鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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冒険者登録2

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 レイたちはギルド裏の空き地に移動した。空き地には土が盛ってあり、土の上には的が置いてあった。

「的は単なる目安だ。一応、あそこに向かって魔術を放ってくれ。水の場合は、コップ一杯分でも出せれば合格だ」

(いつも通りに撃つと大変なことになっちゃうから、魔力も速度も、いろいろ抑えて……)

 レイはオーガストの説明にこくりと頷くと、的の方に手を向けて術名を口ずさんだ。

「ウォーターボール」

 いつもよりも威力も速度も大きさも抑えて放ったウォーターボールは、ぱちゃんと音を立てて的に当たった。

「おい、この魔術、中級じゃねぇか!! ……ウォーターボールの大きさ的にも申し分ない。合格だ」

 オーガストが驚いて叫んだ。

「よしっ」

 レイはぐっと拳を握った。手加減が上手くいったのだ。

「もっと攻撃力のある魔術も覚えれば、Bランクは目指せるぞ。期待してるぞ」
「わっ!」

 レイはバシッと背中をオーガストに叩かれ、その勢いで前のめりになった。オーガストはかなり力が強かった。
 オーガストは、レイを単なる見習いのお嬢ちゃん魔術師として見ていたので、しっかりした魔術が使えることで見直したのだ。

「そういや、あんたたちはパーティー登録はどうするんだ?」
「そうだな、登録しようかと思ってる。こいつらは冒険者は初めてだからな」

 オーガストの問いに、ライがしっかりと頷いて答えた。

「それなら、受付で登録してくれ。シドニー……さっきの受付嬢に申し出てくれ」
「ああ、分かった。ありがとう」


***


 レイたちは再び受付へと向かった。

「お帰りなさい。使い魔登録と、レイさんの実技試験のことは伺いました。晴れて登録完了ですね。お二人はまずDランク冒険者になります。こちらがお二人の冒険者証です。魔力を込めるか、冒険者ギルドの受付で、内容を確認できます」

 シドニーが、冒険者証をレイとレヴィに手渡した。
 冒険者証は手に握れるサイズの長方形の金属製のプレートのようなものだった。首から下げられるように上部に穴が一つ空いている。

 レイとレヴィは早速、冒険者証に魔力を流してみた。青い半透明のディスプレイが目の前に現れ、名前、職業、魔術属性、冒険者ランクと功績ポイントが表示された。

「わあ、凄い! ……功績ポイント???」

 レイはSF映画のような半透明ディスプレイに感動し、ディスプレイ内の謎の単語に首を傾げた。

「功績ポイントは、ギルドの依頼を達成すると貰えます。功績ポイントが一定以上貯まると昇級試験が受けられて、それに合格すると冒険者ランクが上がります」

 シドニーが丁寧に説明してくれた。

「それと、今度はパーティー登録をしたいんだが……」
「かしこまりました。こちらがパーティー登録の用紙です。パティー登録は、登録の際に冒険者証の確認が必要になりますので、ご提示をお願いします」

 シドニーに用紙を手渡され、ライはメンバーの名前を記入した。

「パーティー名はどうするか?」
「……そうですね……」

 レイが腕を組んで考え込むと、ふと、義父の顔がよぎった。

「……『銀の不死鳥』なんてのはどうですか?」

 レイはぱっと思い付いた名前を口にすると、ライとレヴィを見た。

「いいな。フェリクス様に守られてる気分だ」

 ライが柔らかく微笑んだ。敬愛する主人を思い出しているようだ。

「いいですね、とてもレイらしい」

 レヴィもしっかりと頷いている。

 ライはパーティー名を記入すると、全員分の冒険者証と一緒に登録用紙をシドニーに提出した。
 シドニーは登録用紙と冒険者証をチェックし、登録用の魔道具を操作した。

「銀の不死鳥……何だか教会っぽいですね。それでは、パーティーについて説明しますね。パーティーのランクは、一番ランクの高いメンバーのランクと同じになります。銀の不死鳥の場合は、ライさんと同じAランクですね。ですが、いきなりAランクの依頼を受けることはギルドは推奨していません。全員が同じ冒険者ランクとは限りませんので。なので、最初は無理せずにランクの低い依頼から受けて、徐々にランクの高いものを受けるようにしてください」

 レイたちは内心、苦笑いで説明を聞いていた。
 そもそもパーティー名の由来は聖神アウロン、こと義父フェリクスだ。
 ライも本来の職業は聖鳳教会の当代教皇だ。教会っぽいどころか、正に教会関係者である。

「分かりました。私たちは今日登録したばかりで、慣れるまでは簡単な依頼を受ける予定なのでしばらくは大丈夫です」

 レイはにこりと笑って、シドニーに伝えた。

「ええ、その方がいいですね……何か質問はございますか?」
「それなら、お勧めの宿を教えてもらえないか? とりあえず、一ヶ月ぐらいはセルバにいる予定だ」
「それでしたら、子犬のうたた寝亭か、空色の戦斧亭ですね。どちらも元冒険者が亭主をしてます。長期滞在でしたら少しおまけしてもらえますよ」

 シドニーはセルバの街の地図をカウンター裏から取り出すと、指で差し示して教えてくれた。

「ああ、ありがとう。また来るよ」

 ライが片手を上げてお礼を言い、レイたちはギルドを後にした。


***


「さて、まずはどっちから当たるか……」
「子犬のうたた寝亭がいいです!」

 レイがシュバッと挙手をして、目を煌めかせて発言した。

(「子犬のうたた寝亭」って、かわいい名前!)

 レイの心は、かわいい子犬への期待にいっぱいになっていた。

「……そうか? まあ、こっちの方がギルドに近いからな。先に行くか……」

 ライは少しだけ顔色を翳らせて頷いた。


「わぁ! かわいい!」

 レイは歓喜の声をあげた。

 子犬のうたた寝亭の前には、口髭と眉毛が立派な、グレーに白混じりのミニチュア・シュナウザーが寝そべっていた。サイズ的には、子犬はもう卒業しているようだった。
 レイが子犬のうたた寝亭に近づくと、ぴくりとミニチュア・シュナウザーの片眉が動いた。

「すみませーん! 一ヶ月ほど泊まりたいのですが、部屋に空きはありますか?」

 レイは期待に胸を膨らませて、堂々と子犬のうたた寝亭の扉を潜った。ライたちも、その後に続いた。


***


 結局、宿は空色の戦斧亭になった。

 子犬のうたた寝亭の番犬が、ライと琥珀を怖がったのだ。ライと琥珀がいる限りずっと吠え続けていたため、亭主に宿泊を断られてしまったのだ。

「まさか、わんちゃんに怖がられてダメだなんて……」

 レイは眉を八の字にして、残念そうにしている。かわいい動物は好きなのだ。

「正直、俺は犬が苦手なので、こっちで良かった……」

 本来の魔物の姿は猫科だというライは、茶を啜ってほっと一息吐いている。
 琥珀は、主人が犬が居る宿に泊まれないことを残念がっているのに拗ねて、ライの膝の上で不貞寝中だ。

「動物は時々鋭いですからね。亭主や宿を守っているのでしょう」

 レヴィが真面目に意見を述べた。

「そういえば、俺が前に冒険者をやっていた時も、番犬や使い魔がいる宿ではああやって断られてたな……」

 ライは遠い目をして、過去の記憶を掘り起こしていた。

(……番犬や使い魔のいる宿は要確認かあ……)

 レイは冒険者として一つ学んだ。

 猫二匹が戦意喪失したため、本日はここまでとなった。


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