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2部 2章

ギリアム

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「ふぅ……なんとか城の外に出れたわね」


 私は近衛部隊の隊長を救出した後、闇の刃で城の城壁に穴を空けそこから脱出した。
 もちろん、救出した隊長も一緒である。


「でも、しばらくはここに隠れていた方がいいかしら」


 そう、街の中は侵入者を探している兵士達で一杯なのだ。
 今、私たちがいるのは大通りから外れた路地に身を潜めている。
 それも、粗大ゴミだろうか、大きめの生活に必需品となる魔導具……例えば、服を乾かす魔導具だったり、部屋を掃除する魔導具だったりが捨てられている場所だ……本来であれば決められた場所に捨てられる物なのだろうが不法投棄というのだろう。この路地裏には山になって積まれていた。
 まったく、常識のない人間達ね……。
 でも、おかげで身を潜めることが出来るのだから文句も言えないか……………………はあ………ゴミに埋もれる女神って……泣けてくるわ。


「なあ、アンタ……どうして俺を助けたんだ?」
「貴方が味方の可能性があったからよ」
「味方?……どういうことだ?」
「そうね、どうせしばらく動けないだろうし説明してあげる……ちゃんと聞きなさい」
「あ、ああ……」


 これだけ兵士が街を巡回していてはすぐにはこの街を離れられないだろう。
 幸い、敵が近衛部隊のいる砦に行くのは明日の昼だと聞いている。
 なら、夜暗くなってから移動すればいい。
 根暗坊主との待ち合わせの場所には行けないけれど、恐らく敵に見つかったのは根暗坊主の方だ……あっちも、街の中をウロウロは出来ないだろう……あの根暗坊主捕まったりしてないわよね……別に心配しているわけじゃないけどアイツがいなくなるとカモメが悲しむものね……。

 私はそんなことを考えながらも、近衛隊の隊長らしき男に私たちの事を説明した。
 まだ、この男が完全に味方とは限らなかったのでメリッサの居場所は伏せたままだが。


「そうか……王女は無事なんだな!」
「しっ!………声が大きいわよ」
「あ……す、スマン」


 今の喜び方が嘘とは思えないわね……。
 

「で、貴方の事を聞きたいのだけれど?なんで捕まっていたの?」
「ああ、俺はアンダールシア近衛隊、隊長ギリアムと言う……俺たち近衛隊は王族の常に近くにいたのだ………だから、あの糞野郎が王の偽物だと言うことはすぐに気づいた……王は澄んだ優しい眼を持つお方だ……あんな濁った眼をするわけがない……その上、あの優しいメリッサ王女が自分の母親を殺すなど絶対にありえない……だから、俺はあの男を偽物だと告発した……だが……」
「聞き入れてもらえず捕まったと……?」
「ああ……宰相も軍司令も奴の仲間だった……だが、何とか部下たちだけは逃がすことが出来た……それだけが救いだ……奴らは部下の居場所は解らないようだったしな」
「残念だけど、近くの森にある砦にいるのならすでにバレているわよ」
「な、なんだと!?」


 どうやら、その砦にいることで間違いないようだ。


「アンタを助ける前に兵士が話しているのを聞いたのよ。明日の昼に砦に向かって兵を送るって」
「馬鹿な!ならばこんなところで悠長にはしていられん!」
「落ち着きなさい!……言ったでしょ、明日の昼だって……今日の夜まではここでおとなしくしているのよ……夜になってから街を抜けましょう……それなら明日の昼には砦から逃げ出すことが出来るわ」
「そ、そうか……すまない、取り乱してしまって」
「……いいわよ」


 仲間を思ってあれだけ取り乱せるのだ、悪い人間ではないだろう……。
 しかし、一つ引っかかることがある……。


「なぜ、あなたの部下の居場所はバレたのかしらね?」
「……どういうことだ?」
「貴方が喋っていないのならどうやって場所が分かったのか疑問に思わない?」
「偶々、見つけたのではないか?」
「……そうね」


