鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

文字の大きさ
上 下
28 / 210

閑話 聖剣見た目会議〜管理者会議編〜

しおりを挟む
 聖剣が人型に変身した。

 ウィルフレッドに聖剣レーヴァテインの人型を確認してもらうと、ほぼほぼ人間サイズの耳に、ちょこんと耳の先が尖ったハーフエルフのようだった。
 ただ、このハーフエルフは超絶イケメンで、連れ帰った彼を見たユグドラの女性たちが、顔を真っ赤にしてぶっ倒れた……でもなんだか幸せそうだった。

「正しく麗しいエルフの姿を見た気がします」

 普段、くたびれた服装の残念なイケメンエルフを見てきたレイは、内心感動しつつ、きっぱり言い切った。

「何だ、正しく麗しいって。最近、弟子の言葉が鋭すぎる気がする。あいつはエルフでもハーフエルフでもないからな! 剣だからな!」

 ウィルフレッドが渋い顔をして答えた。

 聖剣レーヴァテイン——略してレヴィと呼んでいる——の人型はスラリとした長身に、厚すぎず細すぎない肢体はバランスが良い。
 エルフらしいサラサラの淡い金髪をしていて、憂いを帯びたアクアマリンのような水色の瞳は、けぶるまつ毛に縁取られている。
 真顔の時は彫像のような硬質な美貌だが、ふとした瞬間の微笑みの艶やかさは、どこぞの巨匠が描いたものか、悠久まで讃えられそうな一級の芸術品だ。

 レヴィをユグドラに連れ帰って三日が経った。
 その間に彼を目にしてぶっ倒れる被害者が増え続けている。昨日だけでも十名、今朝も早くから二名がぶっ倒れた。
 イケメンも度を超すともはや災害である。「美人は三日で飽きる」とは言うが、美人のその上は、その限りではないらしい。

 この現状を重く見た管理者たちは、緊急会議を招集した——聖剣見た目会議である。


 ユグドラの樹の中層階の会議室に、管理者たちは集まった。
 参加者は現在ユグドラにいる管理者たちと聖剣だ。ウィルフレッド、エイドリアン、メルヴィン、モーガン、エルネスト、アイザック、ミランダ、ダリル、レイ、議題のレヴィの十名だ。

 会議室には二十名ほどが座れる大円卓があり、過去のドワーフ管理者の作品だ。

 大円卓の幅広の脚には、会話と集中を促す魔術陣が柄のように丁寧に彫り込まれ、会議を効率的に進められるよう工夫がされている。
 背もたれが高い椅子には、座面に落ち着いた青色の布張りがされていて、淡いクリーム色の糸でユグドラの花の意匠が刺繍されている。
 会議室の白い壁紙には、ボコッと出っ張ったエンボス加工がされていて、よく見ると模様の中に防音の魔術陣が組み込まれていて、会議の内容が外に漏れ出ない仕様だ。

 管理者たちは大円卓をぐるりと囲むように座った。

「そもそも武器を人型に変身させるなど、聞いたことがない」

 ダリルが少し困惑した顔で言った。

「魔力だけあげて、どんな姿にするかはお任せしてたんだけど、そもそもどうしてその姿になったの?」

 レイが真面目な顔で、レヴィに素朴な疑問をぶつけてみた。

「これは十二代目剣聖の姿です。私が彼の剣だった時、彼の周りにはいつも女性がいたため、レイも女性なので喜ばれるかと思ってこの姿にしました」
「え、そんな気遣いされてたの? まあ、その姿だと女性の方から寄ってくるよね。その時はみんな倒れなかった?」
「倒れてましたよ」

(((((((((倒れてたのかよ……)))))))))

 管理者全員の思いが一致した。全員が呆れた目をして、レヴィを見つめている。

「レイは初めてこの姿を見た時に倒れなかったので、問題ないかと思いました」
「問題ありだよ……あの時はそれどころじゃなかったし、私は大丈夫だったけど、他のみんなはなぁ……他の姿にはなれないの?」
「今までのご主人様でしたら誰にでもなれますよ。一通り見ますか?」
「うん、お願い」

