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2部 3章
狂人
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「隊長!クオン殿!後ろから敵が迫ってきます!その数およそ8千!」
先頭を走る二人に兵士の一人が伝えてくる。
「くっ、かなりの数……ですね」
「まさか、ディータ殿は……」
「いえ、あの女神は魂だけになっても死なないようなしぶとさです。そう簡単には死にません……恐らく邪魔をされて足止めに失敗したんでしょう」
「そ、そうか……」
そう、あの女神は千年も魂の状態だけでカモメに会うために生き延びたんだ……そう簡単に死にはしないだろう……絶対。
だが、困った……8千の数をどう相手しよう……僕の剣じゃ多数の敵と戦うのには向いていない……なんて言っている場合じゃないよね……仕方ない……全部斬るか。
「僕が足止めをします。ギリアムさんはラリアスまで村人を導いてあげてください」
「だ、だが……」
「大丈夫です……でも、全部を足止めできるとは限らないのでギリアムさんは近衛隊を指揮して村人を護ってください」
「……解った」
ギリアムが頷くのを確認すると、クオンは反転し、単騎で8千の兵士へと向かっていった。
「……自分の無力さをここまで痛感するとは……生き延びたら鍛えなおさんといかんな」
奥歯を噛み締め、悔しさを露にするギリアム。
「近衛隊は、村人を護るように囲んで移動だ!俺が先頭を務める……ついてこい!!」
「はっ!」
村人を護るように円陣を組んだ近衛隊が、ラリアスに向けて足を進めるのであった。
そして、近衛隊の一人一人の眼にはギリアムと同じ、悔しさを含んだ色が見えるのであった。
「ぎゃあああああああ!」
近衛隊と村人を追いかけているアンダールシアの軍に突如、悲鳴が響き渡る。
一つ、二つ、三つとその悲鳴の数は広がっていく。
「何事だ!」
「敵襲です!男が一人、凄まじい速さで我が軍の兵士を斬り裂いています!」
「何……そうか、アイルバース殿を退けたと言う男か……『アレ』を用意しろ!」
ドルボルアのいない軍の指揮を執る男が、近くにいた兵士に言う。
近くにいた兵士は一瞬、恐怖の顔を浮かべるが、その指示に従った。
少しすると、その兵士が一人の男を連れて戻ってくる。
「遅いぞ!」
「申し訳ありません!」
その数分の間に、クオンがアンダールシアの軍を千人程切り刻んでいた。
目の前の脅威のせいで苛立っているのか、指揮官の男が乱暴に連れてこられた男の腕を引く。
「見ろ、あれがお前の敵だ」
「……テキ……テキ」
まるで魂が抜け落ちているのでは?と思う程、生気のない男が指揮官の言葉を反芻する。
「貴様の力を解放する……あの敵を殺せ!」
「テキイイイイイイ!!!」
指揮官の男が解放すると言った瞬間、男の表情が変わる。
生気のないような呆けた顔から、狂ったように目を血走らせ歯茎が見えるほどに口を広げる。
その姿は完全に狂人であった。
「テキイイイイイイ!!」
その男はクオンに狙いを定めると、一直線にそこへ向かう。
そう、一直線にだ……クオンとその男の間にはアンダールシアの兵が多数いたにも関わらず、目の前にいた兵士たちを引き裂きながら直進していった。
「ちっ……やはりまだ、実用には遠いじゃねぇか……」
自分の軍に被害が出たことにいら立ちを覚える指揮官の男が舌打ちをする。
「我らは、『アレ』を避けて通るぞ……急げ、近衛隊を見失うな!」
「はっ!」
直進で進む狂人のせいで、さらに数を減らしたが未だ6千はいるであろうアンダールシアの兵が、再びギリアムたちを追いかけた。
それを見たクオンが行く手を阻もうとするが、そのクオンに単身突撃をしてくるものがいる。
先ほどの狂人である。
その狂人は味方を引き裂きながらもクオンだけをその血走った目で見ていた。
「なんだ、あれは……」
「テキイイイイイ!!」
すごい勢いでこちらに突っ込んでくるその男は、クオンに近づくと、その拳を振り上げる。
「素手……いや!」
(アブねぇ、相棒!)
クレイジュの声と同時に男の振り上げた拳が刃のように変形する。
そして、その刃をクオン目掛けて振り下ろす。
クオンはそれを横に飛び躱した。
「身体が変形するのか……」
(あれも天啓スキルなのかねぇ……でもよぉ)
「ああ、あの状態はなんだ?……大分興奮しているみたいだけど」
「テキイイイイイイ!!!」
もし彼の天啓スキルが体を刃に変形させることであるのなら、あの異常な状態は何なのだろうか……まるで魔鬼にされた人のように、己を失っている。
(また来るぜ、相棒!)
「くっ!」
今度は突っ込んでこず、その場で手を振り上げた男の手が、10メートルはあろうかと言うほど巨大な刃と化す。
「くそっ!」
(デタラメだぜ!)
「時間をかけるわけにはいかない……いくよ、クレイジュ!」
(おうよ!)