 確かに、その可能性はある……500人もの数の兵士だ。
 完全に身を隠すにはそれなりに大きな場所でなければならないだろう。
 となれば、あたりをつけるのもそれほど難しくはないだろう……。
 でも……もし、居場所を知らせたものがいるとしたら?
 それは……近衛隊の中に裏切り者がいるということだ……。
 それも気を付けていないといけないわね……。



============================



「ジーニアス様!」
「どうした、賊は捕まえたのか?」
「いえ……」
「では、どうしたの言うのだ?」
「ギリアムが脱走したとのことです」
「ほう……では、やはりあの男は近衛の人間か……」


 捕虜が逃げたと聞かされたのにアンダールシアの宰相ジーニアスは慌てる様子がない。
 むしろ、都合がいいとでも言わんばかりにニヤリと笑った。


「ジーニアス、何を笑っている……ギリアムが近衛と合流すれば面倒だ」


 近衛隊がこの王都の近くの砦にいる理由は隊長であるギリアムが捕まっているからである。
 もし、ギリアムと合流されてしまえば砦を離れ、逃げられてしまうだろう。


「慌てるな……あの男、かなりの手練れであった……ならば、こちらの情報もかなり集めているであろう……もちろん、明日の昼に近衛の連中を討伐する兵を出すこともな」
「ならば、尚更、急いでギリアムを探さねば!」


 偽王が慌てる。
 だが、その慌てる偽の王をジーニアスは手で制した。


「いや、ギリアムを探す必要はない。近衛に紛れ込ませている私の部下からギリアムが帰ってきたという報告は受けていない。恐らくまだ、この街のどこかで身を潜めているのだろう」
「だったら……」
「ギリアムを探せか?探してどうする?明日の昼までに見つけられる確実性があるのか?」
「なら、どうするというのだ!」
「ギリアムはあの侵入をした男から兵が送られるのは明日の昼だと聞いているはずだ。ならば、動くのであれば夜、暗くなってからだろう」
「貴様の言うことはよくわからん!解りやすく言え!」


 堪らず言う偽王に、ジーニアスは嘆息する。


「どこにいるか解らぬギリアムを探すより、居場所の解っている奴らを潰し、それを囮にギリアムを炙りだす方が容易いと言っているのだ」
「居場所の解っている……近衛の連中をということか?しかし、それは明日の昼なのだろう?」
「その時間を今すぐに変える……マストリスに伝えよ。すぐに準備をし、近衛のいる砦を落とせとな……落とした後は好きにしていいとも伝えておけ」
「はっ!」


 命令を受けた兵士は駆け足で部屋から出て行った。


「あちらの近衛は500、こちらの兵は3000……今日の夜には決着が着いているだろう……ギリアムが着いたころにはそこは地獄となっているだろうよ」
「ふ……ふはは、なるほど……さすがジーニアスだ」


 だが、問題はその後だ。
 ギリアムと合流される前に近衛を潰せるというのは大きい。
 だが、この城に侵入したあの男……あの男の強さは厄介である……。


「もし、マストリスを倒せるほどの力を持っていたとしたら……厄介な敵になるかもしれんな」


 ジーニアスはあの男であれば兵3000とマストリスを単騎で倒してしまう可能性があると考えていた。もしそうなれば、要注意人物である。冒険者でいえばランクSといわれる者たちと同じくらいの実力があると考えるべきである……。


「その時はこちらもそれ相応の人物を使わねばな……」


 まずはマストリスを使って、あの男の実力を測ることとしよう……。
 戦いは何よりも情報が大事である。

============================


 その日、ディータ達が、身を潜めている頃、城から約3000の兵士が荒くれ者のような恰好をしたマストリスという男の指揮の元、出陣をしていった。

 身を潜め、大通りを見ることのできないディータ達がそれに気づくことはなく。
 3000の兵は近衛の潜む砦へと向かってその歩みを進めるのであった。
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