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茶会 sideシビラ
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シビラは少し気落ちしていた。
本日はエリザベトとの茶会のはずだったのだ。
だが、大好きなエリザベトは傷心のため領地に戻ってしまった。
そして、茶会の返事は「出席する」ではあったのだが、「代わりの者が出席する」だった。
本来であれば大変失礼なことだ。虚仮にされたも同然だ。
だが、シビラはなぜかこれは受け入れた方が良いと感じたのだ。
(エリザベト様が何の考えも無しにこのようなことをされるとは到底思えないわ。とても賢い方ですもの)
シビラはエリザベトに淡い恋心を抱いていた。
煌めくような金色の髪、南の海のような緑色を含んだ鮮やかなブルーの瞳。
賢く、美しく、令嬢として完璧なエリザベトは、シビラにとって一目見た時から憧れの眩しい存在だった。
魔法学園で同じクラスになり、一緒に過ごす時間が増え、想いはどんどん募っていった。
だが、シビラはそんな恋心を抑え込んだ。
シビラには公爵家令息だった婚約者がいた——商売についてはやり手だったが、とある男爵令嬢に魅入られて身を崩し、婚約破棄したのだ。
その男爵令嬢は、第一王子や宰相子息、騎士団団長子息、果ては学園の先生にまで手を出していたことが発覚し、大問題になった。
第一王子は男爵令嬢に唆されるがまま卒業パーティーで問題を起こし、廃太子され臣下に下ることになった。代わりに彼の弟の第二王子が立太子された。
男爵令嬢に魅入られた他の子息たちも廃嫡され、魔法の先生に至っては、生徒に手を出したということで学園を追放されている。
男爵令嬢自身も責任を問われ、現在は特に厳しい修道院に入れられているという。
エリザベトも卒業パーティーの騒動で、婚約解消となった。
今まで抑え込んでいたシビラの淡い恋心は、エリザベトの一件で、燃え上がってしまった。
(良くないってことは、分かってるの……でも、この気持ちはどうしようもないのよ……)
シビラは重く甘い溜め息を吐いた。
家令が、シビラを呼びに来た。
「お嬢様。お客様がお見えです」
「すぐに向かうわ」
シビラは重い気持ちのまま、出迎えに向かった。
顔には令嬢らしく笑顔を貼り付けた。
ロビーには一人の貴公子がいた。
煌めくような金髪は綺麗に一つにまとめられ、瞳と同じ南の海のような緑がかったマリンブルー色のリボンで留められていた。
プレゼントのピンクの薔薇の花束と、エリザベトとよく話していた流行りの店の菓子を持ち、エリザベトと同じ正統派に整った顔立ちで、柔らかい微笑を湛えていた。
「エリザベトの双子の兄のエトムントです。折角お誘いいただいたのに、妹が申し訳ございません」
(……この方は……でも、私には分かるわ……)
シビラは、胸の辺りがピリリッと甘く痺れた気がした。
「ようこそいらっしゃいました、エトムント様。はじめまして、かしら? どうぞ、こちらへ。ご案内いたしますわ」
シビラはくるりとその場でターンした。茶会の会場へ案内するのはもちろんだが、淑女らしくない頬の緩みを隠すためでもある。
シビラの憂鬱だった心は、新しい恋の予感にすっかり晴れ上がっていた。
本日はエリザベトとの茶会のはずだったのだ。
だが、大好きなエリザベトは傷心のため領地に戻ってしまった。
そして、茶会の返事は「出席する」ではあったのだが、「代わりの者が出席する」だった。
本来であれば大変失礼なことだ。虚仮にされたも同然だ。
だが、シビラはなぜかこれは受け入れた方が良いと感じたのだ。
(エリザベト様が何の考えも無しにこのようなことをされるとは到底思えないわ。とても賢い方ですもの)
シビラはエリザベトに淡い恋心を抱いていた。
煌めくような金色の髪、南の海のような緑色を含んだ鮮やかなブルーの瞳。
賢く、美しく、令嬢として完璧なエリザベトは、シビラにとって一目見た時から憧れの眩しい存在だった。
魔法学園で同じクラスになり、一緒に過ごす時間が増え、想いはどんどん募っていった。
だが、シビラはそんな恋心を抑え込んだ。
シビラには公爵家令息だった婚約者がいた——商売についてはやり手だったが、とある男爵令嬢に魅入られて身を崩し、婚約破棄したのだ。
その男爵令嬢は、第一王子や宰相子息、騎士団団長子息、果ては学園の先生にまで手を出していたことが発覚し、大問題になった。
第一王子は男爵令嬢に唆されるがまま卒業パーティーで問題を起こし、廃太子され臣下に下ることになった。代わりに彼の弟の第二王子が立太子された。
男爵令嬢に魅入られた他の子息たちも廃嫡され、魔法の先生に至っては、生徒に手を出したということで学園を追放されている。
男爵令嬢自身も責任を問われ、現在は特に厳しい修道院に入れられているという。
エリザベトも卒業パーティーの騒動で、婚約解消となった。
今まで抑え込んでいたシビラの淡い恋心は、エリザベトの一件で、燃え上がってしまった。
(良くないってことは、分かってるの……でも、この気持ちはどうしようもないのよ……)
シビラは重く甘い溜め息を吐いた。
家令が、シビラを呼びに来た。
「お嬢様。お客様がお見えです」
「すぐに向かうわ」
シビラは重い気持ちのまま、出迎えに向かった。
顔には令嬢らしく笑顔を貼り付けた。
ロビーには一人の貴公子がいた。
煌めくような金髪は綺麗に一つにまとめられ、瞳と同じ南の海のような緑がかったマリンブルー色のリボンで留められていた。
プレゼントのピンクの薔薇の花束と、エリザベトとよく話していた流行りの店の菓子を持ち、エリザベトと同じ正統派に整った顔立ちで、柔らかい微笑を湛えていた。
「エリザベトの双子の兄のエトムントです。折角お誘いいただいたのに、妹が申し訳ございません」
(……この方は……でも、私には分かるわ……)
シビラは、胸の辺りがピリリッと甘く痺れた気がした。
「ようこそいらっしゃいました、エトムント様。はじめまして、かしら? どうぞ、こちらへ。ご案内いたしますわ」
シビラはくるりとその場でターンした。茶会の会場へ案内するのはもちろんだが、淑女らしくない頬の緩みを隠すためでもある。
シビラの憂鬱だった心は、新しい恋の予感にすっかり晴れ上がっていた。
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