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2部 2章

幕開け

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 私達は、襲われていた少女と一緒に宿屋まで戻ってきていた。
 最初はギルドに連れて行った方がいいかなと思ったんだけど、どんな理由があるか分からないしまずは事情を聴いた方がいいと思ったのだ。


「それで、どうして襲われてたの?……あ、その前に私はカモメ。こっちはクオン。冒険者をやってるよ……あなたは?」
「私の名前はメリッサ=Q=アンダールシアです」
「うん、メリッサだね。メリッサはなんであの男に襲われてたの?」
「それは……私がこの国の王女だからです」
「え?王女……?」
「はい、私のお父様はこの国の王……ドラゴア=フォン=アンダールシアです」
「王女様がなんでこんなところに?護衛もつけず」


 クオンの言う通りだ、このラリアスの街は辺境である。そりゃあ、視察とかくらいはするのかもしれないけれど、王様でなく王女様がそれも護衛をつけずに来るなんて普通じゃないだろう。


「護衛はいました……信頼できる護衛が……ですが……」
「あ……もしかして、あいつに?」
「はい……」
「それじゃあ、君は何かの用でこの街に来た時にあいつに襲われたのかい?」
「……違います。私が最初に襲われたのはアンダールシア城です……それからこのラリアスに逃げてきました」
「お城で襲われた……?」


 ちょ、ちょっと待って……お城で襲われてそのままお城から逃げ出したってことは、お城が安全じゃないってことだよね?


「お城で何かあったの?」
「……はい。ある日、お父様が別人のようになってしまいました……いいえ、あれは姿かたちがお父様なだけの別人です」
「王様が?」
「はい、お父様は民を大事にする立派な王でした……レンシアから宣戦布告されても民の事を考え、戦争にならないよう努力をしておりました。とはいえ、何もせずに降伏しても待っているのは悲惨な毎日……そんな思いを民にはさせられないと、必死に他の国に協力を取り付け、レンシアが手を出せないようにしていたのです……ですが、その日、お父様は急にレンシアに降伏すると言い始めました。まるで、人が変わったように自国の民の事など気にせず、レンシアこそ至高の国だと言い始めたのです……それをおかしいと思ったお母様は兵や護衛隊長達に調査を命じました……そして……あの男が現れたのです」


 あの男……さっきメリッサを襲っていた男か……。
 人を殺しなれている、殺すことに何も感じないような冷たい眼をしていた。
 熟練の暗殺者といったところだろうか?


「あの男は私の目の前で……お母様を……」


 必死に声を絞り出しながら話してくれるメリッサに、私は自分の母親が私を庇って殺されたときの事を思い出した……。


「お母様は私を逃がしました、私の護衛であり、護衛隊長でもあるジュダと副隊長のアンバーに命令して……そして、私はこの辺境のラリアスに逃げてきたんです……でも」
「その男がこの街までやってきていたってことね」
「ディータ」


 ディータが話の途中で入ってくる。
 どうやら、話自体は最初から聞いていたようだ。


「カモメの灯りの魔法が見えたから何かあったのかと思って戻ってきたのよ……悪かったわね立ち聞きをしてしまって」
「カモメ様……この方は?」
「私のパーティメンバーのディータ。信用できる人だから大丈夫だよ」
「はい……ディータさんの言う通り、あの男が再び私達を襲いました……その時、護衛の二人も……」
「そう……」
「闇の魔女様……お願いです……このままではアンダールシアが滅んでしまうかもしれません!父も母も……兄のように慕っていた人たちも失い……王女としての力ももうないかもしれない私です……でも、私は父と母が愛したこの国の民を見捨てるなんて真似できないんです……お願いします……無茶なことを言っているのは分かっています……ですが………‥助けてください」


 民の為……か。
 この子、立派な王女様なんだね……、だって……。


「民を見捨てられない?父親や母親の仇じゃなくて?」


 そう、ディータの言う通りだ、もし私だったら、国民の事より相手を許せないという気持ちが先に出るだろう。


「もちろん、仇を討ちたい気持ちもあります……ありすぎるほどに……ですが、私の私怨よりも大事なことがあります……あるんです……私にはお父様たちが大事にしたこの国こそが宝物なんです……お父様もお母様もジュダもアンバーも失って……その上、この国まで失いたくありません」
「はは……耳が痛いな」


 同じく……私もクオンも自分の家族を殺した相手の事を忘れることはない。
 そいつを倒して仇を討った今でも、その相手の事を許せないのだ。
 もし、それと大事なものを天秤にかけられたとき、私はこの子みたいに私怨に走らずにいられるのだろうか?わかんないけど……私はこの子がすごいなと思った。


「ま、国を助けるついでに仇も討てるでしょうよ……ね、カモメ」
「うん、そうだね」
「……え?」
「あら、鈍いわね。私達、星空の太陽のリーダー、カモメはその依頼を受けるということよ」
「アンダールシアを取り返したら報酬は期待してるよ、メリッサ♪」
「はい!!」


 さて、依頼は受けたはいいがどうするか……国が乗っ取られたなんてのはかなり大ごとである……私達だけでなんとかなるとは思えない。それに、さっきのメリッサの言いようではこの事件の裏にはレンシアが関わっている可能性が高い。

 ………となると、一国を敵に回す可能性があるのか。
 うーん、こういうのを考えるのは苦手だ……とりあえず、クオンとディータの意見を聞いてみよっと。


「クオン、ディータ……私達はどう動いたら良いのかな?」
「そうだね、まずはアンリエッタに相談するのが良いかもしれない……僕たちだけで戦うには大きすぎる相手だ。それにこの街も巻き込まれる可能性もある」
「そうね、アンダールシアがレンシアに降伏すれば、この国は従国になるわ……そうなれば、この街にも影響がでるでしょうね」
「そっか、いっそツァインの皆にも協力してもらう?」
「それは駄目よ。魔の海から来た国が戦争を起こせば、他の国も黙っていないでしょう。大陸中の戦争になりかねないわ」
「むぅ……」


 とはいえ、このラリアスの街の戦力じゃどうにもならないよね……うーん。


「さっき、メリッサのお父さんは他の国と協力してこの国にレンシアが手を出せないようにしていたとい言っていたね」
「はい、クオン様。お父様は獣王国ヴェルガンと東の大国ローランシアと同盟を組むことでレンシアを牽制していました」
「なら、その同盟国に協力を頼むのが一番いいかしらね」
「うん、まずはアンリエッタに協力を頼んで、その二つの国と話し合いが出来るようにしてもらおう」
「了解、そうと決まれば早速、アンリエッタの所に行こう」
「はい!」


 私達は席を立ちあがり、宿を後にした。


「そういえば、エリンシアとレンはどこへ行ったの?」

 
 最初はギルドの訓練場を借りて練習しているのかなと思ったが、私の灯りの魔法に気づいていないところを見るとこの街にいないのかもしれない。


「あの二人は練習ついでに討伐の依頼も受けていたから、街の外に行っているはずよ」
「そうなんだ……まあ、夜には戻ってくるだろうし、二人には後で伝えようか」


 あの二人ならメリッサに協力することを拒んだりはしないだろうし、大丈夫だろう。
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