され、おおやけに氷属性の魔術を使っても問題ないことになった。


***


 レイは更新された冒険者証に魔力を流した。たっぷりと追加された功績ポイントを見てにんまりする。

(コカトリスの討伐はアレだったけど、Bランクの依頼もこなしたし、討伐報酬も出たし、思ってたよりも順調かも!)

 目標はBランク冒険者になることだ。レイが考えていた以上にスムーズに功績ポイントが溜まっていて、思わずニヤニヤとしていた。

「レイ、後で魔術の威力調整の練習をしような。あと、氷魔術も」

 いい笑顔のライにポンッと肩を叩かれた。目元は笑っていない。現役教皇様の凄みは恐ろしいのだ。

「はい……」

 レイはぎこちなくライの方を振り向き、引き攣った笑顔で答えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。

太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。 鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。 ゴゴゴゴゴゴゴゴォ 春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。 一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。 華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。 ※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。 春人の天賦の才  料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活  春人の初期スキル  【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】 ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど 【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得   】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】 ≪ 生成・製造スキル ≫ 【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】 ≪ 召喚スキル ≫ 【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ
ファンタジー
 その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。    今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。  月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー  現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー  彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...