巨大な刃を躱し、男へ距離を詰めるクオン。
そして、クレイジュでその男の銅を斬り裂いた。
…………だが。
(マジかよ……)
「くっ……」
斬り裂いたところの手ごたえがおかしい、まるで金属を斬ったような感触なのだ……、いや、斬った瞬間その理由は理解した……そうだ、もし彼の天啓スキルが体を金属に変化させるものであるのなら彼の体自体も金属に変えることが出来るだろう……つまり、彼の能力は攻撃だけではなく防御にも使えると言うことなのだ。
(相棒、こいつは時間が掛かりそうだぜ……)
「くそっ……」
思わぬ敵に悪態を吐くクオン。
どんどんと離れていく敵の部隊を尻目に、目の前の狂った敵をどう倒すか考えるのであった。
先頭を走る二人に兵士の一人が伝えてくる。
「くっ、かなりの数……ですね」
「まさか、ディータ殿は……」
「いえ、あの女神は魂だけになっても死なないようなしぶとさです。そう簡単には死にません……恐らく邪魔をされて足止めに失敗したんでしょう」
「そ、そうか……」
そう、あの女神は千年も魂の状態だけでカモメに会うために生き延びたんだ……そう簡単に死にはしないだろう……絶対。
だが、困った……8千の数をどう相手しよう……僕の剣じゃ多数の敵と戦うのには向いていない……なんて言っている場合じゃないよね……仕方ない……全部斬るか。
「僕が足止めをします。ギリアムさんはラリアスまで村人を導いてあげてください」
「だ、だが……」
「大丈夫です……でも、全部を足止めできるとは限らないのでギリアムさんは近衛隊を指揮して村人を護ってください」
「……解った」
ギリアムが頷くのを確認すると、クオンは反転し、単騎で8千の兵士へと向かっていった。
「……自分の無力さをここまで痛感するとは……生き延びたら鍛えなおさんといかんな」
奥歯を噛み締め、悔しさを露にするギリアム。
「近衛隊は、村人を護るように囲んで移動だ!俺が先頭を務める……ついてこい!!」
「はっ!」
村人を護るように円陣を組んだ近衛隊が、ラリアスに向けて足を進めるのであった。
そして、近衛隊の一人一人の眼にはギリアムと同じ、悔しさを含んだ色が見えるのであった。
「ぎゃあああああああ!」
近衛隊と村人を追いかけているアンダールシアの軍に突如、悲鳴が響き渡る。
一つ、二つ、三つとその悲鳴の数は広がっていく。
「何事だ!」
「敵襲です!男が一人、凄まじい速さで我が軍の兵士を斬り裂いています!」
「何……そうか、アイルバース殿を退けたと言う男か……『アレ』を用意しろ!」
ドルボルアのいない軍の指揮を執る男が、近くにいた兵士に言う。
近くにいた兵士は一瞬、恐怖の顔を浮かべるが、その指示に従った。
少しすると、その兵士が一人の男を連れて戻ってくる。
「遅いぞ!」
「申し訳ありません!」
その数分の間に、クオンがアンダールシアの軍を千人程切り刻んでいた。
目の前の脅威のせいで苛立っているのか、指揮官の男が乱暴に連れてこられた男の腕を引く。
「見ろ、あれがお前の敵だ」
「……テキ……テキ」
まるで魂が抜け落ちているのでは?と思う程、生気のない男が指揮官の言葉を反芻する。
「貴様の力を解放する……あの敵を殺せ!」
「テキイイイイイイ!!!」
指揮官の男が解放すると言った瞬間、男の表情が変わる。
生気のないような呆けた顔から、狂ったように目を血走らせ歯茎が見えるほどに口を広げる。
その姿は完全に狂人であった。
「テキイイイイイイ!!」
その男はクオンに狙いを定めると、一直線にそこへ向かう。
そう、一直線にだ……クオンとその男の間にはアンダールシアの兵が多数いたにも関わらず、目の前にいた兵士たちを引き裂きながら直進していった。
「ちっ……やはりまだ、実用には遠いじゃねぇか……」
自分の軍に被害が出たことにいら立ちを覚える指揮官の男が舌打ちをする。
「我らは、『アレ』を避けて通るぞ……急げ、近衛隊を見失うな!」
「はっ!」
直進で進む狂人のせいで、さらに数を減らしたが未だ6千はいるであろうアンダールシアの兵が、再びギリアムたちを追いかけた。
それを見たクオンが行く手を阻もうとするが、そのクオンに単身突撃をしてくるものがいる。
先ほどの狂人である。
その狂人は味方を引き裂きながらもクオンだけをその血走った目で見ていた。
「なんだ、あれは……」
「テキイイイイイ!!」
すごい勢いでこちらに突っ込んでくるその男は、クオンに近づくと、その拳を振り上げる。
「素手……いや!」
(アブねぇ、相棒!)
クレイジュの声と同時に男の振り上げた拳が刃のように変形する。
そして、その刃をクオン目掛けて振り下ろす。
クオンはそれを横に飛び躱した。
「身体が変形するのか……」
(あれも天啓スキルなのかねぇ……でもよぉ)
「ああ、あの状態はなんだ?……大分興奮しているみたいだけど」
「テキイイイイイイ!!!」
もし彼の天啓スキルが体を刃に変形させることであるのなら、あの異常な状態は何なのだろうか……まるで魔鬼にされた人のように、己を失っている。
(また来るぜ、相棒!)
「くっ!」
今度は突っ込んでこず、その場で手を振り上げた男の手が、10メートルはあろうかと言うほど巨大な刃と化す。
「くそっ!」
(デタラメだぜ!)
「時間をかけるわけにはいかない……いくよ、クレイジュ!」
(おうよ!)
巨大な刃を躱し、男へ距離を詰めるクオン。
そして、クレイジュでその男の銅を斬り裂いた。
…………だが。
(マジかよ……)
「くっ……」
斬り裂いたところの手ごたえがおかしい、まるで金属を斬ったような感触なのだ……、いや、斬った瞬間その理由は理解した……そうだ、もし彼の天啓スキルが体を金属に変化させるものであるのなら彼の体自体も金属に変えることが出来るだろう……つまり、彼の能力は攻撃だけではなく防御にも使えると言うことなのだ。
(相棒、こいつは時間が掛かりそうだぜ……)
「くそっ……」
思わぬ敵に悪態を吐くクオン。
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