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ゴブリンの村

名付け後は既定路線

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 二人というかなんというかを、小脇に抱えて本堂へ戻る。せじろは倉を離れても話すことが出来た。予想通りやな。なのでなんか未だに応酬している。おれは念話のチャンネルを切るようなことができたので、静穏に歩いている。よかった。こんなん一晩中とかされたらきいくるうわ。
 ああ、狐のこと聞いてへんかった。まあええか、明日やな。先送りできることはする、出来ないことはすぐやる。これやな。現場主義やからな。いや。狐の名前か。どうしよかな。ホムンクルスやしな。洋風やったらすぐ思いつくんやけどな。ブランカとかビアンカとか。そうやな。最近流行りでこんなんどうやろ。というか、山○涼子先生大ファンです、流行なんて知りません!
「じゃあ、なまえな。ユキ。『六花』と書いてユキで……」
 やっぱり何か抜けると言うか流れる。これもごっそり減る。
「主様。早速の決断ありがとうございますわ。とても美しく、私にピッタリの名前ですわ。」
 よかった。ほぼ変化してない。ただ耳や尻尾の黒いのが大分抜けてほぼ白狐になってる。
「これで主様の知識が大分補完されましたわ。補完……人類……いえ、何でもありませんわクスクス。」
「ちょっと!なにそれ恥ずかしいからそういうのやめて!」
『っち、調子に乗っておるようですが、私の名前こそ杖の背である角の白さを表したとても美しい名前でございますから、お忘れなきよう。まあ、2番めですからね、クスクス。』
「っく、私はこんなことも出来ますのよ。」
 そういってユキがひょいっと肩に飛び乗り、マフラーのように巻き付く。うわっ、もふもふはいいけど、まだ残暑の季節だぞ。
「いや、いいけど。暑いかな。」
『ほうら、くっつけばいいなんてまさに獣の浅知恵。私のように普段から持ち運ばれるしか無い奥手さこそ、』
「ふん、自由に動けない嫉妬かしら、負け惜しみよ、」
「もうわかったから!静かにしなさい。今度から俺のいるところで張り合うの禁止。頼むから騒がんとって、頭痛うなるわ。」
『わかりました主様。』
「承知しました主様。」
 ああ、姦しい。

 本堂の軒下縁側の上にれいかとすてが座っていた。もうほぼ日は落ちているが、薄明が残っており、その白い顔が浮いているように見える。ちょっと怖い。前にツイッターで見た、自動車の後ろに能面をおいてブラックライトを当てるというイタズラみたいだ。ぶっちゃけめちゃ怖い。これはあれや、眉毛がまだないからやろ。決してノーメイクの婦女子を見慣れていないからとかそんなわけではあるまいな。
「かねかつら様、ようやく涼しくなってきておりますけど、蚊帳はどうなさいますか?」
「蚊帳が有るんですね……。いや、何故かあまり蚊に咬まれないので、無くても大丈夫だとは思いますが。たくさんいますか?」
「ねぶたしとおぼいて臥したるに、蚊の細声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。清少納言の頃と同じでは無いでしょうか。」
 すて、おま、教養じゃん!枕草子にそういう下りがったのは知ってるけど。
「……にくきもの、でしたっけ。すてはすごいね!よくおぼえているね!すてはなんでもしってるの!」
「なんでもは知りません、知ってることだけです。」
 はね○わさん!狐がじっとりこっちを見てるよ!そこでデレたらちょっと違うよすてさん!
「……でしたら、無くてもいいかな、だいたい本堂では付けにくいしね。」
「「はい。」」

 で、何で3組の布団がひいてあるのかな。
「あー、あれ?二人は庫裏で寝るという……。」
「仕事がございます。」
「そうですよ!伽ですよ!」
 明るいよ!一体幾つなんだよ!ここははっきり言っておかないと!江戸時代とかそのくらいまではこう大らかな時代だったみたいやけどおっちゃんはもうちょっと大きい人、いやれいかとか十分やけど、じゃなくて。
「いや、拙者は修行の身なれば、そういったことは遠避けておるのでな。」
「ええーっ拙者とか嘘っぽいです!だんだん心を許してくれていると思っていたのに……。」
「私はもう14才です。いつ嫁に行ってもおかしくありません。」
「なら私も15才です!さっきも言ったのに……。」
「いやいや。そうではない。そういうことではない。」
「あぁ!もっと年増好みなんですか!」
「……まさか衆道の……」
「いやいやいや。年増も嫌いではないが、いやいや、衆道とか、違うから!」
「ではまさか……獣か」
「待った!狐を見ながら言うな!違うからね!狐も照れてんじゃねーよあほ!」
 ドロン!と音がして、何か白っぽい幼女が立っている。髪の毛も白い。
「ここはやはり私が。」
「待てよおま、小さすぎるよ!なにそれ3才児かよ!」
「まだ神様によって生み出されたばかりであります故、小さいのは仕方ないのですわ。それでも主様より名を頂いて、ようやく変化出来、狐として本望ですわ。」
 あかんてますますますあかんて服きろよ!
 ガタン!と音がして杖が地に落ちると同時にハラリと布が解ける。なんかえらい光っている。と、白い髪にやや濃い肌色をした、角の生えたスラッとしたのが寝転んで息を荒げている。お前もか!結局人化してるやん!ていうか、今までの登場人物の中で一番顔がきれいやん!無機物が美人て何それ!
「ここは、わ、私が、私も来なければならぬと思うと突然こうなってしまいました、申し訳ありません……」
 立ち上がったせじろを見て、改めて気づいた。なんか、女や女や思うてたけど、角やもんな。鹿の角って、オスにしか生えへんもんな……。なんでオスがこんなに別嬪さんなんだよ、男の娘とか全く趣味じゃねえんだよ!ああ!安眠ェ……。
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