 レヴィは初代剣聖から順番に変身していった。
 その都度、管理者たちから「おお」とか「まさか」など、どよめきが聞こえてきた。

「かの英雄をまたこの目で見られるとは……」
「まさか竜人の剣聖がいたとは……」
「私を作ったのは竜人でしたよ」
「歴史的な発見だな。定説が覆されるぞ」

 レヴィは総勢二十五名の剣聖に一通り変身した。
 最後にレイに変身したレヴィは、赤くなってモジモジしている。

「私の姿でそんなモジモジしないで! 恥ずかしい!」

 本物の方のレイも頬を赤らめて、異議を唱えた。

「レイになるのはなんだか背徳感があって……」

 レヴィが女の子らしく、きゃっと小さく叫んで両手で顔を覆っている。

「正しく女の子してる……」

 普段のさっぱりと男らしいレイに見慣れていたウィルフレッドが、こんな女の子らしい表情もできるのかと、目を丸くして零した。

「正しく女の子って何ですか!」

 バシッと、レイはウィルフレッドの背中を叩いた。


「十二代目の姿は刺激が強すぎるから無しだね」

 アイザックの言葉に、管理者全員が頷いている。これ以上被害者を増やしてはいけない。

「八代目か十三代目か十四代目はどうだ?」
「フォレストエイプ一択じゃないですか!」

 含み笑いしているウィルフレッドの提案に、レイが唇を尖らせて渋い顔をした。

 フォレストエイプは、レイの元の世界でいうゴリラのようなAランク魔物だ。ゴリラの約二倍の大きさで、かなり力が強い。
 こちらの世界では、筋骨隆々でがっしりと大柄な体型の者を「フォレストエイプのよう」と例えたりもする。
 ユグドラの防御壁部隊を束ねるエイドリアンもフォレストエイプで、普段はかなり大柄なボディービルダーのような人型に変身している。

「ぱっと見、強そうだぞ~」

 ウィルフレッドが揶揄うような声で、レイを見つめて言った。

(師匠、完全にふざけてる……)

 レイはじと目でウィルフレッドを見つめた。

「お前らふざけてんなよ」

 さすがにエイドリアンから注意が入った。筋肉質の太い腕を組み、人差し指でトントンと叩いている。

 レヴィ曰く、十三代目と十四代目は親子だそうだ。レヴィが剣聖に一通り順番に変身していった時に、十三代目と十四代目がいつ切り替わったのか分からないぐらいのそっくりさんだ。
 フォレストエイプ三名は大柄すぎてかなり目立つ。
 レヴィも彼らに変身していた時は、心なしか、しょぼくれているようだった。

「直近の剣聖は避けた方がいいし、顔が知られてる剣聖も避けた方がいいわね。珍しい竜人も避けた方が無難ね」
「連れて歩くなら、目立ちすぎない方がいいです!」
「十一代目なんてどうだ?」
「逆に影が薄すぎやしないか? それに、あからさまに何人か殺ってる目つきしてるぞ」
「十一代目ご主人様は暗部でしたからね」
「暗部の剣聖がいたのか……」
「その目つきでレイと一緒にいたら、人攫いに間違われない?」

 十一代目剣聖は、やや低めの身長にがっしりとした筋肉質だが、着痩せしそうなタイプだ。肌は浅黒く、グレーの短髪と鋭いグレーの瞳の三白眼で、顎髭が生えてる。暗部で戦闘が多かったためか、耳が一部欠けており、頬や腕にも傷跡がいくつも残っている。
 旅人のような服装ではあるが、醸し出す雰囲気が何か引っかかるような、少し怪しい感じがする。一般人の振りをしている盗賊、といった感じだ。

 喧々諤々けんけんがくがくの会議の結果、レヴィの姿は、多数決で十七代目剣聖に決定した。

 早速、十七代目剣聖に変身を余儀なくされたレヴィは、目線がちょっと不服を訴えている。

 十七代目剣聖の決め手は、ブラウンの髪と瞳で地味で目立たず、印象は十人並み。よく見れば顔が整っている。身長や体格もちょうど良く、レイと一緒にいても違和感が無い。
 どこに行っても目立たず、どこにいてもおかしくない素晴らしい容姿に、管理者全員の意見が一致し可決した。

 レヴィの態度もなかなか失礼だったが、それ以上に、この会議に参加した全員が大変失礼だった。

 レイは「十七代目様、ごめんなさい。お姿使わせていただきます」と心の中で合掌し、十七代目剣聖の冥福を祈った。


 ちなみに何をそんなに嫌がったのか、後でレイがレヴィに訊いてみたところ、フォレストエイプたちは力が強すぎて、レヴィの手入れや扱いが雑だったようで、今回決まった十七代目は、逆にレヴィを溺愛しすぎてて扱いが気持ち悪かったそうだ。

 なお、問題の超絶イケメン十二代目は、一番レヴィの扱いが上手で丁寧だったそうだ。レヴィがご満悦で変身するわけだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

処理中です...